ヘンリー・J・カイザー・ファミリー財団が出した2018年の報告書によれば、アメリカの全成人のうち22パーセントが、ときおり、あるいは常に孤独や社会的な孤立を感じているという[1]。数にすると5500万人以上ということになる──成人喫煙者数よりもはるかに多く、糖尿病患者数の倍に近い。
しっかりと検証された「UCLA孤独感尺度」を用いたAARP(全米退職者協会)の2018年の調査によると、アメリカの45歳以上の3人に1人が孤独であると判定された[2]。そして医療保険会社シグナがアメリカ全土でおこなった2018年の調査では、回答者の5分の1が周りとの親密なつながりをほとんど、あるいはまったく感じないと答えている[3]。
他の国々の調査でも同様の結果が出ている。
カナダでは中年および高年層のうち、約5分の1の男性と約4分の1の女性が週に1回かそれ以上孤独を感じると回答している[4]。オーストラリアでも、成人の4分の1が孤独を感じている[5]。イギリスでは20万人以上の高齢者が「自分の子供や家族や友人たちと会ったり電話で話したりする頻度が週に1回より少ない」という[6]。イタリアでも、成人の13パーセントが助けを求める相手がいないと回答している[7]。さらに日本では、政府が定義する「ひきこもり」という社会的撤退状況に該当する成人が100万人以上いる[8][9]。
いったい何が、なんらかの会に参加したり、新しい友人を作ったり、家族や旧友とふたたびつながりを持つことを妨げているのだろう? それは、孤独が原因だともいえる。
すでに孤独を感じている状態だと、他の人が誰かと楽しそうにしているところや、人といて満ち足りている様子を目にしても、そのグループに近づいていくどころか近寄らないようにする傾向がある。人は「社会でのけ者になっている人間」というラベルを貼られてしまうのを恐れているからだ(学校の昼食の時間や校庭で遊ぶときのことを想像すれば理解できるだろう)。だから、こちらとのつながりを持ってくれるかもしれない相手に対しても本当の気持ちを隠してしまう。
こうして恥じる気持ちと恐れが絡まり合い、孤独から抜け出せなくなっていく。自信を失っていき、それゆえに自尊心が低下して、助けを求めることに尻込みするようになる。やがて、この負のサイクルが進んでいくと、自分は誰にとっても大切な存在ではないとか愛情を受けるに値しないと考え、さらに内に閉じこもり、何より必要としている人間関係から遠ざかってしまうことになる。
この負のスパイラルは、孤独に対する悪いイメージとも関係している。人は孤独であることを隠して否定する傾向にあるため、手助けできる立場にある人たち──友人や、家族や、医師たち──も、「心の問題はセンシティブであろうから」と深く探りを入れるのをためらってしまう。
そうして、自己破壊的な行動を起こすリスクが高まっていく。多くの人はドラッグやアルコールや暴食やセックスで孤独のつらさを紛らわそうとする。こんなふうに孤独と悪いイメージが絡まり合って、個人の健康や生産性だけでなく、連鎖的に社会全体の健全性にも影響を与えることになる。
こうした孤独のサイクルは手に負えないものに感じるかもしれないが、食い止める手段はある。孤独のシグナルを早期に察知し対処する方法を学べば、日常的に孤独を感じるようになる前に介入し、つながりを構築する手助けができる。最初のステップは、社会とのつながりという誰もが持っている重要な欲求の存在を認めることだ。
シンプルに言えば、人間関係とは、私たちの健やかな暮らしにとって食べ物や水のように不可欠なものである。身体が飢えや渇きを通して栄養補給や水分が必要だと伝えてくるのと同じように、孤独は人とのつながりが必要だと伝えてくる自然なシグナルだ。それを恥じる理由などない。
しかし飢えや渇きの感覚に比べると、孤独感は察知しても認めにくく、人にも話しづらい。こうした話しづらさに対処するためには、孤独と社会的なつながりや身体的・精神的健康の関係について、もっと深く理解する必要がある。それを理解すれば、孤独に対する悪いイメージの源となっている汚名や非難や批判を払拭することができる。
このアプローチは、たとえばうつ病のような症例で効果を発揮してきた。長らく、うつは悪いものとされていたため、多くの人は気持ちの落ち込みを周りに認めるのではなく、静かに苦しんできた。
しかし現在は、オリンピックで23個の金メダルを獲得したマイケル・フェルプス[10]のようなプロのアスリートや、レディー・ガガ[11]、ドウェイン・「ザ・ロック」・ジョンソン[12]、J・K・ローリング[13]といった文化人が、自身のうつ病の経験を公表している。
学校や職場も、これが社会に広がる問題であることを認識しはじめ、当事者が支援を得られる制度が作られつつある。依存症への認識についても同様の前進が見られる。
うつ病や各種依存症の人が自身の病気を恥じたり差別を受けたりするのを防ぐにはまだ為すべきことがたくさんあるとはいえ、かなりの前進が見られている。孤独についても、オープンに語り、孤独は人間にとってほとんど普遍的な経験なのだと理解できれば、悪いイメージが減るだろうと信じる根拠は十分にあるのだ。
◆公開予定◆
①依存症、暴力、うつ──多くの問題をつなぐ黒い糸(はじめに)
②孤独にまつわる調査(「第1章 目の前にあるのに気づかないもの」より)
③生死に関わる問題(「第1章 目の前にあるのに気づかないもの」より)
④孤独のパラドックス(「第2章 孤独の進化史」より)
⑤ずっとオンライン(「第4章 なぜ、いま?」より)
⑥神経科学から見る「奉仕」の効果(「第5章 孤独の仮面を剥がす」より)
⑦思いやりを、行動に(「第8章 ひとつの大家族」より)