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CEO交代の激変期、人事の役割を再定義させてくれた一冊(島田由香:ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス)

連載:『ティール組織』私はこう読んだ。
人類の長大な歴史から組織モデルの進化に迫る『ティール組織』。各界のリーダーや研究者はこの本を読んで何を感じたか。働く場所と時間を社員が自由に選べる制度「WAA(Work from Anywhere and Anytime)」などを通して生産性と幸福度の向上に取り組む島田由香さんが語る。

『ティール組織』を読んで確信を新たにした。「やはりリーダーがすべて」。リーダーで組織が決まる。リーダーが世界をどのように見て、どんな風に自分の組織を意識しているかがその組織を決めるのだ。

一方で、個人が果たす役割も大きいはずだと考えている。リーダーと個人が、ティール組織をつくるのにどう関わるのか、私なりのアイディアを書いてみたい。

人事の本当の役割とは

「人事から世界を変える」、それによって「すべての人が、笑顔で、自分らしく、楽しく、豊かな人生を送れるような世界を創る」。これらは私のミッションであり、ビジョンだ。人事の仕事に携わって20年あまり、人事は私の天職だと思っている。

なぜなら、この仕事を通じて一人ひとりの可能性と強みが引き出されることで、会社が変わり、エネルギーあふれる組織になるさまを目の当たりにしてきたからだ。「人はいつでも変わる」「すべての人がハイパフォーマー」という信念とともに、社員の成長支援に取り組んできた。

そんな私が『ティール組織』から得た最大の気づきの一つは、「人事の役割は、社員の能力を高めることに留まらず、一人ひとりの意識の進化を強力にサポートすること」というものだ。

リーダーの意識が、組織を決める?

本書には「どんな組織もリーダーの発達段階(ステージ)を超えて進化することはできない」という一節がある。この言葉は、私の心の中にとても深く刻まれた。私自身も、長年組織に属している中で、「組織はリーダーで決まる・変わる」という思いを強めていたからだ。

いま思えば、前CEOの任期中に会社の業績がめざましく伸びたことは、彼の意識のステージと大きく関係していると実体験で感じる。彼はいわば「ティールリーダー」だった。

たとえば、私は彼からNoと言われた記憶がない。提案やアイディアを結果的に選択しなかった回数は数えきれないけれど、前CEOはまず私の言ったことを受け入れ、労った。その上で、私が見えていない新しい視点から可能性を示し、私自身が持っている問題を見つめ直すきっかけを与え、自分自身で解決法を見つけ出して結論づけるよう支援してくれた。

リーダーの役割は支援でありコーチングだということを、この本を読んで改めて認識した。ティール組織は信頼の度合いが高く、恐れが少ないという。ティールリーダーにもこれがそのまま当てはまると思う。自分を、相手を信頼しているリーダーから、ティール組織はスタートする。ティールリーダーを育むことも人事の大切な役割であることを感じている。

では、別のステージのリーダーに交代すると、組織全体が変わってしまうのだろうか? 私はYesともNoとも言えるのではないかと考えている。そこに人事が果たすべき役割がある。

トップが変わるというのは、組織にとって、その構成要因である社員にとって、実に大きな問題だ。なぜなら、リーダーの世界の見方が変わることで、その組織で良しとされるものが変わるから。

リーダーの意識や意思決定の基準がグリーン(多元型)またはティール(進化型)だった組織が、レッド(衝動型)やアンバー(順応型)の意識をもつリーダーを迎え入れたら、どんなことが起こるだろうか? 逆のケースであっても、組織の中に発生する混乱や戸惑いは避けられないだろう。

実は、私の組織はまさに今、トップが変わる、世界の見方が変わる、意識の置きどころが変わるという、急激な変化の真っただ中にいる。組織は大きく変わるかもしれない。

しかし、本書を読んで強く感じるのは、周囲にどんな状況が発生していたとしても、その状況を打開するカギとなるのは自分の意識なのだ、ということだ。成長のきっかけは、常に現在の世界観では解決できない大きな試練という形でやってくるし、すべてのチャレンジは自分のパラダイムを発展させるチャンスなのだと捉えることも大切なのだ。

一人ひとりが変化を乗り越え、意識を進化する支援をすることが、人事の役割ではないだろうか。

どうすれば意識は進化するのか?

それでは、どうすれば人はより広い意識を持てるようになるのだろうか? 実は本書には、その具体的な方法についてはあまり描かれていない。「意識が大切なのはわかった。でも、具体的にどうすればいいのか?」という疑問をいだく人もいるだろう。

また、個人の意識のあり方には、組織に根強く残る構造上の問題が影響する可能性もある。例えばある個人がティールであっても、あるいはいくらティールになろうとしても、一般的なグローバル企業おいて根強いパラダイムとされるオレンジ(達成型)との対立が生じるかもしれない。

こういった状況をどう乗り越えることができるのだろうか? もしかすると歴史のある大きな日本企業では、思っている以上に階層や年功といったものが、個人の意識の進化を阻んでしまうかもしれない。 

それでも、私はあえて言いたい。
意識は意識すると進化できる。私たちは誰でも意識すれば進化できる。

それまで無意識だったものに意識を向けることで、今までになかった気づきが必ずもたらされる。自分のパラダイムを客観的に問い直し始めたとき、すでに意識の発達は始まっているのだ。

スキルとしてのメタ認知の大切さはさまざまなところで伝えられているが、この本を読み改めてそのパワフルさを認識した。そう、私たちは自分を客観視して、自分を知ることでしか進化しない。

また、より広い意識をもてるようになれば、自分の所属する組織のことを客観的に見ることができ、愛をもって理解し、接することができるようになる。私はそう考えている。

このことを実際の組織の中で実現するために、4年前から新しいトレーニングを始めた。それは「U理論」の考え方を取り入れた1回3時間×10回のプログラムで、一人ひとりに内省を促し、個人としてのビジョンを見出してもらうものだ。その結果、組織全体に変革をもたらすことを目的としている。

具体的には、参加者の聴く力を高めるトレーニングを行っている。相手の声を「本当に聴く」、つまり耳と目と心を使って相手を受容するようになると、不思議なくらいに自己内省力が高まる。それにより、今まで無意識だった、自分の本当の感情や声に気づく。すると結果として、他人との関係性にポジティブなインパクトをもたらす。

少しずつではあるが、このトレーニングの参加者に起きているのは、まさにパラダイムシフトだと感じている。

一人ひとりの進化に向けてできることは何か?

私たち一人ひとりが変わらなければ、組織あるいは社会の変革は生まれない。

「自分はどの段階から世界を見ているのだろうか?」

この問いを、すべての人が自分自身に問いかけたとしたら、ものすごい意識の変容と進化が社会全体に起きるはずだ。

だからこそ私はこれからも、目の前の一人の意識の変化を支援していきたい。そして私自身も、進化し続けていきたい。大好きな色の本書を携えて(実は、本書に出会う前から私のお財布もノートもティール色だ)、ときどきエネルギーをもらいながら。

わくわくする社会が、世界が、未来が待っている。

島田由香(しまだ・ゆか)
ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社 取締役 人事総務本部長
1996年慶応義塾大学卒業後、株式会社パソナ入社。2002年米国ニューヨーク州コロンビア大学大学院にて組織心理学修士取得。日本GEにて人事マネジャーを経験。2008年ユニリーバ入社後、R&D、マーケティング、営業部門のHRパートナー、リーダーシップ開発マネジャー、HRダイレクターを経て2013年4月取締役人事本部長就任。2014年4月取締役人事総務本部長就任、現在に至る。
学生時代からモチベーションに関心を持ち、キャリアは一貫して人・組織にかかわる。中学3年生の息子を持つ一児の母親。米国NLP協会マスタープラクティショナー、マインドフルネスNLP®トレーナー。

連載紹介

連載:『ティール組織』私はこう読んだ。
人類の長大な歴史から組織モデルの進化に迫る『ティール組織』。各界のリーダーや研究者はこの本を読んで何を感じたか。多様な視点から組織や社会の進化を考える。

第1回:もし島全体がティール社会だったら(阿部裕志:巡の環)
第2回:色の変化をたのしもう(小竹貴子:クックパッド)
第3回:組織論の「夢」に迫れているか?(永山晋:法政大学)
第4回:100%のコミットメントをメンバーに求めない組織はありなのか?(藤村能光:サイボウズ)
第5回:ひとりから始める組織変革(滝口健史:スコラ・コンサルト)
第6回:ティール組織を絵空事で終わらせないために(樋口あゆみ:東京大学)
第7回:組織が「人と人になる」とき(田中達也:リクルートコミュニケーションズ)
第8回:メモ不要。読めば思考が走り出す本(岡田武史:今治.夢スポーツ)
第9回:CEO交代の激変期、人事の役割を再定義させてくれた一冊(島田由香:ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス)
第10回:リーダーが内省し合える「コミュニティー」が、意識の進化を後押しする(岡本拓也:ソーシャルマネジメント合同会社)

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『ティール組織』私はこう読んだ。

『ティール組織』を各界のリーダーや研究者はどう読んだか。多様な視点から組織や社会の進化を考える。
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