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他人だったモニターは、なぜ「家族のような」関係になったのか――“言葉にできない”自分の本音に気づこう【第5回ワークショップ】

グラフィックを使って、“言葉にできない”自分の本音に気づこう。
その“言葉にできない”部分を「言葉」でお伝えするべく、本連載山田夏子さん(通称なっちゃん)と読者モニター3人による、ワークショップのレポートというかたちでお届けしています。
今回は3つのワークをとおして、今まで描いてきたものはなんだったのかを探っていきます!

第4回ワークショップから1ヶ月、またこの3人が集まりました。

(左から)
シンケル(31歳):製薬会社の開発職/職場の先輩に「あなたはどうしたいの?」と言われて、モヤモヤしていた。/仕事と家庭の両立にも悩み中。
ハルちゃん(41歳):情報サービス会社の人材開発担当/2児の母で今は育休中。/子どもにはあって今の自分にはない気がする感覚を思い出したい。
カトちゃん(35歳):機械メーカーの新規事業開発担当/理系的で冷静な自分と情熱的な自分との間で揺れ動いている。/アートとデザインの違いに興味あり。

ワーク1: 線と色で「今の気持ち」と「今日終わったときの気持ち」を描いてみよう

なっちゃん 今日もお願いします。前回のワークショップでピークがきたかんじはしましたが(笑)。

ハルちゃん 前回の最後、私もそう思った(笑)。

シンケル 次なにするんだろうって(笑)。

なっちゃん ふふふ。今回と次回はそのピークが打ち上げ花火で終わらないように、これまでこのワークショップで体験してきたことを、日常に落とし込んでいけたらいいなと思っています。

では、今日もまずはチェックインからしていきましょう。「今この瞬間の気持ち」と「今日このワークショップが終わったときの気持ち」の2つを、色と線を使って描いてみてください。終わったときの気持ちは、希望でも予想でもいいです。

カトちゃん 今日のワークでなにやるかはわからないけど、感じてみるってことね(笑)。

なっちゃん そう(笑)。だいぶ慣れてきましたね、この流れに。

みんな独り言をつぶやいたり、おしゃべりしたりしながら、描いていきます。

会ったのは5回目、でも家族みたいな関係

ハルちゃん カトちゃん、いつもと色選びが違う気がする。

カトちゃん そうかな。
(照れるカトちゃん)

ハルちゃん 私、心のなかにでてくるのは、いつも同じものなんじゃないかって気がしてきた。この人、いつもいる。

カトちゃん その丸い人ね(笑)。

シンケル なんか三歳児の絵みたいになっちゃった、へへへ。

なっちゃん それはきっと本音を描いてる証拠だよ。三歳児は人にどう思われるか気にしてないから。

カトちゃん シンケル、はじめのころと比べると、雰囲気が変わったよね。最初のころはもっとかたかった気がする。今のシンケルが本当のシンケルなのかな。

ハルちゃん 外向けのシンケルだったのが、お家のシンケルになってきたのかも。

シンケル それはあるかも。家族っぽいというか、みんなのことを勝手にお兄ちゃん、お姉ちゃんみたいに感じているところがある(笑)。

カトちゃん お兄ちゃんか…妹いないから感慨深いな。

なっちゃん しみじみしてる(笑)。この5回のワークショップで家族みたいな関係になったということだよね。すばらしいね。
……では、そろそろやってみますかね。私からいきます。「今この瞬間の気持ち」はなんか疲れてるんですよ。ずーんって重くて。

カトちゃん 深海ってかんじ。

なっちゃん で、これが「今日終わったときの気持ち」。終わるころには、ふぁ~って浮き上がってきていたらいいなっていうイメージ。これを描いて話している段階で、既にふぁ~ってなりはじめてる気がする。
では、つづいてどなたかどうぞ。


このあとは、いつもどおり3人がお互いの絵にコメントをしあいます。それぞれの絵ももちろん興味深いですが、今回はぜひお互いのコメントのやりとりにも注目してみてください。
ワークショップを重ねてきたからこその現象が起きています。


モヤモヤが消えた先に、生まれるもの

シンケル はい、私の「今この瞬間の気持ち」はこれです。

ハルちゃん いろんなのがわしゃわしゃわしゃっているかんじは、今までと同じなんだけど、色が全然ちがうね……! 紫のあいつがいなくなった!!

(これまでシンケルの絵に、毎回でてきていた“紫のあいつ”)

カトちゃん うん、あの暗い色もないし、いつもいた丸っぽいかたまりがなくなって、今日は全体が融合してる。

なっちゃん ね、きゅっとしていたのが、今日は広がってるかんじ。その心は?

シンケル えーと、プラスもマイナスもいろんな感情あるなぁって思って、いろんな色をいれました。で、「今、私この気持ち!」っていうのは、明確に見つけられなかったから、わしゃぁって。
で、みんなの話を聞いていて思ったんだけど、前までいた紫のモヤモヤが、このワークショップでどっかにいったから、焦点が合わなくなったのかも。

なっちゃん 今はまっさらな状態ってことなのかな。これからなにかのっかってくるのかもね。

シンケル そうかも。で、「今日終わったときの気持ち」がこれです。

なっちゃん 生まれてきているかんじがするね。卵サンドっぽくもある(笑)。

ハルちゃん ひまわりみたい。熱量があるものから、なにかがわっとでてるようなエネルギーを感じる。

カトちゃん うんうん、楽しいねぇ。ピクニックいくぞ~っていうかんじがする。

シンケル ははははは。うん、終わったときには、また新しいなにか、次にこうしようというなにかを見つかったらいいなと思って描きました。

なっちゃん この絵だと、見つかってるよね。そして、それにもう息吹が宿ってる。ありがとうございます。

大ボリュームな変化の春

ハルちゃん じゃあ、次は私いきますね。これが「今この瞬間の気持ち」。

シンケル 鳥の巣みたい。そして、ハルちゃんの絵は、やっぱり上に向かってるかんじがある。

なっちゃん あったかくて、豊かで、力が湧きあがってるね。龍の目にも見える。こぉーって龍が上にいくかんじの強さがある。

カトちゃん ハルちゃんの絵は、生き物感があるよね。外のオレンジ色のところに強さを感じるなぁ。あと、オムレツにも見える(笑)。

なっちゃん では、ハルちゃん、その心は。

ハルちゃん なんかそんなたいそうなものでもなくて……春だなぁって感じてるのが、でちゃった(笑)。はみでちゃうくらい春なんですよ。

3人 あぁぁ、なるほど。

ハルちゃん この春、生活がいろいろ変わるの。育休から復帰して仕事に戻るし、娘がもうすぐ3歳になるし。

シンケル ほんとだ、春だぁ。

なっちゃん 春だねぇ。そして、大きく変わっていく迫力が伝わってくるボリューム感だね。

ハルちゃん で、これが「今日終わったときの気持ち」です。

なっちゃん まっ!

シンケル ははは、ほんとだ、あれだ(笑)。


(※「まっ」とは、前回のワークショップで、ハルちゃんが自らの絵につけていた音です。)

なっちゃん 春に大きく変わるいろんなこと、一つひとつに焦点があたるイメージかな。どの要素も、それぞれきゅっと自立して意志がある。そういう雰囲気を感じるな。

シンケル これから起こるいろんなことに、前向きになってるかんじ。

カトちゃん 1枚目と上下の関係かなという気もする。1枚目からもわっとでたものが、ぽこぽこぽこぽこって2枚目に上がってきてるかんじ。

ハルちゃん うん、みんなが言ったことが、あ~それそれっていうかんじかも(笑)。1枚目でぱちぱちいろんなものがでてきていて、2枚目で楽しみなものがあがってきて形になったり、ふぁってはじけたりするイメージ……に終わったときにはなってるといいな。

なっちゃん うんうん、なってるといいね。つづいてカトちゃんどうぞ。

3つの「お気に入り」を見つける

カトちゃん はい、「今この瞬間の気持ち」はこんなかんじです。

シンケル わーー。

なっちゃん 今までのカトちゃんとはちょっと違うね!

ハルちゃん 変わった! 次につながるタネがいくつか見えそうというかんじかな? 「あのへんが気になる」っていうところに、焦点を当てようとしている……?

シンケル 私も同じこと思った。そこをこれから見に行こうというかんじ。

なっちゃん 以前はカトちゃんが黒い線で、そのまわりに外部要因として色がある絵だったのが、前回からだんだんカトちゃんのなかにも色がまざってきたって言っていたよね。まさにそのかんじ。(黒い線があったころのカトちゃんの絵)

カトちゃん うん……みんなが言っているのが正解かもしれなくて。

一同 はははは。

カトちゃん 宿題で、自分の絵に人からフィードバックをもらうというのをしてきたじゃないですか。

前回の終わり、こんな宿題がでていました。

ここにいる人以外の人に、自分が描いたものを見せたり、語ったり、表現してきてください。今まで安全なこの場でお互いフィードバックしてきましたが、もう明解に説明しなくても、聞いている人がとりにいけるくらい豊なものになっているはずです。ぜひ勇気を持って他の人に見せてみてください。」

カトちゃん そのフィードバックで、気づきをいろいろともらえて、俯瞰とか客観視をできたなと思って。だから自分の内側を衛星みたいに上から見にいっているようなイメージ。なにかありそうだなぁって。
で、これが「今日終わったときの気持ち」。

シンケル 見つけたねぇ! どれも楽しそう。

ハルちゃん これまでと色と質感が全然ちがう。

なっちゃん どれも大事なお気に入りなかんじがするね。1枚目からだんだんピントが合ってきたかんじがあるよね。

カトちゃん ははは。スカイダイビングでおりてきて、見つけるかんじがいいなぁと思って。3つゲットできたらいいなって。

お互いの領域に、踏み込み合う関係

なっちゃん なんだか5回のワークショップを重ねるなかで、お互いの絵に対するコメントがすごく変わってきたよね。

前は物理的に「これがどう見える」みたいな話をしていたと思うんだけど、筆の力強さとか色の置き方とか、本人が自覚的にやってるかわからないところまで話すようになった気がする。

(大きくうなずくカトちゃん)

カトちゃん これまで美術館に行ってもおもしろくなかったんだけど、今なら楽しめそうな気がしてる。

ハルちゃん 絵の見方が変わりそうだよね。キャプションに書かれているものを読むんじゃなくて、自分で意味を感じとるような。

なっちゃん 前回から思ってたことなんだけどね。こう、2人の人がいるとするじゃない。
(おもむろに絵を描きはじめるなっちゃん)

で、私たちって、コミュニケーションとるときに、「明確に、わかりやすく、相手に伝わるように伝えなきゃいけない」って思いがちなんだけど、それだとたぶん一方通行なんだよね。伝えようとしているほうだけが、相手の領域に踏み込もうとしている状態。

で、私たちは、ワークショップを重ねていくなかで、だんだんとお互いに踏み込み合う関係になってきた気がする。さっき話していた家族みたいな関係という表現にも、つながるかもしれないけど。

シンケル あー、しゃべっていて楽だなっていうのは、みんなが踏み込んで、取りに来てくれるからかも。

カトちゃん うん、この場では「それが言いたかったんだよ!」っていう瞬間がよくある。

なっちゃん 一人で完結するんじゃなくて、片方が発信してたら、もう片方の人はそれを取りに行ったり、「こう見えるよ」って伝えてみたりする。
そうやって受け取る側も踏み込むことで、発信する側が持っていたものも鮮明になってきて、発信する人自身も鏡のように変わってくるんじゃないかな。
コミュニケーションってそういうことなんだねって、今のみんなのやりとりを見ていてしみじみ思いました。

カトちゃん 一緒に踏み込んでいくって、つまり、相手の立場に立って、相手の言葉を一緒に探していくかんじだよね。「わかりやすく言ってよ」って、ただ待つだけじゃなくて。

なっちゃん うん、そうやって踏み込み合っていかないと、わかりあえないことって、きっとあるよね。


ワーク2: まわりの人に自分の物語を見せてみたあとの気持ちを、絵にしてみよう

なっちゃん ありがとうございました。おもしろいね。今回もチェックインで大満足だけど(笑)、そろそろ本編にいきますね。前回だした宿題「つくった物語を、この場にいる以外の人に見せてみる」をやってみてどうだったかお互いにシェアしてみましょう。ということで、宿題をやってみたあとの気持ちを絵にしてみてください!

カトちゃん ほぉ……! 言語でもらったフィードバックを抽象化するということだよね?
(難しい顔で腕を組むカトちゃん。)

なっちゃん うん、「見えないものを、見える化する」いつもと逆だね。今回は「言語化されているものを、抽象的に表現する」ワーク。絵を描いたあとに、また言葉でシェアしてもらおうと思っています。
こんなふうに行ったり来たりすることで、クリアになってくるものがあるのではないかと思います。

(なっちゃんの話を聞いて、腑に落ちた様子の3人。ペンを手にとって描きはじめました。)

どうやったら、自分を開けるの?

なっちゃん では、どなたからでもぜひ。

シンケル じゃあ、いきます。私は夫と一番仲良い友達の2人にしか見せてないんです。リアクションも「あぁーすごーい、へー」っ、企画自体に興味を持ってもらったかんじ。だから、絵もこういうかんじ……です。すいません。

(シンケルの「まわりの人に物語を見せてみたあとの気持ち」)

なっちゃん うんうん、やってみてシンケルのなかで見えたこととか、感じたこととか、なにかありますか?

シンケル えっと、もうちょっといろんな人に見せる選択肢もあったけど、それができなかったなって。親しい人だけにして、自分を守ったかんじがする。

なっちゃん そっか、長い目で見て、あの物語を見せたいなという人が増えるといいね。

シンケル 見せた親しい2人にも、直接しゃべるのは気持ち的にハードルがあって、リンクをシェアすることからはじめたんだよね。自分を開いて見せることに、難しさを感じた……自信が足りないのかな。
みんなは普段から自分を開いているように見えるけど、どうやったらそんなふうになれるんだろう?

カトちゃん 自信があるからかと言うと、そうでもないんだよなぁ。

ハルちゃん うーん、私はずっと開いてるからなぁ。田舎の家が戸締まりしてないみたいな(笑)。

なっちゃん 「こう思われたくない」「こう見せたい」をあきらめてるから、開いていることが、あまりこわくないという感覚かな。子育てを経て、すっぴんをだすのがこわくなくなったというのに近いかも(笑)。でも、シンケルも、ここでは開いてるでしょ?

シンケル うん。……あ、そう言われると、最近私、ここ以外でも頭のなかで整理をしないまま、「なんて言うのかな……」とかふんわり言葉を探しながらしゃべるようにはなったんだよね。

なっちゃん へぇ、それって開いてきてるってことなんじゃない? さっき話した、一方通行じゃない、お互いに踏み込み合うコミュニケーションだというかんじがするよね。

シンケル それはそうかも。でも、もっと開けるようになればいいなと思う。

ハルちゃん そういえば、私がいま開けっぱなしになったのって、仕事とかで「今ここで無理やりにでも、私が開けにいかなくちゃいけない」っていうことがあって、そのときに「開けてみたら大したことなかったな」と思えた経験がベースにあるかも。

なっちゃん それはあるかもね。どうしても開けないといけないシチュエーションとか、自分の使命感から疼いてくるものがあると自然と開くかも。

シンケル なるほど……開けないといけないときかぁ。

意味がある音や言葉では、説明しきれないもの

なっちゃん つづいてハルちゃん、どうですか?

ハルちゃん 私はですね、2歳11か月と0歳8か月と……43歳6か月(笑)に見せました。子どもと夫ね。

カトちゃん バラエティに富んでる(笑)。

(ハルちゃんの「まわりの人に物語を見せてみたあとの気持ち」)

ハルちゃん 0歳児はもちろんストーリーはわからなくて、「お母さんが持っている紙」とか「お母さんの声」に反応していたかんじ。

なっちゃん へぇ。

ハルちゃん 2歳の子は、今ちょうど「意味」と「音」と「文字」がつながっているのを発見しはじめているときなのね。たとえば、このペンの色は、「あか」っていう音で呼ぶ名前があって、それを文字で書くこともできるというのを、認識しはじめている。
だから最初は、なんの意味もない「まっ」とか言う私を見て、「え、なに言ってるの? この人」って怪訝な顔をしてた(笑)。

でも何回も「もう1回やって」とは言うのね。で、何回も見ていくなかで、わかんないんだけど、だんだん面白くなってきたらしくて、こちゃこちゃこちゃこちゃて笑うようになって。その「???」が「!!!」に変わっていくのが面白かった。

なっちゃん 何回も見たがったってことは、好奇心がすごく湧いたってことだよね。43歳6か月は?(笑)

ハルちゃん 「ふーん、そういうことやってるんだね~」ていう反応(笑)。なにごとにおいても感情の上がり下がりがない人だから。でもたぶん、普段の私の話は情報量が多いから、それに比べるとかなり情報量が少ないし説明もなくて、「えっ」ていうのはあったかも(笑)。

なっちゃん そっか(笑)。ハルちゃんとしては、見せてみてどうった?

ハルちゃん 2歳の子の反応が、面白かったかなぁ。「あ、これは赤なんだ」「赤ってこういう字を書くんだ」って、「意味」を獲得していくのは面白いんだけど。一方で今の私は、もうこの色を「赤」以外に思えない。言葉にださなくても、「赤」で捉えている。

そうやって、「意味」とか「音」とか「文字」とかがつくと、思考が広がっているようで、実はだんだんと閉じていくのが不思議だなぁって思った。
人はどこのタイミングで、意味で「説明しきれないなにか」を飲み込んでいくようになるんだろうな
って、気づいたというか。飲み込むっていうのは、良い意味でも悪い意味でもなくてね。
文章とか文字の「意味」を使わずにあの5枚の絵を表現したのは、その不思議に気づく実験だった気がする。

なっちゃん ハルちゃんのなかで、人の成長とか変化のプロセスへの探求心が大きいんだね。今、すごくいきいきしていた。

ハルちゃん うん、すごく興味がある。

みんなはずっと等身大の自分を見てくれていた

なっちゃん では、つづいてカトちゃん、お願いします。

カトちゃん 俺はこれです。

(カトちゃんの「まわりの人に物語を見せてみたあとの気持ち」)

ハルちゃん おいしそう! 具だくさんのおにぎりのあるお弁当みたい(笑)。

なっちゃん うん、あぁ、このランチ食べてみたいってかんじ(笑)。

シンケル 黄色のなかが自分で、外がまわりの人……なかんじがした。

カトちゃん 正解!

シンケル わーい(笑)。

ハルちゃん 自分を表す色が明るいよね。そして、黒の線がない。中と外の境界線がなくなって、まざってきてる。

カトちゃん それも正解です(笑)。

シンケル 中の2色は、冷静君と情熱くんが融合してる……?

第1回ワークショップで、カトちゃんは自分のなかに冷静くんと情熱くんがいると言っていました。

カトちゃん 正解! 全部正解じゃんか。俺、わかりやすいのかな(笑)。

シンケル これ見てわかりやすいっていうのも、気持ちわるいけどね(笑)。

なっちゃん 超能力を身に着けたかんじがするよね(笑)。

カトちゃん まさにみんなが言ってくれたとおりで、外側の色は、今回フィードバックをもらった6人への「ありがとう」の気持ちを含めたいろいろ。

(カトちゃんは、外資系メーカーの技術部長、町工場の三代目、デザイナー、設備管理会社の代表、ファンド系会社の起業家、医師とバラエティに富む友人たちに、フィードバックをもらっていました。)

シンケル 6人も! すごすぎる!

カトちゃん ありがたかったよ。で、フィードバックのなかで「冷静くんと情熱くんの両方を持っているのも、いいところじゃない?」って言われて、なるほどなと思ったし、嬉しかったんだよね。それが内側にでているかんじ……です。

なっちゃん なんかさ、カトちゃんがそのまま素朴に等身大でいるのが感じられる絵だよね。で、その等身大のカトちゃんに、まわりの人が惹きつけられているというのが伝わってきた。

ハルちゃん 今回フィードバックをもらったのは、黒い線で内外をはっきり描いてきたときのカトちゃんが、出会った人たちなんだよね。その人たちにしてみたら、カトちゃんには、元々黒い線なんてなくて、今のこの絵みたいに見えていて、今回カトちゃんがそれを取りに行ったかんじがするよね。「きみ、そうじゃん」って言われたのを受け入れたような。

シンケル 黒い線は、仮面だったんだけど、みんなには仮面の向こうが駄々洩れだったんだね(笑)。で、今回カトちゃんがやっと仮面を置くことができたんだよね、きっと。

第1回ワークショップでカトちゃんは、人と接するときに、「仮面」をつけているかんじがするとも言っていました。

ハルちゃん それをみんながフィードバックで、「おかえり」って迎えてくれたかんじがするね。

カトちゃん うん、なんかすごく楽しい宿題でした。

なっちゃん 私すごく感動しちゃった(笑)。そうだよね……仮面を置いたんだよね。

ハルちゃん で、仮面をとってみたら、実はみんなすごく近くにいて、カトちゃんのことを良く知ってたんだね。

シンケル ははは、みんなうるうるしてる(笑)。

(笑いながら涙ぐむ、なっちゃん、ハルちゃん、シンケル。)

なっちゃん よかったねぇ。ものすごくあったかい絵だもんね、これ。

カトちゃん うん、フィードバックをもらうにあたって、「ギブとテイクだ」と思って、一生懸命このワークショップを知ってもらうためのパワーポイントをつくったんだけど。やってみたら、案外ギブしてもらえるなっていう感覚があったんだよね。

(カトちゃんはフィードバックをもらう相手には事前に、52ページに及ぶこのワークショップの経過紹介のパワーポイントを送っていました。)

ワーク3:6枚目の絵はなにを表しているのか? 話してみよう

なっちゃん それでは3つ目のワークにうつりたいと思います。前回「今の自分」から「未来の自分」への変遷を表現した物語を発表したあとに、その物語の先の「6枚目の絵」を描いてもらったよね。

その絵はなにを表していたと思う? 
なにが手に入ったのか? なにに気づいたのか? なにを学ぶプロセスだったのか? 

自分のなかから生まれてきたこの6枚目の物語は、なにを自分に伝えようとしてくれたんだろう?

既にだいぶ話してくれているかんじはあるんだけど、今度は言葉にしてみてもらえると嬉しいです。

(みんなしばらく考えこみます)

勇気を持って、開いてみる

シンケル ……うーん、私はこうなりたいなぁっていうのを示しいてるかんじがした。3匹の鳥が、みんな太陽の方向に前向きに進んでいる、勇気を持って前に行っているかんじ。

(シンケルの6枚目)

なっちゃん 鳥の子もお父さんとお母さんの言うこと聞いてたら安全なんだけど、一歩踏み出すというかんじかな。さっきの「自分を開ける」という話につながるね。

シンケル うん、開けられるようになりたいなぁ。

ハルちゃん 「お寿司が食べたい」とか「昨日それ食べたから、食べたくない」とか、言っちゃうかんじ?

なっちゃん あのランチの話は印象的なんだよねぇ。シンケルを象徴しているかんじもする。

第1回のワークショップでシンケルは、ランチのお店を決めるときは、一緒にいる人の意向に100%合わせる、それが昨日食べたものと同じでもまったく問題ないと言っていました。

ハルちゃん あ、次回のワークショップのあと、みんなでシンケルが食べたいものを食べようか。

カトちゃん いいね、それ!

なっちゃん うん、シンケルが食べたいものをみんなで食べよう。

シンケル それは大きな宿題だけど……やってみます!

小さな進化を自覚する

なっちゃん 楽しみだね。では、ハルちゃんにとって、6枚目の絵はなんでしたか?

ハルちゃん 私は、「はじまりは、終わりを内包している」のと同時に、「終わるということは、つまりはじまるってことだ」っていうのを自分のなかで再確認したかんじ。
常にいろんなレイヤーで、いろんなものごとがはじまっては終わり、はじまっては終わっている。でもその「終わる」というのは、単にそこで「終了」するんじゃなくて、「次」につながるなにかがはじまっているということなのかなって。(ハルちゃんの6枚目)

なっちゃん ハルちゃんは、このワークショップが終わるタイミングで、育休から仕事復帰するんだよね。復帰後の仕事は、育休前の仕事とは、同じようでまた違うものになりそうだね。

ハルちゃん うん、そうだと思う。大人になると「できないことができるようになる」みたいな劇的なことがないと気づかないけど、実は毎日なにか生まれ変わるようなことが起きてるんだろうなぁ、もう少しそれに自覚的になりたいなぁと思いました。

なっちゃん うんうん、大人になってもそういう日々の変化を、仕事や家庭で、まわりの人と一緒に自覚できるようになるといいよね。

ハルちゃん そうそうそう。自分はもちろん相手とも認知しあえたらいいなと思う。

なっちゃん ちょっと話がずれるんだけど、この前、闘病中の患者さんの語りを私がグラフィックで描くというのをやったのね。そのときの話にこんなのがあって。

病気になる前の自分と今の自分を比較すると、「前ならできていたことが、全然できない」って絶望的な気持ちになる。でもあるとき、「病気になる前と後」ではなく、「昨日と今日」でどう変わっているんだろうって、最近の自分の変化にちゃんと気持ちを向けるようになったら、「ちゃんと自分って進化してるじゃん」って気づけて、それがすごく支えになったと言っていたの。

なんかその話とつながるなと思った。小さな進化に、日々目を向けられるといいよね。

ハルちゃん ねぇ。

自由にやれば、いいんじゃない?

なっちゃん うん。カトちゃんはどうですか?

カトちゃん 俺のは、自由でいいじゃん……かな。ははは。自分で自分を認めるみたいな。好きでいいじゃん。自由でいいじゃん。好きにやればいいじゃん。要はそういうことなのかな……という気がしてきました。

(カトちゃんの6枚目)

なっちゃん うんうん。

カトちゃん 『エヴァンゲリオン』の最終回で、主人公がみんなから「おめでとう」って拍手されて認められるんだけど、そういうかんじ(笑)。
好きにしていいし、こわがらなくてもいいし、恥ずかしがらなくてもいいし、自分が思うよりもまわりは認めていてくれてるかもしれないし、失敗してもいいような気もするし。やればいいんじゃない? みたいな。ははは。

ハルちゃん ちょっとしゃべってもいい? 自由っていうことについては、私も考えたことがあって。「自由」の漢字って、己に由るでしょ。己がちゃんとあれば、自由でいいってことなのかなって。
カトちゃんのなかに、「これでいいんだ」っていうのがあれば、そこがもう拠り所になるから、あとはなんでもいい、どう表現してもいいんだなっていう自由なのかなと思った。
根っこが深くなって、土台が揺るがなくなった感。だからすごくいいなぁって思ってた。

カトちゃん うん、そういうことかもしれない。自分のスタイルがあったうえで、やりたい方向にいくというかんじなのかな。

シンケル 話を聞いていて、カトちゃんはフィードバックを受けたのが、すごくよかったんだねと思った。

カトちゃん うん、すごくよかった。自分の境界を自分で見ることはできないけど、いろんな人がはいってくることで境界が見えてくる。そういうことがあるんだなと思った。

なっちゃん 踏み込んでみてはじめて、お互いの壁がなんなのか見えてくるのかもしれないね。自分で設定した仮面なのか、向こうからの拒否なのか、なんなのか。


ハルちゃん これって、人生を考えるワークショップだったね。

シンケル ほんと、そう。

なっちゃん 「“言葉にできない”本音」に気づいていくには、自分の全体を知っていく必要があるのかもね。「ここが知りたい」っていうのの「ここ」だけ見ていても見えてこなくて、全体のなかで「ここ」がどんな意味を持つのかというのを見つけていく作業なのかも。

そして、「“言葉にできない”自分の本音」っていう明らかじゃないものを見つけにいくときに、お互いに踏み込み合ってコミュニケーションできる人がいることが助けになる。
そんなことを思いました。

(写真:山内太雅)

連載のご案内

連載言葉にできない”自分の本音に気づこう」

第1回 :「絵が苦手な」読者モニター、3人が決定。グラフィック・ワークショップ、いよいよ開催へ。
第2回:グラフィックのワークショップなのに、絵を描かない?
第3回:読者モニターの語りを、山田夏子さんがグラフィックで描くとどうなるか?
第4回:グラフィック・ワークショップの宿題なのに、またもや描かない??
第5回:グラフィックの講座なのに、ひたすら線を描く。会場は擬音のオンパレード!
第6回:「絵が苦手」だったはずが、いつのまにか抽象画を描いていた!?
第7回:物語をつくると、「言葉にできない本音」が見えてくる!?
第8回:他人だったモニターは、なぜ「家族のような」関係になったのか
山田夏子(やまだ・なつこ)
株式会社しごと総合研究所代表取締役、一般社団法人グラフィックファシリテーション協会代表理事、システムコーチ/クリエイティブ・ファシリテーター。
株式会社バンタンでアーティスト、デザイナーをめざす学生指導や講師マネジメント、バンタンデザイン研究所ヘア&メイクスクール館長、人事部教育責任者を経て、2008年株式会社しごと総合研究所設立。
「クリエイティブ」を仕事や教育、生活などの中で、豊かな営みとして活用できるよう、グラフィック・ファシリテーションの講座、ワークショップや研修を提供している。NHK総合「週刊ニュース深読み」「クローズアップ現代+」などのTV番組で、グラフィック・ファシリテーションをすることも。

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