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「聴き手のため」を考え抜いたプレゼンは本当に強いのか?(竹内明日香)

プレゼンテーションの準備をする際、まず最初に考えることは何か? 多くの場合、「聴衆は誰で、何を求めているのか」に頭を悩ませるのではないだろうか。
長年にわたって日本企業のプレゼンサポートや子どもたちへの「話す力」を育む出前授業を展開してきた著者は、この「聴き手至上主義」に疑問を投げかける。

聴衆を意識し過ぎると、凡庸なプレゼンになる?

「プレゼンは、中身を考える前に、聴衆が誰かを調べてから準備せよ」
「顧客のニーズに沿った提案をせよ」
「プレゼンは相手へのプレゼント」…

これらは人に何かを伝える際の準備の過程で、鉄則のように言われる事柄です。確かにそう、なのですが、逆に利他性を意識し過ぎると聴衆には「刺さらない」ということが多いものです。

英語のプレゼンテーションの教科書を読むと、‟WIIFM”なる言葉が出てきます。これは‟What’s in it for me.”の略。すなわち、聴衆から見て「この発表を聞くと、自分にとってどんな便益があるのか」という意味の言葉です。聴衆は、自分に何かプラスになる要素がなければ耳を貸さないよ、と。

私が携わった国際的なプレゼンの大会では、ある年の登壇審査基準に「
聴衆にとってのtakeaway(持ち帰って実践できるお土産)を10個!入れること」という条件が入っていました。

確かに、独りよがりのトークはダメ、なんです。聴き手が持ち帰れるものがあってこそナンボだ、と。

ただそうは言っても、そもそも「相手が望むものは何か?」がわからずに苦労されている方はいらっしゃらないでしょうか? 仲間内で話すのなら得意だけれど、人前で話すのは不得意という人は多いのではないでしょうか? 知り合いであれば、相手の好き嫌いはわかるので、その人が好きな話をしたら良い。でもそうではなかったら?

相手が初めて会う人の場合、その人の望む話がわからないので、そこに照準を合わせることは難しいものです。その「正解」を外さないように話そうとするあまり、角が削られた一般的な話に陥りやすく、尖った話はしにくくなっていきます。

また、話す相手がマスになればなるほど、「正解」は多数あり、万遍なくメリットを提供する必要が出てきます。この際、自分が熱を込めて語れる内容と、「聴衆が欲していると思われる情報」が一致していれば良いのですが、もしそこが乖離していたら何が起きるか?

「こう言っておけば無難」という話ばかりの無個性なものや、「これが好きでしょうか? そしてきっとこれも好きですよね?」とあれもこれも詰め込んだ芯のないトークやプレゼンになってしまうでしょう。

これではもったいない。

振り切った話の方が、聴いていて楽しい!

聴衆に合わせようとして上記のようなプレゼンになってしまうよりは、語り手が好きな内容、人に伝えたいユニークな視点、その人ならではの意見にコンテンツを振り切ってしまった方が、むしろ聴いている方はずーっと楽しいのではないか。そして、たとえ聴衆が当初欲していた内容とは違ったものになったとしても、後々まで彼らの印象に残る話になるのではないか。数々のプレゼンのサポートをしていくなかで、あるときそう気付きました(ちなみに、先ほどの「聴衆メリットを10個入れよ」と言っていたプレゼン大会は、スピーカーたちのプレゼンがあまりに苦しげだっため、翌年からそのルールを撤廃していました)。

これは、話すときのみならず、書く際にも当てはまります。お店の商品ディスプレイに添えるPOP広告を書くコツについても研修をすることがありますが、効用や性能が書かれているよりも、店員さんの主観的な「好き」が言語化されている方が、買いに来た人たちの共感を呼びやすいと伝えています。

1964年の東京オリンピックについて、安岡章太郎、開高健など数多くの文学家が、対談したり著述したりしている文章を最近読みました。そのなかでもひときわ目を引くのは三島由紀夫の記事です。例えば体操種目についてはこんな風に記しています。

双眼鏡で遠い鉄棒の演技をながめてゐると、手を逆に持ちかへるときに、掌いっぱいにまぶしたすべりどめの粉がパッと散る。それは人体が描く虚空の花の花粉である。徒手体操では、人体が白い鋏(はさみ)のやうに大きくひらき、空中から飛んできて、白い蝶みたいに羽根を立てて休み…
——『決定版 三島由紀夫全集 第33巻』「完全性への夢」(三島由紀夫著、新潮社)より

なぜ彼の表現が異彩を放つのか。それは、少年時代はひ弱で、スポーツからは遠い存在だった三島が、突如ボディビルを始め、ボクシング、剣道と経験して、東京オリンピックとときを同じくしてスポーツの一大愛好家になっていたからではないかと思います。スポーツが「好き!」という情熱が、どの著述家よりも強いがために、そのワクワクする無邪気な気持ちが乗った彼の表現は他の人々以上に傑出したものになった、と推測します。もし読者の熱量を意識しながら書いたのであれば、もう少し抑えたトーンの文章になっていたでしょう。

自分の「好き」を語ることが、逆に聴衆の満足を高める

子どもたちのもとへ授業に行くなかで心配になるのは、小学校の5~6年くらいから自分の「好き」を語るより、問いに対する「正解」を探る子が増えてくることだ、と初回の記事に書きました。

これにはふたつの理由があると考えます。

ひとつは、学年が上がるごとに正解を求められる授業が増えることです。その影響はとりわけ受験する子が多い地域で顕著であり、受験勉強との相関がありそうです。

加えて、そもそも「聴くことこそが大事だ」というメッセージを多く受け取ることにも端を発しているように思います。「話す力は聴く力」と言われたり、政府が出している「社会人基礎力」には「傾聴力」が大切だと書かれています。ただ私には、日本人のように周囲をうかがって空気を読む傾向が強いと言われる国民に、さらに先述の‟WIIFM”を強調して「聴き手を意識せよ」というのには違和感を抱きます。

もちろん聴く力を身につけ、聴衆の知りたいことに耳を傾けることも大事です。でもまずは、自分の内なる声に正直になって、何が「好き」なのか、それをなぜ伝えたいのか、その言語化を優先した方が良いと思うのです。

入学の面接でも、就活の面接でも、自分の話したい内容がイキイキと話せたら合格したという成功体験をお持ちの方の話をよく耳にします。そう、自分の好きなことを言語化すれば、もっと楽しく力強く話せるはず。

子どもや部下など誰かに発言を促すときにも、もっと自由に発言内容を開放してみる。好きなことを好きって言っていいよ、と。そうして発することができた言葉に「へー」っと周囲が感心したら、それはきっとその人の自己肯定感の向上につながるはずです。

そのような機会を子どもたち・若者たちに与える必要があると思いますし、我々大人も、もっと肩の力を抜いて「好き」を言語化する自由なプレゼンを試みて良いのではないかと思います。

聴き手に響くプレゼンをするためにこそ、逆説的ですが、聴き手の気持ち以上に自分の「好き」という気持ちに焦点を当ててみることが大切です。100人の心を満たすプレゼンを生み出そうとすると気が遠くなりますが、まずは「きっと誰かひとりの心に響く、この自分の『好き』を届けよう!」と考えることが、結果的には力強いプレゼンにつながるのです。


連載紹介

連載:「好き」を言語化しよう(フォローはこちら
道徳の教科化が始まり、「忖度」が流行語となる時代。善悪の判断や他人への配慮が問われる一方で、飛び抜けた活躍をする人たちはみな、自分自身の「好き」を表明し、徹底的に追い求めている。社会を動かすのは、正しさ以上に「好き」を原動力にしている人たちではないだろうか。 この連載では、国際舞台で戦う日本企業の発信を長年支援し、4年間で延べ1万5,000人以上の子どもたちに「話す力」を育む出前授業を行ってきた著者が、自らの「好き」を言語化する力の可能性を、プレゼンやチームづくりなどの様々な場面における効用を示しながら探る。

インタビュー:「話す」ことに苦労した子どもが、子ども向けプレゼン教育のプロになった
第1回:なぜ「好き」を語る子どもが「正しい」を語りたがる大人になるのか
第2回:「聴き手のため」を考え抜いたプレゼンは本当に強いのか?
第3回:プレゼンもキャリアも特別なものにできる、「好きのかけざん」の力
第4回:日本の20代の好奇心はスウェーデンの60代並み!?
第5回:「不得意だけど好き」と「嫌いだけど得意」はどちらが強いのか
第6回:強いチームは「苦手」を克服させない
第7回:勢いのある企業が社員の「得意」よりも大事にしていること
第8回:なぜ結婚式の主賓スピーチはつまらないのか
第9回:人に刺さり、人が集まる「S字の自己紹介」
第10回:日本で起業家が少ない、見過ごされがちなもう一つの理由
最終回:「好き」を語る子どもであふれる未来は、私だけの夢ではなくなった

著者紹介

竹内明日香(たけうち・あすか)
一般社団法人アルバ・エデュ代表理事。株式会社アルバ・パートナーズ代表取締役。
東京大学法学部卒業後、日本興業銀行(現みずほフィナンシャル・グループ)にて国際営業や審査等に従事。(株)アルバ・パートナーズを2009年に設立し、海外の投資家向けの金融情報提供や、日本企業向けのプレゼンテーション支援事業を展開。さらに、子どもたち・若者たちの話す力を伸ばすべく、2014年に(社)アルバ・エデュを設立、出前授業や教員研修、自治体向けカリキュラム策定などを精力的に行っている。2019年3月現在、延べ150校、15,000人に講座を実施。2014年、経済産業省の第6回キャリア教育アワード優秀賞受賞。2018年、日本財団ソーシャルイノベーター選出。日本証券アナリスト協会検定会員。

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連載:「好き」を言語化しよう

道徳の教科化が始まり、「忖度」が流行語となる時代。善悪の判断や他人への配慮が問われる一方で、飛び抜けた活躍をする人たちはみな、自分自身の「好き」を表明し、徹底的に追い求めている。社会を動かすのは、正しさ以上に「好き」を原動力にしている人たちではないだろうか。 この連載では、...
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