色の変化をたのしもう(小竹貴子:クックパッド)

人類の長大な歴史から組織モデルの進化に迫る『ティール組織』。各界のリーダーや研究者はこの本を読んで何を感じたか。クックパッドの初期メンバーで、現在も同社のブランディング部門を率いる小竹貴子さんが語る。

定款にミッションを?

2018年3月27日の定時株主総会で決議された定款に、クックパッドが「ミッション」の項目を設けたことが、ちょっとした話題になりました。

「世界中のすべての家庭において、毎日の料理が楽しみになった時、当会社は解散する」

「当会社は、『毎日の料理を楽しみにする』ために存在し、これをミッションとする」

参考までにお話しておくと、会社法上の解散事由は、客観的・具体的に判定できない条件については効力を有しないとされており、つまり、今回の定款変更に基づいて当社が解散することに法的な拘束力はありません。

では、それでもなぜ項目を設けたのか。それは、クックパッドの目的、存在意義を明確にしようという意思の表れです。

この話、突然のことのように思われるかもしれませんが、実は創業時からずっと話していたことなのです。「自分たちのミッションが達成される、つまり料理が楽しみになる世界になっているということは、自分たちが存在する必要がないので解散する。これが究極の理想だろう」と。

2003年からクックパッドで働く私としては、創業から20年経ってようやく、会社の目的を世の中に胸をはって言えるようになったんだな、そんな感動がありました。私がクックパッドに参画した理由は、まさにこの「ミッション」に惹かれたからだったのです。

そうした「ミッション」をまじめに考え、大切にし続けてきたクックパッドですが、組織はどうかというと、「常に変化し続けてきた」というのが率直な印象。そして『ティール組織』になぞらえてみると、ちょっと意外な発見がありました。

最初はティールだった?

すでに読まれた方はご存じだと思いますが、この本、なかなか「ティール」の話が出てこないんですよね。レッド(衝動型組織)、アンバー(順応型組織)、オレンジ(達成型組織)、グリーン(多元型組織)と来て、ようやくティール(進化型組織)。

こういう順番で書かれていると、組織とはオレンジからグリーンへ、グリーンからティールへ発達するものという印象を受けます。実際そういう会社もある一方で、クックパッドはどうやら違うようなのです。

1997年に創業した頃は、「ティール」に近かったのかもしれません。オフィスはなく、皆リモートワーク。メンバーはクックパッド以外の仕事を掛け持ち。理念は明確ではあったものの、短期の目標を持たず、それぞれの得意な分野で動き、悩んだ時は専門家や同僚のアドバイスを受けながら自分で決める。

ファウンダーの佐野は、料理を楽しんでいる人がレシピを投稿するサービスをひたむきにつくる。私は料理が楽しみになる広告商品をつくる。それを当時マーケティングの責任者だった森下が事業化する。大学で生命情報学の研究をしていた橋本は、有料会員サービス事業の核を生み出す。サーバー管理は誰だったか、ハワイに住んでいた人だったような。

とにもかくにも、ミッションを軸にそれぞれが自ら意思決定し、ミッションを実現するためにサービス、そして事業を前に進めていく。たまに全員が集まれば、どうしたら料理が楽しみになる世界が作れるか、そんな話ばかりしていました。進捗報告などは脇に置いて。

やがて売り上げも人も増えてくると、メンバーそれぞれがクックパッドに絞って仕事をするようになり、オフィスにキッチンができて、何となく家族のような「グリーン」な組織に。

メンバー全員で料理をして、お昼ごはんをつくり、そして全員で「いただきます!」をする時間をとても大事にしていました。バレンタインの時には、男性陣が手作りのチョコを作り、手書きの手紙でプレゼントイベントをしてくれたりと、イベントも頻繁に開かれていました。そういえば、この頃は社内恋愛も多かったなあ。

そして上場しようと決めた頃から「オレンジ」になっていった感覚があります。当然ですが、会社として整えなければいけないことが急激に増え、管理部に人が増え、社内規定も色々増え、評価制度や給与制度が整備されていきました。

そして現在、22言語、68カ国に展開するまでになりましたが、各国に特色があり、それこそオレンジっぽい海外子会社もあれば、ティールっぽい事業所もあります。冒頭の定款のように最近はミッションを見つめ直す機会も増え、もう一度創業期のような「ティール」、いや多色が混在する「レインボー」な組織へと進化する、その過程にあるのかもしれません。

あの会社はどう変わっていったのだろう?

自社を振り返っていると、待てよ、あの会社もクックパッドと同じような変遷をたどっているのではないか、そんな想像がわいてきます。

例えば、クックパッドと同じ創業20年のサイボウズ。サイボウズの方々と組織について深く話をしたことはないのですが、会社の沿革を見ると、2006年に東証1部に上場後、拡大路線を狙い積極的にM&Aを行い……と、クックパッドと似ているなあと妙に親近感を持ちました。

組織としてのサイボウズは20年で、ティールだったりグリーンだったりオレンジだったりと目まぐるしく変化していったのだろうか。彼らのオウンドメディア「サイボウズ式」や、青野社長の『チームのことだけ、考えた。』を読んでいると、現在は一人ひとりが自律し自走する「ティール」に変わりつつあるように感じてきます。いや、実はサイボウズもクックパッドと同じように「レインボー」なのか……。

クックパッドが創業した20年前と比ベて、これからはきっと社会課題の解決をミッションとする会社がもっと増えていくのでしょう。そうした会社の組織形態は、クックパッドと同じように変わり続けていくのか、いやまた全く違う形で進化するのか。

予測はつかないものの、組織の変化はミッション実現のためには必然であり、全て受け入れた上で、自然な形でその組織ごとの最適な姿になっていくのではないか。そんなことをこの本を読んで感じました。みなさんは、どう思われましたか?

『ティール組織』を読んで、「うちの会社はいま何色だろう?」と想像するのもよし。でも意外と、「あの会社は現在に至るまで、どう変わったのだろう?」と色の変化をたのしむのも、ありだと思います。

小竹貴子(こたけ・たかこ)クックパッド株式会社ブランディング・編集本部長、株式会社チームボックス広報。1972年石川県生まれ。Webディレクターとして経験を積んだのち、2003年有限会社コイン(現クックパッド株式会社)へ入社。編集長を経て執行役に就任。2012年同社退社。フリーランスを経て、2016年4月、再びクックパッド株式会社に復帰、現在はブランディング・編集本部長を務める。また「大人が学ぶ」価値を伝えるため、株式会社チームボックスで広報も行っている。

イベントのご案内

小竹貴子×阿部裕志「みんなで語ろう、私の組織論」ーー英治出版オンライン連載「『ティール組織』私はこう読んだ。」

「『ティール組織』私はこう読んだ。」を読まれた方が、記事の感想や疑問を執筆者や読者と共有し語り合うことで、気づきや学びを深める機会をつくりたいと思い、本イベントを企画しました。

第1部はゲスト(執筆者)2名による対談、第2部はゲストと参加者によるディスカッションというタイムテーブルで進行予定です。参加者同士やゲストの方と交流する時間もご用意しております。ぜひご参加ください。お申し込みはこちらから。

連載紹介

連載:『ティール組織』私はこう読んだ。
人類の長大な歴史から組織モデルの進化に迫る『ティール組織』。各界のリーダーや研究者はこの本を読んで何を感じたか。多様な視点から組織や社会の進化を考える。

第1回:もし島全体がティール社会だったら(阿部裕志:巡の環)
第2回:色の変化をたのしもう(小竹貴子:クックパッド)
第3回:組織論の「夢」に迫れているか?(永山晋:法政大学)
第4回:100%のコミットメントをメンバーに求めない組織はありなのか?(藤村能光:サイボウズ)
第5回:ひとりから始める組織変革(滝口健史:スコラ・コンサルト)
第6回:ティール組織を絵空事で終わらせないために(樋口あゆみ:東京大学)
第7回:組織が「人と人になる」とき(田中達也:リクルートコミュニケーションズ)
第8回:メモ不要。読めば思考が走り出す本(岡田武史:今治.夢スポーツ)
第9回:CEO交代の激変期、人事の役割を再定義させてくれた一冊(島田由香:ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス)
第10回:リーダーが内省し合える「コミュニティー」が、意識の進化を後押しする(岡本拓也:ソーシャルマネジメント合同会社)

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ティール組織、ホラクラシー……いま新しい組織のあり方が注目を集めている。しかし、どれかひとつの「正解」があるわけではない。2人のフロントランナーが、業界や国境を越えて次世代型組織(Next Stage Organizations)を探究する旅に出る。

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『ティール組織』私はこう読んだ。

『ティール組織』を各界のリーダーや研究者はどう読んだか。多様な視点から組織や社会の進化を考える。
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