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グラフィックの講座なのに、ひたすら線を描く。会場は擬音のオンパレード!――“言葉にできない”自分の本音に気づこう【第2回ワークショップ】

グラフィックを使って、「言葉にできない」自分の本音に気づこう。
その「言葉にできない」部分を「言葉」でお伝えするべく、本連載山田夏子さん(通称なっちゃん)と読者モニター3人による、ワークショップのレポートというかたちでお届けしています。

今回行ったワークは3つ。ワークが進むにつれ、3人の「言葉にできない」感覚が開いていきます。長編の記事になりますが、描くものや発する言葉が、徐々に変わっていく様子をご覧ください。

この日は2回目のワークショップ。前回から1ヶ月ぶりに、またあの3人が集まりました。

(左から)
シンケル(31歳):製薬会社の開発職/職場の先輩に「あなたはどうしたいの?」と言われて、モヤモヤしている。/仕事と家庭の両立にも悩み中。
ハルちゃん(41歳):情報サービス会社の人材開発担当/2児の母で今は育休中。/子どもにはあって今の自分にはない気がする感覚を思い出したい。
カトちゃん(35歳):機械メーカーの新規事業開発担当/理系人間な自分と情熱的な自分との間で揺れ動いている。/アートとデザインの違いに興味あり。

今回のワークは「線」です!

なっちゃん こんにちは。元気にしていましたか? 今日もよろしくお願いします。では、手始めに……前回お話したこの図を覚えていますか?

カトちゃん ミンデルの図だよね!

なっちゃん すごい! そう、アーノルド・ミンデルさんの「3つの現実レベル」という図です。現実には、目に見える「合意的現実レベル」目に見えないけれど言葉になる気持ち「ドリーミング・レベル」、それから言葉にもなっていない感覚的なものや暗黙知を含む「エッセンス・レベル」という3つのレベルがあるという話です。

日常生活では、一番下にあるエッセンス・レベルの存在を無視して、ドリーミング・レベルや合意的現実レベルで、自分の状態を理解しようとする人が多いと思うんです。でも、ちゃんとエッセンス・レベルを自覚しておかないと、どうしても行き詰まってしまう。

たとえば、ドリーミング・レベルや合意的現実レベルで「大切でやりがいのある仕事だから、やらないといけない」と思っていても、エッセンス・レベルの「なんかなぁ……」というモヤモヤした感覚を無視しているかぎり、仕事がなかなか進まない……とかね。

前回エッセンス・レベルに耳を傾ける練習として、A4の紙をぐしゃぐしゃしながら、みなさんの感覚を表現してもらいました。今日からはペンを使いますよ。「線」のワークです!

(前回のA4の紙のワークの様子。)

シンケル 線!

なっちゃん そう、紙の次は線、次回は色……というかんじで、だんだんと絵に近づいていく予定です。

エッセンス・レベルは大切だけど、それだけでは、日々の人間関係や仕事に対処できないんです。今この紙ぐしゃぐしゃなかんじの感覚なんだけどなぁだけでは、仕事を進めるのは難しいですよね。

これから線、色、絵……というように、だんだんとよりわかりやすい形で、感覚を見える化していくことで、エッセンス・レベルでどっぷり感じたものを、日常に生かせるようにドリーミング・レベルや合意的現実レベルに落とし込んでいきます。


ワーク1:最近の自分の「揺らぎ」を線で描いてみよう

ハルちゃん カトちゃん、渋い顔してる(笑)。

カトちゃん うん、また苦手なやつかもと思って(笑)。

なっちゃん ちょっとずつやっていくから、大丈夫! 
今日は3つのワークをやりますが、まずはウォーミングアップということで、「前回のワークショップが終わってから、ここ最近の状態」を線で表してみてください。
1本の線でなくてもいいですし、曲線でも点でもいいです。但し、矢印にするとか、音符の形にするとか、形で説明することは、手放してください。
そして、今日は色を使わず、黒だけで描いてみてくださいね。シンケル、いい笑顔してますけど(笑)。

シンケル 今のところ、なにも浮かんでこないなと思って(笑)。紙に比べると、線って、急に説明っぽくなりそうで……。

なっちゃん 前回の紙と比べると、抽象度が低いからね。描いてみながら、探っていくといいかも。描いてみて違うなと思ったら、描きなおしてみるかんじで。線を使って、自分のなかの「揺らぎ」を表現してみてください。

ハルちゃん 揺らぎ?

なっちゃん うーん、たとえば……私は今こんなかんじ……です。どんなかんじがしますか?

(紙に線を描いて見せるなっちゃん。)

カトちゃん 二日酔いが治ってきた!

なっちゃん ははは、なるほど。昨日は紹興酒も飲んだしなぁ、みたいなね。

ハルちゃん “ごじゃごじゃ”のところが今で、このあとだんだん落ち着いていきそうというかんじかな?

シンケル 朝からバタバタしていたのが、このワークショップがはじまって落ち着いてきた……?

なっちゃん すごい、まさにそんなかんじです。昨日まですごく忙しくて、朝も対応しないといけないメールがきて「あぁ」となって、ついさっきまでバタバタしていたんです。みんなが来てやっと落ち着いて、「はぁ……」となりました。呼吸の動きみたいですね。
……というかんじで、早速みなさんもやってみてください!

(みんな少し考えていましたが、カトちゃんが大胆に描きはじめました。そのペンの音につられて、他の2人も描きはじめます。)

“うにょうにょ”広がっていくかんじ

なっちゃん そろそろ描けましたか? それでは、1人ずつ見ていきながら、みんなで話していきましょう。どなたからでもどうぞ。

(顔を見合わせて笑う3人。)

カトちゃん じゃあ、今日は俺からいきますね。ちなみに向きはないです。

シンケル ほぉ。

(しばし無言で線を眺める3人。)

ハルちゃん “むくむく”湧き出ているかんじ……かな。

シンケル なんか……「わかんねぇ」みたいなかんじ?(笑)。あ、でも、そのわりには意志を感じるかな。脳みそみたいにも見える。

なっちゃん 私は、思考が外に広がるのと、うーんって内に向かって考えるのが、頭のなかで“モクモク”しているかんじなのかなって思いました。カトちゃん、この線の心は?

カトちゃん えーと、この前の連載を友達にシェアしたら、いろいろフィードバックをもらえたり、議論がはじまったりして、楽しかったんです。その感覚を線で表現しました。花みたいなのが、“うにょうにょ”って広がっていくようなイメージ。

なっちゃん へぇ、友達はどんな反応を?

カトちゃん ハルちゃんとシンケルが言う俺の印象に、共感したっていう友達が多くて。意外と自分で思っているより、日常でも俺の中身は丸見えなのか、こわい……というかむずむずするなって思いました(笑)。

なっちゃん ふふふ、なるほど。では、つづいてハルちゃんかシンケル、お願いします。

上昇する前には、まだなにかあるはず

ハルちゃん はい、では私が。

カトちゃん 右肩あがりのグラフに見えますね。これから“ぴょん”って上がっていくけど、付け根は“ぐじゅぐじゅ”している。

シンケル 前回のワークショップから、今に向かって上がっていっているのかなぁ。

なっちゃん 「洗濯物とか部屋の片づけとかいろいろあるけど……もう来ちゃえ!」みたいな、すべて置いてここに来てくれたかんじを受けました。さっきここに“ぴょん”って登場した勢いに近い。

(この日、ハルちゃんは道に迷ったということで、会場に走って登場していました。)

ハルちゃん ふふふ。最初にボールを“しゅ”って投げて、見えなくなるくらい遠くにいくイメージで、右肩上がりの部分を描いたんです。でもこんなにすっきりしているわけはないなと思って。
“しゅ”っていくには、その前になんかいると思って、最初の“ぐじゅぐじゅ”をいれました。前回のワークショップで「うーん、そうか」っていろいろ考えたことと、今朝ここに来るまでが目まぐるしかったという両方をこめて。

なっちゃん バネみたいなかんじなのかな?

ハルちゃん そう、投げる前の「んん~」っていうタメのようなイメージ。

カトちゃん なんか生まれそうだな(笑)。

なっちゃん “ぽん”ってでてきそうだね。前回感じた「うーん、そうか」というのは?

ハルちゃん 前回ワークショップが終わったあと、シンケルと話したんです。カトちゃんは「わぁ、中まで見られてしまった」ってなっていたけど、私たちが話したことは、もともと言語化して外にだせていたことかもしれないって。

シンケル もうちょっとまだなにかあるはずと思ったんだよね。現実レベルで言ったら、まだエッセンス・レベルじゃなくて、ドリーミング・レベルかなって。

なっちゃん いい探求心! まぁ、1回目でできてしまったら、これからのワーク必要なくなるからね(笑)。

表面だけしか伝わらない悔しさ

ハルちゃん たしかに(笑)。どこまでいくんだろうという意味では、いいかんじでどきどきしてます。

(沈黙して、みんなでハルちゃんの線を見つめる4人。)

ハルちゃん 私も連載の記事を友達に見せたんだけど、「わかる!」っていう反応があったの。
会議とかで、「そういうことじゃないんだけど……」っていうときがあって、でも「じゃあ、どういうこと?」「端的に言うと?」って言われると、「や、えーと、やっぱりいいです」ってなってしまう。
仕事だと特に、言葉にすることを求められるから。そして、そういうやりとりをするうちに、「あれ、自分の本音はなんだったんだっけ」って、自分に戻ってくるかんじもある。
そういうことでモヤモヤしている人が、まわりにもけっこういたんです。

なっちゃん 私もグラフィックでなにかしようと思ったのは、その感覚があったからだと思う。自分自身が思ったり感じたりしていることを、言語化できないとか。一生懸命伝えようとしているんだけど、ずれて伝わっちゃうとか。全然意味が違うわけじゃないんだけど、表面でしか受け取られない悔しさみたいなのがあったんだよね。

「うーん、そこが言いたいんじゃなくって、もうちょっと奥にこんなのがあって……」っていう、奥のところをちゃんとやりとりできるようになったら、もっと人は理解しあえるような気がしていて

今グラフィック・ファシリテーションをするなかで、そういうことができてきてはいるんだけど、その場でなにが起こっているのか、臨床で解明したくて、みなさんに6カ月も付き合っていただくわけです(笑)。

カトちゃん 同じ言葉でも、阿吽の呼吸というかんじで波長が合う人には伝わって、合わない人には伝わらないことがあるよね。

シンケル そうそう、言葉がかみあわないだけじゃないというときがある。

ハルちゃん うん、なにかをしたいと思ったときに、波長の合う人たちとだけと付き合っていくわけにはいかないから。
何を言っているんだかわからないって今は言われてしまうような関係を、なんとかできるようになるといいな。

なっちゃん ちょっと伝わらなかったことの残念さとか悔しさが繰り返されると、人ってあきらめるようになっちゃうと思うんですね。そこをあきらめないでいられるようにしたいなという思いもあります。

泣いている子どもに「どうしたいの!?」って聞くと、なにも答えないんだけど、とりあえずすごく怒って泣きじゃくっているときって、あるじゃないですか。たぶん言葉にできないなにかがあるんだろうなって思うんですけど。

大人でもそういうことはあるんじゃないかな。そういうところを、お互いに受けとりあえるようになったらいいなと思っています。

(深くうなずく3人。)

「あなたはどうしたいの?」から、「私はどうしたいのかなぁ」へ

なっちゃん じゃあ、シンケルの線を見てみましょうか。

カトちゃん これはまた右肩上がりのグラフに見えるなぁ(笑)。ワークをやってみて、そのあと仕事で悩んで、でもまたこれからいけそうというかんじ?

ハルちゃん まっすぐじゃないけど、わくわくしているのが伝わるかな。あとは線が優しいの。

なっちゃん ハルちゃんの線は、力強かったもんね(笑)。最初はちょっとおっかなびっくりのところもあるかな。最後のほうはトーンが変わっているかんじもするね。

シンケル 私も前回のワークショップのあとに、ハルちゃんと話したことを思い出していました。まだだしきれていない気がする……じゃあ、あのグラフィックの先にはなにがあるんだろうって、この1ヶ月ずっと考えていて。
「なんで私この会社はいったんだっけ?」とか「なんのために働いてるんだっけ?」とか、「なんで生きてるんだろう?」とかぐらいまで考えていて…………すいません、なんだか私泣いてしまいました(笑)。

(涙をふくシンケル。)

なっちゃん いいと思うよ、この涙はなにを言ってくれてるんだろうね? シンケルからでてきてる声の一つだと思うんだけど。

シンケル おっかなびっくりというのは、言われてみてそうかもと思いました。
なんとなく先が見えそうな気配を感じているんだけど、できていないことがいっぱいあるなとも自覚していて。今日のワークショップは楽しみだったから、上がってはいるんですけど……。

なっちゃん 前回シンケルは会社の先輩に「あなたどうしたいの?」って聞かれても、答えられないし、なんでそんなこと聞くんだろうって言っていたよね。
それが今は自然に「私どうしたいのかなぁ」って、自分に聞いてみてあげれているのは、すごくすてきなことだと思います。

なっちゃんの言葉に深くうなずくシンケル。「最近の自分」を描いてみた1つ目のワークは、ウォーミングアップと思えぬほど深い話になりました。
次のワークでは、「今の自分」から「未来の自分」へ、これからの変化に思いをはせます。


ワーク2:「今」と「未来」を線で描いてみよう

なっちゃん それでは、そろそろ次のワークにいこうと思います。前回の宿題で「今の自分」と「未来の自分」をA4の紙でつくってもらいました。あの紙、お互いにコメントはしあったけど、それぞれがどういう気持ちでつくったのかは、言ってないですよね。

カトちゃん それ気になってた!

なっちゃん ですよね。でも、それをすぐに言葉にしてしまうのはもったいないので、これから線で表現してください!

(目をぱちくりさせるシンケル、微笑むハルちゃん、眉をしかめるカトちゃん。)

なっちゃん ふふふ。さっきと同じ要領で、何本でもいいし、曲線でも点でもいいので、自分にフィットする感覚を描いてみてください。

カトちゃん うーん。とりあえず、糖分がいるな。

シンケル なんだか楽しくなってきたかも。

(チョコを食べるカトちゃんの横で、シンケルはサラサラとすぐに描きはじめました。)

(止まっていたカトちゃんも、思い立ったかのように、大胆に描きはじめました。)

(ハルちゃんは、しばらく紙と向き合ったあと、ペンのキャップをとって、おそるおそる描きはじめます。)

(ハルちゃん、「今」を描き終わったあと、しばらく止まってしまいます。)

(またペンを手に取って、描きはじめるハルちゃん。納得いかず、何枚か描きます。)

ハルちゃん うーん、なにかが違う。

なっちゃん 何枚か描いてみて、こっちかなって、いろいろしていくうちにでてくるかも。

ハルちゃん いや、やっぱりこれでいいです。

なっちゃん お、いいですか? はい、ではみなさん、その2枚を並べてもらって。「今」と「未来」がどう違いそうか、線を見ながら、しゃべってもらっていいですか? その対話を私がグラフィックで描いていきます。

(並べると現代アートのようです。奥から、カトちゃん、シンケル、ハルちゃん。)

今ある“ぐじゃぐじゃ”を無きものにしない。

なっちゃん お、シンケル、にやりとしましたが、どうですか?

(シンケルの「今」(下)と「未来」(上)。)

シンケル 私のはですね、色で言うと……(笑)。

カトちゃん あえて色で言うんだね(笑)。

なっちゃん 色を使わなかったからこそ、色がでてきちゃったんだよね。いいと思います(笑)。

シンケル うん、まず色がでてきちゃった(笑)。「今」がすごく濃いネイビー、なんなら真ん中は黒みたいなのが、「未来」は白に近い黄色になるイメージなんです。
言葉にしているのに、よけい抽象的になっちゃいましたね(笑)。

なっちゃん ほぉ、おもしろいね。それを聞いて2人は、どう感じている?

カトちゃん なんかわかる気がするなぁ。

(にこにことシンケルを見てから、ハルちゃんが話しはじめます。)

ハルちゃん ……言っていいかな? えーと、高さで言うと…(笑)。

カトちゃん 高さ!? みんな違う軸でしゃべっていて、すごい(笑)。

ハルちゃん ふふふ、高さというか、深さかな。深いところ、奥から上がってきたかんじ。それか夜から朝になるみたいに、なにかがひらけていくような。
闇まではいかないんだけど、暗いところ……あ、「暗い」でもないかな……やっぱり奥まったところから、“ふわ”ってでてくるかんじ。

シンケル 色で、高さで、次はなにがでてくるのかな(笑)。

カトちゃん ハードルあげるのやめてくれる?(笑)俺は宇宙っぽいなって思った。「今」が地球ができる前の暗黒惑星のガスで、「未来」は銀河系みたい。1個の“ぐにゃぐにゃ”が、一つひとつの点になっていく、ズームアウトしてスケールが広がっていくイメージ。

シンケル ほぉ。「今」はやっぱりモヤモヤ、しかも、きっと見えないなにかあるんだろうなというのがあったから、中心を濃くしたの。
前回のワークショップで、自分でもよくわからないけど、なにかきっと本音があるんだろうなって、はじめて気づいたような感覚があったから。

「未来」は、このワークショップが終わるころには、そのモヤモヤがすっきり……途中で“ぱん”ってはじけるイメージだといいなと思ったんです。で、最初はなにも描かない白紙かなと思ったんですけど、きっとそこまで真っ白にはならないだろうなっていうか、ならなくていいんだろうなと思って。

はじけたカスが残っているかんじにしました。顕微鏡をのぞいたときのノイズみたいな。私なに言ってるんですかね(笑)。

なっちゃん この点々があるのも大事っていうことかな、今ある“ぐじゃぐじゃ”を無きものにしないというか。そんなふうに聞こえました。

カトちゃん はじける前の花火みたいなかんじかな。

ハルちゃん あ、大きい花火があがったあとに、“きらきらきら”ってなるのに似てるかも。

シンケル あぁ、そんなかんじかも。さっきの奥からでてくるかんじとか、宇宙っぽいっていうのも、しっくりきたんだよね。ビックバンみたいなイメージ。

カトちゃん 爆発だっていうかんじがあるよね(笑)。

なっちゃん ありがとうございます。じゃあ、次の方に言ってみましょうか。

エッセンス・レベルを共有するということ

ハルちゃん はい、では私いきますね。

(ハルちゃんの「今」(下)と「未来」(上)。)

シンケル おもしろい……。「今」のほうは最初ぱっと見、雨っぽいなと思ったんですけど。でも、いろんな形があるから、いろんな感情が整理されず、いっぱいあるかんじなのかなぁと思いました。「未来」はよくわからない……まだ若干迷っているかんじもするけど、1本の線だから、意外とまっすぐなのかなぁ。

カトちゃん うーん、俺も似たような印象。「今」は雨の日のガラスみたいに、雫がたれているような。でも、やっぱりよくわかんないなぁ(笑)。

「今」と「未来」の比較で見ると、たくさんの小さなものが、1個の志みたいなものに収斂していくみたいな感覚なのかな。でも“くるくる”してるのは、行ったり来たりしているかんじもある? 
あと、「未来」は紙からはみだしているかんじ、跳んでるかんじがしていいなぁと思いました。ははは。

(2人の話を微笑んで聞くハルちゃん)

ハルちゃん うん。これはですね……。

(しばらく線を見て、沈黙)

ハルちゃん なんか……つまり前回のワークショップを経ての「今」は、いろんなものが、ちょっとずつでてきているかんじ。

なっちゃん ほぉ。なるほどねぇ。

ハルちゃん 雫がたれているんじゃなくて逆向きで、“うにゃにゃにゃ”って、でてきてるかんじ。

カトちゃん そう言われてみると、“くるっ”としてるのがワラビっぽいな(笑)。

ハルちゃん “にょき”って。芽がでてくる途中なのね。これから上にいくやつもあるし、たぶん“べこ”ってしおれちゃうのもきっとあるし。いろんな形のいろんなものが、この前のワークショップで発芽……したのかな。

なっちゃん 発芽かぁ! アルファルファに見えてきた(笑)。

ハルちゃん そう、発芽。「未来」は、やっぱり今見てもなんか違うなというかんじがあるんだけど。いっぱい発芽したうちの一つというわけでもなくて。もっとこうなんか、すごい上の方に“ぽわぁ”っていくんだけど、上がりきらないような……。

なっちゃん 発芽したのが、舞っているかんじ?

ハルちゃん 舞う! たしかに、上に向かってひらけていくかんじ。でも、いっきに“ばん”っていくかんじではなくて、“ふぁぁ~”って。タンポポの綿毛みたいな。

なっちゃん “ふぁぁ~”、ね。

シンケル 途中まで聞いて、トトロの芽をだすシーンをイメージしていたんだけど、あの勢いではないんだよね……?

カトちゃん 次の日の朝に、でっかい木になるやつね。

ハルちゃん あ、でも、でっかい木になるのもいるし、“ふぁぁ~”っていうのもいるかんじかも。

なっちゃん ふふふ、これ今ここにいる人にしかわからない絵だよね(笑)。

ハルちゃん たしかに(笑)。むしろここにいる人はわかるっていうのが、すごい(笑)。

なっちゃん このメンバーでは、エッセンス・レベルを共有できたっていうことだよね。

シンケル それが普段もできたらいいんだけどなぁ。

なっちゃん 普段もできるようになっていきますよ。ではそろそろカトちゃんの線にいってみましょうか。

機械っぽいものから、生きているものに

(カトちゃんの「今」(下)と「未来」(上)。)

シンケル 「今」はかたさがあって、「未来」はやわらかくなってる。

ハルちゃん うん、「未来」は滑らかだよね。そして、やっぱり星みたいな形がある。

シンケル そうそう、星!

(二人につっこまれて、たじたじになるカトちゃん。)

ハルちゃん あと「未来」は、やわらかいんだけど、“どろどろ”とか“ゆるゆる”ではなく、“きゅ”ってしてるかんじ。生クリームをたてるときにツノがたつようにっていうじゃないですか。そういうイメージ。

やわらかいんだけどかたい。いや、逆でかたいけどやわらかいのかな?

シンケル なんか立ち上がってるかんじがするよね。

ハルちゃん うんうん、そういうイメージ。最後“くにゅ”ってなって終わるのも、不思議なかんじがある。なんかかわいい。

カトちゃん そう?(笑) 「今」のほうは、切るとか、白黒つけるとか、分けるとか、そういう感覚に近かったんだよね。「未来」のほうは、“ねじねじ”するとか、“ぐるぐる”するイメージがあって、なにかとなにかを行ったり来たりするみたいな。
で、本当はもっと“ぐるぐるぐるぐる”描きたかったんだけど、紙のスペースがなくなって、最後は“くにゅ”ってした。

シンケル&ハルちゃん ほぉぉぉ!

ハルちゃん 行ったり来たりっていうのは、私の線も近いかも。

カトちゃん うん、なんか基本同じかんじがするよね。“ねじねじくん”なかんじ(笑)。

なっちゃん “ねじねじくん”(笑)。「未来」はいろんなもののエネルギーを受け取っているかんじがするなぁ。

カトちゃん たしかに機械っぽいものから、生きているものになっていくかんじかも。俺は早く生物、人間になりたいのかな(笑)。

なっちゃん ははは。

だんだんと話す言葉が感覚的になってきた3人。
なっちゃんの言う「エッセンス・レベル」の現実に、どっぷり浸かって、自分たちの感覚と向き合っているようです。


ワーク3:ワーク2で描いた2本の線の「間の物語」を線で描いてみよう

なっちゃん それでは、もう1つだけワークをしましょう。描いてもらった「今」と「未来」の間の変化を想像して、新たに3枚くらい、線を描いてほしいんです。
今ある2枚を眺めながら、その間にどんな物語があるのか、想像してみてください。

シンケル 楽しそう!

ハルちゃん ふふふ。

なっちゃん カトちゃんは、腕組みしていますけど(笑)。

(それぞれ自分の描いた線を眺めて、描きはじめる3人。)

ハルちゃん あ、こうか……。(小声で)

シンケル あ、ごめんなさい、思わずテーブルにとびだしちゃった!
(シンケル、勢いあまって、テーブルに線がとびだしてしまいました。※水性ペンなので大丈夫です。)

なっちゃん 各々制作活動しているかんじだねぇ。

間を描いてみると、さっきと少し違った

なっちゃん できましたか? じゃあ、並べて眺めてみましょうか。
シンケル はい、じゃあ、私の並べますね。

ハルちゃん “ぐしゃぐしゃ”を、まずほぐすんだね。ほぐしたあと減っているのは、去っているのか、ズームインしているのか……どっちなんだろう。

カトちゃん なんか生き物が生まれているみたいにも見えるな。ばらばらなものが線になって、絡みついて、一つのものになっていくような。さっきの宇宙の雰囲気とはまた違うなぁと思いましたね。

なっちゃん 私は肩こりが、だんだんとほぐれていくかんじがしたな。

ハルちゃん あぁ、たしかに血行が良くなっているかんじかも。

カトちゃん あぁぁ、うん、紐解かれて、“さら”ってなっていっているかも。

シンケル うん、さっきは爆発って言っていたけど、あらためて間を考えてみて、思い浮かんだイメージが、爆発というより、“すぅ”って消えてなくなるかんじがしたんだよね。
ほぐれたあと、“わぁ”って広がって、“さぁ”っと溶けたかんじ。それで紙をはみだして、テーブルまでいっちゃったんですけど(笑)。

なっちゃん へぇぇ。溶けたってことは、未来にもあるにはあるのかな。

シンケル あぁ、そうかも。液体とかになって……。

なっちゃん 「今」は異物なものが、シンケルのなかに浸透していくのかな。

シンケル うんうん。だから、肩こりのイメージもしっくりきた(笑)

なっちゃん ははは、よかった(笑)。ありがとうございます。わぁ、すごいなぁ。じゃあ、次の方にいきましょう。

多様なものを受け入れていきたい

ハルちゃん じゃあ、私いきますね。

なっちゃん おぉ、最後は一段上がるんだね。そして、なんかきれい……。

シンケル なんかちょっと、言い方はマイナスに聞こえるかもしれないけど……あの……魂が成仏しているかんじが……する(笑)。

カトちゃん たしかに、昇華しているかんじ(笑)。

ハルちゃん ははは。

なっちゃん 私は発芽のイメージがあるせいか、すごく生き生きした葉っぱのように感じた。あ、でも、やっぱり天に召されるかんじもあるよね(笑)。

(沈黙して眺める4人)

なっちゃん 1枚目で“ふぁふぁふぁ”ってなっていたのが、3枚目とか4枚目になると、1個1個に意志があるかんじになっているように見える。

(3枚目と4枚目)

ハルちゃん うん、だんだんどれか1個に集約していくとか、みんながくっつくとかではないんだよね。いろんなものが、それぞれ上に広がっていって、最後は舞っていくようなイメージ。

なっちゃん ハルちゃんはなんか……もっと多様なものを受け入れたいって思っているのかなぁ。
前回も、マネジャーとして仕事を前に進めることを大事にしていたところから、子育てを経て、広がりとか可能性とか自分が想像できないものを、受け入れたいというような話があったよね。

ハルちゃん 元々の私は、“ふぁふぁふぁ~”って舞うかんじがあったんだけど、仕事で管理をしなければってなったときに、そのままではいられなかったんだと思う。
でも、言葉で表現してまとめて、なんとかしようとしてみて、やっぱりうまくいかないことがあった。
育休で管理という役割を離れたら、子どもは“ふぁふぁふぁ~”ってしているし、少しずつ元の私に戻ってきているかんじがある。

なっちゃん 健やかだもんね、この線。そして、魂の成仏というのも、わかる(笑)。

シンケル 成仏って言っても、ポジティブなのですよ。

ハルちゃん うんうん、わかるよ。

カトちゃん これに色をつけていくと、きっとそのポジティブさがわかるんだろうね。

なっちゃん カトちゃんが、次回を彷彿とさせるコメントをしてくれたところで、次いきましょうか(笑)。

この線の間になにがあったのか、もっと知りたい

カトちゃん 予告するつもりはなかったんだけど(笑)。はい、俺のはこんなかんじです。

シンケル わぁ。

ハルちゃん 3枚目から4枚目の間になにがあったんだろう。なんだろうなぁ。「いや、俺、本当にこうだっけ?」みたいなのを感じる(笑)。やわらかくしてみたけど、4枚目であらためて整頓しているような。

シンケル 3枚目の“くねくね”はまだやわらかくなりきっていないかんじがするよね。私もそのあと4枚目までになにがあったのか気になる。もっと知りたい。

カトちゃん これはですね、自分の行動の変化のイメージです。「今」から「未来」にいくときに、きっとまずは、最短距離で行こうとするんですよ。“しゅ”って。それが2枚目。
でも、それじゃあたぶんだめで、3枚目で行ったり来たりして、4枚目で線の数を増やしたり、組み合わせたりしていくんだろうなぁというのを描きました。

シンケル&ハルちゃん ほぉぉぉぉ。なるほどねぇ。

なっちゃん なんだかパンの生地をこねるみたいに、とりあえず全部の筋力使って変化しようとしているかんじがするよね。最初のやつは、形状記憶みたいに“ぴーん”としてるんだけど、そこから真っすぐにひっぱってみて、もう1つ関節つくって、いろいろやってみた結果、やわらかくしなやかになりました、みたいなかんじなのかな。

カトちゃん うん、そんなかんじかも。

「途中で変わっていくんだろうな」を感じながら、描く

なっちゃん みなさん、ありがとうございました。今日は、感覚を「線の揺らぎ」で表現してみましたが、どうでしたか?

シンケル 紙で形をつくるのと、線で描くっていうのが、似ているようで全然違う。紙のときより表現を限定されるかんじがして、難しかったんだけど、おもしろかったです。

カトちゃん 最後にやったのは、ビジネスで事業計画をつくるのに似ていると感じました。将来のビジョンを決めて、現在を把握して、それに至るまでの過程を考えてつくっていく。でも手法は、線で“もにゃもにゃ”ってやるというのが、新鮮だった。

ハルちゃん そうそう、ビジネスに近い部分がありながらも、違う種類の難しさを感じた。もっと予測不可能で途中で変わっていくんだろうなというものを、描こうとする作業だったからかな。変わっていくかんじを想像しながら描いたというか。

なっちゃん うん、途中で変わっていくんだろうなというのは、とても大事なポイントです。
最後の線がゴールというわけではないんだよね。きっと間にある過程を描いたことで、別の可能性も感じられたんじゃないかと思います。
そんなふうに元の形にとらわれずに、モヤモヤしたものを無理やりすっきりまとめようとせず、自由にエッセンス・レベルを感じていけるといいんじゃないかなと思っています。
ということで、今日はこれでおしまいです。

「今日はなんだかあっという間だったなぁ」と話しながら、帰っていった3人。
他人が見たらなんのことやらわからない形状をした、それぞれの線を見ながら話し合う様子は、お互いの言葉にならない感覚に、耳を澄ましているようでした。

1ヵ月後の次回は、カトちゃんが予告してくれたとおり、「色」を使ったワークです!


ワークをやってみよう

今回3人がやったワーク。どれも紙とペンさえあればすぐにできるものなので、ぜひみなさんもやってみてください。
(だんだんと深まっていくワークなので、ワーク1から順番にしていくことをおすすめします。)

ワーク1:最近の自分の「揺らぎ」を線で描いてみよう
ワーク2:「今」と「未来」を線で描いてみよう
ワーク3:ワーク2で描いた2本の線の「間の物語」を線で描いてみよう

一番のコツは、言葉で(つまり、ドリーミング・レベルや合意的現実レベルで)考えてから描くのではなく、まずはペンを手にとって感じたままに(自分のなかにあるエッセンス・レベルを感じとって)描いてみること。

ハルちゃんがやっていたように、何度描きなおしてもいいので、自分の感覚にしっくりくるまで、どっぷり自分のエッセンス・レベルに浸かりながら、描いてみてください。

描いてみたら、その線が自分にとってなにを意味するのか、そこにはどんな本音があるのか、思いをはせてみましょう。このときは、ドリーミング・レベルや合意的現実レベルの言葉を使って考えてみてもokですが、擬音満載で話していた3人のように、さらにエッセンス・レベルの感覚も探求してみてください。

また、1人でももちろんできるワークですが、3人のように誰かと一緒に線を眺めながら対話をしてみると、1人では気づけなかった感覚に気づくことができるかもしれません。

身近な人に感想を聞いてみてもいいですし、TwitterやFacebookにハッシュタグ「 #言葉にできない本音 」で投稿してハッシュタグをつけた人同士でお互いに感想を言い合うのもおすすめです。

ぜひ自分の描いた「線」をとおして、“言葉にできない”自分の本音とじっくり向き合う(感じとる)時間を過ごしてみてください。


連載のご案内

連載言葉にできない”自分の本音に気づこう」

第1回 :「絵が苦手な」読者モニター、3人が決定。グラフィック・ワークショップ、いよいよ開催へ。
第2回:グラフィックのワークショップなのに、絵を描かない?
第3回:読者モニターの語りを、山田夏子さんがグラフィックで描くとどうなるか?
第4回:グラフィック・ワークショップの宿題なのに、またもや描かない??
第5回:グラフィックの講座なのに、ひたすら線を描く。会場は擬音のオンパレード!
第6回:「絵が苦手」だったはずが、いつのまにか抽象画を描いていた!?
第7回:物語をつくると、「言葉にできない本音」が見えてくる!?
第8回:他人だったモニターは、なぜ「家族のような」関係になったのか
山田夏子(やまだ・なつこ)
株式会社しごと総合研究所代表取締役、一般社団法人グラフィックファシリテーション協会代表理事、システムコーチ/クリエイティブ・ファシリテーター。
株式会社バンタンでアーティスト、デザイナーをめざす学生指導や講師マネジメント、バンタンデザイン研究所ヘア&メイクスクール館長、人事部教育責任者を経て、2008年株式会社しごと総合研究所設立。
「クリエイティブ」を仕事や教育、生活などの中で、豊かな営みとして活用できるよう、グラフィック・ファシリテーションの講座、ワークショップや研修を提供している。NHK総合「週刊ニュース深読み」「クローズアップ現代+」などのTV番組で、グラフィック・ファシリテーションをすることも。