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行動を止めない、思考も止めない、迷いとともに:「『迷い』と向き合い続ける力」イベントレポート(小林祐子)

「迷い」という言葉を聞くと、多くの人はネガティブな印象を抱くのではないでしょうか? だけど実は、「迷い」を安易に捨てて手近な「正解」に飛びつくのではなく、「迷いと向き合い続けること」に備わる力もあるのではないか。

そんなテーマを掲げ、迷いや葛藤と向き合う機会が多いであろう途上国や被災地で活動する二人の登壇者をお招きしてトークイベントを開催、そこに参加した小林祐子さん(英治出版オンライン 編集パートナー)に、ご自身の体験を踏まえながら感じたことを綴っていただきました。

人生は何も達成しないには長すぎる

私は共働きでメーカーに務めながらも、途上国の女性に関わる環境改善に強い問題意識を持っている。でも、実際は目の前の繁雑な仕事や家事に追われ、一日が終わってしまう。昔は寄付金を募るファンドレイジングゲーム会を開くなど、女性の課題を自分ごととして捉え、そのためにできるアクションを起こしていたのに。

今は日々の献立にすら主体的になれず、迷ってばかり。自分で考えるよりも、雑誌の献立見本やクックパッド上位のレシピを真似して済ませてしまう。これからのキャリアを考えることにも、億劫になりがち。

誰かが、「人生は何かを達成するには短すぎる」と言っていた。けれど、同時にこうも言っていた。

「何も達成しないには長すぎる」


今、私は転職活動の真っ最中だが、「3年後、どんなキャリアを進んでいたいか」と、何度会社の面接で聞かれたか。昇進や採用のお見送りをされる心配がないなら、私は迷わずこう答える。

「そんなの、分からない」と。

なりたいもの、なれるかもしれないもの、選択肢が増えすぎだ。人生100年時代。もう30。まだ30。あと70年の間に自分が何をやるべきか、何を達成するべきか、迷い続けている。

考える時間はあるのに、どこに向かえばいいのかも分からない。何かヒントを得ようとインターネットで調べてみても、SNSから流れる情報は多すぎて、結局よく分からなくなってしまう。インプットは多いけれど、何から始めたらいいのだろうという状態から抜け出せない。毎年、『日経WOMAN』の「ウーマン・オブ・ザ・イヤー」に選ばれる女性を見ては、自分との差にため息が出る。

「何かを達成できる人って、どうやってるの? 神ってる!?」

そんなモヤモヤを抱えていた私は、今回の英治出版オンラインのイベントにめぐりあい、参加することになった。

この輝かしい二人に、「迷い」などあるのだろうか?

イベントには総勢30名、学生から定年を過ぎた元企業戦士まで幅広い年代と属性の方が集まっていた。

こういうイベントに行くと、志高く、アツい(アツ苦しい?) 思いを持った方に出会ったりするけれど、この日の会場は想像していたよりも穏やかだったように思う。ただし、そんな参加者のみなさんも、それぞれの活動や組織のなかで抱く思いを静かに燃やしていたということが、後で分かった。

登壇されたのは、カンボジアをはじめとする途上国で移動映画館を展開するNPO法人World Theater Project代表の教来石小織さんと、被災地や難民キャンプを取材し続けるフォトジャーナリスト、Dialogue for Peopleの安田菜津紀さん。

世界規模で活躍されているお二人から、活動のなかで日々生まれる様々な「迷い」や「葛藤」にどう向き合っているのかや、答えのない曖昧な状況のなかで、迷いとともに歩み続けるために大切にしていることについて、近距離・少人数での密度の濃い対話のなかでうかがうことができた。

途上国で移動映画館を展開する教来石さんは、小さい頃から人に夢を与える映画を作りたくて、将来は映画監督になることを夢見ていた。けれど学生時代に訪れたケニアで、子どもたちが限られた情報しか持っていないために夢の選択肢が少ない現状を知り、「もしもこの村に映画館があったら、子どもたちはどんな夢を見るだろう?」と思ったことが、今の活動を始めるきっかけになったそう。移動映画館方式で村々を回り、これまでに6万人以上の途上国の子どもたちに映画を届けてきた実績が認められ、2018年には人間力大賞の文部科学大臣賞を受賞している方だ。

フォトジャーナリストの安田菜津紀さんは、東日本大震災の被災地や、シリア難民キャンプなどを取材し続けている。「最も困難な状況にいるのは取材を受けて下さる方々だ」という意識を強く持たれていて、取材をして「頂いた言葉」に対して、写真や記事で「恩返し」しようという気持ちのサイクルを大切になさっていた。若くして『情熱大陸』でとりあげられたり、今は『サンデーモーニング』という有名報道番組のコメンテーターまで務められている。

誰かのために世界中を翔けて貢献しているお二人にも「迷い」があるなんてにわかには信じられなかったけれど、「お二人の話からもしかしたら何か、私が抱える迷いとのうまい付き合い方も見つかるんじゃないのか!」と期待を持ってお話に聞き入った。

「その写真は希望ではない」

一見、キラキラして輝く経歴を持ったお二人は、明確な目標と自信を持って日々邁進しているのだとばかり思っていた。

ところが、である。

今の道に進んだきっかけは違えども、二人とも自分たちの活動の根本に関わることにさえ迷いを抱いていた。そして、すごいことをなし遂げているのに、常に自分たちの仕事を振り返り、周りの声を聞き、とにかく謙虚なのである。

教来石さんは、生きるために不可欠なワクチンでもなければ食糧でもない、「映画」を途上国に届けることは、本当に現地の方々の役にたっているのだろうかと迷っていた。映画を届けたことで学校に行けなかった子どもたちが行けるようになったなど、具体的で明確な変化が生まれているわけではなく、活動を始めてからこれまで、自分たちの活動が社会の課題を解決するほどすごいものだとは一度も思ったことがないという。

安田さんもやはり、現場で写真を撮るという活動の根幹部分にさえ迷いを抱えていた。特に印象的だったのは、東日本大震災後に陸前高田市に残された「奇跡の一本松」のお話だ。

「奇跡の一本松」は、日本百景にも選ばれた約7万本の松林のほとんどが津波によって被害を受け、唯一残った一本の松を震災からの復興のシンボルとして呼んだ名称だ。しかし、安田さんが震災で被害に遭われた義理のご家族にその写真を見せたところ、想定していない反応が返ってきたという。

ここに住んでいなかった人には、この松は希望の象徴かもしれない。でも、7万本の松と一緒に暮らしてきた私たちにとって、『一本しか』残っていないことは希望ではない、できれば見たくなかった。

安田さんのすごいところは、ひとつの見方に自分の考えを固定することなく、ご家族のその言葉を自己満足に陥らないための警句として受け止め、本当の声を伝えてくれたことに感謝している姿だ。割り切って仕事をすることは、人の心に土足で踏み込み、知らず知らずのうちに人を傷つけてしまうことにつながる。だからあえて事象に対して白黒つけず、「自己反省」することをとても大切にされているそう。

頑なにならず、その自己反省の余地を持つためには、「迷う」ことは必ずしもネガティブなことでないと感じた。迷い続けることは、思考を止めないことであり、それは行動を止めないで動き続ける際に必要不可欠なことだと思えるからだ。

教来石さんもやはり、そのような姿勢を大切にされている方だと感じた。活動の意義への迷いを真摯に持ち続けているからこそ、自分一人で何かを達成しようと気張るのではなく、現地の人や他の団体と役割を分担する。そんな謙虚な姿勢に、多くの応援が集まるのだと感じた。

イベントで出てくるお話は、シリア難民キャンプや日本の各被災地のことで、その現場に行った人しか経験できないことだったにもかかわらず、お二人の口調はまるで、マリア様が話すならこんな感じかもしれないと思うほど穏やか。さらにすごいことに、そんな極限の状況を経験しても、自分たちの仕事は人々の心に種をまくことで、それがいつか成長して花を咲かせればいいと、自然体なのである。

参加者からの質問時間においては、そのひとつひとつの質問に丁寧に答える二人の姿がなんだか眩しかった。

何かを始めるべきか迷ったときのための言葉

会場からの質問で印象に残っているのは、「国内ではなく国外の問題に対して、私が動き出すべきなのか、その資格があるのか、始めることに踏ん切りがつかない」というもの。何か課題を感じることはあるけれど、「なぜ自分?」「なぜその課題?」「なぜこのタイミング?」と、始める理由を探しているように思えた。

この質問に対し教来石さんは、何かに迷ったときは「少しでも社会の誰かが良くなる方を選んだらいい」という言葉を紹介してくれた。

教来石さんの活動においても、途上国にワクチンでも食糧でもない「映画」を届けることに懐疑的な意見は少なくないかもしれない。それでも、実際に教来石さんが活動を始めずに傍観者のままであったならば、「現地の子どもたちの将来の選択肢が少ない」という課題は、教来石さんの活動に関わる多くの人にとって見過ごされたままだったと思う。

教来石さんの回答を聞いて、冒頭で書いた私の迷いに対して、一筋の光が見えた気がした。

「あと70年何をしようか、何ができるのだろうか」と迷うだけで何も動けないのが一番もったいない。それならば、たとえすべての迷いが解消されてはいなくても、何か「社会を良くするかもしれない」と感じることさえできたなら、それに対して自分ごととして取り組み始めてみるのもありだなと思えた。

その昔、国境なき医師団で医師として働く友人に、「どうして国際機関で働こうと思ったの? 日本にだって医師は必要じゃない」と尋ねたことがある。今考えれば、意地悪な質問である。

その友人は、小学生の頃に授業で国境なき医師団の存在を知ってから、ただただ世界の人を助けたいという思いで医師になったという。シンプルな動機から始まった夢ではあるが、その友人はこう答えてくれた。

「日本人として海外で活動することで現地の人に感謝される。それは長い目で見ると、日本人の良いイメージを海外の人に持ってもらえることにつながる。国外で活動していても、実は国内に貢献できている側面もあると思うよ。日本も世界の一部だからね」

活動を続けるなかで見つけていったのであろう彼女のこの言葉は、どんな課題を選んでも間違いはないということに気づかせてくれた。彼女は、たまたま出会った課題に対して、「少しでも社会が良くなる方」を選び、まず始めてみた。きっかけは驚くくらい身近なものだったりもするけれど、今では日本人を代表して海外で活動してくれているのだ。彼女には、本当に感謝したい!

行動を止めない!思考も止めない!迷いとともに!

私が生まれた頃に男女雇用機会均等法ができ、社会人になったときには、総合職で活躍する女性の先輩も徐々に増え始めていた。出版業界からは、スーパーウーマン:勝間和代さん、伝説の営業ウーマン:和田裕美さん、ワークライフバランス:小室淑恵さんら、キラキラ輝く女性たちの本が相次いで出版されて、貪るように買っては、こんな風にかっこよく働いて尊敬されるキャリアウーマンになりたい、と思っていた。

あれから10年、気づけば中堅。満員電車に揺られながら、日本に貢献するような案件を担当するわけでもなく、会社の経営や部署の戦略を担当するわけでもない普通のOLのままだった。

「こんな働き方をしたかったんだっけ? 自分の仕事って誰かを笑顔にできているのかな?」と自問する日々。毎朝鏡に映るのは、憧れた女性たちのキラキラ度に100分の1も及んでいない自分。今日もまた、満員電車で会社に向かう、その繰り返し。

もう30、まだ30。あと70年。どんなに「時間は有限」「明日死ぬとしたら」と言われても、何に取り組んだらいいのかはいまだに分からない。

それでもこのイベントでは、たとえ今はキラキラしていなくても、たとえ迷いを抱えたままであったとしても、解決したい問題の規模や範囲にかかわらず、出会った目の前のことが自分ごとに感じられたときが始めどきなのではないか、とエールをもらった気がした。

安田さんや教来石さんのように、「社会を変えるために行動したい」という志を持っている人も少なくないと思う。でも実際に動き出すのは不安で、誰かに「君ならできる」「君の思いは正しいよ」と承認してもらいたい気持ちもあるだろう。

でも、勝間さんたちのように素晴らしいキャリアがなくても、誰かに承認されなくても、「たまたま自分がそこにいたから」という理由で何かを始めてみることも悪くない。誰かが起こしたたったひとつの行動が、きっと誰かの心に種をまいて、いつか花を咲かせるかもしれないということを、お二人は教えてくれたから。

そしてもうひとつ、何かを始めた「その先」で大切な姿勢も学んだ。動き出した後、悩み、苦しみ、この道であっているのかと「迷う」とき、それはきっと真剣にその問題と向き合っているしるしなのだろうということだ。

誰かの幸せのために、と始めたことが、気づいたらただの自己満足に陥っていたりすることもあるかもしれない。だからこそ、迷ってもいいのだとこのイベントで気づかせてもらえた。

迷い続けることは、思考を止めず、考え続けること。
それは、自分をより適切な方向に動かす原動力になること。
周囲から好ましくない反応を受けたときには、一本松の件で安田さんが仰っていたように、割り切らずに自己反省する姿勢が大切だということ。
人の心に土足で入り、知らない間に相手を傷つけてしまわないように、常に「迷い」をなくしてはいけないということ。

きっとそうすることで、心に柔軟性を持たせることができる。頑なな思いのために壁にぶつかったときに、燃え尽きてしまうのを防ぐことができる。そうすることでこそ、誰かの心に種をまく活動を続けられるのかもしれない。そう最後に背中をポンと押してもらえた気がした。

最後に、100歳を超えても美術界で活躍されている篠田桃紅さんの言葉を借りて、締めくくりたい。

時宜に適って、人は人に巡り合い、金の言葉に出逢う。
―『一〇三歳になってわかったこと』より

このイベントは私にとって「時宜に適った」ものだったと思う。

イベントに参加してくださったみなさんの心にまかれた種も、いつか花を咲かせることが楽しみだ。


執筆者プロフィール

小林祐子 英治出版オンライン編集パートナー。好きな本の多くが英治出版のもので、そのファン歴は、西水美恵子さんの『国をつくるという仕事』から。女性の社会進出をサポートする団体に関わり、経済的に自立することは「自由」という選択肢を持つことだと考え、その良さをの女性に知ってもらいたく、自らも働き続ける。

安田菜津紀さんの情報

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NPO法人World Theater Project
◆教来石さんの次回トークイベント

連載:映画で貧困は救えるか――「途上国×移動映画館」で感じた葛藤と可能性

途上国の子どもたち向けに移動映画館を展開する著者。これまで5万人以上に映画を届けてきた実績とは裏腹に、活動の存在意義を自問自答する日々。映画より、食糧やワクチンを届けるべきではないのか? 映画を届けたいのは自分のエゴではないのか? 本連載では、「映画で貧困は救えるか」をひとつの象徴的な問いとして、類を見ない活動をするNPO経営のなかで感じる様々な葛藤や可能性と真摯に向き合っていく。

第1回:夢だった活動が広がることで、新たに生まれる不安
第2回:ただ生きるためだけなら、映画なんて必要なかった
第3回:映画は世界を戦争から救えるか?
第4回:映画からもらった夢に乗って、いま私は生きている
第5回:スマホとYouTubeが普及しても、移動映画館を続ける理由
第6回:挑戦をやめたらそこで試合終了ですよ。(新年特別企画)
第7回:西日本豪雨に思う――NPO代表の私が無力を感じる瞬間と、支えにしている言葉。
特別回:【3つの動画で知る!】途上国で移動映画館を行うWorld Theater Projectの活動
第8回:映画で少数民族が抱える課題に挑む――代表の私には見えなかった新しい活動の可能性
第9回:オフ日記「いつでも歩けば映画に当たる」
第10回:「ネパールで生まれた僕は夢を持てない」
第11回:「生まれ育った環境」とは何か。——ネパールで考えた問いと、移動映画館の新しい可能性。
第12回:【最終回】映画で貧困は救えるか
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連載「映画で貧困は救えるか」

途上国の子どもたち向けに移動映画館を展開する著者。カンボジアをはじめとした世界各国5万人以上に映画を届けてきた実績とは裏腹に、活動の存在意義を自問自答する日々。食糧やワクチンを届けるべきではないのか? 映画を届けたいのは自分のエゴではないのか? 映画は世界を変えられるのか?...
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