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政治思想の違う相手とともに過ごすということ──『孤独の本質 つながりの力』読書会@フラヌール書店レポート

去年11月に出版した『孤独の本質 つながりの力──見過ごされてきた「健康課題」を解き明かす』(ヴィヴェック・H・マーシー著)。

本書に関心を持ってくださった本屋lighthouseフラヌール書店の2店舗で、読書会を開催しました。本記事では、1/30(火)におこなわれたフラヌール書店での会のレポートをお送りします。

寒くて暗い夜に、明かりが灯る書店。そこで語り合われる、それぞれの人生で感じる「孤独」「分断」、そして「つながり」。私たちは、相容れない相手とどのようにして「ともにいる」ことができるのでしょうか──?

アメリカ公衆衛生局長官として、大国の公衆衛生をリードしてきた著者が多角的に解明した一冊。



みんなが「さみしい」この世界で、私たちが社会としてできること

フラヌール──フランス語で「遊歩者」を意味するこの言葉を店名に掲げた書店が西五反田にあります。

書店の棚を巡ることは、街を歩くことに似ていると感じます。ウェブショップでも、いい本と出会える楽しさをお伝えできるよう、試みてまいります。

──フラヌール書店のHPより

東急目黒線不動前駅より徒歩3分ほどのところに構えるフラヌール書店にて、『孤独の本質 つながりの力──見過ごされてきた「健康課題」を解き明かす』の読書会を開催させていただきました。

事前に本書に目を通してくださった店主の久禮くれ亮太さんは、本書の魅力を次のように語ってくれました。

「書店は『内省的になることの良さ』『孤独の楽しみ方』を売っている立場です。なので『孤独というのは悪いことではないよ』という感覚が先だってしまうもの。ですが本書は内省的になることの価値にも触れていたので、中身を信じて読む気持ちになりました。つながりを作り直すのにとても現実的で実践的なことを考えている本だとも感じました」

そんな久禮さんは、本書の目指すところを読み解いて「みんなが『さみしい』この世界で、私たちが社会としてできること」と紹介。そんな柔らかな言葉に導かれてか、この夜は8名の参加者が集ってくれました。

読書会はこんな流れで進みます。

  • 目次をながめて気になったパートを選ぶ

  • 30分間、黙々と読む

  • 読んだパートの内容と感想をシェア

  • 「ポジティブなつながりとは何か?」をテーマに対話

本書の目次一覧。原著者の許諾を得て、原書版よりも小見出しを増やしています。


主義主張が反発しても、とりあえずそのまま一緒に歩み続けてみる

各々が関心を持ったパートを黙々と読んだ後、まずは3人一組で内容や感想のシェア。

互いに初めて会った参加者たちですが、時間が来ても話し足りない様子でした。

全体シェアの時間では、ご自身の孤独と回復の体験を語ってくださった方も。

「職場で孤独を感じて寂しかった。退職した際にも鬱屈とした気持ちになったけれど、その後に同級生、職場の同僚、長年の友人、実家に戻ったときに触れた家族愛など、複数のつながりを通じて段階的に回復していきました」

本書の第7章「つながりの3つのサークル」では、以下の3つの同心円で広がる交友関係のバランスを取ることの重要性を説いています。

  • インナーサークル(内円):互いへの愛と信頼を持って深くつながった近しい友人や親密な相談相手

  • ミドルサークル(中間円):支援やつながりをともにするカジュアルな人間関係や社会関係

  • アウターサークル(外円):集団的な目的やアイデンティティを体感する場所として、近隣住民や、同僚や、クラスメートや、知人たちのコミュニティ


この日いちばんの話題の連鎖を生んだのは、第4章にある「白人至上主義者とディナーを」のパートに関連した対話でした。

このパートに登場するデレク・ブラックは、白人至上主義運動「クー・クラックス・クラン(KKK)」の幹部を務める父親を持つ大学生でした。デレクは幼いころからKKKのメンバーに愛され、白人がいちばんであるという思想を疑うことなく育ちました。しかし大学に入って初めて、自分の育ちとは違うコミュニティの人々と触れ合うことになり、徐々に思想を変えていきます。

そんななか、彼の出自を知ったある学生によって、デレクが白人至上主義者であることが大学内で暴露されてしまいます。周囲の学生たちから大きな非難を受けるなかで、彼に手を差し伸べたのが、同じ寮に住むマシュー・スティーヴンソンでした。

マシューがどのようにデレクに歩み寄ったのか、本書から抜粋してみます。

ついに秘密が明るみに出たとき、デレクはドイツに一学期間の留学中だった。

(中略)

「デレクの父親がストームフロント(※白人至上主義者たちが集まる最大のウェブサイト)の創設者だという話を知ったときは、もちろん大きなショックを受けた」とマシューは言う。キャンパスは大騒ぎだった。デレクのクラスメートの多くは騙されたと言って腹を立てていた。しかしデレクがドイツから戻ってくると、マシューは彼とつながりを持とうと手を差し伸べ、安息日のディナーに誘った。そして友人たちを説得し、争いを抜きに食事に参加してもらった。

「それは勇気のいることでしたね」と私は言った。「どういう意図があったんですか?」。

マシューの答えは、シンプルだが深いものだった。「僕は基本的に信じているんだ。どんな人にも、根っこには神のきらめきが宿ってる。僕たちすべてをつなぐものは存在する。僕から見て非難に値する行動をとっている相手であっても、僕たちには人間として共通する部分がある。そうした部分を消し去ることはできない。僕と正反対のことをしたり、僕や社会の害になるようなことをする人であっても、僕はその人に対していくらかの責任を感じる」。

(中略)

マシューは相手を説得するためではなく、親交を深めるために手を差し伸べた。「ディナーに参加する全員に、デレクの政治的見解を尋ねないよう伝えたんだ。怒鳴り合いの論争になることは避けたかったから。僕は、このディナーが彼を知るための特別な機会になると考えていた。大人になるまでデレクは、白人ナショナリズムが糾弾しているような人とじかに触れる機会が多くなかったはずだからね」。

「第4章 なぜ、いま?──白人至上主義者とディナーを」より。
※による補足はオンライン記事特有の処理です。

この話を読んだある参加者は、次のような感想を語ってくれました。

「他者と完璧に理解し合うことはできないなかで、主義主張が反発したからといって完全に分断するのではなく、『とりあえずそのまま一緒に歩み続けてみようよ』という感覚がすごくいいと思いました。議論して解決するのがすべてではない。お互いどうにもならないことがあっても一緒に食事をするということが素敵」

この話から何かを思い出したような顔をしたのは、店主の久禮さん。

「学生時代のバンド仲間を久しぶりにSNSで見かけたら、政治的思考が僕とすごく乖離していたんです。本来ならいがみ合う立ち位置。久しぶりに一緒に演奏することになったとき、大丈夫なのかと不安もあったのだけど、そういう話を抜きに演奏を楽しむことができたんです。価値観の違いを超えられたのかも知れない、と感じた瞬間でした」

書籍を手に持ち、楽しそうに語る久禮さん

本書のなかで著者は、歴史家アレクシ・ド・トクヴィルの言葉「政治以前のつながり(prepolitical association)」を引用しながら、次のようにまとめています。

かなり最近まで、どの政党の議員たちも、子供が同じ学校に通っていたりして学校行事で顔を合わせていた。一緒にソフトボールをしたり、ジムで会ったりしていた。そして同じパーティにも数多く出席していた。

しかし現在の議員たちは週末になると自分の選挙区に戻り、家族も故郷の州にとどまることが多く、イデオロギーの違いを超えた交流は裏切りとみなされるようになっている。

その結果、パーマーの言う「政治以前のつながりの層」はほころび、互いの意見に賛同したあとに・・・しか生まれない「政治以後」のつながりに取って代わられようとしている。これだと分断は避けられず、政治家が違いを超えて取り組むことがかつてなく難しくなる。そうして国全体でも議論が膠着こうちゃく状態におちいる。

「第4章 なぜ、いま?──小さな民主政治」より。
改行はオンライン記事特有の処理です。


安心安全な対話の場を作る「本」の力──店主・久禮さんより

「思想の違う相手とともにいること」というのは、ときにセンシティブにもなりうる話題だと思います。それでもこの日にオープンに語り合えた背景には、まさに本書のテーマである「つながり」の力が働いていたように感じます。

ある参加者はこのような感想を語ってくれました。

「今までご縁がない方たちと、ある一つのテーマについて、安心安全な場所で自分の言葉で語れるというのがすごくいい。消えてなくなるわけではない、ぽっと宿る暖かいつながりがこの場で生まれていると感じました」

そんな場が生まれたのには「本」の力が作用しているのでは、と久禮さん。

「(人と真正面から向き合うのではなく)本と真剣に向き合う。そのことで安心が担保されて、自己開示をしてもいいのだと思える。そういう空気が作れたのは、本に対する参加者の信頼感があるからこそだと感じました。本って素晴らしい」


イベントが終わり、後片付けをしていると、一人の参加者があわてた様子でお店に戻ってきました。

「知人にプレゼントする本を買おうと思っていたのをすっかり忘れていました。フラヌール書店さん、並んでいる本がいいものばかりで」


▼フラヌール書店について
〒141-0031 東京都品川区西五反田5-6-31
東急目黒線不動前駅より徒歩3分
営業時間:12:00〜19:00(定休:毎週水曜日+第1第3火曜日)
HP:https://flaneur.base.ec/

▼本屋lighthouseでの読書会レポートはこちら


◆本書の一部を以下よりお読みいただけます◆
依存症、暴力、うつ──多くの問題をつなぐ黒い糸(はじめに)
孤独にまつわる調査(「第1章 目の前にあるのに気づかないもの」より)
生死に関わる問題(「第1章 目の前にあるのに気づかないもの」より)
孤独のパラドックス(「第2章 孤独の進化史」より)
ずっとオンライン(「第4章 なぜ、いま?」より)
神経科学から見る「奉仕」の効果(「第5章 孤独の仮面を剥がす」より)
思いやりを、行動に(「第8章 ひとつの大家族」より)