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「全力で振り切る」組織をどうつくるか(ガイアックス・上田祐司さんインタビュー)

「フリー・フラット・オープン」なコミュニケーションを大切にし、ソーシャルメディアやシェアリングエコノミーの領域に取り組んできた株式会社ガイアックス 。「人と人とをつなげ、社会課題の解決を目指す」という思いと、主体的・有機的に動ける組織体制を持つ同社からは、数多くの起業家が輩出され(内、2社が上場)、その割合は新卒入社からの卒業生の6割にも上ります。今後もますます社会に貢献できる起業家を輩出していきたいという代表執行役社長の上田祐司さんに、『ティール組織』の反響に対する思いを切り口として経営観を伺いました。(聞き手:下田理、加藤紀子、執筆:加藤紀子、写真:上村悠也、カバー写真:Photo by SpaceX on Unsplash

大企業がティール化するためには、「一気に」決断する必要がある

── 『ティール組織』が出版されてから1年半が経ち、読者の裾野が広がってきたと感じています。上田さんはティール組織を読んでどんなことを感じていますか?

上田:一般的な大手企業がティール的な組織体制を実践するのは、よっぽどの覚悟がないと難しそうな気がしています。もともとティール組織を目指していたわけではないのですが、僕らはティール的な働き方でうまくいっていると感じます。例えば投資先企業から働き方について相談を受けたときには「ガイアックスのやり方を参考にしてみてはどうですか?」と提案してみるのですが、社内の事情を聞いていくうちに、「これは簡単には移行できないな」と感じることが多いです。

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上田祐司 Yuji Ueda
株式会社ガイアックス代表執行役社長(兼取締役)。1997年の大学卒業後に起業を志し、ベンチャー支援を事業内容とする会社に入社。1年半後、同社を退社。1999年、24歳で株式会社ガイアックスを設立する。30歳で株式公開。一般社団法人シェアリングエコノミー協会代表理事を務める。同志社大学経済学部卒。

── どのあたりが大変そうだと思いますか?

上田:すでに過去の取り組みや信念が根付き、最適化されていることです。それぞれの組織の中で大切にしているものがあって、それらはどれも間違っていないと思います。生態系に魚類、哺乳類、両生類という枠組みがあるのと一緒で、別にどの組織のあり方が優れているという話ではありません。

だけど、「これが大切なんだ」と信じて疑わないものに対して「そうではないやり方」を入れ直すのはなかなか難しいでしょう。ティール導入の議論になったとしても、トップを含む影響力のある複数人が大決断をして完全に振り切らない限り、その提案は負けてしまう気がします。

だからといって、まずは評価制度だけをティールにしてみて、意思決定はこれまでのようなヒエラルキーに沿ったオレンジを維持する…というような中途半端な始め方をすると、逆に組織が弱体化してしまうと思います。

── ガイアックスは完全にティールに振り切れていると思いますか?

上田:そう思います。僕らは「やるからには徹底的に振り切るんだ」というマインドを強く共有しているんです。

それは、ベンチャー企業として「"カテゴリーでナンバーワン"にならない限り全滅する」という厳しい生存社会に生きていると実感しているからです。ユニークな存在であればオンリーワンで存続できるかもしれませんが、大抵の場合は競合がわんさかいて、生き残れるのは1〜2社です。その生き残りを目指しても、夢破れて死んでいく会社がたくさんあることを多くの社員が目の当たりにしています。だから「中途半端は絶対にダメだ」という意識が強いんです。

退職リスクが高まってでも、一人ひとりの「ライフプラン」に向き合う理由

── そんな中で、ガイアックスとして一番大切にしていることはなんですか?

上田:昔から「一人ひとりのライフプラン」を非常に大切にしています。それぞれが自分の人生で成し遂げたいことを明確にして、それに対するライフプランを1年とか四半期に落とし込んで、みんなで確認し合うという作業をやり続けています。

でも実は、社員が自分のライフプランを考えることは、組織にとって非常に危険なことでもあります。

以前、ある投資家から財務担当者が送り込まれてきて、自分のライフプランを持ち寄って語り合うガイアックスの合宿に参加したことがありました。その人は合宿後、「あらためて自分のライフプランを考えてみたら、今の職場でこんなことをやっている場合じゃないことに気づいた」と言って退職されてしまったそうです。件の投資家からは「お前のところには二度とうちの人間は送らない」と言われてしまいました(苦笑)

一人ひとりのライフプランと真剣に向き合えば、何が出てくるかわからない。それは退職リスクを急激に高めることにもなりえます。だから、そういうことをできるだけ「考えさせない」ように、年収によって会社へのエンゲージメントを高めようとする会社も少なくないのではと感じます。

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── そうしたリスクがあるにもかかわらず、あえて社員のライフプランを優先するのはなぜですか?

上田:その社員が人生で一番大切にしていることに対して会社が貢献し、喜んでもらうことが、一番その人の力を引き出せると思うからです。

ベンチャー企業って、「人生の全てを捧げよう」と思っているような人じゃないと勝てないんです。例えば僕らが100人の起業家に出資したとして、100人全員が「そこそこの業績」を出す程度だと完全に負けです。

ほとんどが生き残れない厳しいベンチャーの世界では、魑魅魍魎(ちみもうりょう)のような猛者たちであふれています。そんな乱世の中、「自分のライフプランとは一致しないけど、まぁ頑張ります」という姿勢で、スマートにソツなく仕事をこなすような優等生タイプでは勝てるわけがありません。

ここで戦えるのは、自分の思いを実現することに人生を捧げる覚悟を持った人だけ。だから僕らにとっては、そういう人のライフプランを強固にする投資をすることでこそ、リターンを得られる可能性が高くなると捉えているのです。

── すでに採用の段階から、ライフプランの部分も重視しているのでしょうか?

上田:もちろんライフプランは重要ですが、新卒の時点ですでに強い思いを持っているというケースは決して多くはないです。だから、この段階で強固なライフプランを持っているかどうかは、そこまで重要視していません。

むしろ採用の場では、うちを辞めて起業している卒業生を呼んでガイアックス時代について語ってもらったりしています。入社後には「自分の人生を捧げてこんなことをやりたい」と皆で話し合う場を設けたりして、「自分はこの先どうしていこう?」と自然に考え始めるきっかけになる機会をたくさんつくるようにしています。 

大事なのは、周りの人たちと当たり前のように自分の夢を語り合えて、世の中を巻き込むことに抵抗感がなくなる環境をつくることです。それさえあれば、自頭が良ければ勝手に自分で考え出して、「自分もあんなふうになりたいな」と思うようになります。

「組織」から「生命体コミュニティ」へ

── ガイアックスのティール的な特徴はどんなところだと思いますか?

上田:各事業部ごとに予算やPLを独自に持っています。予算を持たせているのは権限分散の一環で、いちいち上司に承認を求める必要がなくなるからです。

それに加えて、事業部はいつでも自由に会社法人にしてもいいことにしています。例えば100株の会社にするとしたら、そのうちの50株までは自分たちで持てます。ガイアックスもホールディングスとして株は持ちますけど、「意思決定は自由にやらせてくれ」と言われたら議決権を放棄します。第三者割当増資も自由です。

── 事業を独立した法人にするというのは、働いている方からしたらどういう感覚なんでしょうか?

上田:事業部のままでもすでに予算を持って自由に動いているので、法人化して変わることは、業務上は「経理を自分たちで全てやらなければいけなくなる」くらいなものです。ですが、この取り組みにはもっと別の狙いがあります。

以前、ある社員が「うちの事業部は儲からないのに、歯を食いしばって頑張っていて損だ」と訴えてきたことがありました。僕はもうびっくりで。「お前、儲からんってわかっててやってたんか」と。「さっさと止めたら?」と言いました(笑)

ガイアックス内に中途半端に拘束しても絶対にうまくいかないので、好き放題暴れさせたい。だから法人として独立させることで当事者意識を強めて、「これで一発当てにいくぞ!」というマインドに行き着くようにサポートしているんです。事業部間でガイアックスの社員から人を引き抜き合うのも自由、裁量労働制なので出社も副業もクラウドソーシングも自由です。

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── そうなると、どこまでがガイアックスという会社なのかわからなくなりませんか?

上田:そうなんですよ。例えばうちの佐別当という社員は、毎月4万円で日本中の登録物件に住み放題になる「ADDress」というサービスを立ち上げて、週1はガイアックス、週4はADDressで働いています。さらには、社内のメンバーにもストックオプションを配って手伝わせたり、彼らを役員に入れたりもしています。

ガイアックスとしては15%出資していますが、本当に15%だけかと言われると…

── もっとそれ以上のリソースが使われているような(笑)

上田:なので、厳密な配分は気にしていません。ガイアックスの仲間は、正社員、契約社員、業務委託の他に、クラウドソーサーやシェアリングエコノミーのステークホルダーなどを含めると、ものすごい数になります。

そうなると、例えば社内の全体会議も、どこまでの人が出られるのかの線引きが難しくなります。だから結果的には自由参加にし、誰でも質問できるし、オンライン視聴もできるようにしました。こうなってくると、どこまでの人がうちの関係者なのかわからないので、「もうオフィスもみんな自由にタダで使っていいよ」というところまで振り切りました。

── そこまで混在してくると、組織が目指すべき方向がぶれたりはしませんか?

上田:別に僕らはなんでもやるとは言っていなくて、「インターネットを使って人と人とをつなぐこと」をミッションにして、その実現のための事業にフォーカスしています。ガイアックスのミッションという磁石があって、そこに砂鉄をばら撒いたら、結果的に磁石の周りに山ができました、というイメージです。いかにミッションをはっきりと発信できるかで、組織のあり方が変わるんじゃないかと思います。

── 「どこまでがガイアックスなのかわからない」という時点で、組織というよりもコミュニティに近いのでしょうか?

上田:それは最近よく言われますね。社名の中にある「ガイア(GAIA)」は「地球」という意味で、僕らには「地球は一つの生命体である」という信念があります。もし、「インターネットを使った自由なコミュニケーションでつながり、そこから収益性、そして社会全体の幸福度を上げる有機的な生命体」も一種のティール組織だと定義できるのなら、僕らもそうじゃないかなと思います。

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シェアリングエコノミーで、資本主義をつくり直す

── これからガイアックスはどこに向かっていこうとしているのでしょうか?

上田:インターネットというコミュニケーション手段の発達を生かして、あるべき資本主義の形を実現したいと思っています。

本来、資本主義とは「感情」を起点に成り立っています。例えばある人が「美味しい桃が食べたい」という感情を抱いたとします。その感情を満たそうと、世の中のリソースが交換されながら全体の最大利益が導き出される。それが資本主義の素晴らしいところです。

ところが現実には、一部の富裕層の声ばかりが汲み取られ、リソースのアンバランスが起きるようになり、彼らを満足させるためだけに世の中が動くようになってしまっている。そのためには手段を選ばず、詐欺のような働きをする人もいます。これは正しいわけがありません。

n対nでリアルタイムに交流できるインターネットというシステムが現れたことで、コミュニケーションのあり方が塗り替えられました。あらゆる人があらゆる場所に、「感情」を含めた声を届けられるチャンスが生まれたのです。ソーシャルメディアと、それがリアルの世界に紐づいたシェアリングエコノミーが浸透しつつある今は、資本主義をつくり直せるチャンスだと感じています。

── そういう世界をつくるにあたって、ガイアックスにとって今の一番の課題はなんですか?

上田:もともと日本には、隣人との醤油の貸し借りや長屋での共同生活みたいな助け合いの精神がありました。そうした土台も生かしながら、インターネットを通じたシェアリングエコノミーでは、顔見知りじゃなくても人と人とがコミュニケーションし、支え合えるような社会ができるはずです。

ところが今の日本では、消費者保護という理由で、消費者が消費者にサービスを提供することを法律が認めない傾向があります。それが一番歯がゆいです。海外ではすでに、自分の車や自宅の空き部屋を使っていないときに自由に貸せるんです。だから日本でもなんとか法律を改正してほしいと思って頑張っているのですが、なかなか難しいですね。

また、経営という点では、起業家マインドを持った人にはぜひ入ってきてほしいです。日本では起業すると言うといまだに「変わり者」扱いで、起業家がスムーズに成長できる場がほとんど用意できていないように思います。新卒でとびきり優秀な人には、ぜひガイアックスを勧めたいです。

── 最後に、上田さんもご登壇される9/14のカンファレンス(ティール・ジャーニー・キャンパス)に期待していることを教えてください。

上田:ティール組織は研究対象だと思っています。様々な立場の人のいろんな意見が飛び交い、刺激し合い、新しいソリューションや気づきが出てくればいいですね。そして、参加者が自分の組織に戻った後も、社内の課題がより言語化・整理されたり、新しいものが生まれてきたりすることにつながればと思っています。

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▼参考:上田祐司さんが登壇された、『ティール組織』解説者・嘉村賢州さんたちとのトークセッションのレポートはこちら
https://www.gaiax.co.jp/blog/teal-organization-report-2/


9/14 TEAL JOURNEY CAMPUS 開催!

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日本初、「新しい組織の探求者」が一堂に会するカンファレンスを開催!

「ティール・ブーム」から「ティール・ムーブメント」へ

「これからの組織のあり方」を示して注目を集めた『ティール組織』発売から1年余り。 日本各地で、自然発生的に多くの勉強会・読書会が開催されてきました。その草の根の動きも新しい現象であり、国会でとりあげられたり数多くの賞を受賞したりする中で、日本社会においても少しずつ広まっていっています。

しかし、ティールを始めとする新しい世界観(パラダイム)の実践は、探求すればするほど味わい深く、すぐに答えが出るものではありません。どの実践者も試行錯誤を繰り返し、独自のやり方を見出そうと模索し続けています。

私たちは、今こそ日本における実践知を集めることで、新たなる動きを生み出せるのではないかと考え、日本ではじめてのカンファレンスを開催します。

●公式サイト
https://teal-journey-campus.qloba.com/


連載「Teal Impact」をお読みくださり、ありがとうございます。次回記事をどうぞお楽しみに。英治出版オンラインでは、連載著者と読者が深く交流し、学び合うイベントを定期開催しています。連載記事やイベントの新着情報は、英治出版オンラインのnote、またはFacebookで発信していますので、ぜひフォローしていただければと思います。(編集部より)

連載のご案内

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連載 Teal Impact:日本の組織と社会はどう変わるのか
ティール組織』発売から1年余り。それまで日本でほとんど知られていなかったコンセプトは急速に広まり、実践に取り組む組織も次々と現れている。なぜ「ティール組織」がここまで注目されているのか? これまでどのような取り組みがあったのか? そして、これからどんな動きが生まれるのか? 多角的な視点から、「日本の組織と社会のこれから」を探究する。

第1回:「ティール組織」学びの場づくりについて語ろう。(前編)
第2回:「ティール組織」学びの場づくりについて語ろう。(後編)
第3回:自分たちの存在目的を問う「哲学の時間」を持とう( 『ティール組織』推薦者 佐宗邦威さんインタビュー)
第4回:ティール組織では、リスクとリターンの等分がカギとなる(コルク・佐渡島庸平さんインタビュー)
第5回:内発的動機はどこから生まれるのか? (篠田真貴子さんインタビュー)
第6回:組織文化は「評価」によってつくられる(カヤック・柳澤大輔さんインタビュー)
第7回:ティール組織は耳心地が良い。それでは「明日から」何を始めるのか?(チームボックス・中竹竜二さんインタビュー)
第8回:ティール組織において「人事」はどうなるか?(ユニリーバ・ジャパン 島田由香さんインタビュー)
第9回:「できないこと」が受け入れられ、価値にすらなる世界が始まっている(FDA・成澤俊輔さんインタビュー)
第10回:「ティール組織」の次に来るのは、「〇〇組織」ではない(サイボウズ・青野慶久さんインタビュー)
第11回:「全力で振り切る」組織をどうつくるか(ガイアックス・上田祐司さんインタビュー)
第12回:ティールを広げるためには「国家レベルのデザイン」が求められる(早稲田大学ビジネススクール・入山章栄さんインタビュー)

~Teal Journey Campus参加レポート~
沖依子:仲間の声に耳を澄ませると、 組織のありたい姿が見えてくる
野田愛美:組織は「つくる」のではなく「できていく」

みんなにも読んでほしいですか?

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