「絵が苦手」だったはずが、いつのまにか抽象画を描いていた!? ――“言葉にできない”自分の本音に気づこう【第3回ワークショップ】
グラフィックを使って、“言葉にできない”自分の本音に気づこう。
その“言葉にできない”部分を「言葉」でお伝えするべく、本連載は山田夏子さん(通称なっちゃん)と読者モニター3人による、ワークショップのレポートというかたちでお届けしています。
今回行ったワークは3つ。特に最後のワークでは、「絵が苦手」だったはずの3人が、アート作品のような絵を描きます! なぜそんなことになったのかは、最後で明らかに――。
この日は3回目のワークショップ。前回から1ヶ月ぶりに、モニターの3人が集まりました。
(左から)
シンケル(31歳):製薬会社の開発職/職場の先輩に「あなたはどうしたいの?」と言われて、モヤモヤしていた。/仕事と家庭の両立にも悩み中。
ハルちゃん(41歳):情報サービス会社の人材開発担当/2児の母で今は育休中。/子どもにはあって今の自分にはない気がする感覚を思い出したい。
カトちゃん(35歳):機械メーカーの新規事業開発担当/理系的で冷静な自分と情熱的な自分との間で揺れ動いている。/アートとデザインの違いに興味あり。
今日のテーマは「色」!
先月の「線」につづき、今回のテーマは色。会場にはずらりと画材が並びます。
ハルちゃん やばい、いっぱい色がある! センスないから、ひどい色合わせになると思う(笑)。
なっちゃん 今回もこれまでと同じで、センスどうこうは関係ないワークだから、大丈夫! 描く絵がいかにわかりやすいかとか、上手できれいかというのは大事ではなくて、ワークをとおして、いかに自分のなかにある言葉にならない感覚、つまり「エッセンス・レベル」にどっぷり潜れるかというのがポイントです!
(「3つの現実レベル」の図。このワークショップでは、一番下にある「エッセンス・レベル」の現実を感じとることをめざします。詳しくは、第1回のワークショップでの説明へ。)
ワーク1:色で「今の気持ち」を表現してみよう
なっちゃん 1回目のワークショップではA4の紙で、2回目のワークショップでは線で、エッセンス・レベルを表現してみましたよね。今回はそれを色でやってみます! ウォーミングアップとして、まずは「今の気持ち」を色で表現してみてください。
シンケル わー、楽しそう!
なっちゃん 色でなにか形を描くというより、色をおくという感覚で、やってみてください。そして色を選ぶときは、「今の気持ちは、白かな? 赤かな?」と言葉で考えるのではなくて、目をつぶって「今の心のかんじは……」と自分のなかで色を思い描いて、それに近い色を画材から見つけてみてください。単色じゃなくてもOKですよ。
なっちゃん 画材はどれを使ってもいいです! ペンでもパステルでも色鉛筆でも。
ハルちゃん 見たことない画材がある! これとかどう使うんだろう?
なっちゃん これはグラフィックファシリテーションで私がいつも使っているパンパステルというものです。お化粧するときのファンデーションみたいに、パフで色をつけるんです。指につけて色をのせてもOKですよ。
カトちゃん おぉ、それ使ってみたいな!
(カトちゃん、すぐに黄色を選び、パフでぺたぺたと色をつけはじめました。)
(シンケルはゆっくりペンを選んで、自分の前に並べることからはじめました。並べたペンを順番に手にとって、描いていきます。)
(ハルちゃんもしばらく真剣な顔で画材を見渡してから、パフで黄色を塗りはじめました。)
共有したトーンや温度と、色の関係
なっちゃん そろそろできましたか。なんだかみんな似た色合いかな? 今の「トーン」や「温度」を共有する時間があったからかもしれないね。
(この日はワークショップがはじまる前に5分ほど、近況についておしゃべりをして、ひとしきり大笑いしていました。)
なっちゃん では、どなたからでも、自分の色についてお話してみてください。
シンケル はい、では私から。思い浮かんだのは、黄色とかオレンジ色でした。今日が楽しみだったし、みんなに会えてうれしいからかな。
あとは、この部屋が暖かいなぁというのもある(笑)。今日、外はすごく寒かったから。その寒さの名残と、ワークへの期待と不安が灰色のところ。
ハルちゃん あ、私も感覚近いかも。ここに着いた直後だったら、そういう灰色を選んだと思う。でも、この部屋は暖かいし、みんなと話してほっこりしたから、この黄色。
水色は蒸発してひらけていくかんじ。この色は、自分のなかの感覚にぴったりはきていなくて、本当はもっと明るいイメージだった。
なっちゃん 今日も上に蒸発していくものがあるんだね。
(ハルちゃんは前回の線のワークでも、蒸発するイメージを描いていました。)
カトちゃん 俺はですね、純粋に楽しいな~がんばろうかな~みたいなかんじです。
なっちゃん 軽いなぁ(笑)。
ワーク2:書初めならぬ、色染め!? 色で「去年」と「今年」を表現してみよう
なっちゃん みなさん、描いて話すのに慣れてきましたね。つづいては、1月(*ワークショップは1月開催でした)ということで、ちょっと新年らしいワークをやってみようかなと思います!
お題はですね、「去年は何色だった?」「今年は何色にしたい?」。それぞれ1枚ずつ描いてみてください。
シンケル 去年には、やばい色を使いたい…(笑)。
(シンケルはにやりと笑ってそうつぶやいてから、すぐにパフでくるくると色をつけはじめました。)
カトちゃん 指の数が足りなくなってきた。
(少しの間画材を眺めてから、指でカラフルな色をおきはじめたカトちゃん。)
なっちゃん ハルちゃん、大胆なかんじだね~。
(ハルちゃんは、手のひらでざっざっと色をつけていきます。)
色=去年やったこと
なっちゃん すばらしい集中力! そろそろできましたか? どなたからでも、お話してみてください。
カトちゃん じゃあ俺から。去年はいろんなことをばらばらにやったかんじです。それぞれちがう色のいろんなこと。
なっちゃん やったことを色で捉えているんだね!
カトちゃん うん、それは普段も頭のなかでやっているかも。やったことだけじゃなくて、この人は何色だなとも思うし。
シンケル へぇ! ちなみに、みんな何色?
カトちゃん シンケルは暖色で橙色あたり。なっちゃんは黄色だね、明確に黄色(笑)。ハルちゃんはグリーンとブルーの間。で、俺は黒。なぜかはわからないけど(笑)。
で、今年のほうは、去年のいろんな色をまとめるかんじ。まとめるっていっても、同系色にするんじゃなくて、色は元のままでまとめる。それと新しくへんなこともやろうかなというのが、右下の赤いところ…です!
ハルちゃん&シンケル きれい。
なっちゃん うん、待ち受けにしてもいいかもよ?
カトちゃん はずかしいね、しゃべるのは(笑)。
色=平和と生還
ハルちゃん 照れてる(笑)。では、つづいて私が。去年は子供が産まれて産休・育休があったのもあって、総括すると平和なかんじでした。
……が、えーとね、実は子どもを産んだときに、私死にかけたんですよ。今はすごく元気だし、去年を思い出したときにそれが頭に浮かんでいたわけじゃなかったんだけど。描きはじめたら、その生還したかんじもはいったなと思いました。
カトちゃん 草原みたいだね。
ハルちゃん うん、広いイメージ。今年も基本は同じように平和だといいなというかんじ。ただ職場復帰もあって、忙しさや生活の変化はありそうだから、そういうなかでなにか芯、火がついているようなものを持っていたいなとは思ってる。それが真ん中の赤いところ。
シンケル はしっこにうっすらある水色はなに?
ハルちゃん 上昇気流かな(笑)。
なっちゃん なるほど、ここにも上に蒸発するものが!
色=モヤモヤ
シンケル では、私いきますね。去年はですね、えーと(笑)。
カトちゃん 「やばい色」って言ってたやつだ(笑)。
なっちゃん 笑っちゃいけないけど、なかなかのモヤモヤだよね(笑)。
シンケル はい(笑)。このワークショップにきたことで、モヤモヤしていたことに気づいてしまった……というかんじです。
なっちゃん うんうん。
シンケル 年末に振り返ったときに、仕事をもうちょっとできたんじゃないかとか、生活もいつも朝ぎりぎりに会社行ったりしていたんだけどもっと頑張れたかなと思って。それでこの色になっています。
で、今年は終わったときに、「これ、がんばったな」と言えることがあるといなぁと思って、こんなかんじにしました。はい(笑)。
自分がやったこと、平和な状態、内面にあるモヤモヤ……と、そもそも「色」で捉えたものがばらばらだった3人。
手を動かして描いてみて、見えたものがあったようです。次のワークでは、その差がより顕著に見えてきます。
ワーク3:線に色をつけてみよう
なっちゃん では、次のワークにいってみましょう。先週、「今」と「未来」、そして「その間にある過程」を、線で描いてもらいましたよね。
(上からカトちゃん、ハルちゃん、シンケルの線)
なっちゃん 次はその線に色をつけてみてもらいたいと思います! それぞれの線にどんな物語があるのか、色で表現してみてください。
3人 はーい。
(さっそく自分の線の前に立って、真剣に色を塗りはじめる3人。部屋にペンの音だけが響きます。)
(ゆっくり色を吟味してから、色をのせていくカトちゃん。)
(先週「ワラビみたい」と言われていたハルちゃんの線は、どんどんカラフルになっていきます。)
(シンケルはパフで撫でるように色をのせてから、さらにペンを重ねていきます。)
なっちゃん ワークショップ3回目にして、「表現してみてください」って言われて、すぐに制作に没頭するモードに入るのがすばらしいよね。こういう黙々とやる作業のなかで、見えてくるものがあるんだろうなぁ。
カトちゃん なにが言いたいんだかわからないなかで、やってるんだけど、いいのかな(笑)。
なっちゃん それが“言葉にできない”感覚ということだと思います!
「制作」を開始してから25分後。
なっちゃん みなさん、そろそろ完成ですか。わーきれい。
シンケル なんか……アート感がすごい。
なっちゃん ね、しかも、みんな違うアーティストなかんじだよね。やっぱり色がはいるとおもしろい。
ではお互いのものを見て、この色にどんな感情や感覚がありそうか、どんなドラマが潜んでいそうかという観点でしゃべってみてください。じゃあ、カトちゃんからいってみましょうか。
3枚目で、働き方が変わる気がする
シンケル カトちゃんらしい色! 4枚目までは「どこ行けばいいんだ?」って迷いに迷っていたのが、最後の5枚目でぎゅーんってなったかんじかな。
ハルちゃん 2枚目で、青とか紫がいなくなって、赤だけになっているのが気になる。「情熱くん」がおさえられて、「冷静くん」が前面にでているから、色が減ったのかな。
(1回目のワークショップで、カトちゃんは自分のなかに、正反対の2人のキャラクター、「情熱くん」と「冷静くん」がいると言っていました。)
シンケル そうそう! でも、「情熱くん」はいなくなっていたわけじゃなくて、最後の5枚目では先頭にでているかんじがするよね!
カトちゃん ははは。
(少し後ろに立って恥ずかしそうにしながらも、にこにこと話を聞くカトちゃん。)
カトちゃん 自分としては、キャリアが形成されていくのをイメージしていました。
1枚目は、ぐちゃぐちゃっといろんなことをやっていて、
2枚目で、下から燃えるようなものがきて、「いけよ!」って言ってる。
3枚目で、いろんな外部要因のなかをいったりきたりして、
4枚目で、いろんなものをくっつけたり、取り込んだりして、
5枚目で、いろんな色を統合していくような。
そんなイメージ…かな? わかんない。
シンケル 5枚目で、黒い螺旋状の線と、紫色が交差しているのは、なんでなんだろう?
カトちゃん なんだろうね? あ、でも、黒が自分で、色は外の要素なんですよ。色の影響を受けて、黒い線がこの形になっているという考え方。1枚目では点在している紫色の要素も、5枚目では統合していくから交差しているのかも。
シンケル なるほど、外の色が同じだとしても、自分のなかで受け取るセンサーが変わるということかな。
カトちゃん うん、この変化を起こすのは、外にあるものよりも自分の内にあるものなんだと思う。結局は「あんたどうしたいの?」っていう話を自問自答しつづけるんだろうなぁと思うよ。
なっちゃん この5枚は自問自答の過程なんだね。ちなみに、カトちゃん的に、このなかで一番ドラマがあるのはどこ?
カトちゃん 3枚目……かな?
なっちゃん たしかにここでがらりと雰囲気が変わるよね!
カトちゃん なんか……ここで自分の働き方が変わる気がする。今もわりと好きにやってるけど、もっと好きにできるようになると思う。サラリーマンの枠じゃなくなる気がする。別に会社を辞めるどうこうじゃなくて、オンとオフがくしゃくしゃで境界がなくなっていくような、そんな生き方になると思う。今はその種がぽこぽこでている段階。
シンケル このワークをとおして、1回目で言っていた「自分はこうあるべきだ」っていう仮面がとれるかんじなのかな?
カトちゃん うん、どうだろう。自分のスタイルができるかんじかな。怒られてもいいやみたいな、やわらかさがでてくる。
ハルちゃん ほぉ。黒が自分で、色は外部要因っていうのが、すごくおもしろい。つまり、カトちゃんのなかの色は、黒のなかにはいっているっていうことだよね。
しかも、まわりに現れる色がどんどん変わっているっていうことは、これからいろんなものが影響してくるのかな。
カトちゃん うん、ネガティブなものも、ポジティブなものも、でてくるんだと思う。
(とても嬉しそうに、カトちゃんの作品を見るみんな。)
カトちゃん まぁでも、うん、やっぱり3枚目はお気に入りだな。ふふふ。
なっちゃん いいね、お気に入り。この3枚目だけ赤がないのは、本来の楽なカトちゃんというかんじなのかな。
カトちゃん うん、2枚目の赤は、意識して「いれなければ」と思ってでてきるイメージ。
シンケル 「冷静くん」は赤なんだけど、だんだん「情熱くん」が前にでてきて、最終的にはいろんな色がでてきちゃうかんじなのかな。
カトちゃん そうかも。2人は最後に合体するんですよ(笑)。
なっちゃん それは最強だね(笑)。では、つづいてハルちゃんいきましょうか。
線と色と音と匂い、全部で表現したいと思った
シンケル 黒い線で見ていたときに、想像していた以上に、色がポップ! 前回発芽っていう話があったから、緑だと思ってた。
カトちゃん 楽しそう。パーティー感がある!
(しばし無言で鑑賞するシンケルとカトちゃん。)
カトちゃん ……なんか元気なんだよなぁ、すごく。生きているかんじ。
なっちゃん 健やかさがあるよね。「芽がでて~膨らんで~」みたいな植物の成長っぽさがある。そして、5枚のどれをとっても楽しそう。
シンケル そう! モヤモヤがない!
(ハルちゃん、にこにこして3人の話を聞いています。)
ハルちゃん パーティー感かぁ。おもしろい(笑)。色選び自体にはあまり意味はないんだけど、いろんなものがでてきて、勝手にふぁふぁふぁ~ってなって、大きくなったり、小さくなって消えたり、色がまざったり、ぐにょってなるのを表現したら、こうなったの。
カトちゃん なるほど! 5枚目は色がないようで、うすーくあるよね。
ハルちゃん うん、色はないけど透明でもないかんじ、気化していくふぁ~っていうのをだしたかったんだけど、色で表現するのが難しかった。
全体として、カトちゃんみたいに線が自分で色は外部要因というより、自分のなかをのぞいたかんじなんだよね。だから、どの色もぜーんぶ私。細胞みたいな。
カトちゃん あ、それはそうなんだろうなと思った! 自分の内側で起こっていることを表現してるって、すごいなぁ。
なっちゃん カトちゃんのでいう黒い線の中身を表現したかんじなのかな。ちなみにこのなかでドラマがあるとしたら?
ハルちゃん 1枚目かな! 1枚目には5枚目の予感があるから、1番わくわくしてる。
シンケル 1枚目のときには、予感があるんだ!
ハルちゃん 年がら年中、繰り返し、この5枚が起こっているイメージなんだよね。長い目で見るとワークショップを受けてこうなるというのがありつつも、同時に今この瞬間にも起こっているような。
なっちゃん 瞬間瞬間の小さいループを繰り返しつつも、長い時間かけて生まれる大きいループもあるんだね。
谷川俊太郎さんと元永定正さんの『もこもこもこ』っていう絵本、知ってるかな? ふわふわしたなにかがでてきて、だんだんそのふわふわが静かになって、静かになったらまたもこってなって……っていう。それに近いものを感じる。
ハルちゃん そうそうそう! あの絵本のイメージに近い。線で表現、色で表現というかんじじゃなくて、線と色と音と匂い、全部で表現したいなと思った。
なっちゃん この1枚目の状態に影響を与えているエネルギー、大元はなんなんだろう?
ハルちゃん それはね……私だと思う。外から受け取るものはあるんだよ。でも、受け取ってなにかを出そうとしているのは自分。なんていうか……あ、充電して放電だ! もしくは発光みたいなイメージ。
なっちゃん おぉ、なるほど!
カトちゃん ピカチュウみたいな人だな。
ハルちゃん ははは。
シンケル 私はワークショップに参加するなかでの変化を描いていたから、それがなくても起こりつづけている変化だっていうのが、おもしろい。
ハルちゃん うん、なんか描いてみたらそうなってた。うまく言葉にできないんだけど……色をだしてるのは自分だけど、その色はこのワークショップとか子どもとか私を取り巻く人やモノとか、外からの影響を受けているイメージ。
はじめは変化を起こすのは、外からの影響なのかなと思っていたんだけど。これまでの2回のワークショップ、たった数時間の体験だけで、既に見える世界が変わるような気がしている。ということは、変化を起こすのは、外にあるなにかじゃなくて、私の主観なのかなぁと思ったんだよね。どんな佇まいでありたいかとか、どんなふうに世界を見たいと思っているのか、みたいな。
なっちゃん この色はハルちゃんのあり方を表しているんだね。では、そろそろシンケルいってみましょうか。
「見つけた! きみと向き合う!」
カトちゃん すごくきれい。そして、1枚目のぐしゃぐしゃの線に色をつけたら、こうなったというのには、腹落ちする。
なっちゃん 厚みがでてきてるよね。説得力がある。
ハルちゃん 2枚目からでてくる暖色が、1枚目には一切ないもんね。
シンケル ははは、暗黒です(笑)。
なっちゃん 暗黒って、笑って言えるのがいいよね(笑)。
シンケル 過去のことだから!
ハルちゃん 1枚目で強い風が吹いていたのが、2枚目から4枚目にかけてだんだんとおさまってきて、5枚目は無風ではないけど、居留まっているかんじがする。5枚目は色としては一番淡いけど、一番意志があるかんじがするんだよね。
カトちゃん そうそう! ぴって横にひかれる黄色に、明らかな意志を感じる。
なっちゃん へぇ、二人とも意志を感じ取っているんだ。
シンケル いひひ。
カトちゃん 照れてる(笑)。
シンケル 1回目のワークショップで、人生のなかでずっとどこかにあったモヤモヤに、ちゃんと向き合いはじめることができたかんじがしていて。
「見つけた! きみ!」って思ったの。「きみと向き合う!」って、モヤモヤに焦点を当てることができたんだと思う。だから1枚目は、モヤモヤしかない。
ハルちゃん ほぉぉ。
なっちゃん 見つけたんだね。なんか感動したよ。
カトちゃん 「きみと向き合う!」かぁ。
シンケル 2枚目以降は、ワークをしたり、自分で自分を見つめたりするなかで、「あ、そうだそうだ」とか「こうだったな」とか、一つひとつモヤモヤをほぐしていくイメージ。
そういう過程を経て、最後の5枚目では、すうってひらけていく。しっかり前を向いて、背筋を伸ばして、生きていくような。そうなったら、またモヤモヤすることがあっても、落ち着いて向き合って、自分なりに答えをだせるんじゃないかな。
(とてもやさしい表情で、シンケルの話を聞く3人。)
ハルちゃん 5枚目は凛々しくて、かっこいい。元は1枚目のモヤモヤが、いたとは思えない。
シンケル ははは。次のステージのスタートラインに立てるようになるイメージかな。
なっちゃん 色も線もきれいだよね。よくぞこれをほぐしたねっていう美しさ。
カトちゃん 全体的にやさしいんだよなぁ。
なっちゃん ちなみに、ドラマはどこにありそうですか?
シンケル やっぱり「見つけた! きみ!」の1枚目かな。
ハルちゃん うん、「きみを見つけた」のが、すばらしいよね。
なっちゃん すごいなぁ。9月のモニター募集のときの「先輩の紹介で……」っていう応募理由からは想像できないような、変化だよね。
【シンケルの応募理由】
会社の先輩から紹介していただきました。仕事のこと、家庭のこと、モヤモヤしていることがたくさんあり悩んでいるときだったので、企画の説明に書かれている文章がぴったり自分に当てはまると思い、応募します。
シンケル ははは。最初は本当にそんなかんじだったし、もっと言えばこれまでの人生、ずっとその応募文みたいなかんじだったのかも。いままで自分はなにがしたいのか、どうなりたいのか、どうしてそう思うのかに、しっかり向き合うことをしてこなかった。
モヤモヤしたものがあることには気づいていたんだけど、どう向き合えばいいのかすらわからなかったから、あまり見ないようにしていたんだと思う。今回、このワークをとおして、やっと向き合うことができたので、捕まえてみました(笑)。
カトちゃん 1回目からの変化はもちろんなんだけど、前回の2回目のワークショップのときのシンケルでも、「見つけた! きみ!」の発言はでなかったような気がするんだよね。
ハルちゃん 私もそんな気がする。どうして「見つけた」を、言えるようになったんだろう?
シンケル なんだろう……。このワークショップで向き合う勇気をもらって、だんだんといけそうな気がしてきたんだよね。ははは。
カトちゃん 自分で脳内対話ができるようになったのかな。
ハルちゃん 前回は、1枚目のモヤモヤのある自分を、「どうなるのかな」ってネガティブに捉えているように見えた。でも、今回の「見つけた」には、優しさを感じたんだよね。モヤモヤを受け入れているかんじがする。
だから、そのあとにつづく4枚に、「きっとこういくよね」「見つけたから、私はこう行くよ」っていう自然な意志が感じられるんだと思う。すごいね……すごいよ。
なっちゃん うん、包容力がある。モヤモヤも含めて自分なんだっていう、腑に落ちているかんじがある。
シンケル なんかみんなとしゃべって、より見つけたかんじがするなぁ。
カトちゃん このペースで変化していったら、最後のワークショップでは、えらいことになるんじゃない?
「絵が苦手」と言っていたはずが、自分のなかの感覚に耳を澄ますうちに、いつのまにか抽象画のような作品を自然と描いていた3人。抽象的な描いたものと向き合うなかで、今まで言葉にできていなかった、これから自分が進みたい道筋や、世界の見方やあり方が、浮かび上がってきたようです。
自分と、自分に外から影響を与えるものとの統合を表現したカトちゃん。
自分のなかで起こりつづける営みを表現したハルちゃん。
自分のモヤモヤに焦点を定め、向き合っていく過程を表現したシンケル。
描いたものの見た目はもちろん、なにをどう描くかもバラバラだった3人。
これまでのワークショップ以上に、そのバラバラな作品を楽しそうに鑑賞しあい、お互いの変化や気づきを心から嬉しそうに聴き合っていました。
安心感があって、はじめて描けるもの
なっちゃん ありがとうございます。人によって全然違って、おもしろかったね。どれも額にいれて部屋に飾りたいかんじ。やってみて今日はどうでしたか?
シンケル ……難しかったです。前のワークよりも、説明的になってしまいそうと思って。
なっちゃん 説明的にならないようにって、自覚しているのに、覚悟を感じる。
シンケル ふふふ。
(ファイトポーズをとって、笑うシンケル)
ハルちゃん 私の感想は……私って楽しそうなんだなぁって思いました(笑)。自分で色をつけてみてそう思ったし、それを見たみんなのコメントを聞いても思ったし。楽しそうなかんじになってきたのかなって。
(あらためて自分の線を眺めて、話すハルちゃん。話し方もふわふわしてきました。)
なっちゃん ハルちゃんは、言葉では論理的に話すからかクールな印象もあったんだけど、実際の本人はのほほんとしていて、陽気でひょうきんなんだっていうのが、よくわかったよね(笑)。
ハルちゃん ははは。
カトちゃん 今日は前回よりもさらに、時間が過ぎるのが早かった!
なっちゃん すごく集中して制作していたよね。
カトちゃん こういうのは苦手だと思っていたんだけど、没頭しました。今も苦手は苦手なんだけど、やればなんとかなるものだなぁという気がした。
なっちゃん 「私は絵が苦手です」っていう人に、「絵を描いてみてください」って言うと、「え、まずなにをしたらいいんですか?」「どこから描いたらいいんですか?」って、なかなか取り掛かれなかったり、集中できなかったりすることが多いんだけど。
カトちゃん そうそう。
なっちゃん 今日のみんなは、すぐに集中して自分の制作活動をしていたよね。「私は絵が苦手です」って言っていたのが、ワークショップ3回でここまでなるのがすごいなぁって。
ハルちゃん それは、「なっちゃんマジック」も影響しているかも。
カトちゃん うん、この場の雰囲気は影響してると思う。自分の部屋でワークとお題だけ渡されて、どうぞと言われたら……寝ちゃうかも(笑)。
なっちゃん そうなんだ! 実は連載記事の最後でいつも「読者のみなさんもやってみましょう」って書いているけど、実際にどこまで家で再現できるのかなぁという話をしたところだったんだよね(笑)。うーん、この場にはなにがあるんだろう?
シンケル なんだろう、心強さかな……なっちゃんやハルちゃん、カトちゃんの力を借りながら、自分の奥深いところまでのぞきにいって、見つめている感覚。
カトちゃん 「失敗してもいいんだよ~」「答えはないから、好きにやっていいんだよ~」っていう安心感かな。途中でフィードバックがあるのも、リアルな場で3人一緒にやっているというのも、大事な気がする。
ハルちゃん 私はなっちゃんに放牧されてるようなイメージ。すっごく広いところに放牧されてるんだけど、どこかでは見てもらってる。「向こうのほうまで行っちゃっても、なっちゃんはいるから大丈夫」という安心感がある。太陽みたいな。
なっちゃん なるほど。自分のなかに潜在的にはあるけど気づいていない「“言葉にできない”自分の本音」を浮かび上がらせるには、ただ方法や意識の持ち方を知っているだけではなくて、「これをだしてもいい」とか「これをだして迷走しても大丈夫」っていう安心感が必要ということだよね、きっと。
そして、「“言葉にできない”自分の本音」を深めていくには、感想を言ったり質問をしたりしながら、一緒に自分の内面をのぞきにいってくれる仲間がいるというのも、とても大事なことなんだね。
シンケル 1人でやっていたら、私はあのモヤモヤに埋もれていたかも(笑)。
なっちゃん ……ほぉ、発見でした。今日はあらためてありがとうございました!
今日のワークのおさらい
4人の話にあったとおり、ワークをする場や仲間の存在によって、どこまでの「“言葉にできない”自分の本音」が浮かび上がってくるかは変わってきそうですが、今日のワークのおさらいです。
必要なものは、紙とペン。そして、「この記事の3人のように、自分でもよくわからなくても、とりあえずなんでもだしていいんだ」という気持ちと、安心して感想や質問を言い合える仲間です。用意できた方は、ぜひやってみてください。
ワーク1:色で「今の気持ち」表現してみよう
ワーク2:色で「去年」と「今年」を表現してみよう
ワーク3:前回のワークショップで描いた線に色をつけてみよう
コツは、色でなにか形はかたどるというより、色をおくという感覚で、やってみること。
そして色を選ぶときは、「今の気持ちは、白かな? 赤かな?」と言葉で考えるのではなくて、目をつぶって「今の心のかんじは……」と自分のなかで色を思い描いて、それに近い色を画材から見つけてみること。
3人の表現がバラバラだったように、「色」でなにを表現するかも自由です。
その色は自分にとってなにを意味するのか、そこにはどんな本音があるのか。
自分で思いをはせてみたり、仲間と一緒にのぞいてみたりして、「“言葉にできない”自分の本音」とじっくり向き合ってみましょう。
(写真:山内太雅)
連載のご案内
連載「“言葉にできない”自分の本音に気づこう」
第1回 :「絵が苦手な」読者モニター、3人が決定。グラフィック・ワークショップ、いよいよ開催へ。
第2回:グラフィックのワークショップなのに、絵を描かない?
第3回:読者モニターの語りを、山田夏子さんがグラフィックで描くとどうなるか?
第4回:グラフィック・ワークショップの宿題なのに、またもや描かない??
第5回:グラフィックの講座なのに、ひたすら線を描く。会場は擬音のオンパレード!
第6回:「絵が苦手」だったはずが、いつのまにか抽象画を描いていた!?
第7回:物語をつくると、「言葉にできない本音」が見えてくる!?
第8回:他人だったモニターは、なぜ「家族のような」関係になったのか
山田夏子(やまだ・なつこ)
株式会社しごと総合研究所代表取締役、一般社団法人グラフィックファシリテーション協会代表理事、システムコーチ/クリエイティブ・ファシリテーター。
株式会社バンタンでアーティスト、デザイナーをめざす学生指導や講師マネジメント、バンタンデザイン研究所ヘア&メイクスクール館長、人事部教育責任者を経て、2008年株式会社しごと総合研究所設立。
「クリエイティブ」を仕事や教育、生活などの中で、豊かな営みとして活用できるよう、グラフィック・ファシリテーションの講座、ワークショップや研修を提供している。NHK総合「週刊ニュース深読み」「クローズアップ現代+」などのTV番組で、グラフィック・ファシリテーションをすることも。