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「ティール組織」学びの場づくりについて語ろう。(前編)

昨年、新しい組織のあり方として「ティール組織」が話題となりました。
画期的な考え方だと注目を集めたものの、実践例はとても少なく、夢物語として疑問に思われる方もいるかもしれません。そんな中、日本では各地でさまざまな勉強会や実践の検討が始まっています。「ティール組織を学ぶ」とはどういうことなのか?ほかのアプローチの探求と何がちがうのか?今回は「ティール組織」をテーマに、さまざまな「場づくり」を行なってきた方々の話を聞いてみました。(本記事は、4/19・25に開催された【「ティール組織」学びの場づくりについて語ろう】のイベントレポートになります)

答えを探すのではなく、問いを持つことが重要

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嘉村 賢州(かむら・けんしゅう)
場づくりの専門集団NPO法人場とつながりラボhome's vi代表理事
コクリ! プロジェクト ディレクター(研究・実証実験)。京都市未来まちづくり100人委員会 元運営事務局長。集団から大規模組織にいたるまで、人が集うときに生まれる対立・しがらみを化学反応に変えるための知恵を研究・実践。研究領域は紛争解決の技術、心理学、脳科学、先住民の教えなど多岐にわたり、国内外問わず研究を続けている。実践現場は、まちづくりや教育などの非営利分野や、営利組織における組織開発やイノベーション支援など、分野を問わず展開し、ファシリテーターとして年に100回以上のワークショップを行っている。2015年に1年間、仕事を休み世界を旅する。その中で新しい組織論の概念「ティール組織」と出会い、日本で組織や社会の進化をテーマに実践型の学びのコミュニティ「オグラボ(ORG LAB)」を設立、現在に至る。
英治出版オンラインで吉原史郎氏とともに「Next Stage Organizations~組織の新たな地平を探究する~」を連載中。

2014年に、『ティール組織』の原書「Reinventing Organizations」が発行。私がこの本と出合ったのは2015年でしたが、とても衝撃を受けました。「これは次の10~20年をつくっていく概念だ」と感じ、著者に会いたいという気持ちがどんどん大きくなったんです。

しかし、フレデリック・ラルーさんはメディアや講演会などの露出がほとんどないですし、メールを送っても自動返信がすぐに戻ってくるので、なかなか会うのは難しいと思っていました。そんな状況で、見つけたのが『Enlivening Edge』というオンラインメディアです。

そのメディアでは、海外の実践事例などさまざまな情報が寄せられており、新しい組織を探求するコミュニティができていました。その中心のコンセプトが「ティール」だったんです。

「このメディアに携わっている人に会うことができれば、ティール組織の話を聞けるかもしれない」と考え、コンタクトを取りました。

彼らから、ギリシャで「ティール組織」をテーマにした初のカンファレンスがあることを知り、吉原史郎さんと参加することにしました。イベントの名前は「Next Stage World Gathering」。そこは、今のやり方に疑問を抱き、次のやり方を模索している方々が集まっていました。中にはEUやGoogleなど、世界的な大組織の出身者も。

僕は「ティール組織の作り方を学びたい!」とワクワクしながら参加したんですが、主催者のひとりが、カンファレンスの最初に発した言葉にかなり衝撃を受けたんです。

「この場の目的はなんでしょうか? これだけの人数が集まり、共に過ごす5日間の目的を考えてみませんか?」

こんな問いを求めてきたんです。僕自身、お勉強モードだったので驚きましたね。でも、この問いこそが、この場がフラットであることを証明していました。

このカンファレンスに参加して感じたことは、「答えを探すのではなく、問いを持つことの重要性」です。方向性や大事なポイントはありますが、10組織あったらすべて正解は違います。ましてや、変革は簡単なことではない。多くのことを学びました。

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対話型の読書会「アクティブ・ブック・ダイアローグ®」の広がり

帰国後、私もこのような場を作りたいと考え、「ORG LAB(オグラボ)」というコミュニティを仲間と始めました。ここでは、ティール組織だけではなく、「組織を進化させるコミュニティ」をコンセプトに活動しています。現在Facebookグループの参加者は500人を超えており、読書会、勉強会、講習会など様々な活動を実施しています。

そんな中、私もティール組織(日本語訳)の出版に関わり、日本で販売されることになったのですが、600ページだし、2,700円だし、売れるハードルがとてつもなく高い。ティールという概念を広げていこうにも、なかなか難しい状況がありました。

それでも、本が売れて広がっていったのは「アクティブ・ブック・ダイアローグ®」、通称ABDという手法が広まっていったことも大きかったのかなと考えています。

読書会って、とても運営が難しいんですよ。課題図書を設定しても、ほとんどが読んでこないですし、誰かが読んでくるとその人に質疑応答が集まってしまう。そうではなく、対等に議論がしたかったんですよね。

その点、ABDは全員で読む箇所を分担し、それをB5の紙にまとめ、それぞれプレゼンしていくというものなので、全員が協力しないと完成しないようになっています。『ティール組織』発売前後に、英治出版でもABD読書会を開催しましたし、各地で自主的な勉強会が次々と企画されていきました。

このようにしてティールの概念が、少しずつ広まってきたのですが、同時に課題も感じています。本の内容とは、ずれて伝わっていたり、消費されていたりする感じがしています。著者は、「ティールは正解でもないし、目指すものでもない」とおっしゃっているのですが、どうしても目指したいと思ってしまう人が多い。その結果、できない理由を並べ、評論家モードで議論してしまうことも起こりがちです。せっかく組織について新しい対話が生まれる機会なのに、そうなってしまうのは悲しいことだと感じていました。

これからは、実践しながら学んでいくフェーズになってくると思います。それぞれの組織にあった形で、実践していくことが大事になっているのではないでしょうか。

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同じ仕組みにトライして、実践知を共有する仲間がいると、熱い場が生まれる

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吉原史郎(よしはら・しろう)
Natural Organizations Lab株式会社 CEO
日本初「Holacracy(ホラクラシー)認定ファシリテーター」。神戸大学経営学部卒業。2006年証券会社に入社、投資経験を経て、2007年リサ・パートナーズに入社。 大規模リゾートホテルの事業再生業務の経営に総支配人として従事。2011年三菱UFJリサーチ&コンサルティングに入社。組織開発を通じての経営支援に従事。2017年にNatural Organizations Lab 株式会社創業。自然から学ぶ、いのちの循環を軸にした経営の伴奏支援に取り組む。著書に『実務でつかむ!ティール組織』(大和出版)。自社ブログ「実務とつなげる経営の新潮流」にて、経営に関するレポートを発信中。

僕は賢州さんからティールのことを聞いて、二人三脚のような形で探求を続けてきました。賢州さんが日本で広める、僕のほうが英語ができたので海外に出て開拓する、というような役割です。

僕も賢州さんと一緒に、ギリシャのカンファレンスに参加。とても学びの多い時間でしたが、そこで初めて「ホラクラシー」という手法があることを知りました。

このホラクラシーは、賢州さんも話に出していた『ENLIVENING EDGE』でも活用されており、その仕組みを体験したいと思い、僕も仲間に加えてもらいました。

毎年、世界中のホラクラシー実践者が集まる「Holacracy Forum」というイベントが開かれています。毎回200~300名が集まるほど盛り上がっているのですが、ここが熱を帯びている理由は明確で、同じ仕組みを使って、様々なトライをしている仲間が集っているからだと思います。

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探求を続けていく中で、もう一つ別のコミュニティとの出会いもありました。ホラクラシーは共通の仕組みやシステムができあがっているのですが、ゼロベースで自分たちなりの仕組みをつくりたい、あるいはパーパス(存在目的)を重視した組織づくりをしたい、そんな思いを大事にしようと立ち上がった経営者コミュニティが「トスカーナ」です。

トスカーナの特徴は、20年ほど前から自主経営のようなあり方を志す人が集まっていることです。ティールという概念ができる前から、似た考え方を追求するコミュニティが存在していたのです。

また、20年以上続いていて、熱量を高く保っていることも特徴のひとつですね。メンバーは30名ほどで、コミュニティ内にて経営やコーチングのノウハウをシェアしています。

私が関わっているコミュニティをまとめると、このような感じです。

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「声の循環」が、第一歩となる

今日のイベント(4/19開催「ティール組織」学びの場づくりについて語ろう)の参加者には、企業内でティール組織化の活動をしている方も多いと伺っていますが、私のところにも、「自社をティール化したいんです」という経営者の方から相談がきます。

ある方からは、マネジャー層に向けて「ティール組織化」をテーマにワークショップを行なってほしい、と依頼を受けました。でも、実際にワークショップを行なってみると、実はとても危うい状態であることがわかったんです。

実際のところ、マネジャーの皆さんは「社長が言っているティールがよくわからない」となっていて、アンチティール派になってしまっていました。それでも、ティール化を進めたいトップは、急に給料を全て公開しちゃっていたんです。すると、「いや、他人の給料とか知りたくないんですけど……」という不満の声が出てしまっている。そんな状態でした。

大事なのは、「声を循環させること」です。言い換えれば、お互いに本音を言い合える状態になっているかどうかがポイントです。これがないままでティール組織化しようとするのは、よいことではありません。

トップが「組織の課題を解決するにはティール組織になることが必要だ」と思っていたとしても、まずは経営者が「どういう思いでそれをするのか?」と、背景の部分をしっかりと伝えることが重要です。それに対して、メンバーにも意見を発してもらう。このようにして、声の循環はできていくんです。

先ほどの組織でも、経営者が「信頼しあえる組織にしたい」という思いを伝えると、メンバーも納得して「それなら給料公開していても構わない」という結論にいたりました。

そうやって、「ティール組織」というコンセプトを追うのではなく、本質的な「思い」を組織に浸透させていくことが、声の循環を育んでいくのです。


後編では、サイボウズのなかむらさん、EnFlowの山田さんのセッションをお届けします。


2019/9/14 TEAL JOURNEY CAMPUS 開催!

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日本初、「新しい組織の探求者」が一堂に会するカンファレンスを開催!

「ティール・ブーム」から「ティール・ムーブメント」へ

​「これからの組織のあり方」を示して注目を集め、数々の賞を受賞した『ティール組織』発売から1年余り。それに触発されるように、日本各地で、自然発生的に多くの勉強会・読書会が開催されてきました。

しかし、ティールを始めとする新しい世界観(パラダイム)の実践は、探求すればするほど味わい深く、すぐに答えが出るものではありません。どの実践者も試行錯誤を繰り返し、独自のやり方を見出そうと模索し続けています。

私たちは、今こそ日本における実践知を集めることで、新たなる動きを生み出せるのではないかと考え、日本ではじめてのカンファレンスを開催します。

●事前予約サイト(詳細はこちら!)
https://teal-journey-campus.qloba.com/

連載「Teal Impact」をお読みくださり、ありがとうございます。次回記事をどうぞお楽しみに。英治出版オンラインでは、連載著者と読者が深く交流し、学び合うイベントを定期開催しています。連載記事やイベントの新着情報は、英治出版オンラインのnote、またはFacebookで発信していますので、ぜひフォローしていただければと思います。(編集部より)

連載のご案内

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連載 Teal Impact:日本の組織と社会はどう変わるのか
ティール組織』発売から1年あまり。それまで日本でほとんど知られていなかったコンセプトは急速に広まり、実践に取り組む組織も次々と現れている。なぜ「ティール組織」がここまで注目されているのか? これまでどのような取り組みがあったのか? そして、これからどんな動きが生まれるのか? 多角的な視点から、「日本の組織と社会のこれから」を探究する。

第1回:「ティール組織」学びの場づくりについて語ろう。(前編)
第2回:「ティール組織」学びの場づくりについて語ろう。(後編)
第3回:自分たちの存在目的を問う「哲学の時間」を持とう( 『ティール組織』推薦者 佐宗邦威さんインタビュー)
第4回:ティール組織では、リスクとリターンの等分がカギとなる(コルク・佐渡島庸平さんインタビュー)
第5回:内発的動機はどこから生まれるのか? (篠田真貴子さんインタビュー)
第6回:組織文化は「評価」によってつくられる(カヤック・柳澤大輔さんインタビュー)
第7回:ティール組織は耳心地が良い。それでは「明日から」何を始めるのか?(チームボックス・中竹竜二さんインタビュー)
第8回:ティール組織において「人事」はどうなるか?(ユニリーバ・ジャパン 島田由香さんインタビュー)
第9回:「できないこと」が受け入れられ、価値にすらなる世界が始まっている(FDA・成澤俊輔さんインタビュー)
第10回:「ティール組織」の次に来るのは、「〇〇組織」ではない(サイボウズ・青野慶久さんインタビュー)
第11回:「全力で振り切る」組織をどうつくるか(ガイアックス・上田祐司さんインタビュー)
第12回:ティールを広げるためには「国家レベルのデザイン」が求められる(早稲田大学ビジネススクール・入山章栄さんインタビュー)

~Teal Journey Campus参加レポート~
沖依子:仲間の声に耳を澄ませると、 組織のありたい姿が見えてくる
野田愛美:組織は「つくる」のではなく「できていく」