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「ティール組織」の次に来るのは、「〇〇組織」ではない(サイボウズ・青野慶久さんインタビュー)

日本を代表するソフトウェア会社のサイボウズで社長を務める青野慶久さんは、ティール組織に魅せられた経営者の一人です。自社の経営にティールの考え方を取り入れ、新しい組織、これまでにないチームを作り出そうとしています。以前から働き方改革などでも先進的だった同社は、ティールによってどのような進化を遂げ、今後どんな展望を抱いているのかを伺いました。(聞き手:下田理、執筆:伏見学、写真:上村悠也、カバー写真:Photo by monicore on pixabay

「部長廃止」も「転勤手当廃止」も、社員から自発的に生まれた

── 青野さんが「ティール組織」に出会われて1年ほど経ったそうですが、何かご自身の仕事に変化はありますか?

青野:最初に読んだときは衝撃を受けました。組織の進化についてここまで分かりやすく、適確に示したものは初めてではないかと感激しました。まさにこの本は、僕が言語化したかったことを代弁していたんです。

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青野慶久 Yoshihisa Aono
サイボウズ株式会社代表取締役社長
大阪大学工学部情報システム工学科卒業後、松下電工(現 パナソニック)を経て、1997年8月愛媛県松山市でサイボウズを設立。社内のワークスタイル変革を推進し離職率を7分の1に低減するとともに、3児の父として3度の育児休暇を取得。また2011年から事業のクラウド化を進め、売り上げの半分を超えるまでに成長。著書に『チームのことだけ、考えた。』(ダイヤモンド社)、『会社というモンスターが、僕たちを不幸にしているのかもしれない。』(PHP研究所)などがある。

サイボウズが掲げる理念は「チームワークあふれる社会を創る」です。では、良いチームワークというのはどういう状態なのか? それを僕らなりに言語化しようとしてきました。

例えば、ある会社は好業績を上げているけれど、個人プレーが中心です。だけど、僕たちが考えるチームワークは、必ずしも成果が出ていればいいというものではない。そうではなく、一人ひとりがワクワクし、疲弊せずに働くことがチームワークなのではないか。そんなイメージは持っていたものの、両者の違いをなかなか言語化できませんでした。

ティール組織では「アンバー」「オレンジ」「グリーン」「ティール」などと、組織の進化の形がうまく表現されていて非常に明快でした。それを知って以降、サイボウズ社内でも『ティール組織』の考え方をベースに、「これはティールっぽいよね」「あれはティールらしくない」などとキーワードとして使うようになりました。

── どういう場面でそうしたことが語られるのでしょうか?

青野:セルフ・マネジメント(自主経営)の文脈が多いです。例えば、権限を移譲せずに上司が承認作業をしていたら、「ティールっぽくないよね」と表現しています。

このように語られ出したことで、社内は大胆に変化していますよ。先日、開発本部の部長職がすべてなくなったのです。これは僕から指示したのではなく、実は開発本部の中から「もっと柔軟に組織を運営したい」という声が出てきたのです。日本の会社員だと、部長になるのが1つの夢であることが少なくないし、やっとのことで昇進した部長職がなくなったらガッカリするでしょうが、開発本部のメンバーはためらいなく部長職を廃止しました。

また、サイボウズでは転勤手当がなくなりました。今までは上司が部下に転勤を命じ、それを渋々引き受ける代償として手当がついていました。でも、人事権を委譲し、自分で起案しない限り転勤は発生しない仕組みに変えたところ、「ならば手当をつけるのはおかしくないか」という声が社員から出たのです。非常に主体的な取り組みです。

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情報をオープンにすると、事業も経営者もバージョンアップする

── お話を伺っていると、会社の内側からいろいろな行動が始まっているように思えます。

青野:はい、僕がやれと言ったわけではありません。同様に、社員の提案からあらゆる情報のオープン化も始まっています。『ティール組織』にも、誰でも情報にアクセスできることが大事だと書いてありますよね。今、サイボウズの経営会議は誰もが参加可能になっています。プライバシー情報を除き、社内に秘密はありません。

先日僕が主催した事業戦略会議は、オンラインを含めて75人が参加しました。すごい人数です。会議中には社内の情報共有ツールに実況中継スレッドが立ち上がり、参加者から「説明の意味が分かりません」などとコメントが随時飛んできます。最も機密性の高い、長期の事業戦略が公開され、リアルタイムでフィードバックが返ってくるわけです。これは面白いですよ。そういうことがこの1年くらいで起きています。

── 元々サイボウズでは、新しい働き方や情報のオープン化に積極的に取り組まれていたように感じます。それでもこれまで為されてこなかったことが、なぜ今ますます実行されるようになったのですか?

青野:『ティール組織』の本で明文化されたことが大きいです。これだけ具体例を交えながら、体系立ててまとめられているので、僕らもまだまだできることがあると気付いたわけです。もちろん今までも少しずつは進んでいましたが、自分たちがやっていること、目指している理想がより明確になり、加速したと言えるでしょう。

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── ティールで言うところの「情報の透明化」をすると、自分自身のパワーがなくなっていくのではという不安に駆られる経営者が多いと思います。青野さんはどうでしょうか?

青野:特にそういうことはないです。むしろ、ここまでオープンになると経営者として鍛えられますね。自分のバージョンアップにつながります。

先ほどお話しした「75人もの社員が事業戦略会議を聞いている」という状況の緊張感は、ものすごく大きいです。そうなると、相当な下準備をしないといけないし、出てくる質問の1つ1つに真剣に向き合っていかないといけません。会議が終わるとぐったりですよ。胃をキリキリ痛くしながらやっています(笑)。

でも、これだけオープンにすると、社員の共感も、組織への浸透も早いです。多くの人たちが参加することで、結論を導き出すまでのプロセスに見落としがなく、戦略の精度も上がります。

新しく立ち上がった「ファイヤースターター」という制度にも、同じことが起きていると感じます。これは、新規事業をはじめ、新しいことをやりたい人がどんどん声を上げるという取り組みで、始まってから1カ月程で40件以上もアイデアが生まれています。社員一人ひとりのモチベーションの中から生まれた新しい企画がオープンに提示され、それを見た人から共感やフィードバックが次々と集まり、自由に枝葉を伸ばしていく。まさにティールっぽいですよね。

心理的安全は、「オープンにする覚悟」の先にある

── サイボウズの場合は、そうしたことを始めやすい土壌が元々あったという感じも受けます。そうではない会社にとっては、こうしたことに取り組むのはハードルが高そうですが、アドバイスはありますか?

青野:オープン化はすぐに取り組めるものだと思います。例えばサイボウズの場合、重要な会議は密室でやるのではなく、誰でも参加できるようにしています。オープンにすることには、お金もかからないし、スキルもいりません。腹を決めればできます。それによって多くの現場の人たちが経営者と同じレベルの情報にアクセス可能となり、自主性を引き出すことにつながります。

── 不特定多数からのプレッシャーを受けるようになるわけですから、覚悟とともに、緊張感を楽しめるかどうかも重要ですね。

青野:今は上から押さえつけることを良しとしない時代になってきましたよね。一人ひとりが参加・発信できることを経営者は受け入れないといけません。

ただ、二の足を踏む経営者の気持ちも分かるんですよ。情報をすべて公開して、包み隠さない自分を出すことでコンフリクトが生まれ、場合によっては自分の安全性が脅かされるかもしれないという不安は大きいです。でも、実際に覚悟を決めてやってみたら逆で、そこには徹底的に心理的安全を感じられる世界がありました。お互い正直に話し合えて、嘘をつかないで、信頼関係を築けるのです。

多くの場合に考えるのは、「自分を守るため」の安全性ですよね。殻を作ったり、高い塀を作ったりして、「お前たちは入ってくるな」という安全性。そうではなくて、オープンにすることで誰とでも自由に話し合えて、信頼し合える、そういう安全性もあるのです。要はどちらを選ぶかです。

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ティール組織から、ティール社会へ

── ティールを実践することで、青野さんご自身のリーダーシップのあり方も変わってきましたか?

青野:トップが旗を振りながら風土改革していかないと、組織変革は起きないんだと実感しています。本の中にも「トップが交代した瞬間にティールらしさがなくなった」という事例が書かれています。ティールの文化を守るためにはリーダーが踏ん張って支えないと、今の社会では崩れてしまいます。社会全体が変わっていけば、ここまで簡単に崩れなくなるとは思いますが。

── 今の社会にティールはアンバランスだということでしょうか?

青野:アンバーやオレンジがいろいろな社会の仕組みに最適化されていると感じます。例えば会社の経営だったら、業績管理の手法や会計基準などがそのような観点で作られており、成果が数字に表れないと株主などから指摘されてしまいます。だから、ティールのように状況を見ながら柔軟にやろうぜ、というのはなかなか難しいです。全く違う指標や視点がメディアなどで広がり、それを見た人々の判断が変わっていけば、ティールは少しずつ進んでいくかもしれません。

もちろん、今の株主資本主義が悪いとも思っていません。事業を起こしたい人をお金で支援する人がいて、支援した人はリターンを得ることができ、お互い報われています。ただ、アンバーやオレンジ的な世界観が強くなっているので、成果を急ぐために、株主と企業の関係に無理がかかっている現状もあります。当初は投資する側・される側がもっと喜びを分かち合えるような関係だったのではないでしょうか。

だから、もう一度、元々の互恵的な目的に沿った形で作り直したいなと思っています。情報をオープンに共有して、一人ひとりと信頼関係を作っていくネットワーク型の仕組みにする。それができれば、株主資本主義がティールに即した新しいものに変わっていくような気がするのです。そうした中で、サイボウズと株主は共に理念に向かって行動するような関係を作りつつあります。

ティールの次の組織というのは、僕のイメージでは「ティール社会」だと思います。一般的に組織は閉じたものですが、サイボウズは副業を認めているし、外部の人と積極的に情報交換もするし、ビジネスパートナーとのネットワークによるエコシステムもあります。そして、株主もチームだと言い始めています。つまり境目がなくなっていて、組織ではなく社会になりつつあるのです。

── 日本社会において、ティールを検討することにはどんな意義があると思いますか?

青野:日本企業にとってティールはジャンプアップのチャンスです。アンバー、オレンジ、グリーン、ティールという組織の発達段階の中で、多くの日本企業はアンバーです。いまだに年功序列が残っています。けれども、今後オレンジを飛び越してグリーン、ティールへ行く日本企業が出てきたら面白いですよね。新興国の人々が固定電話を買わずにスマートフォンを買うのと同じで、一気にティールに進化すれば、もう一度世界の最先端を走れる企業が日本でも生まれる気がするのです。

── 最後に、青野さんもご登壇される9月14日のカンファレンス(ティール・ジャーニー・キャンパス)についてお伺いします。『ティール組織』著者のフレデリック・ラルーさんも来日しますが、どんな会にしたいですか?

青野:ラルーさんに直接お話を聞けるめったにないチャンスなので、書籍に書かれていた言葉だけでは分からなかったことをぜひ体感したいですね。来場する多くの人たちにとっても、まだ日本に紹介されてから間もないティール組織という概念について「ああ、そういうことか!」と体感して理解を深めることができる、そんな場になれば面白いなと思います。

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9/14 TEAL JOURNEY CAMPUS 開催!

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日本初、「新しい組織の探求者」が一堂に会するカンファレンスを開催!

「ティール・ブーム」から「ティール・ムーブメント」へ

「これからの組織のあり方」を示して注目を集めた『ティール組織』発売から1年余り。 日本各地で、自然発生的に多くの勉強会・読書会が開催されてきました。その草の根の動きも新しい現象であり、国会でとりあげられたり数多くの賞を受賞したりする中で、日本社会においても少しずつ広まっていっています。

しかし、ティールを始めとする新しい世界観(パラダイム)の実践は、探求すればするほど味わい深く、すぐに答えが出るものではありません。どの実践者も試行錯誤を繰り返し、独自のやり方を見出そうと模索し続けています。

私たちは、今こそ日本における実践知を集めることで、新たなる動きを生み出せるのではないかと考え、日本ではじめてのカンファレンスを開催します。

●公式サイト
https://teal-journey-campus.qloba.com/


連載「Teal Impact」をお読みくださり、ありがとうございます。次回記事をどうぞお楽しみに。英治出版オンラインでは、連載著者と読者が深く交流し、学び合うイベントを定期開催しています。連載記事やイベントの新着情報は、英治出版オンラインのnote、またはFacebookで発信していますので、ぜひフォローしていただければと思います。(編集部より)

連載のご案内

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連載 Teal Impact:日本の組織と社会はどう変わるのか
ティール組織』発売から1年余り。それまで日本でほとんど知られていなかったコンセプトは急速に広まり、実践に取り組む組織も次々と現れている。なぜ「ティール組織」がここまで注目されているのか? これまでどのような取り組みがあったのか? そして、これからどんな動きが生まれるのか? 多角的な視点から、「日本の組織と社会のこれから」を探究する。

第1回:「ティール組織」学びの場づくりについて語ろう。(前編)
第2回:「ティール組織」学びの場づくりについて語ろう。(後編)
第3回:自分たちの存在目的を問う「哲学の時間」を持とう( 『ティール組織』推薦者 佐宗邦威さんインタビュー)
第4回:ティール組織では、リスクとリターンの等分がカギとなる(コルク・佐渡島庸平さんインタビュー)
第5回:内発的動機はどこから生まれるのか? (篠田真貴子さんインタビュー)
第6回:組織文化は「評価」によってつくられる(カヤック・柳澤大輔さんインタビュー)
第7回:ティール組織は耳心地が良い。それでは「明日から」何を始めるのか?(チームボックス・中竹竜二さんインタビュー)
第8回:ティール組織において「人事」はどうなるか?(ユニリーバ・ジャパン 島田由香さんインタビュー)
第9回:「できないこと」が受け入れられ、価値にすらなる世界が始まっている(FDA・成澤俊輔さんインタビュー)
第10回:「ティール組織」の次に来るのは、「〇〇組織」ではない(サイボウズ・青野慶久さんインタビュー)
第11回:「全力で振り切る」組織をどうつくるか(ガイアックス・上田祐司さんインタビュー)

※今後掲載予定のインタビュイー
・入山章栄さん(早稲田大学ビジネススクール)
気に入っていただけ嬉しいです!引き続き連載をお楽しみください。
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