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組織は「つくる」のではなく「できていく」:Teal Journey Campus参加レポート(野田愛美)

ティール組織』著者のフレデリック・ラルーさんをお招きし、新しい組織の探求者たちが一堂に会する場として開催したカンファレンス「Teal Journey Campus」。2019年9月14日の開催以降、ティール組織をさらに深く学び合うためのさまざまな動きが各地で自発的に生まれています。

あの日、参加者はどんなことを感じ、学んだのか――。
Teal Journey Campusの参加者から募った「探求レポーター」の方々に、その学びを綴っていただきます。第2弾の執筆者は、持続可能な水産養殖の社会実装をめざすITスタートアップで働く野田愛美さん。『ティール組織』との出合いから生まれた「組織の仮説」とは?

人の「心」に着目するリーダーが、実は見落としているかもしれない不都合な事実

生き物を、誰かの意思をもってコントロールすることはできない。自分自身をコントロールすることだって、完全には不可能だ。何か外からの刺激によって感情の波がおとずれたり、暑い日は意に反して汗をかいたりするだろう。

ましてや他者をコントロールするなんて、言うまでもない。
この事実は、おそらく多くの人に当たり前に理解されると思う。

だが、この当たり前が当たり前としてほとんど扱われてこなかったのが、「組織」の文脈ではないだろうか。とくに企業の組織だ。

どうすれば生産性の高い組織ができるのか?
離職率を下げるためには?
働きがいのある職場とは?

その議論の中では「人」に着目して、「組織の中の人」を理解した上でうまく扱うための心理学的なアプローチが多く取り上げられてきた。

「内発的動機付け」「リーダーシップ論」「集団心理」……組織を良くしたいと真面目に思う私たちは、これらを学び、現場に生かそうとする。

ビジョンを明確に部下に示そう。チームメンバー一人一人と対話して自分なりの面白さや目的意識をもって仕事に取り組んでもらえるように仕向けよう。リーダーたる者、部下に弱みを見せてはダメだ。

私自身、そう考えながら、「組織づくり」に取り組んできた。

人の心を理解して、それに沿うような行動を自分自身が取ることさえできれば最高のチームがつくれるはずだ、という大前提の上で。

だが、果たしてその前提は本当に正しいのだろうか。

私は「組織づくり」をしようとして、人の「心」に着目していながら、「人は生き物であり、誰かの意思でコントロールすることは不可能なものだ」という不都合な事実に対して、無自覚にフタをして目をそらしてきたのではないかと最近考えるに至った。

これはあるきっかけによって『ティール組織』を読んで、「Teal Journey Campus」やその後のリユニオンの場の中で、色々な方と意見を交わしながら見えてきた。私の中ではまさにパラダイムシフトだ。

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組織には2つの「コントロールできなさ」がある

『ティール組織』から始まった探求の中で、「コントロールできなさ」をもう少し掘り下げてみると次の2つの観点が見えてきた。

・入力に対するアウトプットの予期できなさ
・「(生き物である)私」の影響の予期できなさ

たとえば相手が機械であれば、こちらが何かを入力すれば期待したアウトプットが返ってくる。電気ポットに水を入れてスイッチを入れると数分後にお湯ができる。どんな電気ポットを使っても同じ結果が返ってくるし、何度やっても同じ結果だ。

――でも相手が人間ならば。

同じリクエストを伝えたとしても、それを行う相手によって結果が違うし、たとえ同じ人が行う場合でも状況によって異なる結果になる。相手の心を理解してコミュニケーションを尽くせば、期待した結果が返ってくる確率が高まるかもしれない。だがそれはあくまで、確率を高めるというだけで、必ず同じ結果になるということはないのだ。

また、たとえば相手が機械であれば、「(生き物である)私」自体が事象に影響することはない。私が悲しくて泣いていようが、怒りの表情を剥き出しにしていようが、スイッチを入れるとただお湯は沸く。たとえ私でない誰かが水を差し、スイッチを押したとしても、同じようにお湯は沸く。

――けれども相手が人間ならば。

相手を自分の意思で動かしたいと思って自分が動くとき、その場には相手だけでなく必ず自分も存在していて、その存在自体が状況に必ず影響を与える。

集団で物事を成し遂げるための「人類のマイルストーン」

「ティール組織」の対話の場で意見交換させていただいた、ある経営者AさんがメンバーBさんのことで思い悩んでいた。Bさんは会社やAさんのことをよく思っておらず、周囲にも悪影響を与えているというのだ。

Aさんは誠意をもってBさんと話すことで何とか解決できないか歩み寄った。だが、接触を試みれば試みるほど、話せば話すほど、Aさんの敵意は増していったという。まるで反発する磁石のように。

相手や場に影響を与える「私」の要素はきっとさまざまだろう。

その場での「私」の感情や態度ももちろんだが、肩書きや性別、それまでの発言や行動などもある。その根元にはその人がこれまで重ね刻んできた「生き様」みたいなものがあるのではないだろうか。

肩書きを飾ったり、身なりをよくしたり、表情をつくることでその影響を調整することはできるかもしれない。だがそれはあくまで表面的な調整にすぎず、場における「私」自身の影響をゼロにすることは、不可能だ。

心理学を生かした「コミュニケーションテクニック」や「良い印象を与える見せ方」を真面目に駆使してみても課題が解決しないことがあるのは、この根源的な「コントロールできなさ」のためではないだろうか。

『ティール組織』の本の中では、これまで世の中に現れてきた組織のパターンを分類してそれぞれを色の名前で表現している。その中で「オレンジ組織」とは、目標達成のためにヒエラルキーをつくり、成果を上げた従業員が出世するような組織運営スタイルのことで、組織を「機械」に見立てた考え方だ。

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私自身、この考え方にどっぷり浸かって社会人人生を生きてきた。「上の人間が下のメンバーの役割を明確に定義し、モチベートするための言葉をかけなければならない」といった価値観は、「オレンジ的」な考え方を前提にしている。これは、先に挙げたような「人間のコントロールできなさ」に目を向けていない考え方とも言えるのかもしれない。

実は、オレンジ組織の中にいながら「組織づくり」に悩む人の中には、私のようにこの前提にフタをしている人が一定数、いるのではないだろうか。

機械に見立てた組織の中で、私たちは、他者をコントローラブルなものとして扱おうとし、自らもさもそうであるかのように振る舞おうとする。

しかし実際には、私たちは機械ではなく生き物だ。機械のフリをし続けるには、余計なパワーが必要になってくる。「仕事の仮面」をかぶって立場を演じたり、他者から期待したレスポンスを得るためのテクニックとして伝え方・見せ方を過剰に洗練させたりする。そういったことを積み重ねて、「自分」そのものから、遠く離れていく。

では、生き物としての私たちがあるがままでありながら、複数の人間が集まって一人で為せること以上のことを為そうとするとき、どんな組織のかたちになるのだろう。

人類がその方向に向かっていく一つのマイルストーンが、「ティール組織」なのではないだろうか。

「組織づくり」という考え方はナンセンスだ

「ティール組織」の詳細は原本に預けるとして、ここではもう一つ、ティール組織から派生して得られた自分の中での大きな気づきを記しておきたい。

それは、「つくる」のではなく「できていく」組織について。

話が少し前後するが、私自身が『ティール組織』を読み始めたのは、最近転職した新しい組織が、とても良いなと思ったからだった。

まだ20人程度の小さな組織だが、個性あるメンバーが自立的に動きながら、ビジョンに向けてすごいスピードで動いている。自分が自分でいられる感覚があり、課題解決に対して純に必要なことだけやれている感じがある。

この組織の「良さ」の根源を、これから人数が増えても必ず維持したい。でも、そもそもこれまで私が触れてきた組織と、どこが根本的に違うのだろう。「スタートアップ、30人の壁、100人の壁」みたいな言葉も巷で聞くが、人数が増えてもそれを維持することはできるのだろうか。

その組織づくりのヒントを探していたときに、この本と出合ったのだった。

この「組織づくり」という言葉、よく目にするし、自分でも使っていた。しかし、『ティール組織』と出合って探求を深めていくと、この言葉自体に違和感を持つようになった。

組織、チーム、ビジョンのもとに集まった人たちのまとまり、その構造。それは本当に「つくれる」ものなのだろうか。

生き物である人間の「コントロールできなさ」を踏まえて組織を考えると、そもそも「組織づくり」という考え方がナンセンスである、という考えにたどりついた。

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「組織づくり」には誰かの意思が孕んでいる。リーダーやさらに上のステークホルダーの「こういう組織にしたい」という意思と、それに基づく意図的なアプローチを。相手が機械であれば、設計図に沿って、それぞれの構成員が持つ役割を部品として組み上げていけば、より大きな構造をつくることができるだろう。

けれども、人間は生き物。生き物が集まって一つの目的に向かって進むとき、その組織構造は誰かがゴールイメージをもって「つくる」ことができるものではないだろう。生き物はコントロールできず、意図した通りに動かない。だから、つくれない。

では、誰かの意思で「つくる」ものではないとすると、組織の成り立ちはどんな風になるのか。――組織とは、個々の人間がチームとしての目的のもと集まり、自立的に動きながら、「できていく」ものなのではないだろうか。

「ティール・ジャーニー・キャンパス」の中で美しい例えに出合った。

「いけばなは、つくる者が始めから完成像を描いてそれを目指していくものではない。一つ一つの花があるがままに一番美しい姿であるように生けられていくと、だんだん自然と全体のかたちが見えてくるものだ」

華道家の山崎繭加さんのお話だった。
組織も、そういう成り立ちができるのではないだろうか。

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個々の人間が、あるがままの自分でもって「仕事の仮面」を被らずに、有機的に、自立的に組織の目的に関わろうとするところに、自然と個々の役割が生まれて洗練されていき、その個々の事象のつみ重ねで組織ができていくのではないだろうか。

その仮説の上で、私は今この「できていく」プロセスをさらに探求してみたいと思っている。

フィールドワーカーのように、「できていく組織」を探求する

先日、会社のメンバーで泊まり込みの「合宿」を行った。

前クォーターの振り返りや自分たちのビジネス命題についてのセッション・ワークを行い、皆で晩ご飯を食べたあと、リラックスした雰囲気の中で、私の「ティール組織の探求」について共有するセッションの機会を貰った。

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好きな映画について話すような感覚で、どんなことが書かれていて私はどう思ったのかをシェアさせてもらった。すると翌日、嬉しいことが起こった。

複数のメンバーから、「昨晩あの後、部屋に戻って同じ部屋のメンバーで、ティール組織や自分たちの話をいろいろしたよ」と聞いたのだ。

また、合宿最後のラップアップの中でも、意思決定やコミュニケーションなど組織に関するいくつかの課題が抽出され、それらに対する解決案が検討された。

自分の話から波及してチームのそこここに新たな響きが生まれ、具体的な動きにつながったことが単純に嬉しかった。そしてさらに、組織が「できていく」、その中にまさにいるなぁという感覚がとても嬉しかった。

特に良かったのはその話し合いの中に創業メンバーも混じっていたことだ。例えばこれが従業員だけを対象とした「現場のモチベーションを高めるための」お膳立てされた話し合いの場であれば、そこでまとめられた「みんなの意見」は、ときに現実的なトップの判断によって無かったことにされる場合もある。

そうではなくて、創業メンバー含めた自立的に動くメンバー同士がそれぞれの問題意識を現実的にすり合わせていくことによって、トップダウンでなくても、策を見出して実行していくことができるのだと実感できた。

こういった、ありありとした実感をひとつひとつ大事にしていきながら、今後も組織の中で問題解決に動きながら、かつフィールドワーカーのように「できていく」組織に見えてくるパターンを見つけて、すくいあげていきたい。


執筆者紹介

野田愛美(のだ・まなみ)
ウミトロン株式会社 Field Success / Product Manager
1987年鹿児島県生まれ。九州大学教育学部卒。大学時代は近隣小学校のビオトープに通い「子どもと小さな自然との出会い」についてフィールドワークを行った。
卒業後はITメガベンチャーの開発部門にてバックオフィスシステムの設計・開発を担当。その後Vice Presidentとしてプロダクトオーナーとチームマネジメントを経験。
2019年6月より「持続可能な水産養殖を地球に実装する」をミッションとするディープテック・スタートアップであるUMITRON(ウミトロン)に参画。海でのフィールドワークを通した国内外の水産養殖課題のキャッチアップとプロダクト開発による課題解決に取り組んでいる。

連載のご案内

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連載 Teal Impact:日本の組織と社会はどう変わるのか
ティール組織』発売から1年余り。それまで日本でほとんど知られていなかったコンセプトは急速に広まり、実践に取り組む組織も次々と現れている。なぜ「ティール組織」がここまで注目されているのか? これまでどのような取り組みがあったのか? そして、これからどんな動きが生まれるのか? 多角的な視点から、「日本の組織と社会のこれから」を探究する。

第1回:「ティール組織」学びの場づくりについて語ろう。(前編)
第2回:「ティール組織」学びの場づくりについて語ろう。(後編)
第3回:自分たちの存在目的を問う「哲学の時間」を持とう( 『ティール組織』推薦者 佐宗邦威さんインタビュー)
第4回:ティール組織では、リスクとリターンの等分がカギとなる(コルク・佐渡島庸平さんインタビュー)
第5回:内発的動機はどこから生まれるのか? (篠田真貴子さんインタビュー)
第6回:組織文化は「評価」によってつくられる(カヤック・柳澤大輔さんインタビュー)
第7回:ティール組織は耳心地が良い。それでは「明日から」何を始めるのか?(チームボックス・中竹竜二さんインタビュー)
第8回:ティール組織において「人事」はどうなるか?(ユニリーバ・ジャパン 島田由香さんインタビュー)
第9回:「できないこと」が受け入れられ、価値にすらなる世界が始まっている(FDA・成澤俊輔さんインタビュー)
第10回:「ティール組織」の次に来るのは、「〇〇組織」ではない(サイボウズ・青野慶久さんインタビュー)
第11回:「全力で振り切る」組織をどうつくるか(ガイアックス・上田祐司さんインタビュー)
第12回:ティールを広げるためには「国家レベルのデザイン」が求められる(早稲田大学ビジネススクール・入山章栄さんインタビュー)

~Teal Journey Campus参加レポート~
沖依子:仲間の声に耳を澄ませると、 組織のありたい姿が見えてくる
野田愛美:組織は「つくる」のではなく「できていく」
連載「Teal Impact」をお読みくださり、ありがとうございます。次回記事をどうぞお楽しみに。英治出版オンラインでは、連載著者と読者が深く交流し、学び合うイベントを定期開催しています。連載記事やイベントの新着情報は、英治出版オンラインのnote、またはFacebookで発信していますので、ぜひフォローしていただければと思います。(編集部より)
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