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『自主経営組織のはじめ方』⑥ 第8章コラム:ティール組織における意思決定プロセス(吉原史郎)

ティール組織の3要素の中でも、とくに注目を集めるのが「自主経営(セルフ・マネジメント)」です。しかし、実践的・体系的なノウハウはまだ少なく、日本ではほとんど紹介されていませんでした。
2020年2月出版の『自主経営組織のはじめ方──現場で決めるチームをつくる』は、ティール組織の代表例である<ビュートゾルフ>の組織づくりにも関わったコンサルタントが、15年間にわたる知見を凝縮した一冊です。そして翻訳は、連載Next Stage Organizationsの執筆者である嘉村賢州さん、吉原史郎さん。全7回にわたって、日本語版に特別に追加した「訳者まえがき」と「コラム」をお届けします。

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『自主経営組織のはじめ方』第8章コラム
ティール組織における意思決定プロセス

助言プロセス

本書で「解決指向の意思疎通法(SDMI)」を説明する際に、「合意(コンセンサス)をとる」という表現が頻出しますが、一般的に考えられているような「全員が賛成」という意味ではありません。「利害関係を調整したうえで、反対がなく、仕事を進めるための決め事」と私は捉えています。だとすると、『ティール組織』で意思決定の方法として紹介されている「助言プロセス」に近いと考えられます。

助言プロセスの原則は、以下のようなものです。

●組織内の誰もが、どのような意思決定でもおこなうことができる。

●ただし、意思決定の前に、関係するすべての関係者と、その問題の専門家に助言を求めなければいけない。

●意思決定に際して、すべての助言を組み込む必要はないが、その助言内容を真剣に検討しないといけない。

組織によっては、給与の決定にも助言プロセスを活用して、同僚間の話し合いに基づき、最終的には自らが給与を定めるということも実施されています。

非常に大きな意思決定の事例として挙げられているのが、エネルギー事業を展開するグローバル企業であるAESのエピソードです。入社間もない財務アナリストが、パキスタンへの事業拡大計画を立てました。CEOや多くの関係者からは、「AESにとって未知のエリアだから難しい」という助言や、「入社間もないので、事業拡大の前にまずは目の前の現場を知ってほしい」という助言がありました。しかし最終的にそのメンバーは、「パキスタンへの多額の投資をおこなう」と意思決定したのです。結果的に、二年半後にはパキスタン事業は軌道に乗り、AESにとってのビジネス拡大の一助となったのです。

このエピソードの背景にあるのが、メンバー(従業員)をどう捉えているかという「人間観」です。AESの当時の経営者は、メンバーを「創造的で思慮深く、信頼に足る大人で、重要な意思決定を下す能力を持っている」と捉えていました。つまり、本書でもコラムでもたびたび述べてきましたが、助言プロセスは人への信頼が前提となって成り立っているのです。そして、組織内に信頼の文化が生まれるかどうかは、経営者がメンバーを信頼するところから生まれてくることを、このエピソードは教えてくれます。


助言プロセスとSDMIとのつながり

SDMIにも、助言プロセスと同様に、メンバー同士の信頼が根底に流れています。本書の第7章では、SDMIには人間の性質に対する3つの原則となる考え方があるとしています。

●意識的な選択と責任感
人には「意識的な選択」をおこなう能力があり、したがって自らの行動に「責任を負う」。

●敬意
敬意とは、一人ひとりの違いを心から受け入れるという意味である。

●エネルギーの方向性
不快だと感じる状況に直面したとき、人は行動を起こす。

また、SDMIには「目標・立場・進め方・コミュニケーションの方法・時間」といった具体的な5つのポイントがありますが、これらを助言プロセスに活用すれば、実務的により広く深く密な助言を与えあうことができるでしょう。

助言プロセスでの意思決定に慣れていないメンバーにとっては、SDMIのような具体的な手順が伴うツールを使うことで、自主経営に求められる能力を高めていくことができるのではないかと思います。

吉原史郎


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Next Stage Organizations 組織の新たな地平を探究する
ティール組織、ホラクラシー……いま新しい組織のあり方が注目を集めている。しかし、どれかひとつの「正解」があるわけではない。2人のフロントランナーが、業界や国境を超えて次世代型組織(Next Stage Organizations)を探究する旅に出る。

第1回:「本当にいい組織」ってなんだろう? すべてはひとつの記事から始まった
第2回:全体性(ホールネス)のある暮らし──『ティール組織』著者フレデリック・ラルーさんを訪ねて①
第3回:リーダーの変化は「hope(希望)」と「pain(痛み)」の共有から始まる──『ティール組織』著者フレデリック・ラルーさんを訪ねて②
第4回:「ティール組織」は目指すべきものなのか?──『ティール組織』著者フレデリック・ラルーさんを訪ねて③
第5回:ホラクラシーに人間性を──ランゲージ・オブ・スペーシズが切り開く新境地
第6回:『ティール組織』の次本

-----『自主経営組織のはじめ方』無料公開-----
第7回:訳者まえがき(嘉村賢州・吉原史郎)
第8回:新しい組織論に横たわる世界観:第1章コラム
第9回:自主経営に活用できる2つの要素:第2章コラム
第10回:組織のDNAを育む:第6章コラム
第11回:グリーン組織の罠を越えて:第7章コラム
第12回:ティール組織における意思決定プロセス:第8章コラム
第13回:情報の透明化が必要な理由:第9章コラム

連載著者のプロフィール

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嘉村賢州さん(写真右)
場づくりの専門集団NPO法人場とつながりラボhome’s vi代表理事、東京工業大学リーダーシップ教育院特任准教授、コクリ!プロジェクト ディレクター、『ティール組織』(英治出版)解説者。京都市未来まちづくり100人委員会 元運営事務局長。まちづくりや教育などの非営利分野や、営利組織における組織開発やイノベーション支援など、分野を問わずファシリテーションを手がける。2015年に新しい組織論の概念「ティール組織」と出会い、日本で組織や社会の進化をテーマに実践型の学びのコミュニティ「オグラボ(ORG LAB)」を設立、現在に至る。共著書に『はじめてのファシリテーション』(昭和堂)。

吉原史郎さん(写真左)
Natural Organizations Lab 株式会社 代表取締役、『実務でつかむ!ティール組織』(大和出版)著者。日本初「Holacracy(ホラクラシー)認定ファシリテーター」。証券会社、事業再生ファンド、コンサルティング会社を経て、2017年に、Natural Organizations Lab 株式会社を設立。事業再生の当事者としてつかんだ「事業戦略・事業運営の原体験」を有していること、外部コンサルタントとしての「再現性の高い、成果に繋がる取り組み」の実行支援の経験を豊富にもっていることが強み。人と組織の新しい可能性を実践するため、「目的俯瞰図」と「Holacracyのエッセンス」を活用した経営支援に取り組んでいる。

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