100%のコミットメントをメンバーに求めない組織はありなのか?(藤村能光:サイボウズ)
人類の長大な歴史から組織モデルの進化に迫る『ティール組織』。各界のリーダーや研究者はこの本を読んで何を感じたか。「複業採用」などの先進的な取り組みで注目を集めるサイボウズのオウンドメディア「サイボウズ式」編集長の藤村能光さんが語る。
ふとした気持ちで始まった「働き方実験」
「会社の仕事だけに100%コミットする」のではない生き方を実践したい──。
こう思い立ったのは、今年に入ってからだ。複業を始め、オンラインのコミュニティやサロンで活動をしている。会社の仕事をする時間こそ変えていないが、それ以外の時間を複業やコミュニティ活動に充てている。
少し前には、こんなことは考えもしなかった。責任感と裁量権を持って取り組む会社の仕事は楽しく、不満はない。仕事をやればやるほどできることが増え、それが満足度にも直結する。それなのに、なぜ本業に100%コミットしないのか。
ちょっとだけ想像してみた。「人生は100年」なんて言われている。75歳まで働くことを想定しないといけない気がする。そうしたとき、どうも1つの会社で勤め上げるイメージは持てない。むしろ、会社の中だけで人生を終える方がリスクである。
そんな率直な気持ちをソーシャルメディアで発信し、知人にも話してみた。すると、それがきっかけで複業やオンラインコミュニティ参加の声をかけてもらった。ふとした気持ちで始まった働き方の実験は、会社の外にも心躍る世界が広がっていることを教えてくれた。
組織として、本当にこれで正しいのだろうか?
こういう働き方を実験できているのは、私が勤めているサイボウズという会社が、多様な個を認め、自立を促す経営を目指していることが大きい。そうした自立を促す取り組みの代表例として、サイボウズでは「副(複)業」が認められている。
複業のスタンスは人によってさまざまだ。週1日は会社を休み、その時間を複業に充てている人もいれば、私のように会社の仕事をしている時間は変えず、業務時間外で複業をしている人もいる。
私の場合、勤務時間外に複業しているので、複業をしていない人とコミットメント度合は同じではないかと思われるかもしれない。確かに複業をしているからといって、会社の仕事に対するコミットメントを変えているつもりはない。
だが、会社の仕事をしているときに複業に関するアイデアがふと思いつくことは当然ある。つまり、会社で働く時間の一部が複業に使われている。会社の仕事と複業の仕事を、業務時間だけで明確に区切ることは、厳密には難しい。むしろ、本業と複業の仕事脳を行き来する状態になっている。だとすると、複業を始める前と後では、会社の仕事に対するコミットメント度合にはバラツキがあるのではないかと思うのだ。
そういう働き方に対してサイボウズは、個々人で仕事に対するコミットメントにグラデーションがあっていいと考えている。つまり、100%のコミットメントをメンバーに求めない組織なのだ。だからこそ自分は新しい働き方を実験できているし、一人ひとりの働きやすさを尊重する文化や仕組みは素晴らしいと思う。
一方で、疑問もある。仕事へのコミット度にバラツキがある状態は本当に正しいのだろうか? 通常の組織のように、仕事へのコミットを100%求めてしかるべきではないのか? サイボウズのような組織は、そもそも成立するのか?
思い切って、自分自身のすべてを職場に持ち込めるか
「サイボウズの現在の組織経営は本当に正しいのか?」。この問いへの答えを求めて手に取ったのが『ティール組織』だ。そしていざ読んでみると、こういう気づきが得られた。
100%のコミットをメンバーに求めず、複業を認める。
そうすることで、一人ひとりが会社でも「自分らしくいられる」のではないか。
それは、個人と組織が潜在能力を発揮するためのカギなんじゃないか。
ティール組織の3つのブレイクスルーの1つに「全体性(Wholeness)」がある。これは「思い切って自分自身のすべてを職場に持ち込む」ことだ。つまり、真の意味で「安心」できる職場環境をつくることで、メンバーが全人格を持って仕事に取り組めるようになる。その結果、一人ひとりのポテンシャルが最大限に引き出される。
これについて言及されている箇所を引用したい。
自分の一部を家に残してくるということは、そのたびに自分の可能性や創造性、情熱の一部を切り離してくることを意味する。
全体性(ホールネス)を得られれば、人生は充実したものになるだろう。
『ティール組織』p.239
この一文を読んで、はっとさせられた。そもそも、なぜ会社の仕事しかやってはいけないのだろうか。会社で働くことだけがその人の人生のすべてではない。複業というと、別の仕事で稼ぐことを考えがちだが、私は複業を「自己実現のために、本業をいくつも作ること」と認識している。言ってしまえば、家事や育児だって複業の1つだ。複数のものごとに取り組んでいる状態が自然なのではないか。
「思い切って自分自身のすべてを職場に持ち込む」ことが組織の発達過程において不可欠だとすれば、複業を認めたり、仕事へのコミット度にグラデーションがある状態を許容するほうが、むしろ健全なのではないだろうか。それを避けようとすればするほど、全体性は失われてしまう。
サイボウズでは複業をする人が日に日に増えている。彼らの働く時間、場所はバラバラだ。でもそれは、人生を充実させるために各人が選択していることである。それをないがしろにせず、一人ひとりが職場でありのままの状態でいられるにはどうすればいいかを問い、それを実現するために変わり続けることが、よりよい組織をつくる原則なのではないだろうか。
「サイボウズの現在の組織経営は本当に正しいのか?」というように、現時点で組織が「正しいかどうか」を問うことは、おそらく重要でない。そうではなく、いかに「変わり続けられるか」と問うことのほうがよっぽど大事だ。組織に正解なんて存在しない。この本で著者が言っているように、ティール組織だって正解ではないのだ。正解がないからこそ、私たちは変わり続けなければならないのだと思う。
サイボウズが「変わり続けられる組織」であるために自分ができること。
それは、自らが「変わり続けられる個人」でいることなのかもしれない。
藤村能光(ふじむら・よしみつ)
サイボウズ株式会社 コーポレートブランディング部 サイボウズ式編集長。1982年大阪府生まれ。編集視点で会社のブランドを作ることを目指し、今年はコミュニティ運営に注力。複業で事業会社のメディア運営を支援しつつ、オンラインコミュニティやサロンの活動にも参加。会社以外の場所でゆるやかなつながりを結んでいくことに挑戦中。ととのいを求めて日々、サウナと水風呂を行脚中。Twitter:@saicolobe
連載紹介
連載:『ティール組織』私はこう読んだ。
人類の長大な歴史から組織モデルの進化に迫る『ティール組織』。各界のリーダーや研究者はこの本を読んで何を感じたか。多様な視点から組織や社会の進化を考える。
第1回:もし島全体がティール社会だったら(阿部裕志:巡の環)
第2回:色の変化をたのしもう(小竹貴子:クックパッド)
第3回:組織論の「夢」に迫れているか?(永山晋:法政大学)
第4回:100%のコミットメントをメンバーに求めない組織はありなのか?(藤村能光:サイボウズ)
第5回:ひとりから始める組織変革(滝口健史:スコラ・コンサルト)
第6回:ティール組織を絵空事で終わらせないために(樋口あゆみ:東京大学)
第7回:組織が「人と人になる」とき(田中達也:リクルートコミュニケーションズ)
第8回:メモ不要。読めば思考が走り出す本(岡田武史:今治.夢スポーツ)
第9回:CEO交代の激変期、人事の役割を再定義させてくれた一冊(島田由香:ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス)
第10回:リーダーが内省し合える「コミュニティー」が、意識の進化を後押しする(岡本拓也:ソーシャルマネジメント合同会社)
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