「ティール組織」学びの場づくりについて語ろう。(後編)
昨年、新しい組織のあり方として「ティール組織」が話題となりました。画期的な考え方だと注目を集めたものの、実践例はとても少なく、夢物語として疑問に思われる方もいるかもしれません。そんな中、日本では各地でさまざまな勉強会や実践の検討が始まっています。「ティール組織を学ぶ」とはどういうことなのか?ほかのアプローチの探求と何がちがうのか?今回は「ティール組織」をテーマに、さまざまな「場づくり」を行なってきた方々の話を聞いてみました。(本記事は、4/19・25に開催された【「ティール組織」学びの場づくりについて語ろう】のイベントレポート後編になります。文:長田涼、下田理、写真:長田涼)
前編はこちら!
「どうなりたいのか?」を起点に前に進んでいくことが、大切
山田さんたち「自然(じねん)経営研究会」は、「日本の文脈でティール的な組織を実現するにはどうすればいいだろうか?」という問いを、まさに自分たちで実験しながら追求しているグループだと感じています。「情報の透明化」や「存在目的の見直し」は組織のティール化のポイントとしてよく挙げられますが、自然経営研究会でも、Slack(情報共有ツール)に誰でも入れるようにしてすべての情報と意思決定プロセスをオープンにし、存在目的は誰もが変更して進化させていい、という形をとっています。そこから生まれた組織づくりの示唆を、実際のビジネスにどう還元できるのかまで模索しているところが、とても新しく、「場づくり」においても、「ティール組織の実践」においてもヒントが詰まっていると感じています。ここでは「自然経営研究会の運営方法」について語っていただきました。(下田)
山田裕嗣(やまだ・ゆうじ)
EnFlow株式会社 代表取締役
人材育成・組織開発を支援する株式会社セルムに入社。大手企業の研修企画、人材育成体系の構築などを手掛けるとともに、自社のナレッジマネジメント体系の構築、新規事業開発室の立ち上げ、などを担う。グリー株式会社のヒューマンリソース本部に転職。エンジニアを中心とした中途社員の採用を主に担当。株式会社サイカに入社、代表取締役COOに就任。事業の立ち上げ、成長フェーズに合わせた組織設計、新規部門の立ち上げ(管理部/マーケティング/コンサルティング/広報etc)等を幅広く担当。2017年3月末に株式会社サイカの代表取締役を退任、顧問へ就任。個人事業主として新規事業の立ち上げ、組織戦略のアドバイザーなどを担当。2017年12月にEnFlow株式会社設立、代表取締役に就任。2018年7月には、次世代の組織の在り方を探求するコミュニティとして、一般社団法人自然経営研究会を設立、代表理事に就任。
ずっと組織のあり方に関心があったのですが、2年前に本格的な探求をスタートしました。嘉村さんたちが行っていたギリシャのカンファレンスにも参加して、日本独自のやり方はないだろうかと模索していくようになったんです。
早くからいろんなやり方をとりいれていた、ダイヤモンドメディアの武井さんと勉強会をしていたんですが、「ティール組織」という海外の言葉ではなく、日本語で表現するとどうなるだろう、と考えていきました。武井さんと僕に共通していたのが、従来型の組織を「機械的な組織」と捉えるなら、新しい組織は「生命的な組織」と捉えられる、ということでした。
これについてはあとで説明しますが、生命であれば周りの状況に適応しながら変化していくので、「自然(しぜん)のように変わり続ける経営はできないだろうか」と探求していくようになったんです。そのような、自律的で生命体のような経営スタイルを、僕たちは「自然経営(じねんけいえい)」と名づけたんです。
そうこうしているうちに、自然経営をしている企業はたくさんあるけど、企業の枠を超えて集まり、学び合うような場所があまりないことに気がつきました。そこで、「一緒に喋る場所をつくろう!」と2017年11月にキックオフイベントを開催し、「自然(じねん)経営研究会」は生まれました。
最初は、ダイヤモンドメディア内のひとつの部活のような形でやっていたのですが、もっと幅広い実験をしていきたいという思いから、2018年7月に一般社団法人として独立することにしました。
自然経営研究会で何をやっているかというと、大きく3つになります。
発信、探求、実践です。
これらに取り組んでいる理由はとてもシンプルで、《「体験してみないと分からない」ので、「とりあえず体験してみる」ことができる場にする》からなんです。自由に実験していきたいからこそ、株式会社であるダイヤモンドメディアを離れて、別の法人を立ち上げることにしました。
具体的にやっていることは、整理するとこの3つです。
この研究会では、「自然(じねん)経営」について、「自然のように変わり続ける経営」以上の定義をつくってきませんでした。私としては、ここを明確に定義する必要はないと思っています。まだ明確に言語化できる状態ではないし、定義することで「これが正解」と捉えられてしまうことを避けたいからです。
むしろ、参加メンバーひとりひとりが“自分なりの自然(じねん)経営“の定義を考え、持っておくことが大切になるんじゃないかなと。多様な視点がありうる余白を設けることで、学び合う意識も生まれやすくなると思います。必要なのは、定義ではなく概念ということです。
私は自然経営研究会の代表をしていますが、権限を完全に分散させると人々の動きがどうなるかを知りたいため、私に権限はないですし、私が何かを決め切ることもありません。「誰でも好きに決めていいし、誰でも存在目的を変えていいよ」というのが、根本的な前提となっています。だから、ここに新しい組織のあり方の正解があると思って参加されてしまうと困るんです。ここに正解はありませんので。
これまで自然経営研究会の運営方法について説明してきましたが、これまでの過程をひとことで表すなら「生命的な組織」を試していると言えます。私は、組織には2種類あると思っています。「機械的な組織」と「生命的な組織」です。
「機械的な組織」とは、機械を組み立てるように、「部分」の組み合わせでつくる組織です。たとえば、人も組織も、機械でいう歯車やネジのように、特定の機能を果たす「部品」として捉えられている状態です。「生命的な組織」とは、組織全体が一つの生き物のように、有機的につながっていると捉える組織です。部門や役職といった明確な定義はなく、状況に応じて人と組織の役割が変わっていきます。とはいえ、両者の境界線は、はっきりと決まったものではなく、曖昧なのではないかと思います。
両者のあいだで大きく違うところは、「時間軸」「目的」「境界線」の3つ。機械的な組織だと、未来は予測できるものだという前提がある。だから、目標を描いて、それを達成するために動いていきます。かたや、組織を生命体と捉えるなら、逆算できるものではなく、「今ここ」でできることを積み重ねていくことを繰り返しています。
では、「これらの組織がどのように変化していくのか?」を考えていくと、上記の表のようになるのではないかと思います。ここでいう「変化」とは、事業方針の転換、組織開発、ビジョンやミッションの再定義のような、組織の中の何かが変わっていくプロセスを指しています。
機械的な組織では、経営している人が課題を解決するために変化を起こし、それを管理していきます。生命的な組織では、個人の想いから変化がはじまり、それも偶発的かつ数多く生まれていきます。そして、だれかが変化を管理することもなく、お互いに見守りあうことで変化に向き合っていきます。
この生命的な組織が、必ずしも正しいということではありません。この両方の組織にそれぞれ違った特徴があることを認識しながら、自分たちらしい組織をつくれることが大事になると思います。なので、ティールを目指すとか、ホラクラシーを目指すとか、そういうことではありません。「どうなりたいのか?」を起点に前に進んでいくことが、大切になります。
百回を超える場づくりから見えてきた、絶対に外せない5つのポイント
なかむらさんは、「チームワーク」をテーマにこれまで100回以上のワークショップに携わる、まさに「場づくりのプロ」。よりよいチームワークが、よりよい組織と社会をつくるという思いで活動されています。たくさんの成功・失敗経験を重ねてこられたからこそ見出されたポイントは、これから場づくりをしようとされるすべての人を支える「土台」となるはずです。(下田)
なかむらアサミ
サイボウズ チームワーク総研 シニアコンサルタント
法政大学大学院経営学研究科キャリアデザイン学専攻修了。経営学修士。教育、IT企業で人事を担当し、2006年サイボウズ株式会社に「離職率が高い(とは知らず)」入社。人事、広報、ブランディングを担当し、現在は、小学生から社会人まで幅広い層にチームワークを教える活動をしている。サイボウズがチームワークと言い始めた当初から一貫してチームワークに関する活動に携わり、研修実績も多数。青山学院大学社会情報学部 ワークショップデザイナー育成プログラム26期生。法政大学キャリアデザイン学部 兼任講師
私からは、ティールの話というよりは、学びの「場づくり」についてお話しさせていただければと思います。今回このような機会をいただいたのは、私自身が、小学生から大人まであらゆる世代を対象にさまざまな学びの場をつくってきたからだと思います。学生向けには、「学校では教えない授業」といったイベントを夏休みに企画したり、大人向けには、『ティール組織』のABD(Active Book Dialogue)を始め、社内外で多くの「場づくり」を行っています。
場づくりって、とてもエネルギーを使いますよね。ビジネスマンを集めようとすると、夜の時間になりがちですし、楽しいこともたくさんある一方で、イベントが終わると消耗してしまうこともあります。
何か場づくりを企画するときに、私が気をつけていることがいくつかあります。ひとつめは「一人では実行しないこと」です。
企画を実行したいと思ったら、まずは協力者を探すことをオススメします。一人だと、疲れてしまって「継続」がとても難しいんです。それを防ぐためにも、協力者は必要です。
協力してくれる人を見つけても、きちんと協働できないと、うまく実行できませんよね。サイボウズでは「チームワーク」を何よりも大切にしているので、「よいチームワークとは何か」ということを、常々考えています。その探求から生まれた「チームワークを発揮するために必要な5つのポイント」をご紹介しましょう。
これはチームの理論として社内で重視している要素なのですが、場づくりにおいても、これらが循環するようにデザインしていくことが大切になります。
その場の「理想」は何か、協力者との「役割分担」「コミュニケーション」「情報共有」ができているか、協力者のモチベーションは上がっているか…。
チームワークがうまく機能していない、チームワークをもっと高めたい、というときは、この5つをチェックポイントとして使ってみてください。
2つ目の場づくりのポイントは「共感を生むか?」。自分がしたいことや考えていることを誰かに伝えたときに、「それいいよね!」と言ってくれる人が3~4人現れたら、どんどん巻き込んでしまいましょう。そのメンバーで役割分担をすれば、小さくても何かしらの場づくりができるでしょう。
3つ目のポイントは「先人の知恵を頼る」。どんなイベントでも、企画した人は「自分たちが頑張ってゼロからつくらないと!」「自分たちが教えなければ!」と、主役のように振る舞ってしまう人もいます。だいたいの企画アイデアには、すでにそれを実行に移した先人がいるものです。最初にお話した「一人ではしないこと」や「役割分担」にも通じますが、似た企画を実行した先人を見つけて話を聞き、ノウハウを教えてもらいましょう。あるいは、先人の話を聞ける場をつくってしまうことも、一つの場のつくり方です。
4つ目のポイントは、「どういうメリットがあるか?」。ひとくちにメリットといっても、主催者、登壇していただくゲスト、参加者など、立場によってさまざまな視点があります。その場に関わるすべての人たちにとってのメリットを提供するにはどうすればいいかを気をつけていくとよいでしょう。
たとえば先日「副業」をテーマにしたイベントに協力しました。そこは主催者が副業に関する情報提供を始めるということでしたので、「主催者:自分たちの紹介ができる」「ゲスト:現在の副業市場やニーズがわかる」「参加者:副業のノウハウが得られる」とそれぞれのメリットを整理しました。メリットを明確にすることにより、ゲストにも気持ちよく協力してもらえ、かつ終了後には三者とも、そのイベントに満足されただけでなく、それぞれの立場での学びがあったといった反応をいただきました。
ここまでいろいろなポイントを述べてきましたが、ティール組織のように、先進的で答えがないテーマを探求するうえで私が考えるいちばん大事なポイントは、「場の継続」だと思っています。マーケティング分野で「キャズム理論」というのがあるのですが、物事には最初に始める人間(先端層)がいて、そのあとどんどん世の中に普及していき(一般層)、いつか終わりがくる、というものです。キャズムとは、先端層から一般層に広まっていく手前に、大きな溝があるという理論です。この考え方を用いることで、自分自身の立ち位置がわかりやすくなるんです。
ティールを学ぶ人たちも、まだまだ先端層だと思います。先端層から浸透するには時間がかかるのですが、継続していけばいつか常識になっていく。そんな未来を見据えて取り組んでいくことは、とても意義深いことだと思っています。
9/14 TEAL JOURNEY CAMPUS 開催!
日本初、「新しい組織の探求者」が一堂に会するカンファレンスを開催!
「ティール・ブーム」から「ティール・ムーブメント」へ
「これからの組織のあり方」を示して注目を集めた『ティール組織』発売から1年余り。 日本各地で、自然発生的に多くの勉強会・読書会が開催されてきました。その草の根の動きも新しい現象であり、国会でとりあげられたり数多くの賞を受賞したりするなかで、日本社会においても少しずつ広まっていっています。
しかし、ティールを始めとする新しい世界観(パラダイム)の実践は、探求すればするほど味わい深く、すぐに答えが出るものではありません。どの実践者も試行錯誤を繰り返し、独自のやり方を見出そうと模索し続けています。
私たちは、今こそ日本における実践知を集めることで、新たなる動きを生み出せるのではないかと考え、日本ではじめてのカンファレンスを開催します。
●事前予約サイト(詳細はこちら!)
https://teal-journey-campus.qloba.com/
連載「Teal Impact」をお読みくださり、ありがとうございます。次回記事をどうぞお楽しみに。英治出版オンラインでは、連載著者と読者が深く交流し、学び合うイベントを定期開催しています。連載記事やイベントの新着情報は、英治出版オンラインのnote、またはFacebookで発信していますので、ぜひフォローしていただければと思います。(編集部より)
連載のご案内
連載 Teal Impact:日本の組織と社会はどう変わるのか
『ティール組織』発売から1年あまり。それまで日本でほとんど知られていなかったコンセプトは急速に広まり、実践に取り組む組織も次々と現れている。なぜ「ティール組織」がここまで注目されているのか? これまでどのような取り組みがあったのか? そして、これからどんな動きが生まれるのか? 多角的な視点から、「日本の組織と社会のこれから」を探究する。
第1回:「ティール組織」学びの場づくりについて語ろう。(前編)
第2回:「ティール組織」学びの場づくりについて語ろう。(後編)
第3回:自分たちの存在目的を問う「哲学の時間」を持とう( 『ティール組織』推薦者 佐宗邦威さんインタビュー)
第4回:ティール組織では、リスクとリターンの等分がカギとなる(コルク・佐渡島庸平さんインタビュー)
第5回:内発的動機はどこから生まれるのか? (篠田真貴子さんインタビュー)
第6回:組織文化は「評価」によってつくられる(カヤック・柳澤大輔さんインタビュー)
第7回:ティール組織は耳心地が良い。それでは「明日から」何を始めるのか?(チームボックス・中竹竜二さんインタビュー)
第8回:ティール組織において「人事」はどうなるか?(ユニリーバ・ジャパン 島田由香さんインタビュー)
第9回:「できないこと」が受け入れられ、価値にすらなる世界が始まっている(FDA・成澤俊輔さんインタビュー)
第10回:「ティール組織」の次に来るのは、「〇〇組織」ではない(サイボウズ・青野慶久さんインタビュー)
第11回:「全力で振り切る」組織をどうつくるか(ガイアックス・上田祐司さんインタビュー)
第12回:ティールを広げるためには「国家レベルのデザイン」が求められる(早稲田大学ビジネススクール・入山章栄さんインタビュー)
~Teal Journey Campus参加レポート~
沖依子:仲間の声に耳を澄ませると、 組織のありたい姿が見えてくる
野田愛美:組織は「つくる」のではなく「できていく」