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「雑な関係性」にも価値がある──『孤独の本質 つながりの力』読書会@本屋lighthouseレポート

去年11月に出版した『孤独の本質 つながりの力──見過ごされてきた「健康課題」を解き明かす』(ヴィヴェック・H・マーシー著)。

本書に関心を持ってくださった本屋lighthouseフラヌール書店の2店舗で、読書会を開催しました。本記事では、1/21(日)におこなわれた本屋lighthouseでの会のレポートをお送りします。

「つながりの力」というと「人と人の深い関係」に生まれるものというイメージがあるかもしれませんが、この日に盛り上がったのは、それとは反対の関係性の価値についてでした──。

アメリカ公衆衛生局長官として、大国の公衆衛生をリードしてきた著者が多角的に解明した一冊。



「灯台」のような書店で

本屋lighthouseは、京成幕張駅から徒歩6分ほどのところにあります。そのはじまりは、店主の関口竜平さんが畑の中にご自身で建てたプレハブ小屋だったという異色の書店です。

2坪の小屋を建ててスタートした本屋lighthouse
2021年にオープンした新店(幕張支店)。原点の小屋のほうが「本店」とのこと。

暗闇に迷うひとには足下を照らす光を
夢を抱くひとには果てなき道を照らすしるべとなる光を
過去、そして未来へと あまねく光を

──本屋lighthouseのHPより

そんな光となりうる本をあつかい、「読み手と書き手をつなぐ灯台のような存在に」という小屋時代から変わらないテーマを掲げ続け、こだわりを持って選書をされています(想いの詳細はこちら)。

そんな関口さんが、「孤独を絆的なものではなく健康課題として捉えているのが好感」と発売前から本書に注目してくださり、お店のニュースレターで取り上げてくださったことがご縁のはじまり。もともと毎月テーマを決めて催されていた読書会に、今回はコラボ企画というかたちでご一緒させていただきました。

読書会の構成はシンプル。

  • 目次をながめて気になったパートを選ぶ

  • 30分間、黙々と読む

  • 読んだパートの内容と感想をシェア

  • 「ポジティブなつながりとは何か?」をテーマに対話

本書の目次一覧。原著者の許諾を得て、原書版よりも小見出しを増やしています。

読書会常連の参加者とともに、終始リラックスモードでさまざまな感想が出てきました。

感想を語る参加者のみなさん。本には付箋も。

そのなかでもいちばん盛り上がったのが、「雑な関係性の価値」についてでした。


「雑な関係性」にも価値がある

30分間の読書タイムのあと、参加者からはこれまでご自身が経験してきた人間関係を踏まえたお話が出てきました。

「かつての職場は、お互いが家族構成を知っているくらい密でした。今は職場の人間関係が希薄になっている印象。プライベートを聞きにくい時代」

そんな声が挙がる一方で、こんなエピソードも。

「過去に、自分だけが若者の男性だった職場にいたことがありました。休憩時間に年配の女性たちが話しかけてくれるのだけど、一方的に話をしてくれるだけで、特に返事は求められない。ただその場にいるだけでいい、話を聞き流してもいい関係性が心地よかったりもしました」

このエピソードを皮切りに、「雑な関係性」というキーワードを軸にさまざまな意見が出ました。

「世代や性別が離れているからこその、シリアスになり過ぎない雑な関係性がちょうどいい」
「コミュニティの属性を強要されない空間が心地いい」
「個と個が切り離せる空間も大事」
……etc

店主・関口さんも、お客さんとのあいだにポジティブなつながりを感じる瞬間には濃淡のようなものがあると言います。

「ポジティブと感じるつながりは2種類あります。ひとつは、お客さんが積極的にレジ越しに話しかけてくれるとき。マイノリティに関する本を多く置いていることからも、自己開示をしてくれるお客さんもいるんです。もうひとつは、いっしょにお店にはいるのだけど、自分がお客さんにとって空気のような存在として認識されているとき。安心してもらってると感じます」


文化の第3の器──「他者とのつながり」と「個人の自由」とは両立できるか

濃いつながりと薄いつながり、どちらからもポジティブなものを感じることがある──関口さんのお話から、本書の「第3章 つながりの文化──文化の第3の器」に書かれている内容が思い起こされました。少し長くなりますが、書籍から引用してご紹介します。

文化は人間関係が醸成される器のようなものだと考えると分かりやすいように思う。サイズや形によって、この器はつながりや孤独の体験を規定する。

個人主義文化のことは、深さはそこそこで非常に幅広の器だと考えてみよう。そこにはさまざまなバックグラウンドを持った人がうろつきまわっていて、ときどき友情を育んだり、気の合う仲間を見つけたりすることもあるが、離れて過ごす時間も多い。この器の形は、人と一緒にいることをほとんど強制させることがない。自分の道を選ぶ余地がたくさんあるが、ともに歩んで手助けしてくれる人が見つかるかどうかは、いかにその人が努力するか、幸運か、そして見知らぬ人とも心を通わせようと考えているかにかかっている面がある。探求や多様性や変化にかなり開かれた文化だが、共通の基盤を築き上げることには大きな労力が必要になる。この広い器においては、あてもない漂流をしているときに孤独を感じるかもしれない。

一方、より伝統的な集団主義の文化は、狭くて深い器だといえる。生まれたときから、共通の基盤が厳として存在する。この器のなかの人たちは、好きに歩きまわるような余地のない場所で何世代にもわたって一緒に暮らしてきた。あらゆる年齢と性格の人が密接に関わり合い、支え合っている。社会的にも物理的にも人との距離が近く、そうした親密さは文化としても大切にされている。しかし、こうした狭さに馴染まず、もっと個人的な自由や別種のサポートが必要な人は、距離の近さをうとましく思うかもしれない。この狭い器のなかでは、自由の余白がないときに孤独だと感じる。

興味深い問いは、この2種類の器の良い部分を踏襲した第3の器を作ることは可能か、である。この第3の器のなかでは、共通の基盤は伝統的な文化と同じくらい強固なものでありつつ、各個人は主に生まれた環境ではなく自身の選択や関心や理念をもとにして結びつく。

この第3の器では、人が自分らしくいつづけられるように個人の表現の自由を維持し、自分の願いや必要に応じて他者と交流できる。求めるならばひとりになることもできるが、つながりや信頼を生み出し、人が集う機会を作ることによって孤独を防ぐ仕組みを提供する。広い器のあちこちに、人がつながり合える深いポケットのようなくぼみがあると想像してみよう。こうした空間が人々を受け止めて家と呼べる場所を与えるため、個人が放っておかれることはない。

「第3章 つながりの文化──文化の第3の器」より。太字はオンライン記事特有の処理です。

参加者からも、

「ひとつの関係性に頼るのは危険。色んなつながりの階層を持っていると不安要素が少ないと思います」

という声が挙がりました。

ときに他者との深い絆を感じられる場へ、ときに気楽な距離感を保てる「雑な関係性」のコミュニティへ──そんな「他者とのつながり」と「個人の自由」が両立する文化をどう築いていけるか。

本書では、こうした第3の器を目指す取り組みとして、「親切」を政策に掲げた都市アナハイムや、沖縄の伝統的な社会システムである「模合もあい」の事例も紹介されています。


「孤独/つながり」と本屋──店主・関口さんより

会の最後は、関口さんからのメッセージで締めくくられました。

「個人事業主として書店を経営しているなかで、どうしても『孤独』とは向き合わなければいけないところがあります。個人的に孤独には耐性があるほうだと思うけれど、お店づくりをするうえでは、持続可能性を踏まえ、いつでも手を取り合える状態を作れたらいいなと思います」

「自分にはアナキズムにおける『相互扶助』という通底したテーマがあります。それは『困っている人がいるから助ける』という純粋な目的の他に、お金や売名などの思惑がないものです。本屋は、来店する都度お金を払わなくてもいい空間を提供することができます。家族や友人でもない人たちと気楽に集まれる──それは本書と共通するテーマだと感じました」

イベントが終わってからも、常連参加者のお二人はその場に残り、次の読書会の打ち合わせをしていました。お客さんと書店の距離がとても近く、お二人にとって大切な居場所のひとつになっていることが伝わってくる印象的な光景でした。


▼本屋lighthouseについて
〒262-0032 千葉県千葉市花見川区幕張町5-465-1-106
JR/京成幕張駅より徒歩6分
営業時間:12:00〜19:00(定休:月・火・第3水曜日)
HP:https://books-lighthouse.com/

▼フラヌール書店での読書会レポートはこちら


◆本書の一部を以下よりお読みいただけます◆
依存症、暴力、うつ──多くの問題をつなぐ黒い糸(はじめに)
孤独にまつわる調査(「第1章 目の前にあるのに気づかないもの」より)
生死に関わる問題(「第1章 目の前にあるのに気づかないもの」より)
孤独のパラドックス(「第2章 孤独の進化史」より)
ずっとオンライン(「第4章 なぜ、いま?」より)
神経科学から見る「奉仕」の効果(「第5章 孤独の仮面を剥がす」より)
思いやりを、行動に(「第8章 ひとつの大家族」より)

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