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『自主経営組織のはじめ方』⑤ 第7章コラム:グリーン組織の罠を越えて(嘉村賢州)

ティール組織の3要素の中でも、とくに注目を集めるのが「自主経営(セルフ・マネジメント)」です。しかし、実践的・体系的なノウハウはまだ少なく、日本ではほとんど紹介されていませんでした。
2020年2月出版の『自主経営組織のはじめ方──現場で決めるチームをつくる』は、ティール組織の代表例である<ビュートゾルフ>の組織づくりにも関わったコンサルタントが、15年間にわたる知見を凝縮した一冊です。そして翻訳は、連載Next Stage Organizationsの執筆者である嘉村賢州さん、吉原史郎さん。全7回にわたって、日本語版に特別に追加した「訳者まえがき」と「コラム」をお届けします。

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『自主経営組織のはじめ方』第7章コラム
グリーン組織の罠を越えて

一筋縄ではいかない組織の移行

本書で紹介されているような自己組織化組織は、現在、まだそれほど多くはないものの、世の中の新たな潮流として確実に増えてきている組織の形態です。

自己組織化組織になることで、その構成メンバーの仕事への意欲は高まり、組織としてのイノベーションも増え、その存在目的に対する推進力は増していくわけですが、従来の組織から自己組織化組織への移行は一筋縄ではいかないものです。


グリーン組織からの移行

自己組織化組織を初めから立ち上げる場合は別として、多くの組織は、従来組織からの移行が必要となってきます。ティール組織の文脈で言うと、移行の順序は通常、次のようになります。

「オレンジ組織」
     ↓
「グリーン組織」
     ↓
「ティール組織」

なかには、オレンジ組織から一気にティール組織に移行する場合もありますが、グリーン組織を一度経ることで、より自然にティール組織へ移行できるようになります。そこには、次のようなメリットがあります。

①組織の人間関係がよくなる
②組織内に文化が生まれる
③目的に対するコミットメントが高まる

オレンジ組織は「機械」のメタファーで喩えられるように、その構成要員としての人をスキルで評価し、また上層部に権限が集中することで、現場の人たちの考える力を奪い、成長を阻むことになります。

多くの権限を現場に委譲することで人々の成長を促し、また組織内での対話文化を醸成することでその組織の存在目的に対してさまざまな意見が交わされ、存在目的へのコミットメントも高まってきます。組織全体が家族や仲間として切磋琢磨して、その存在目的の達成へと進んでいくようになるのです。


グリーンの罠?

このグリーンの段階を経ることが、ティール組織に近づくうえでは大きなステップになります。しかし同時に、こうした試みがさらなる発展を阻む場合も出てきます。これを私は「グリーンの罠」と呼んでいます。グリーンの罠に嵌(は)まった組織は、次のような様相を呈しているかもしれません。

① ひたすら会議する

オレンジ組織によく見られる階層別や部署単位の会議とは別に、全社合宿やタスクフォースといったさまざまな会議が増えていきます。多様な価値観を重視しようとして、さまざまなアジェンダに対して意見を聞こうとするために、会議が無限に増えていくのです。

② 行動の後押しを求める(意思決定が遅くなる)

オレンジ組織では、良い意味でも悪い意味でも意思決定は早く進みます。そのグループや組織の長が決定権を持っているため、時に意見が割れても、意思決定を進めることが可能です。

一方、グリーン組織では、関係性が良好なゆえに、多様な意見を尊重しすぎたり、合意形成を最優先したりして、物事がなかなか決まらない傾向にあります。同時に、担当者が何かを決めたい場合でも、多様な意見を気にしすぎて行動に移しづらく、上司や会議の決定という後押しを求めてしまうのです。

③ 課題解決が難航する
グリーン組織では、組織の課題を現場から抽出して解決しようとする傾向がよく見られます。その際、合宿や全社会議で課題を解決しようとします。ところが、ひとつの課題ごとに多様な価値観が出てきて収拾がつかなくなります。結局、何も決まらないか、さまざまなメンバーのニーズがつぎはぎされた洗練されていない解決策におわってしまうことも多々あります。

④ 熱量の低い様々なプロジェクトにあふれる
つぎはぎだらけの解決策でも、全員の総意であることは間違いありません。とはいえ、その解決策を積極的に推進しようという熱意を持った人が現れるのでしょうか。まず、出てこないでしょう。その結果、タスクの押し付けや、永遠にとりかかることのない変革アイデアがリストアップされたたまま放置されている場面が多々あります。

グリーン組織では、オレンジ組織よりも一人ひとりが「全体(みんな)」を意識するようになります。それ自体は組織にとって意義あることですが、この「全体(みんな)」が実は厄介なものとなり、自己組織化を阻む原因にもなるのです。


グリーンの罠を乗り越えるには

ティール組織では、これまで主流だった「階層構造によって物事を決める(承認プロセス)」や「合意によって決める(コンセンサス)」などの意思決定プロセスがあまり使われません。

その代わりに「適切なプロセスを踏み、一人ひとりが自由に意思決定できる」という「助言プロセス」がよく活用されています(<コラム8>を参照)。

本書では、チームの合意(コンセンサス)という方法で、従来のグリーンの罠を乗り越えようとしています。

一方、ティール組織の解説書では、合意(コンセンサス)を時間のかかるネガティブなものとして論じていますが、本書では、かなり民主的に、かつ構成的に構築することで、その弊害を打破しているように思われます。

また、ホラクラシーの手法についても、「統合的な意思決定手法」と呼ばれるものを提案しています。これは、新しいことを提案する人の足を引っ張らない会議の手法です。

読者の皆さんには、グリーンの罠に嵌まらない独自の新しい方法で、自己組織化組織の実現を目指していただければと願っています。

嘉村賢州


連載「Next Stage Organizations」をお読みくださり、ありがとうございます。次回記事をどうぞお楽しみに。英治出版オンラインでは、連載著者と読者が深く交流し、学び合うイベントを定期開催しています。連載記事やイベントの新着情報は、英治出版オンラインのnote、またはFacebookで発信していますので、ぜひフォローしていただければと思います。(編集部より)

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Next Stage Organizations 組織の新たな地平を探究する
ティール組織、ホラクラシー……いま新しい組織のあり方が注目を集めている。しかし、どれかひとつの「正解」があるわけではない。2人のフロントランナーが、業界や国境を超えて次世代型組織(Next Stage Organizations)を探究する旅に出る。

第1回:「本当にいい組織」ってなんだろう? すべてはひとつの記事から始まった
第2回:全体性(ホールネス)のある暮らし──『ティール組織』著者フレデリック・ラルーさんを訪ねて①
第3回:リーダーの変化は「hope(希望)」と「pain(痛み)」の共有から始まる──『ティール組織』著者フレデリック・ラルーさんを訪ねて②
第4回:「ティール組織」は目指すべきものなのか?──『ティール組織』著者フレデリック・ラルーさんを訪ねて③
第5回:ホラクラシーに人間性を──ランゲージ・オブ・スペーシズが切り開く新境地
第6回:『ティール組織』の次本

-----『自主経営組織のはじめ方』無料公開-----
第7回:訳者まえがき(嘉村賢州・吉原史郎)
第8回:新しい組織論に横たわる世界観:第1章コラム
第9回:自主経営に活用できる2つの要素:第2章コラム
第10回:組織のDNAを育む:第6章コラム
第11回:グリーン組織の罠を越えて:第7章コラム
第12回:ティール組織における意思決定プロセス:第8章コラム
第13回:情報の透明化が必要な理由:第9章コラム

連載著者のプロフィール

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嘉村賢州さん(写真右)
場づくりの専門集団NPO法人場とつながりラボhome’s vi代表理事、東京工業大学リーダーシップ教育院特任准教授、コクリ!プロジェクト ディレクター、『ティール組織』(英治出版)解説者。京都市未来まちづくり100人委員会 元運営事務局長。まちづくりや教育などの非営利分野や、営利組織における組織開発やイノベーション支援など、分野を問わずファシリテーションを手がける。2015年に新しい組織論の概念「ティール組織」と出会い、日本で組織や社会の進化をテーマに実践型の学びのコミュニティ「オグラボ(ORG LAB)」を設立、現在に至る。共著書に『はじめてのファシリテーション』(昭和堂)。

吉原史郎さん(写真左)
Natural Organizations Lab 株式会社 代表取締役、『実務でつかむ!ティール組織』(大和出版)著者。日本初「Holacracy(ホラクラシー)認定ファシリテーター」。証券会社、事業再生ファンド、コンサルティング会社を経て、2017年に、Natural Organizations Lab 株式会社を設立。事業再生の当事者としてつかんだ「事業戦略・事業運営の原体験」を有していること、外部コンサルタントとしての「再現性の高い、成果に繋がる取り組み」の実行支援の経験を豊富にもっていることが強み。人と組織の新しい可能性を実践するため、「目的俯瞰図」と「Holacracyのエッセンス」を活用した経営支援に取り組んでいる。