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「核心的な問い」と向き合う恐れをどう乗り越えるか:Teal Journey Campus参加レポート(河合祥希)

ティール組織』著者のフレデリック・ラルーさんをお招きし、新しい組織の探求者たちが一堂に会する場として開催したカンファレンス「Teal Journey Campus」。2019年9月14日の開催以降、各地でティールをさらに深く学び合うためのさまざまな動きが自発的に生まれています。

あの日、参加者はどんなことを感じ、何を学び、どうその後につながっているのか──。
Teal Journey Campusの参加者から募った「探求レポーター」の方々に、その学びを綴っていただく連載第3弾の執筆者は、新潟でキャリア教育や探究学習支援を行う河合祥希さん。

社会人3年目、24歳の河合さんが大きな挫折から抱いていたある問い。イベント参加を通じて、その問いとの向き合い方が変わり、やがて問いそのものが変わっていきました。それらがもたらした、河合さんの意識や行動の変容とは。

大きな失敗を経て、答えを焦っていた問い

私は現在24歳。教育支援NPOの新卒3年目。小・中・高のキャリア教育や探究学習の支援、大人たちの学びの場づくり、教材開発などに携わり、多くのチャレンジの機会に恵まれてきた。

しかし去年とても大きな失敗も経験した。自分の軽率な行動がきっかけで、私が担当していたいくつかの学校との仕事から外されてしまったのだ。

そのうちの一つは、地方のありふれた小さな高校だった。私も同じように狭いコミュニティの中で育ってきたため、そこに通う生徒たちの状態や、抱えている生きづらさは痛いほどよくわかった。

その高校では、地域で行われている活動に参画する授業や、行政・地域コミュニティと連携し地域のリアルな課題を高校生なりの視点で解決する課外活動に生徒が参加していた。

そこで出会った高校生たちは、とても純粋で、素直で...…。そんな彼らが目の前でイキイキと活動し、地域の人々から感謝され、変わっていく姿を見ていると、まさに私がこれからの人生の中で向き合っていきたい人たちであると思っていた。

私の代わりに別のスタッフが担当となった後には、その取り組みは新聞にも取り上げられるほど注目されるようになっていた。私が関わっていたときはおちゃらけてばかりだった生徒が、いつの間にか生徒会長になっていたというニュースが飛び込んでくるときもあった。

彼らの成長はすごく嬉しい。だが、自分が直接関わることができず、本当に悔しかった。


私はこうした失敗の経験から、自身に対しての憤りや残念な気持ちを抱くとともに、様々なもやもやを感じていた。

自分は社会や地球の未来に、何の貢献もしていない。自分にはそんなことを考える資格もない。母は一人で育ててくれたのに、まだ何も返せていない。自分は与えられてばかりで、何も与えていないじゃないか──。

そんな日々の中で私の心を占めていたのは、次の問いだった。

「自分はこの人生、一体何をするべきなのだろうか」

その問いと向き合う中でふと思い出したのが、新卒1年目のときに知り、その人柄に惹かれていた『ティール組織』の著者フレデリック・ラルーさんが来日するTeal Journey Campusだった。

組織というもののこれまでの大きな変化の流れや、複雑さを増していく今の世界を見つめた『ティール組織』という壮大な本を出しながら、「自分が大切にしたいと思う身近なものを大切にする生き方」を実践されているフレデリックさん。大きな失敗を経て、理想と現実が大きく乖離してもやもやしている自分が彼のストーリーに触れることで、上記の問いへの答えを得ることができるのではないか。

そう考えて、参加を決めたのだった。

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自分はこの人生、一体何をするべきなのだろうか──。
この問いへの答えを出すことに、私は焦っていた。

しかし、このカンファレンスへの参加によって得たものは、その問いへの答え以上に重要な気づきだった。そしてその気づきによって、焦りや不安でいっぱいだった気持ちにゆとりが生まれ、自分のこれからについて自然体で考えられるようになったのだ。

最初の気づきは、答えよりも「問い」そのものが大きな力を持っているということ、そして、私自身が「問うこと」を恐れていたという事実だ。


「問い」の力と、「実際に問うこと」の難しさ

その気づきは、Teal Journey Campusの「これからの教育を考える」という分科会の登壇者、加藤博先生(きのくに子どもの村学園)の言葉によって訪れた。

子どもたちには、答えを教えない。
好奇心を刺激するだけ。

子どもが答えを探したくなる状況を用意するだけで、子どもが自分から答えを探す行為を奪わないようにするのだという。

例えば、料理の授業でお好み焼きを焼くとする。もし、火が強すぎてフライパンから煙が上がっていても、「火が強いから弱くしてね」とは言わず、「フライパンから煙が上がっているね」とだけ言うらしい。子どもたちが自分で対処法に気づき、学ぶことを「待っている」のだ。

また加藤先生は「学ぶことが楽しくてなかなか生徒が帰らない」とも言っていた。学びを楽しめる感覚は、子どもたちが自分で答えを探し出す過程を楽しんでいるからこそ生まれるものだと感じた。

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なぜこのような状況を生み出せるのか。それは、何より加藤先生が「人には答えを自分で探し出す力が本来備わっている」と信じているからだ。

その本来の力を引き出すもの、それは「問うこと」なのではないか。そしておそらく、「問う力」自体も、本来人に備わっているものなのだと思う。そのことに気づいてから、ただただ答えと出会うことに焦っていた自分の心にゆとりができてきたと実感している。

一方で、自分自身に問うことに恐れを抱いていたことも認識した。それは、「問うことで見えてきたものに自分が向き合い切れるのか」という恐れである。

特に、自分のこれからの人生に関する問いや、自分の弱さを見つめるような核心的な問いに対する恐れが強かった。例えばTeal Journey Campusに参加するきっかけとなった「自分はこの人生、一体何をすべきなのか」という問いもそうだ。

問いは持っているが、それを"実際に問う"ことはできていなかったと、このとき気づいたのだ。

しかし、この日のもう一つの気づきを通して、「問うこと」に対して抱いていた不安や恐れは小さくなった。


核心的な問いと向き合う恐れを和らげてくれたイメージ

もう一つの気づきは、フレデリック・ラルーさんがTeal Journey Campusのオープニングで語った「目的が自分を通して実現していく」という言葉によってもたらされた。

この言葉から私は、一人ひとりの人生にそれぞれ一つの目的があるのではなく、みんなの頭上を漂っている目的がその人を通して実現していく様子をイメージし、こんな映像を思い浮かべた。

(1)様々な人の「喜び」「楽しさ」「もやもや」「痛み」などのエネルギーが結びついて"目的"になり、頭上に漂っている。
(2)"目的"は常に誰かのところへ降りていく準備をしている。
(3)降りるべき人に、降りるべきタイミングで、”目的”は頭上から誰かのもとへ降りていく。私に宿るものもあれば、誰か他の人に宿るものもある。あるいは、たくさんの人におおいかぶさっているものも。

こんな映像を自分なりに解釈してみると、ポイントが二つあった。

一つは、いろんな人のエネルギーが結びつくことによって“目的”が形づくられるということ。つまり、目的は自分一人によってできるものではない。

二つ目は、自分を選ばなかった目的は他者を選んでいる可能性があるということ。自分が手放していたと思っていたものは、他の誰かによって実現されていたり、今まさに取り組まれているのかもしれないのだ。

そう考えると、もやもやが一気にすっきりと整理されたような気分になった。

私はこれまで、何か選択をすることは、どちらかを選び、どちらかを手放すことだと考えてきた。それは人生でも同じで、一つの人生の目的を選んで、そこへまっすぐ歩んでゆくことが良いと思っていた。

先述した自分の焦りや不安は、「人生における一つの目的を見つけたい」という想いからの焦りでもあった。そして、そんなに難しいことを果たしてやり切れるのだろうかという不安から、本気で自分に問うことを避けてしまっていたのだ。

だが、目的は自分一人のものではないし、自分一人で向き合い切るものでもないということがわかり、心にゆとりが生まれた感じがした。

振り返ってみると、自分が興味のあることを他の人がイキイキとやっていると、心の奥底でなぜだか小さな嫉妬心が生まれていたことがあった。

例えば、地元で、地元野菜を使った食堂を開業した友人がいる。それは心から嬉しかったし、応援していたし、少しばかり協力もした。だが、「自分もこういうことやりたいと思っていたんだよな…...」という小さな嫉妬が奥底にあったのだ。

自分の中の選択肢が一つ奪われてしまったような感覚が、そのとき確かにあったことをフレデリックさんの話を聴いて思い出した。しかし、その感覚を認識できたことで捉え方を変えることができた。

「目的は一人のものではなく、みんなのもの。誰を選ぶかは目的が決める」のだと。
「焦らず、自分を選んでくれる目的を受け入れる準備をすればいい」のだと。

こう考えることで、抱き続けてきた「自分はこの人生、一体何をするべきなのだろうか」という重い問いに自分一人ですべて向き合う必要はなく、他者とのつながりの力を信じながら向き合っていけばいいのだと感じた。つながりの力を信じることで、自分が純粋にやりたいと思うことや興味のあること、課題だと感じるものに対して無理なく、心から向き合えそうな感覚になったのだ。

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新たに生まれた問いで、原点に戻る

このイベントを通じて、問いとの向き合い方だけでなく、向き合いたい問い自体も変わった。

問いへの向き合い方は、「焦り・恐れ」から「自然体・前向き」へ。そして向き合いたい問いは、「自分はこの人生、一体何をすべきなのか」から「今、私にとって何をすることが、人生において本当に意味があるのか」へ。

今、私にとって何をすることが、人生において本当に意味があるのか──。

これはフレデリックさんが大切にしている問いで、私はとても気に入った。未来を定めるのではなく今の感覚に耳を澄ませること、“目的”は一つではなく、唯一の正解を探すようなものでもないことを感じる。そして、自然にわくわくと探究していけるようで、まさに好奇心が刺激され自ら問いたくなる。

そんな大切な言葉をフレデリックさんは贈ってくれた。

私は、Teal Journey Campusが終わってから数か月間、「目的は自分一人で向き合うものではない」ということを頭に置いて、この問いを自身に投げかけてきた。すると、自分がこの先どのように歩んでいきたいのかがだんだんと見えてきた。

それは自身が教育を志した原点の想いと重なるものであった。


私は就職活動を高校と大学で2回経験し、その間にある大きな差を感じていた。高校における就職活動では、所属する高校に届いた求人の中から一人一社ずつしか選考を受けられない[1]。さらに、1~2日で全日程が終了する形式的な内容の入社試験が行われ、互いに理解し合えぬまま入社が決まる[2]。

一方で大学での就職活動は、自由に大人たちと出会い、自分を見つめ、対話を重ねる機会に恵まれた。選考では、何度も面談・面接を行い、私が今その会社に入ることが互いにとって良い選択なのかを丁寧に検討することができた。

どちらの就職活動も経験したことから、高校での就職活動の実態や、彼らが就職した後のキャリアの歩み方、そして高校での就職活動以前のキャリア教育の現状に危機感を覚えた。そして、「なんとかしなくては」という想いで現在所属している教育領域のNPOに大学生の頃から関わり始めた。

そのNPOでは、大人のプロジェクトに子どもたちが参画し、互いに認め合い、良さを活かし合いながら地域の課題解決を行うような活動をしており、同じような取り組みは他の地域・団体でも行われている。冒頭で触れた子どもたちも、そういった活動の中で自分やまわりを見つめ、しなやかに、イキイキと自分の人生をつくっていく力を身につけていった。

そんな子どもたちの姿を見て、社会は今の私が理想だと思う姿にだんだんと近づいていると感じていた。

しかし、大きな失敗を経た今の私は、心の底から湧き上がる強い想いを持って、目の前にいる子どもたちに直に寄り添い、共に歩んでいく自信はない。失敗の経験からくる心やましい気持ちが、今もなお心にあり続けているのだ。

ただ、私はそういった今の自分の状態を無理なく観察し、受け入れ、一歩ずつ歩み出している。フレデリックさんの話を聞いて以降、他者とのつながりを信じられるようになった。そのおかげで、直接子どもたちと関わるような仕事は他の人たちに預けられると思えるようになったのだ。

今、私は異年齢・異地域の子どもたちや大人たちがつながり合い、共に活動していくようなプラットフォームをつくるべく行動を起こしつつある。所属するNPOだけでなく、Web関連の会社でも働きながらスキルを磨いたり、数名の創業者と対話を重ねたりしながら、持続的に大人と子どものコラボレーションを促進し、高卒者の就職・採用をよりよくつなげるしくみを模索している。

この行動こそが、フレデリックさんにもらった新しい問い「今、私にとって何をすることが、人生において本当に意味があるのか」への今の自分の答えだ。


Teal Journey Campusでの学びは、私のこれからの人生の歩みに対する考え方に大きく影響を与えた。自身への問いや行動を繰り返す中で、『ティール組織』に込められている想いや願い、哲学のようなものが私の中へじわっと染み込んでいく感覚がある。

私は、それらを大事にしたい。これからの人生の中で生まれる葛藤や悩み、苦しみ、喜び…...。そんな、自分の中に渦巻いているエネルギーに耳を澄ませ、それを楽しみながら、自分の人生を一歩ずつ歩んでいこうと思う。

[1] 現在では「10月以降は一人複数社への応募・推薦が可能」というルールを敷いている都道府県も増えてきた。
[2] 私が受けた試験は、筆記試験と適性検査、1度きりの面接で全日程が終了した。高校での面接指導は、表面上のきれいな言葉をつくり込ませ、それをすらすらと言えるようにするというようなものだった。


執筆者紹介

河合祥希(かわい・よしき)
1995年、群馬県みなかみ町生まれ。
群馬県立前橋商業高等学校、新潟大学経済学部経営学科を卒業。
高校時代、就職志望ではあったが企業に内定できず、入試1か月前に急遽進学へと進路を変更。その後、大学でも就職活動を経験し、その環境の差に衝撃を受けたことがきっかけで、高卒採用やキャリア教育に興味を持つ。学生の頃から教育支援のNPO法人に関わり、そのまま新卒で入社。主に中高生向けのキャリア教育・探究学習に関する教材の営業や編集に携わる。その他、Webマーケティングを行う会社にて企画やメディア運営等を担当している。

連載のご案内

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連載 Teal Impact:日本の組織と社会はどう変わるのか
ティール組織』発売から1年余り。それまで日本でほとんど知られていなかったコンセプトは急速に広まり、実践に取り組む組織も次々と現れている。なぜ「ティール組織」がここまで注目されているのか? これまでどのような取り組みがあったのか? そして、これからどんな動きが生まれるのか? 多角的な視点から、「日本の組織と社会のこれから」を探究する。

第1回:「ティール組織」学びの場づくりについて語ろう。(前編)
第2回:「ティール組織」学びの場づくりについて語ろう。(後編)
第3回:自分たちの存在目的を問う「哲学の時間」を持とう( 『ティール組織』推薦者 佐宗邦威さんインタビュー)
第4回:ティール組織では、リスクとリターンの等分がカギとなる(コルク・佐渡島庸平さんインタビュー)
第5回:内発的動機はどこから生まれるのか? (篠田真貴子さんインタビュー)
第6回:組織文化は「評価」によってつくられる(カヤック・柳澤大輔さんインタビュー)
第7回:ティール組織は耳心地が良い。それでは「明日から」何を始めるのか?(チームボックス・中竹竜二さんインタビュー)
第8回:ティール組織において「人事」はどうなるか?(ユニリーバ・ジャパン 島田由香さんインタビュー)
第9回:「できないこと」が受け入れられ、価値にすらなる世界が始まっている(FDA・成澤俊輔さんインタビュー)
第10回:「ティール組織」の次に来るのは、「〇〇組織」ではない(サイボウズ・青野慶久さんインタビュー)
第11回:「全力で振り切る」組織をどうつくるか(ガイアックス・上田祐司さんインタビュー)
第12回:ティールを広げるためには「国家レベルのデザイン」が求められる(早稲田大学ビジネススクール・入山章栄さんインタビュー)

~Teal Journey Campus参加レポート~
河合祥希:「核心的な問い」と向き合う恐れをどう乗り越えるか
沖依子:仲間の声に耳を澄ませると、 組織のありたい姿が見えてくる
野田愛美:組織は「つくる」のではなく「できていく」
連載「Teal Impact」をお読みくださり、ありがとうございます。次回記事をどうぞお楽しみに。英治出版オンラインでは、連載著者と読者が深く交流し、学び合うイベントを定期開催しています。連載記事やイベントの新着情報は、英治出版オンラインのnote、またはFacebookで発信していますので、ぜひフォローしていただければと思います。(編集部より)
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