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『自主経営組織のはじめ方』⑦ 第9章コラム:情報の透明化が必要な理由(吉原史郎)

ティール組織の3要素の中でも、とくに注目を集めるのが「自主経営(セルフ・マネジメント)」です。しかし、実践的・体系的なノウハウはまだ少なく、日本ではほとんど紹介されていませんでした。
2020年2月出版の『自主経営組織のはじめ方──現場で決めるチームをつくる』は、ティール組織の代表例である<ビュートゾルフ>の組織づくりにも関わったコンサルタントが、15年間にわたる知見を凝縮した一冊です。そして翻訳は、連載Next Stage Organizationsの執筆者である嘉村賢州さん、吉原史郎さん。全7回にわたって、日本語版に特別に追加した「訳者まえがき」と「コラム」をお届けします。

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『自主経営組織のはじめ方』第9章コラム
情報の透明化が必要な理由


情報の透明化が自主経営への近道

本書では、さまざまな箇所で現場チームに役立つ情報提供について触れられていますが、私も「情報の透明化」は自主経営を進めるうえで避けて通れない問題だと考えています。

情報の透明化とは、「(制限すべき理由がないかぎり)組織にいるすべての人が閲覧できる状態」を意味しています。事業面、財務面、人事面でさまざまな種類の情報がありますが、できるだけ透明化を進めたほうが自主経営への移行も速く実現できるでしょう。

もし情報の透明化がされていないと、どんな問題が生じるでしょうか。

一つ目は、「現場の意思決定力が弱まる」ことです。現場で必要な情報であるにもかかわらず、マネジャー以上のメンバーだけしか見ることができないと、メンバーはそのつどマネジャーにお伺いを立てなければならず、現場の意思決定スピードは確実に落ちるでしょう。

さらに、メンバーから、より経営に近い意思決定をおこなう機会も奪ってしまうことになります。たとえば、財務情報が一部しか公開されていない場合、メンバーは「資金の投資余地を鑑みながら優先的に資金を配賦する」という大きな意思決定の経験を積むことが難しくなります。

結果として、メンバーがマネジャーに指示を仰いだり、逆にマネジャーがメンバーに指示を与えたりするような、従来のやり方が継続される可能性も高まるのです。

二つ目の問題は、必要以上に情報が隠されていると、「経営陣への不信感」が生まれるかもしれません。自主経営の原則は本書でも繰り返し述べられているように、上司・部下の関係ではなく「信頼に基づく自己組織化」を進めることです。

経営陣が「自主経営に移行する」と宣言しているにもかかわらず、現場の意思決定が阻害されるようなことがあれば、メンバーは「自分たちは信頼されていない」と感じるかもしれません。すると、自主経営への意欲も削がれてしまうことになるでしょう。

このように、情報の透明化がされていないと、自主経営がお題目で終わってしまうという状況が生まれます。とはいえ、「すべての情報を一度に透明化すべき」と言っているわけではありません。情報を透明化することに対して反発や疑問が投げかけられるなど、大なり小なりカオス(混乱)が起こる可能性があるからです。


情報の透明化へのステップ

では、情報の透明化はどのように進めていくのが良いのでしょうか。情報の種類によって透明化がもたらすインパクトが異なるため、組織に生じるカオスの大きさも変わってくることに留意することが重要です。

そのため、小さなカオスから経験することで、メンバーが学習を深めていくのが良いステップだと考えています。カオスは必ずしも悪いものではなく、組織が自主経営を深めていくための貴重な学びを与えてくれるプロセスなのです。

これから、情報の透明化を進めていくための標準的なステップをお伝えします。もちろん組織によって進め方はさまざまなので、目安として参考にしてください。

①情報の透明化の現状を確認する

まず、「現在、どの情報が透明化されているか」を整理しましょう。具体的には、以下のような情報が挙げられます。

●財務や経理情報(たとえば、売上や給与などの費用項目)

●事業進捗に関する情報(たとえば、営業関連の問い合わせ件数や、ホームページへのPVや滞在時間など)

●総務や人事労務に関する情報

それぞれ、「組織全体で共有されている」「部門内だけで共有されている」というように程度の違いがあるでしょう。ここでは、透明化されていないことを悪く捉えるのではなく、「仕事を進めていくうえで必要な情報が透明化されているかどうか」に焦点をあてることが大切です。

透明化すべきでない情報がある場合は、「なぜ透明化しないのか」という理由と、「誰が何のために使用する情報なのか」をしっかり共有しておくと、余計な不信感を生まずに済むでしょう。

②どの情報から透明化するか、当たりをつける

現状が整理できたら、「どの情報から透明化していくか」を検討します。前述したように、情報の種類によって透明化がもたらすインパクトやカオスの大きさが異なるので、メンバーの共感を醸成するまでの時間も異なってきます。

たとえば、売上や顧客からのフィードバックのような、全員の業務に直結する情報は、透明化しやすいでしょう。一方で、「給与・報酬」や「評価」に関する情報は、組織の安心・安全な土壌が育まれていないと、必要以上のカオスを生みだしてしまうかもしれません。

また、財務情報のように専門性の高い情報は、分析したり読み取ったりするスキルをメンバーが身につける必要があるかもしれないので、そのための時間も考慮しておくとよいでしょう。

③対話によって共感を育み、透明化を進める

透明化する対象が見えてきたら、メンバーと対話しながら透明化を進めていきます。もちろん、すべての情報を一気に透明化することも可能ですが、前述したように、給与や報酬に関する情報は過剰なカオスが生まれやすく、より丁寧な対話が必要となります。

これらの情報は、従来なら管理職側に大きな権限があり、メンバーにとってはブラックボックスだったものです。そのため、「なぜ透明化したいのか」という理由に加えて、「誰がどのような手続きで決めているのか」という現状の仕組みも理解してもらうことが必要です。

対話を通じて、メンバーから改善案やフィードバックがたくさん挙がることもあるでしょう。そうして自発性を高めることで、自主経営への移行も円滑に進んでいきます。


ある企業では、経営者が『ティール組織』の自主経営に大いに共鳴し、すぐに情報の透明性を高めようとして、給料の公開に踏み切りました。唐突な情報公開にメンバーはとても驚き、「望んでもいないのに、お互いの給料を知らされてしまった」と抵抗感を抱く人も多くいました。そうした負の感情が組織内に渦巻き、経営者への不信感が募り、メンバー間の関係性に亀裂が生じるようになってしまったのです。

幸い、経営者はすぐに異常を感じて手を打ちました。信頼する外部のパートナーに依頼してメンバーとの対話の場を設け、「信頼しあえる組織にしたかった」という透明化する真の意図をメンバーに説明し、理解を得ることができたのです。その結果、メンバーの給料公開を一時保留し、まずは役員報酬の公開から進めました。

経営者ご自身のチャレンジ自体は素晴らしいと言えましょうが、この事例は、情報化の意図をしっかり説明することと、小さなカオスから経験することの大切さを教えてくれます。

このように、実行しやすい情報から透明化を進めていくことで、自主経営に慣れる期間を設けることができるのです。


対話の土台を育んでおく

これまで述べてきたとおり、情報の透明化にも対話が欠かせません。その土台となるのが、<コラム2>で既述した「心の循環の土壌」と「存在目的への共鳴」と言えるでしょう。

これらの要素がうまく育まれていないと、心からの対話ができないため、メンバーの共感を得たり、多様な意見を募ったりすることが難しくなります。経営者もメンバーの多様な文脈を自分自身のレンズでしか観ることができないため、せっかく対話を設けても活かすことができず、組織から離反する人が続出する危険性もあります。対話の土台をしっかりと育んでおくことは、転ばぬ先の杖となるのです。

吉原史郎


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ティール組織、ホラクラシー……いま新しい組織のあり方が注目を集めている。しかし、どれかひとつの「正解」があるわけではない。2人のフロントランナーが、業界や国境を超えて次世代型組織(Next Stage Organizations)を探究する旅に出る。

第1回:「本当にいい組織」ってなんだろう? すべてはひとつの記事から始まった
第2回:全体性(ホールネス)のある暮らし──『ティール組織』著者フレデリック・ラルーさんを訪ねて①
第3回:リーダーの変化は「hope(希望)」と「pain(痛み)」の共有から始まる──『ティール組織』著者フレデリック・ラルーさんを訪ねて②
第4回:「ティール組織」は目指すべきものなのか?──『ティール組織』著者フレデリック・ラルーさんを訪ねて③
第5回:ホラクラシーに人間性を──ランゲージ・オブ・スペーシズが切り開く新境地
第6回:『ティール組織』の次本

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第7回:訳者まえがき(嘉村賢州・吉原史郎)
第8回:新しい組織論に横たわる世界観:第1章コラム
第9回:自主経営に活用できる2つの要素:第2章コラム
第10回:組織のDNAを育む:第6章コラム
第11回:グリーン組織の罠を越えて:第7章コラム
第12回:ティール組織における意思決定プロセス:第8章コラム
第13回:情報の透明化が必要な理由:第9章コラム

連載著者のプロフィール

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嘉村賢州さん(写真右)
場づくりの専門集団NPO法人場とつながりラボhome’s vi代表理事、東京工業大学リーダーシップ教育院特任准教授、コクリ!プロジェクト ディレクター、『ティール組織』(英治出版)解説者。京都市未来まちづくり100人委員会 元運営事務局長。まちづくりや教育などの非営利分野や、営利組織における組織開発やイノベーション支援など、分野を問わずファシリテーションを手がける。2015年に新しい組織論の概念「ティール組織」と出会い、日本で組織や社会の進化をテーマに実践型の学びのコミュニティ「オグラボ(ORG LAB)」を設立、現在に至る。共著書に『はじめてのファシリテーション』(昭和堂)。

吉原史郎さん(写真左)
Natural Organizations Lab 株式会社 代表取締役、『実務でつかむ!ティール組織』(大和出版)著者。日本初「Holacracy(ホラクラシー)認定ファシリテーター」。証券会社、事業再生ファンド、コンサルティング会社を経て、2017年に、Natural Organizations Lab 株式会社を設立。事業再生の当事者としてつかんだ「事業戦略・事業運営の原体験」を有していること、外部コンサルタントとしての「再現性の高い、成果に繋がる取り組み」の実行支援の経験を豊富にもっていることが強み。人と組織の新しい可能性を実践するため、「目的俯瞰図」と「Holacracyのエッセンス」を活用した経営支援に取り組んでいる。

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