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もし島全体がティール社会だったら(阿部裕志:巡の環)

人類の長大な歴史から組織モデルの進化に迫る『ティール組織』。各界のリーダーや研究者はこの本を読んで何を感じたか。地域活性のモデルケースとして知られる「海士町」で人材育成や町の魅力化に取り組む阿部裕志さんが語る。

僕と「ティール」の出会い

僕はいま、島根県隠岐諸島の海士町という人口2300人ほどの小さな島に住んでいる。かつてトヨタ自動車の生産技術エンジニアとして働いていたが、この激化するグローバル競争の先に、いったい誰が幸せになるのだろうか?と疑問を抱き、持続可能な未来を創りだすために海士町に移住し、起業したのが10年前のこと。

「ティール」という組織モデルを知ったのは、親友である嘉村賢州さん(NPO法人場とつながりラボhome’s vi代表)がきっかけだった。2017年4月、日本中から集まった社会イノベーター30人と、海士町の同世代の仲間30人が「超地域のコ・クリエーション(共創)」を構想する3日間のプロジェクト『コクリ!海士』を終えた後、嘉村さんから面白い話があると聞いて、海士町のキーパーソンたちと勉強会を開催した時のことだ。

「そろそろ組織も進化して良いのではないか?」という嘉村さんの問いかけから始まり、本書で書かれている「アンバー」「オレンジ」「グリーン」「ティール」という組織の発達段階の話を聞いているうちに、「あれ、海士町ってグリーンっぽい?」「島全体がティールになったらどうなるだろう?」そんな想像がどんどんふくらんでいった。

そして2018年1月、書籍『ティール組織』を読むと、やはりそこには「これから海士町はどうなったら面白いか?」という僕が考え続けてきたことのヒントがたくさんあった。

ティールが正解だと著者は言っていない。そして、海士町がティールになることが正解だと僕も思っていない。だが、「もしティールだったら」と想像することで、新しい視点が生まれ、発想が豊かになるのではないか。そこで今回は、「島全体がティール社会だったら?」という視点で、この次世代組織モデルの可能性について考えてみたいと思う。

海士町の経営方針

従業員を家族や仲間と捉えて、合意形成や人間関係を重視するのが「グリーン(多元型)組織」だとこの本には書かれているが、これは「海士町そのまま」だと僕は思った。

なぜなら、この島に住む人たちは、島全体が一つの大きな家族だと思っているからだ。島のことを「わがコト」として捉えている島民ばかり。島を脅かすような危機に直面すると、海士町は行政や民間が分野や垣根を越えて一致団結して乗り越えてきた。

それだけではない。4期16年間にわたって海士町のリーダーを務めている山内町長が経営指針として掲げる「自立」「挑戦」「交流」は、まさに本で書かれているグリーン組織の3つの特徴と重なっているように思える。

1.権限の委譲(挑戦):山内町長の下には、ふるさとを愛す、エネルギー溢れる役場の課長が何人もいる。その課長たちが、産業創出や高校の魅力化などを進めてきた。そして山内町長は「最後の責任は私がとるから」と彼らに権限を委譲し、彼らの挑戦の支援者としてサーバントリーダーシップを発揮している。

2.価値観を重視する文化と心を揺さぶるような存在目的(自立):「自分たちの島は自ら守り、自ら創る」ことを価値観に、これまで自立を目指して挑戦してきた。その自立心を象徴する言葉が「ないものはない」だ。「都会のように便利なものはなくてもよい」と「人が生きていくために大切なものはすべてここにある」という二重の意味が込められている。この言葉を切り口に、住民一人ひとりが「地域の人どうしの繋がりを大切に、無駄なものを求めず、シンプルでも満ち足りた暮らしを営むことが真の幸せではないか?」という問いに向き合おうとしている。

3.多数のステークホルダーの視点を生かす(交流):後鳥羽上皇が承久の乱に敗れて配流されたりと、古くから海士町は島外との交流が盛んだ。また、ここ10数年で産業創出を進め、500人を超える若者が移住してきた。現在は地元住民たちと、僕たち移住者や島外からの海士ファンとの交流から、新たな挑戦がたくさん生まれている。

「危機感経営」から「ビジョン経営」へ

読めば読むほど、海士町がグリーンっぽく思えてくる。そして、グリーンな組織としての良い面だけでなく、課題に感じる面も浮き彫りになってくる。そう言えば以前、嘉村さんがこんな話をしてくれたことを思い出した。

「キャンプファイヤーをすると、焚き火を囲んで仲良くなり一体感が生まれますね。ここまではグリーンっぽい。でも重要なのは、焚き火のまわりに広がる、魔物や宝物が潜んでいるかもしれない暗闇に思い切って飛び込んでいけるかどうか。これがティールへと発達するためのカギなんじゃないでしょうか」

ひょっとすると、海士町はグリーンからティールへの移行期なのかもしれない。あえて、10年前に移住してきた「元よそ者」の視点に立つと、海士町はここ10数年、「危機感経営」で課題に取り組んできたように思える。

自分たちの愛する故郷が立ち行かなくなってしまう、唯一の高校が廃校になってしまう、そんな危機感に駆られて目覚ましい力を発揮してきた。地域活性のモデルケースと言われるほどに変化を遂げた。また集落の活力も高まって伝統的な祭りの復活も相次ぎ、文化復興とも言える勢いだ。

だが「危機感経営」のままで、島の未来は明るいと言えるだろうか? 健全な危機感はもちろん大事。だが、危機という外的要因を原動力にするのは、果たして持続的なのだろうか。疲弊しきってしまわないだろうか。そうではなく、内発的な動機づけ、つまり内側から湧き出るエネルギーによる「ビジョン経営」で、町全体を運営する必要があるのではないだろうか。

一部の人のリーダーシップに依存することなく、先ほど述べた「ないものはない」という海士町らしさを一人ひとりが体現し、ありたい未来を切り開いていく。ここにいるすべての人が、やりがいあふれる仕事や暮らしに没頭できる。そんなビジョン経営に基づく社会へと変わることができたら、それを「ティール社会」と言うのかもしれない。

「半官半X」があたりまえ?

「島全体がティール社会になったら?」と妄想するのはとても楽しい。いろんなアイデアがわいてくる。島の政治、行政、経済、農業、漁業、福祉、医療、教育、観光はどんな姿になっているのか? 役場職員、商店のおばちゃん、民宿のおっちゃん、農家さん、漁師さん、学校の先生、お医者さん、福祉現場で働く方々は日々どんな会話をして、そこから何が生まれてくるだろうか?

たとえば「ティール」の特徴の一つして、「全体性」がある。詳しくは書籍に譲るが、僕の見立てでは、「全体性」とはありのままの自分を出して活かせる環境があることだ。では、島全体が「全体性」あふれる社会だったら?

まず、島民一人ひとりが自分のもつ能力を発揮して、田園・漁村がある島の風景を守りつつ、新たな文化を創るために、自律的な働き方をしているだろう。たとえば、役場職員は半官半Xというライフスタイルで、週の半分は公務員として働き、残り半分は農家や漁師として働く。

また、民間人が半官半民として役場に手伝いに行くことで、官と民の更なる融合が進み、より住民目線の行政運営が行われるようになる。これによって、海士らしい暮らしや文化は守られ、同じ人件費で雇用は倍増し、多くの若者が行政でまちづくりに携わりながらも、一次産業や民間事業の後継者となっていく。ある意味、役場職員として半分働くことでベーシックインカムが機能するとも言えるかもしれない。

島まるごと株式会社?

もし、島まるごとが株式会社海士町という名のティール組織であったら、と想像するのも面白い。島内の各組織は、株式会社海士町の一部署であるとしたら。

人材採用は一本化。島の暮らしや文化を学ぶ新人研修が行われ、1年目はマルチワーカーとして農家や漁師、民宿、福祉現場など島内各所で働き、島の全体像を知ったうえでそれぞれの個性を生かすのに最適な部署(組織)に配属される。

人の入れ替えがきかない小さな島で、そこにいる人の才能を大いに引き出す。笑わせるのが得意な人はおじいちゃん、おばあちゃんを元気にしながら福祉で週3日働き、観光ガイドとして週2日働く。そんな「ないものはない経営」が実現しているかもしれない……。

この本を読みだすと、本当に妄想がとまらなくなる。「ティール」を共通言語に島の未来を語り合うことができそうだ。『ティール組織』は発売直後から僕のまわりでも話題になり、ここ海士町ではホテルの社長から学校の先生まで、いろいろな人が読んでいる。みんなはこの本を読んでどう思っただろうか。

最後に、この本の終わりにこういう問いが書かれている。「もし私たちが、人間性にあふれた世界に存在することができれば、一体何を実現できるだろう?」

僕はここ海士町で、この問いをこれからも探究し続けていきたい。そしてトヨタに代表される世の中の多くの企業が、人間性にあふれた世界を創りだすような組織へと進化していく力になりたいと心から思っている。

阿部裕志(あべ・ひろし)株式会社巡の環代表取締役、一般社団法人ないものはないラボ共同代表。1978年愛媛県生まれ。京都大学大学院にてチタン合金の研究で修士号を取得後、トヨタ自動車入社。その後2008年に海士町に移住し、株式会社巡の環を共同創業。島の魅力を高める地域づくり事業、島外の企業や自治体、大学の研修を海士町で行う教育事業、島産品の販売や海士町の魅力を発信するメディア事業を行う。田んぼ、素潜り漁、神楽などローカルな活動を実践しつつ、イギリス・シューマッハカレッジやドラッカースクール・セルフマネジメントなどのエッセンスを活用した研修プログラムづくり、JICA提携による海士町とブータンの交流づくりなど、グローバルな視点も取り入れている。将来的には、海士町に持続可能な社会づくりを学ぶ大学院をつくり、MBAならぬ、MCA(Master of Community Administration)を立ち上げたいと奮闘中。

イベントのご案内

小竹貴子×阿部裕志「みんなで語ろう、私の組織論」ーー英治出版オンライン連載「『ティール組織』私はこう読んだ。」

「『ティール組織』私はこう読んだ。」を読まれた方が、記事の感想や疑問を執筆者や読者と共有し語り合うことで、気づきや学びを深める機会をつくりたいと思い、本イベントを企画しました。

第1部はゲスト(執筆者)2名による対談、第2部はゲストと参加者によるディスカッションというタイムテーブルで進行予定です。参加者同士やゲストの方と交流する時間もご用意しております。ぜひご参加ください。お申し込みはこちらから。

連載紹介

連載:『ティール組織』私はこう読んだ。
人類の長大な歴史から組織モデルの進化に迫る『ティール組織』。各界のリーダーや研究者はこの本を読んで何を感じたか。多様な視点から組織や社会の進化を考える。

第1回:もし島全体がティール社会だったら(阿部裕志:巡の環)
第2回:色の変化をたのしもう(小竹貴子:クックパッド)
第3回:組織論の「夢」に迫れているか?(永山晋:法政大学)
第4回:100%のコミットメントをメンバーに求めない組織はありなのか?(藤村能光:サイボウズ)
第5回:ひとりから始める組織変革(滝口健史:スコラ・コンサルト)
第6回:ティール組織を絵空事で終わらせないために(樋口あゆみ:東京大学)
第7回:組織が「人と人になる」とき(田中達也:リクルートコミュニケーションズ)
第8回:メモ不要。読めば思考が走り出す本(岡田武史:今治.夢スポーツ)
第9回:CEO交代の激変期、人事の役割を再定義させてくれた一冊(島田由香:ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス)
第10回:リーダーが内省し合える「コミュニティー」が、意識の進化を後押しする(岡本拓也:ソーシャルマネジメント合同会社)

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英治出版オンライン

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『ティール組織』私はこう読んだ。

『ティール組織』を各界のリーダーや研究者はどう読んだか。多様な視点から組織や社会の進化を考える。
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