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リーダーが内省し合える「コミュニティー」が、意識の進化を後押しする(岡本拓也:ソーシャルマネジメント合同会社)

連載:『ティール組織』私はこう読んだ。人類の長大な歴史から組織モデルの進化に迫る『ティール組織』。各界のリーダーや研究者はこの本を読んで何を感じたか。ソーシャルベンチャー・パートナーズ東京、NPOカタリバなど、ソーシャルセクターで組織マネジメントに長年取り組んできた岡本拓也さんが語る。

ソーシャルセクターにおける「経営」の難しさ

『ティール組織』を読んで、リーダーとしての自分の”器”、 あるいは本書でいう”意識レベル”について考えさせられた人は、私だけではないはず。本書の後半に次のくだりがある。

「一般的なルールとしては、組織の意識はそのリーダーの意識レベルを超えられないと言えそうだ」

これはつまり、リーダーの”器”や”意識レベル”が組織のあり方を決めるということだ。組織の大小にかかわらず、いわゆるリーダーに位置付けられる仕事をしている人たちにとっては、身に染みるメッセージではないだろうか。私自身も、自分の”器"や"意識レベル"と組織との関係性について自問自答しながら、本書を読み進めた。

私は監査法人や企業再生コンサルティングファームでビジネス経験を積んだあと、30代のほとんどを、いわゆる「ソーシャルセクター」という分野で仕事をし、2つのNPOを経営した。民間企業での経験が活きた部分もあるが、役に立たないことも数多くあった。

とりわけ、組織としての「利益」や個人としての「稼ぎ」をインセンティブの最上位に置かないソーシャルセクターにおける組織づくりは、難易度が一段と高い。ミッションの達成すなわち社会的課題の解決を最上位の目標に置くため、ビジネスにおける売上のような短期的な成果が見えづらく、そこで働く人々には長期的なコミットメントが求められやすい。

しかしながら、リーダーがミッション達成に没頭してしまうと、組織や人をそのための「手段」として位置付け、おざなりになってしまうことが往々にして起こる。結果として、働くスタッフや、場合によっては経営者自身が燃え尽きてしまう……そんなケースを何度も見聞きした。

私自身も、同様のことを経験した。NPOの経営者になって最初の2年間は、ひたすら事業を前進させようと走り続けた。そのためには強い組織体制が必要と感じ、自ら主導していろんな制度をつくってきたが、後ろを振り返ったらメンバーの理解が十分に得られておらず、変化に対する反発もあった。事業と組織に良かれと思い、自分なりの「最適解」を提供したつもりだったが、メンバーは置いてけぼりだったのだ。

そのような状態に陥ってから、私は何が問題なのか、立ち止まって内省するようになった。すぐに答えは出なかったが、何日にもわたって考え続けていくと、「ひょっとするとこれは組織体制の問題ではなく、自分の進め方の問題かもしれない」と気づく。自分が押し付けた「正しい答え」が、メンバーのモチベーションを下げていたのだ。

そう気づいたあと、自分の最適解を提供することをやめ、議論を尽くして「納得解」を探すようにした。すると、みんなの意識が変わり、経営者目線で考えるようになった。内省によって、自分自身の意識レベルが上がったかどうかはわからないものの、それまでの自分を手放し、在り方を変えることによって、組織の意識レベルが変わっていったように思う。

リーダーの「内省」は、一人で行うべきものか?

こういった経験から、とりわけリーダーには内省が不可欠だと私は考えている。組織に何らかの問題があるとき、その問題には自分も含まれていると認識し、解決するために自分は何を手放すべきかを考え続けなければならない。それは痛みを伴う作業だが、内省プロセスを乗り越えなければ、リーダーとしても組織としても次のステージに進化できないのだと思う。

内省の重要性は『ティール組織』でもたびたび触れられている。たとえば、メンバーが内省できるような静かな部屋を用意したり、ミーティングの冒頭に1分間の沈黙を行ったりしている。もっと大規模なものもある。毎週火曜日に350名の社員が集まり1時間にわたって内省する組織もあれば、入院患者も参加する「マインドフルネスの日」を設けている病院もある。

ただ、読みながらこんな問いが浮かんできた。「内省は、自分一人、組織一つの中で完結すべきなのだろうか」というものだ。

実は私の場合幸いにも、「組織」や「経営」に関して同じ悩みを抱えながら試行錯誤している仲間がいた。そして、こうした問題意識を持つソーシャルビジネスの経営者仲間4人が集まり、2015年に「ソーシャルマネジメント合同会社」という組織を創った。

「社会的価値」「経済的価値」「組織の幸福価値」という3つの価値を最大化してゆく経営スタイルを「ソーシャルマネジメント」と定義し、こういった経営を”実践する環を拡げる”ことを理念に掲げた、一風変わった会社組織だ。

主な活動は「ソーシャルマネジメント・ラボ」という勉強会。そこでは、NPO経営者やリーダーたちがそれぞれの実践の悩みを"赤裸々"に共有し合うのだが、このスタイルは私たち4人が「弱みを見せ合う」ことで内省が深まった経験に基づいている。

勉強会の輪は3年の間に少しずつ拡がりをみせ、今では100人以上の経営者、リーダーが集うコミュニティーになっている。

たとえば、こんなエピソードがある。私が尊敬するある経営者が勉強会に登壇してくれたときのことだ。その経営者は、ビジョンや組織文化を大切にするために、役員クラスを中途採用せずに生え抜きから抜擢することを大事にしてきたが、組織と事業の成長に人材育成が追い付かずどうすればいいのか悩んでいる、という葛藤を共有してくれた。

その後、参加者からさまざまなアドバイス、アイデア、経験談が共有された。たとえば、悩んだ末に中途採用に切り替え、組織の歪みを乗り越えながら事業を数倍に成長させたというプロセスを、赤裸々に共有してくれた人がいた。

あるいは「私も同様のことで悩んでいる」と言って自分のストーリーを語ってくれた参加者もいた。「うまくいかないのはトップ数人のコミュニケーションの問題ではないか?」といった厳しい問いを投げかける人も。「ソーシャルセクターの経営者」という同じ立場にいる人同士、誰もが真剣に耳を傾け、対話がなされていた。

イベント後、登壇いただいた経営者から次の感想が届いた。

事前打ち合わせに始まり、当日投げかけられた質問や皆さんとの議論により、私自身の内省が深まりました。考えてみれば、私が育成にこだわった理由は、今よりもっともっと何もなかった時からの仲間と夢を見続けたいという、なんとも説明しがたい願いのようなものでした。

これからのありたい組織を考えて必要な人材を揃える。大切なのは、譲れないビジョンや価値観の共有であって、手法は育成でも新規採用でも問わない。また、そのためには私自身の変容も必要であることに気づきました。(みなさんにも何か気づきがあったことを切に願います)なによりも、孤独ではなく仲間がいることを感じ、またがんばれそうな気がしています!

時に孤独と言われるリーダーの内省のプロセスは、必ずしもリーダー個人や、一つの組織の中だけで完結させる必要はないように思う。組織の枠組みを越えて、それぞれがお互いの悩みを共有し内省を促せる場があれば、孤独に頑張るリーダーたちの内省を深め、広い意味でのインパクトを生む土壌になるのではないか。

私はソーシャルマネジメント・ラボの活動を通じて、仲間と一緒に楽しみながら、その仮説検証をしているのかもしれない。

新たな挑戦。

私は2018年から、これまで関わったことのない分野で経営をしている。ローカルなコミュニティーに根差した建設会社、すなわち営利企業の経営者になった。だがもちろん、これまで関係を築いてきた仲間たちと支え合い、切磋琢磨し合うことは変わらない。

ソーシャルマネジメントでの経験を活かし、私はここで、一人のリーダーによる内省ではなく、チームによる内省を促し、それによって弱さを見せあえる、一人ひとりが潜在力を発揮できる組織を創りたい、と考えている。

「早く行きたいなら一人で、遠くへ行きたいならみんなで行け」
If You Want To Go Fast, Go Alone. If You Want To Go Far, Go Together.

というアフリカの諺が好きでよく使っているが、みんなで行くことで、一段と組織が進化していくのではないだろうか。

フレデリック・ラルーは、組織の発達段階として「進化型組織」を「ティール組織」と表現した。「進化型」としたのは、組織の最終形態があるのではなく、組織もそこにいる人も成長・変態し続けると捉えているからだろう。その意味で本書は、”答え”ではなく、沢山の”問い”を与えてくれる。自分のこれまでの歩みや、これからの方向性をあらためて内省する機会をもらった本書に、心から感謝したい。

最後に、本書の一文を抜粋して筆を置きたい。

コミュニティーは単に豊かさをつくり出すわけではない。コミュニティー自身がそうなのだ。自然の世界からその公式を学ぶことができれば、人間世界は変革できるかもしれない。
――パーカー・パーマー
『ティール組織』495頁
岡本拓也(おかもと・たくや)
1977年大阪府生まれ。学生時代に大学を一年休学してバックパックで世界を回り、バングラデシュにてマイクロクレジットと出会ったことが、今に繋がる原点。その後、公認会計士として企業再生支援を経て、2011年より社会的事業への投資と協働を行うソーシャルベンチャー・パートナーズ東京の代表に就任(現在は理事)。また認定NPOカタリバの常務理事兼事務局長として同法人の変革と第二創業を推進し、在任5年半で10倍となる成長を牽引。
2015年に経営者仲間と共にソーシャルマネジメント合同会社を設立し、リーダーたちのコミュニティを創る。2018年2月には愛知を拠点とする建設会社の代表取締役社長に就任し、地域の伝統的事業をソーシャルな世界観から経営することに挑戦中。

連載紹介

連載:『ティール組織』私はこう読んだ。
人類の長大な歴史から組織モデルの進化に迫る『ティール組織』。各界のリーダーや研究者はこの本を読んで何を感じたか。多様な視点から組織や社会の進化を考える。

第1回:もし島全体がティール社会だったら(阿部裕志:巡の環)
第2回:色の変化をたのしもう(小竹貴子:クックパッド)
第3回:組織論の「夢」に迫れているか?(永山晋:法政大学)
第4回:100%のコミットメントをメンバーに求めない組織はありなのか?(藤村能光:サイボウズ)
第5回:ひとりから始める組織変革(滝口健史:スコラ・コンサルト)
第6回:ティール組織を絵空事で終わらせないために(樋口あゆみ:東京大学)
第7回:組織が「人と人になる」とき(田中達也:リクルートコミュニケーションズ)
第8回:メモ不要。読めば思考が走り出す本(岡田武史:今治.夢スポーツ)
第9回:CEO交代の激変期、人事の役割を再定義させてくれた一冊(島田由香:ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス)
第10回:リーダーが内省し合える「コミュニティー」が、意識の進化を後押しする(岡本拓也:ソーシャルマネジメント合同会社)

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『ティール組織』私はこう読んだ。

『ティール組織』を各界のリーダーや研究者はどう読んだか。多様な視点から組織や社会の進化を考える。
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