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「本当にいい組織」ってなんだろう? すべてはひとつの記事から始まった(嘉村賢州+吉原史郎)

大反響を呼んだ『ティール組織』解説者の嘉村賢州氏、『実務でつかむ!ティール組織』著者の吉原史郎氏。2人のフロントランナーが、業界や国境を越えて次世代型組織(Next Stage Organizations)を探究する旅に出る。
連載初回は、2人の原点に焦点を当てる。まったく異なるキャリアの2人が、どんな問題意識をもち、なぜ共に道を歩むようになったのか。これまで語られてこなかった素顔に迫る。聞き手は、元DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー編集長で、現在はフリーランス/編集者の岩佐文夫氏。
連載:Next Stage Organizations 組織の新たな地平を探究する

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岩佐:はじめまして。今回、ティールをはじめとする新しい組織のあり方を探求されているお二人にインタビューできて嬉しいです。

英治出版さんからは、あえてお二人のことを調べなくていいとのことだったので、根掘り葉掘り聞かせていただきます(笑)。まだどこでも語られていない、お二人の素顔を掘り下げられたらなと思っています。よろしくお願いいたします。

嘉村:こちらこそ、お会いするのをとても楽しみにしておりました。どうぞよろしくお願いいたします。

吉原:私もお会いできて光栄です。よろしくお願いいたします。

嘉村賢州の原点①  プロジェクトを通じて「他人の自己実現を支援する」

岩佐:まず嘉村さんにお伺いします。現在の活動にいたった「原点」をお聞かせください。

嘉村:もとをたどると大学生時代にまでさかのぼります。当時の僕は人見知りで、自分にも自信がなかった頃でした。いや、今も人見知りですね(笑)。

あるとき、英語クラスの友人に、国際交流のボランティアに誘われたんです。一人だと怖いから一緒に来てと。その団体は40人くらいの規模で、留学生と日本人の学生がほぼ半々で構成されていました。

京都は留学生が多いのですが、せっかく日本に来たのに日本の社会や文化を味わえない人が多いため、日本人と交流できる機会をつくって有意義な日本生活を送ってもらうために立ち上げられた団体でした。目玉となる大イベントが、年に一度、鴨川の三条四条を借り切って開催される「ワールドフェスティバル」でした。

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嘉村賢州(かむらけんしゅう)
場づくりの専門集団NPO法人場とつながりラボhome’s vi代表理事、東京工業大学リーダーシップ教育院特任准教授、コクリ! プロジェクト ディレクター、『ティール組織』(英治出版)解説者。京都市未来まちづくり100人委員会 元運営事務局長。まちづくりや教育などの非営利分野や、営利組織における組織開発やイノベーション支援など、分野を問わずファシリテーションを手がける。2015年に新しい組織論の概念「ティール組織」と出会い、日本で組織や社会の進化をテーマに実践型の学びのコミュニティ「オグラボ(ORG LAB)」を設立、現在に至る。

そこで、初めて「プロジェクト」というものに出会ったんですよ。一人で何かをするんじゃなくて、まったくちがう個性が集まって、チームで行動する。一人でつくる世界よりも、いろんな人が集まってつくる世界の方が何十倍も面白い、ということに気づきました。

また、僕自身コミュニケーションが苦手で、人とどうつながっていけばよいかわからなかったときだったので、プロジェクトで役割をもらうことで自然に人との関係性を築くことができる、そのプロセスに助けられました。

こうしてプロジェクトというものにはまっていき、学生時代に100近くのさまざまなプロジェクトに関わっていくことになったんです。同時に、後輩たちがそれらの活動を通じて変化・成長していく姿を見て、
「ああ、僕は誰かの人生の変わる瞬間に携われているのかもしれない」
と思えたことも大きかったと思います。

僕の中で「他人の自己実現を支援する」というキーワードが生まれた瞬間でもありました。その頃の僕の個人的な目標は「将来新たな教育機関を設立する」というものでした。

嘉村賢州の原点②  「全員がフラット」なベンチャー組織での挫折

岩佐:なるほど。そういう想いはもちつつも、卒業後は就職されたんですよね。

嘉村:ええ。京都が好きなので京都にいたいという思いもあったのですが、高い初任給にひかれて東京で就職してしまいました(笑)。

まず3年ぐらい働いて貯金して、そして世界放浪に出かけて視野や仲間を広げていき、最終的にはその経験とネットワークの支援を受けて教育機関をつくろうと目論んではいました。

岩佐:それなりに緻密な計画を立てていたんですね。実際は?

嘉村:実際は最初の会社はある意味挫折のような形で退職しました。会社に勤めながら、学生時代の仲間5人でSNSのようなウェブサービスをつくっていたのですが、それをビジネス化しようということでベンチャーを起業しました。でもまたこれも挫折になりまして。。。

昔からの仲間で立ち上げたこともあって、上下関係をつくりたくなくて、5人フラットな形の組織をつくって進めていくことにしたんです。元マイクロソフトの成毛眞さんからは「5フラットなんて絶対失敗するよ」と言われたんですけど、いや、僕たちは大丈夫です!って言い切りました。

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で、見事に失敗した(笑)。

あーでもないこーでもないとやっているうちに、ビジネスモデルが行き詰まったんです。仲間割れするくらいなら、いさぎよく解散しよう、ということでベンチャー生活が終わりました。僕が組織論に興味が強いのも、この経験が大きいのかもしれません。

ベンチャー解散後、それぞれが活躍の舞台を見つけていく中で、自分は何をするのか思い返したんです。それが、学生時代のプロジェクト活動でした。プロジェクトを通じて、誰かの人生が変わる瞬間に携わった経験。

よし、それを仕事にしようということで、10年前に場づくりの専門集団「NPO法人 場とつながりラボhome's vi」を立ち上げました。

岩佐:そこで、ファシリテーションをした。コンサルティングとはちがいますよね。

嘉村:そうですね。コンサルティングの仕事は「ソリューションを提案すること」だとしたら、ファシリテーションとは「そこに参加するメンバーが自分たちでソリューションを見つけるのを支援すること」と言えます。

その頃はまだまだ「ファシリテーション」という言葉が市民権を得る前の時代でした。ファシリテーターと名乗っていても、みなさんピンとこないんですね。さらにNPOだったので、企業さんからは本当に大丈夫なのかと思われたり。お金を稼ぐのに苦労しました。

岩佐:どうやってそれを仕事としてまわしていったのですか?

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嘉村:とにかく何でもしました。まちづくりから組織開発、イノベーションの創造、学生の採用イベントまで。上場企業も非上場企業も、非営利団体や行政機関もありました。現場に入り込んで、年間150本ぐらいワークショップをする日々だったと思います。

僕が得意なのは大規模ダイアローグなんですが、ファシリテーションは、ある意味その場が見本市みたいなものです。大規模ダイアローグの現場にお客さんに来ていただくと、「うちでもやりたい」と別の機会をいただいて、口コミで広がっていきました。

今まで、営業など売り込みは一回もやっていないんです。初めはボランティアの仕事も多かったのですが、徐々にこの仕事の価値を認めてくれる人が増えてきて、安定的に仕事がまわせるようになってきました。

そんなときに(吉原)史郎くんから連絡があり、組織改革の仕事に携わるようになったんです。

岩佐:それからお二人が一緒になって仕事をされるようになったんですね。ではその前に吉原さんのお話を聞かせてください。

吉原史郎の原点①  組織を変えるために、まずは自分から変わる

吉原:最初の就職先は証券会社でその後、事業再生ファンドに転職しました。投資対象の企業価値の算定に携わったあと、ファンドで支援をしている旅館やホテルに出向するようになりました。

そのご縁がきっかけで、27歳のときに、100名規模のリゾートホテルの総支配人として、経営を任せていただく機会がありました。赤字の削減という明確な目標のもと、スピード重視で、できることから着手していきました。

たとえば、口コミ評価で清潔感が低かったため、自分自身でも掃除を行い、メンバーに「しっかりと清掃する」という意識を徹底的に浸透させていきました。その結果、お客様のいだく清潔感も向上しました。そんな「あたりまえ」をひとつひとつ積み重ねていって、赤字も少しずつ減っていきました。

ただ、マネジメントスタイルは「北風と太陽」で言えばまさに「北風」のほうでした。

岩佐:「北風」というと?

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吉原史郎(よしはらしろう)
Natural Organizations Lab 株式会社 代表取締役、『実務でつかむ!ティール組織』(大和出版)著者。日本初「Holacracy(ホラクラシー)認定ファシリテーター」。証券会社、事業再生ファンド、コンサルティング会社を経て、2017年に、Natural Organizations Lab 株式会社を設立。事業再生の当事者としてつかんだ「事業戦略・事業運営の原体験」を有していること、外部コンサルタントとしての「再現性の高い、成果に繋がる取り組み」の実行支援の経験を豊富にもっていることが強み。人と組織の新しい可能性を実践するため、「目的俯瞰図」と「Holacracyのエッセンス」を活用した経営支援に取り組んでいる。

吉原:メンバーへの要求も厳しく、叱ることもありました。この頃は「自分が何とかする」という気持ちが強かったのだと思います。思い通りにいかないことも多く、一進一退の日々が続きました。

赤字削減という成果は出たのですが、一方で「自分が何とかする」という状態ではこれ以上の成長は不可能だと気づきました。そこで「みんなで最高のホテルをつくろう」という気持ちに変わっていったんです。

そこで生まれたのが「〈日本一の笑顔〉が溢れるホテル」という夢です。これをメンバーと共有したいと思うようになりました。ただ、これまでが「北風のマネジメント」だったため、いきなり夢を語っても、メンバー全員の力を集める求心力はありません。

そのため、自分自身を変える必要がありました。「日本一の笑顔が溢れるホテル」にしたいなら、その笑顔を自分から生み出していかなければならないと。

岩佐:自分を変えるというのも簡単ではないはずです。具体的には何を行ったんですか?

吉原:まず、メンバーに感謝の気持ちを伝えることから始めました。「ありがとう」と言うのはもちろんですが、具体的にどこに感謝しているのかを意識して伝えようとしました。

また、それぞれのメンバーとじっくり話す時間をとって、「日本一の笑顔」を生むために何ができるかを聞いていきました。すると、お部屋清掃のメンバーから、「庭に花壇をつくって、綺麗な庭をお客さんに見てほしい」というアイデアが出てきたんです。

これには驚きました。ふだんの彼女は、想いを表に出すタイプではなかったからです。詳しく話を聞いてみると、もともとホテルにあこがれをもって入社したものの、お部屋清掃に配属され、お客様を喜ばせるチャンスが不十分だと感じていたようでした。

彼女の「何とかしたい」という気持ちが強く伝わってきました。このエピソードを幹部メンバーに共有すると、全員が「これは実現しなければ」と心を動かされ、さっそくみんなで花壇をつくりました。

地味に思えるかもしれませんが、一見小さな声から、日本一の笑顔につながる花壇が生まれました。お客様にも喜んでもらえて、嬉しい口コミも多くいただくようになりました。

こういった経験を通じて、小さな一歩がビジョンの実現につながっていくことを、私自身が実感していきました。経営者として窮地を任されたことで、経営の難しさ、奥深さに触れるという貴重な経験ができました。

吉原史郎の原点②  自然農法に出会い、「自然に育つ組織」への意識が芽生える

岩佐:現在は自然農で畑づくりもやられていますよね。

吉原:はい。

岩佐:どうしてそれを始めようと思ったんですか?

吉原:きっかけは妻が自然農に興味をもったことです。土地を借りて、自分たちでやってみようということになって。

その土地は、以前はたくさんの農薬や肥料を使っていた場所らしかったので、最初に天地返し(土の上下を入れ替える)を行い、畝をつくり、相性の良い野菜の組み合わせで種をまきました。

私たちが行ったのはそれだけです。水もやらず、天気に任せるのみ。もちろん雑草も虫もほったらかしです。それでも、野菜はまるで山の樹木のように、育ち、生い茂っていきました。

そのとき私は、「人が野菜を育てる」という思い込みがあったのだと気づきました。そうではなくて、「野菜は自然に育つのだ」と気づかされ、大きな衝撃を受けました。まさに一瞬のうちに考え方が変わってしまったことを覚えています。

人は特別な存在ではなく、「野菜が自然に育つ」ための環境づくりを行っているだけなんです。

岩佐:まさにパラダイム・シフトだったわけですね。

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吉原:それくらいの衝撃でした。経営に置き換えると、「経営者が人や組織を育てる」のではなく、「組織が自然と変化し、進化していく」ための環境づくり、それが経営者のひとつの役割ではないか。それが私に湧き上がってきた想いでした。

また、畑づくりは収穫で終わることはなく、種を採り、それをまいて、次の世代の野菜を育てる、と「いのちが循環」していきます。それも最大の魅力でした。つまり、「収穫=成果」を得るだけではなく、「種=いのち」をつなぐことが含まれているのです。

これはまさに、組織が売上という成果(数字)をあげるために存在しているのではなく、「目的」を実現し、変化し続ける存在であるのだ、という私の想いと一致していました。

このような考えから、自然の恵みを活かした畑づくりからの学びを活かして、組織経営の支援を行うようになっていきました。

ホテルの経営をしているとき、「どうしたら、もっと、メンバー全員の力が、目的の実現に向けて最大化されるだろうか?」と問いかけながら仕事をするようになっていました。そういった問いに対しての答えを、自然農は教えてくれるような気がしています。

二人の原点  変わろうとする個人がいても、組織構造が壁となる

岩佐:なるほど、お二人ともまったくちがった道を歩まれてきたことがわかりました。そんなお二人が、どうして一緒に仕事をするようになったんですか?

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嘉村:一度学生時代に食事会で会ったことはあるのですが、それから何年も経った2013年に、史郎くんからメールがきたんです。

組織改革を進化させるうえで、どうも組織全体を巻き込むアプローチが必要だと感じる。賢州さんがファシリテートする場は全体の中に会長も社長もいる。みんなが一個人に戻れると感じています。一緒に何かやってみませんか」
その思いに共感して、組織変革に携わるようになりました。

吉原:リゾートホテルの経営経験を通じて、賢州さんが取り組んでいることの重要性を身をもって感じていました。

嘉村:ある程度二人で活動を積み重ねていくと、比較的結果も出て、お客さんにも喜ばれるようになってはいました。

当初は「学習する組織」や「U理論」などの方法論をベースにしていました。たとえば、学習する組織の原則のひとつに「自己マスタリー」というものがあるのですが、それは「自らのありたい姿を憧憬し、その実現に向けて研鑽を続けるあり方」を意味しています。つまり、本当に自分がやりたいことが何かを探求する必要があり、私たちはそのために内省を促すような支援を行っていました。

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しかし、自己マスタリーを探求していくと、どうしてもピラミッド構造の組織形態と「自分のありたい姿」のあいだに矛盾が生じ、覚悟を決めた個人が傷ついてしまう場面に何度か遭遇するようになりました。

つまり、そもそも組織構造のどこかがおかしいのではないか、と。ただ、具体的に何が問題で、どうすれば解決できるかはわかりませんでした。

そんな問題意識を感じていた頃、ある記事を見つけました。ハフィントンポスト日本版の”CEOの年収2000万円ほか全社員の給与を公開中、Buffer創業者に聞く「過激な透明性」のワケ”というタイトルの記事です。本当に偶然、たまたまです。

記事のテーマは給与公開の是非についてで、そこにはまったく興味がなかったので、なんとなしに流し読みしていたんですけど、記事の後半に、『ティール組織』著者のフレデリック・ラルーさんの講演動画とその内容が紹介されていたんです。

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フレデリック・ラルー氏講演動画。日本語字幕は有志のボランティアによって作成された。

ラルーさんは組織の歴史を紐解き、3つのブレイクスルーについて語っていました。「ん?! まてよ。これまで聞いたこともない知見だぞ」と。いろいろ調べてみると、『ティール組織』の原書『Reinventing Organizations』のサイトを見つけました。さっそく、僕より英語が得意な史郎くんに要約してもらうよう依頼しました。

吉原:そうなんです(笑)。サイトに載っていたいろいろな情報を見て、さらに興味が湧いたので、実際にラルーさんの著書「Reinventing Organizations」を購入しました。2ヵ月くらいか掛かりましたが、夢中で読み、要約をしました。

これまでの経営経験だけではなく、自然農とのつながりを深く感じたので、心が躍るようでしたね。早く実践者に会いたい、一緒に深めていきたいと強く想いました。

嘉村:ありがたいことに、本当にすばやく訳してくれました(笑)。そして、その内容が、衝撃だったんですよ。衝撃。この衝撃をどうしようと。

吉原:僕の方でも、ワクワク感を止められず、賢州さんに夢中でどんどん情報をシェアをしました。

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嘉村:とにかく関連情報を知りたいと思って、史郎くんにも協力してもらって調べていくと、enlivining edgeというウェブメディアを見つけました。そのメディアの運営・編集をやっているクリスとジョージに連絡を取ったら、ポートランドで会えることになったんです。

クリスはラルーさんと一緒にコンサルをやっていた人、ジョージはザッポスのコンサルをずっとやっていた人です。

吉原:嘉村さんと二人で渡米しましたね。お二人とも本当に素晴らしい方で、同じ目的を持った仲間が世界にたくさんいることへの喜びが溢れていました。ジョージには、その後、会社のアドバイザリーもしていただくことになりました。

嘉村:話がとても盛り上がって、「今度、ギリシャで初めて、ティールの実践者たちが集まるから、顔を出してみたら」と勧められて。じゃあ行こうと。二人でギリシャのカンファレンスに参加したんです。その場が本当によくて、翌年は他の仲間も誘って総勢15人くらいで参加しました。

吉原:ギリシャでは、世界からの実践者が集まっていました。お互いの実践や知見を、ワークショップやプレゼンを通じて共有しあう、深い学びの場ができていました。

実は私もプレゼンさせていただくことができて、1回目のカンファレンスで自然農と経営について紹介したところ、とても関心をもってもらえました。

2回目には妻も参加して、実際に自然農の畑で「いのちの循環」を感じるワークショップを夫婦で行いました。ティール組織の世界観とのつながりも深く、地球に生きる同じ生命体として、自然と人が共に生きていることを改めて感じてもらえたと思います。

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岩佐:なるほど。それから本格的な探究が始まり、日本に紹介したり、『ティール組織』の出版に関わるようになっていったりするんですね。

嘉村:はい、そういう流れです。

なぜ「Next Stage」なのか

岩佐:よくわかりました。ここで、連載について聞かせてください。

お二人の連載テーマは「Next Stage Organizations〈組織の新たな地平を探求する〉」と伺っています。わざわざ「Next Stage=次のステージ」をつけているということは、裏を返せば今のステージに問題があるということでしょうか。

嘉村:あると感じています。

最近自分の中で温めている考え方があって、それは「筋斗雲組織」というものなんです。筋斗雲とは西遊記で孫悟空が乗っていた雲。邪な心をもつ者は乗れない、子供のような純粋な心をもっていれば乗れる。もし世の中にそんな組織があったら素敵な社会になるんじゃないか、と本気で思っています。

これまでの組織やビジネスのあり方を見ていると、商品が悪くても、メンバーを大事にしていなくても、キャッチコピーやデザインがそれとなく格好よければ、そこそこ売れるんですよね。

たとえば、保険の営業マンが、自社の商品が他社よりも質が低いと感じていても、我慢して売らざるをえない状況ってあると思うんです。もしそこで売り込みができなかったら、おそらく上司に「会社からお金もらってるんでしょ? プロだったら、言われたことをやってくださいよ」と言われてしまうかもしれません。

ある意味、今の統率型の組織は素晴らしいモデルと言えます。トップが決めたことは組織全体に浸透させることができるからです。

でも、僕は発想を逆にしてみたんです。

「本当に良い商品があるなら、統率がなくても、成り立つ組織もあるんじゃないか。『世の中にちゃんとした価値があるものを、真っ当なやり方で提供したい』という、純真な心をもった人が乗りこなせる、筋斗雲のような組織があるんじゃないか」というものです。

①良い理念
②良い商品
③人を大事にする経営者と従業員

この3つの条件を満たした組織にしか扱えない、まったく新しい形の組織。

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そんなことを考えていた2ヵ月後に、先述の記事に出会って衝撃を受けたわけです。あ、これはヒントになりそうだぞ。

岩佐:まさに「ティール組織」のあり方にも近いですね。

嘉村:はい。ただし、僕の中では、今でも、ティールがすべての組織問題の答えだとは思っていなくて。

たまたま今はティールに興味があるので、守破離に従って、まずはティールにどっぷりと浸ってみよう。でも、ティールも探求するけど、本当に素晴らしい組織とはどんなものなのかという探求も続けます。

組織の殻がもっと壊れていって、どんどん兼業やアライアンスが起こる社会になる予感もします。生きてよかったという人が増える組織論を見つけていきたいんですよね。

吉原:僕の方でも、今の組織や社会、自分自身には、大きな「伸び代」があると感じています。自然農の実践を通じて感じている「いのちの循環」と響きあう組織や社会、地球づくりに関わりたいと思っています。そのため、ティール組織の世界観や考え方には、とても共鳴しています。

ティール組織がひとつのきっかけとなり、「いのちの循環」をさまざまな観点から実践している世界中の方たちとの出会いが今、生まれ続けています。「いのちの循環」への関心が高まっている背景には、人類の原点に立ち返りたいという大きな願いがあるのではないか、と感じています。

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岩佐:なるほど。ティールはあくまで数ある答えのひとつにすぎない、という考えなのですね。

個人的に気になっているのは、ティールがこれだけ反響を得ている背景です。組織にも時代の要請がありますよね。今の時代に今の組織のあり方が合っていないってことなんでしょうか。組織のどの部分に無理がきていると思いますか?

嘉村トップ集約型、つまり、トップ層が全部を把握している構造です。その構造は、大量生産、非ネットワーク型では適合していたのかもしれないですけど、今の潮流には適していない気がします。

あらゆる人が変化を感じ取るセンサーをもっているはずなのに、スイッチが切れています。多くの企業では社長が言っていることが理念で、社長の一存で変わってしまう。現場から「こんなことがあったらいいんじゃないか」と声に出しても、社長に「理念とちがう」と断られる。

せっかく声をあげても、何度も否定されると引っ込んでしまいます。違和感に気づき始めている、変化に反応している人の声を受信できるような組織論が、必要になってきていますよね。

吉原:まさに、トップ集約型の構造の場合、企業理念が組織全体の理念というよりは、社長個人の理念になっていることも多く、階層構造の下にいる人たちの声が上の階層まで届かないなど、組織内の循環が不十分であると感じています。

自然農の畑では、このような社長はいなくても、あらゆるものが循環し、いのちがつながりあっています。もし、畑の中で、人間が自然の循環を止めてしまうと、その畑全体が生きられなくなってしまいます。そこにある「いのちの循環」が止まるからです。

組織内での循環が止まっていること、滞っていることの自覚を高めていくことに大きな伸び代を感じています。

岩佐:つまり、社長が一番情報をもっているのではなくて、組織全体が知恵をもっている。一人一人が感知したものを組織に入れていけば、もっと組織はダイナミックに変化するのではないか。でもその形はわからない。だから探そうと。

嘉村:そうです。

岩佐:ティールが答えのひとつを提示した。なので、まずはティールに浸ってみると。やっていくうちにいろんな組織から、いろんな知見が集まってきて、それがNext Stage Organizationsになると良い。まだ未知の、知見の破片を見つける。

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嘉村:そうです。この連載のテーマはティールの解説ではありません。

もしかしたら、日本から世界を照らせるアイデアが見つかるかもしれない。まだメディアに取り上げられていないだけで、当事者が気づいていないだけで、地域やコミュニティからすごく愛されている組織があるかもしれない。

そういった組織の運営要件や実務的に動かす方法論を、この連載を通じて、探していければなと考えています。

吉原:『ティール組織』の本の事例でも示されているように、あくまで実践の結果として「ティール的な組織」になったのであり、それぞれの組織の文脈にあった半歩を踏み出していくことが重要です。

そのためにも、「今ここ」を感じるアウェアネスを高めていくことが、ますます大切になってきます。そのような取り組みを進めている方や組織の皆さまと、この連載を通じて出会い、皆さまにお届けできたらと考えています。

岩佐:ワクワクしてきました! ありがとうございました。


連載「Next Stage Organizations」をお読みくださり、ありがとうございます。次回記事をどうぞお楽しみに。英治出版オンラインでは、連載著者と読者が深く交流し、学び合うイベントを定期開催しています。連載記事やイベントの新着情報は、英治出版オンラインのnote、またはFacebookで発信していますので、ぜひフォローしていただければと思います。(編集部より)

連載のご案内

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Next Stage Organizations 組織の新たな地平を探究する
ティール組織、ホラクラシー……いま新しい組織のあり方が注目を集めている。しかし、どれかひとつの「正解」があるわけではない。2人のフロントランナーが、業界や国境を超えて次世代型組織(Next Stage Organizations)を探究する旅に出る。

第1回:「本当にいい組織」ってなんだろう? すべてはひとつの記事から始まった
第2回:全体性(ホールネス)のある暮らし――『ティール組織』著者フレデリック・ラルーさんを訪ねて①
第3回:リーダーの変化は「hope(希望)」と「pain(痛み)」の共有から始まる――『ティール組織』著者フレデリック・ラルーさんを訪ねて②
第4回:「ティール組織」は目指すべきものなのか?――『ティール組織』著者フレデリック・ラルーさんを訪ねて③
第5回:ホラクラシーに人間性を――ランゲージ・オブ・スペーシズが切り開く新境地
第6回:『ティール組織』の次本

-----『自主経営組織のはじめ方』無料公開-----
第7回:訳者まえがき(嘉村賢州・吉原史郎)
第8回:新しい組織論に横たわる世界観:第1章コラム
第9回:自主経営に活用できる2つの要素:第2章コラム
第10回:組織のDNAを育む:第6章コラム
第11回:グリーン組織の罠を越えて:第7章コラム
第12回:ティール組織における意思決定プロセス:第8章コラム
第13回:情報の透明化が必要な理由:第9章コラム

連載著者のプロフィール

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嘉村賢州さん(写真右)
場づくりの専門集団NPO法人場とつながりラボhome’s vi代表理事、東京工業大学リーダーシップ教育院特任准教授、コクリ! プロジェクト ディレクター、『ティール組織』(英治出版)解説者。京都市未来まちづくり100人委員会 元運営事務局長。まちづくりや教育などの非営利分野や、営利組織における組織開発やイノベーション支援など、分野を問わずファシリテーションを手がける。2015年に新しい組織論の概念「ティール組織」と出会い、日本で組織や社会の進化をテーマに実践型の学びのコミュニティ「オグラボ(ORG LAB)」を設立、現在に至る。

吉原史郎さん(写真左)
Natural Organizations Lab 株式会社 代表取締役、『実務でつかむ!ティール組織』(大和出版)著者。日本初「Holacracy(ホラクラシー)認定ファシリテーター」。証券会社、事業再生ファンド、コンサルティング会社を経て、2017年に、Natural Organizations Lab 株式会社を設立。事業再生の当事者としてつかんだ「事業戦略・事業運営の原体験」を有していること、外部コンサルタントとしての「再現性の高い、成果に繋がる取り組み」の実行支援の経験を豊富にもっていることが強み。人と組織の新しい可能性を実践するため、「目的俯瞰図」と「Holacracyのエッセンス」を活用した経営支援に取り組んでいる。