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問題。全米に散らばる10の風船を見つけよ。賞金4万ドル(村瀬俊朗)

なぜあのスポーツチームは華麗な連携ができるのだろう。なぜあのグループは困難な状況でもあきらめずにやり抜けるのだろう。様々な組織の現象に「なぜ」の疑問を打ち立て、理論とデータを用いて答えを導き論文にする。

これを生業としている私にとって発想は生命線である。研究の最中、そしてこの記事を書いている今も、良い発想にたどり着くための悩みは尽きない。

これまでの連載は、どうすればチームで良い発想を生み出せるかをテーマにしてきた。今回は、良い発想が生まれるプロセスを考えたい。

その話に入る前に、もう少しだけ私の話を聞いてほしい。

論文にするには、発想が、新しさ、面白さ、そして重要さを兼ね備えていることが理想だ。そしてこの3つはどれも大切だが、絶対に欠けてはいけない条件は「重要さ」だと私は考えている。

ビジネスの世界でプロジェクトの重要性を社内で説得しなければならないように、私たち経営学者も発想の重要性を学会や経営者に説かなければならない。ビジネスパーソンも経営学者も、目指しているのは人を動かすことであり、そのためには発想の「重要さ」は避けて通れない。

そこで私は、どうすれば自分の発想が重要と言えるか、どのようなプロセスだと重要な発想にたどり着けるかを、長年考えながら研究を行ってきた。

そして一つの結論に達した。私が重要性の説得に失敗するのは、端的に言うと、行き当たりばったりでプロジェクトを進めているときだ。データが取れそうだからとりあえず集めて分析する。みんながリーダーシップのデータを集めているので、私も集めてみる。このように始動するプロジェクトからは重要と言える発想にたどり着くことが難しかった。

ならば、逆を辿ればよいのではないか。つまり、重要な発想に必要な要素から考えればよいのではないか。そう考えた。

そしてその要素とは、「課題意識」と「問題設定」ではないだろうか。この2つの要素が解の重要性を決める。

課題意識とは、社会における特定の問題に興味を持ち積極的に解決したいと意識する事柄である。より多くの人がその課題に関心を持つと、課題の重要度が増す。

だが課題意識とは得てして抽象的である。そのために問題設定を行い、検証できるより明確な問いに落とし込むのだ。そしてその問いに対する解決案を見出す。課題意識、問題設定、解決案。この構造が成り立つと、発想の重要性が高まるのではないだろうか。

ここからは、米国で行われたある研究プロジェクトを例に、発想のプロセスについて探っていきたい。

DARPAの風船チャレンジ

米国の国防総省の国防高等研究計画局、通称DARPAをご存じだろうか。DARPAの有名なプロジェクトの一つに、インターネットの原型のARPANETの発展がある[1]。

DARPAは2009年に、全米に配置された10個の赤い風船の位置を一番早く報告した人に、4万ドルの賞金を与えると発表した[2]。この風船チャレンジには、様々な分野の研究者やチームが参加を表明した。そして誰もがこの風船チャレンジを解くには時間がかかると思っていたが、プロジェクト開始からわずか8時間52分41秒で、マサチューセッツ工科大学(MIT)のチームが全風船の位置を特定した。

風船チャレンジは高度なテクノロジーや難解な手法を必要とすると思われていた。しかし、MITチームの解決法はいたってシンプルであった。賞金4万ドルを10分割し、各4千ドルを発見者とその発見者を紹介するために関わったすべての人達の間で分配する。分配方法はこうだ。

AさんがMITチームのウェブサイトに登録する。AさんはBさんにリンクを送り登録させ、さらにBさんはCさんにリンクを渡して登録させた。そして仮にCさんが風船を発見した場合、Cさんがまず4千ドルの半額の2千ドルを受け取り、Bさんは更にその半分の千ドル、最後にAさんは残りの半分の500ドルを受け取る。残金はある団体に寄付されるという仕組みだ。

この手法が優れているのは、発見者のみに賞金を渡す方法と比べ、登録者たちはなるべく多くの知り合いを登録させようというインセンティブが働く点である。発見者のみが賞金を受け取る場合、他人が風船を発見すると自分にお金が入らないので、MITのサイトを知人に紹介する動機が生まれない。

風船チャレンジ・プロジェクトは、設定された問題の面白さと、MITチームが難解な問題を華麗に解決したことから、一部の研究者の間では話題になった。

課題意識を明確にして、問題設定を行う

さて、話を発想プロセスに戻そう。DARPAの問題設定は何だったか。それは、「10個の風船を発見すること」である。ではなぜDARPAは風船チャレンジを問題に設定したのだろう。

DARPAの課題意識は、風船の発見方法そのものではない。限られた時間の中で膨大な人々を迅速に組織化し、離れた地区に点在する情報を正確に収集するにはどうしたらよいか。これこそが彼らの課題意識だった。

例えば災害時、政府はどこで何が起きているかを把握したいが、公共機関のみの情報では困難を極める。そんな時に、様々な場所にいる国民が自発的かつ瞬時に情報を提供してくれれば、刻一刻と変化する状況をより包括的に把握できる。そしてこれらの情報をもとに、どこに何の物資をどれだけ輸送すれば良いか判断し、いかなる支援を行えばよいかを意思決定できる。

DARPAが相談したある諜報機関は、高速インターネット出現以前では、風船チャレンジの迅速な解決はほぼ不可能だと位置付けた。しかし、現代のネットやテクノロジーを利用することで、点在する人々を組織化して自発的に情報提供させられるなら、この問題を解決できるのではないか。そう考えたのだ。

そしてDARPAは風船チャレンジという問題設定をしたことで、自分たちの課題意識に直結する解答案にたどり着くことができた。それは、MITチームが見出した、「人の組織化と自発的な情報提供を可能にするインセンティブプラン」である。この一連の流れは図1の通りだ。

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課題意識と問題設定は自分たちで、解決案は外部(MITチーム)の力で導き出したこのプロジェクトは、ネットとテクノロジーの時代における「発想」の好例ではないだろうか。課題意識と問題設定が明確であれば、世界中から優れた解決案を集めることができる。私たちにまず問われているのは、課題意識と問題設定なのである。

課題意識なき問題設定

課題意識を持つことは非常に難しい。私が悪い発想に至るのは、課題意識を持たずどこかで見たような問題の設定を行い、とりあえずプロジェクトを始動してしまうときだ。

過去に何度も、課題意識を明確にしないまま、データが手に入るという理由だけでとりあえずデータを集めてしまった。集めた後で何か出てくるだろうと考え、関係性や効果を必死に探し、後付けで課題意識や問題設定を考えた。私の場合、このような方法を取ると、発想の重要性を周囲に説得するのが極めて難しく、多くが失敗に終わっている。

だが、現実はより複雑である。課題意識と問題設定の関係は一方通行ではない。入り口がなんらかの具体的な問題であり、その問題から課題意識を探り、また問題設定に戻る発想プロセスもある(図2参照)。

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発想のプロセスに絶対はないと思うが、私が強調したいのは、たとえ面倒に思えても、作業を始める前に課題意識と問題設定を明確にすることだ。

課題意識を明確にせず、問題設定のみでプロジェクトを大きく動かすと後戻りが難しい。ビジネスでもあるのではないのだろうか。

例えばテレビ番組であれば、視聴率を上げることに固執して、製作を開始してしまう。確かに視聴率は重要である。しかし、視聴率は問題設定なのか課題意識なのか、はたまたそのどちらでもないかを納得できるまで考えた方がいい。

現在や過去のプロジェクトを振り返ってみてほしい。あなたには課題意識がなくても良い問題設定ができ、価値ある解決案が見つかった経験があるだろうか。問題設定がスタートだったなら、課題意識と問題設定の往復をちゃんと行っただろうか。

良い発想がなかなか生まれないと悩んでいたら、一度原点に立ち返り、課題意識を明確にするために納得できるまで探るのも一手である。時間がかかっても課題意識が明確になることで、結果として良い発想を早く起こせる。そう私は信じている。

[1] https://www.darpa.mil/about-us/timeline/modern-internet
[2] Tang, J. C., Cebrian, M., Giacobe, N. A., Kim, H. W., Kim, T., & Wickert, D. B. (2011). Reflecting on the DARPA red balloon challenge. Communications of the ACM, 54(4), 78-85


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連載紹介

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連載:チームで新しい発想は生まれるか
新しいものを生みだすことを誰もが求められる時代。個人ではなくチームでクリエイティビティを発揮するには何が必要なのか? 凡庸なチームと創造的なチームはどう違うのか? 多様な意見やアイデアを価値に変えるための原則はなにか? チームワークのメカニズムを日米で10年以上にわたり研究してきた著者が、チームの創造性に迫る。

第1回:「一人の天才よりチームの方が創造性は高い」と、わたしが信じる理由
第2回:なぜピクサーは「チームで創造性」を生みだせるのか?
第3回:失敗から学ぶチームはいかにつくられるか
第4回:チームの溝を越える「2つの信頼」とは?
第5回:「新しいアイデア」はなぜ拒絶されるのか?
第6回:問題。全米に散らばる10の風船を見つけよ。賞金4万ドル
第7回:「コネ」の科学
第8回:新結合は「思いやり」から生まれる
第9回:トランザクティブ・メモリー・システムとは何か
番外編:研究、研究、ときどき本
第10回:あなたのイノベーションの支援者は誰か
第11回:コア・エッジ理論で、アイデアに「正当性」を与える
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村瀬俊朗 連載「チームで新しい発想は生まれるか」
村瀬俊朗 連載「チームで新しい発想は生まれるか」
  • 14本

新しいものを生みだすことを誰もが求められる時代。個人ではなくチームでクリエイティビティを発揮するには何が必要なのか? 凡庸なチームと創造的なチームはどう違うのか? 多様な意見やアイデアを価値に変えるための原則はなにか? チームワークのメカニズムを日米で10年以上にわたり研究してきた著者が、チームの創造性に迫る。

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