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「不得意だけど好き」と「嫌いだけど得意」はどちらが強いのか(竹内明日香)

「好き・嫌い」と「得意・不得意」という、似ているようで異なる概念。それらはいったい何が違い、人生においてどちらが優先されるべきなのか。子どもたちに「話す力」を育む出前授業を展開し、特に自分のなかにある「好き」を言語化する重要性を説いてきた著者が考えることとは。

「不得意だけど好き」「嫌いだけど得意」、どっちを優先する?

勉強でも仕事でもスポーツでも、「好きで、しかも得意」なものがあれば鬼に金棒ですが、みんながそんなものを持っているわけではありません。でも、「好き」なもの、「得意」なもの、と片方ずつ聞かれたら挙げやすいですよね。

「好き・嫌い」と「得意・不得意」の関係を考えたとき、次のようなマトリクス図が浮かびます。

「好きで、しかも得意」なことであれば言うことはなく、「嫌いで、しかも不得意」なことであれば無理をしない…向き合い方に困ることは少ないかと思います。

では、「不得意だけど好き」なものと、「嫌いだけど得意」なものとは、どのように向き合ったら良いのでしょうか?

「好き・嫌い」と「得意・不得意」の根本的な違い

まずは、そもそも「好き・嫌い」と「得意・不得意」にはどのような違いがあるのか、考えてみたいと思います。

「好き・嫌い」は本人の主観であって、他者が疑念を挟む余地はありません。「好き」は絶対的なものであり、人になんと言われようと「好きなものは好き」で良いのです。

一方「得意・不得意」が「好き・嫌い」と違う点は、「他者軸」があって客観的・相対的なものとして使われがちなことです。人と比べて得意か、人と比べて不得意か、と。「好き」と違い「得意」は、他者と比較する必要が多々あり、そのポジションも相対的に変動するため、そこに安住できるものではありません。絶えず磨いて、他者より秀でている必要が生じ得ます。

では、これらの性格を持つ「好き・嫌い」と「得意・不得意」がクロスするように交わった場合、それぞれの組み合わせにはどんな特徴があるでしょうか。

「得意、だけど嫌い」の脆さ

「得意」なことであれば、それはきっと「好き」なことでもあるのだろうと考えてしまいがちです。しかし、「得意」だけれどそれが「嫌い」という場合が往々にしてあります。

楽器の国際コンクールを制覇して鳴り物入りでプロになった方々が、精神的に疲れている様をよく耳にします。一流の大学に入ったものの、5月病になり引きこもるという話も、同じようなことに思えます。勉強はできて大学入試は突破したけれど、別に学ぶのが好きなわけではなかった、と。

これは、他者との相対においては「得意」で秀でていたものの、安心して思えるはずの「好き」という気持ちがすり減ってしまったり、そもそも欠けていたりしたことによる脆さなのではないかと感じます。

「不得意、だけど好き」が強い理由

この対局にある「不得意」でも「好き」という象限は、むしろ大きなポテンシャルがある強い状態だと感じます。その理由として、以下の3点が挙げられると思います。

(1)「好き」は絶対的で、安心して笑顔でいられるものであること。
(2)「好き」であれば、努力することが苦ではないので伸びしろが大であること。
(3)いずれ関連分野に目を開くことも可能になること。

この連載の編集者さんが高校サッカー部時代に共にベンチを温めていたチームメンバーは、「俺はサッカーには選ばれなかったけれど、俺はサッカーを選んできた」という名言を残されています。そして、好きが高じて大ファンのJリーグチームを経営する会社に就職を決め、同世代の先頭を切って仕事で大活躍されているそうです。

たとえ「不得意」であっても、サッカーが「好き」という一念があれば、その人の可能性が開いていく道はいくらでもあるのだと思い知らされます。

今、ビデオゲームを使ったスポーツ競技である「eスポーツ」に熱いまなざしが送られています。元サッカー日本代表の秋田豊さんも、「身体を動かすだけではなく、そのスポーツ自体が好きな人に参加の道を開く」と絶賛しており、eスポーツ関連企業でコーチ兼取締役を引き受けておられます。

これは「スポーツが好きだけれど自分でプレーするのは不得意」という人にも夢のような話であると感じました。バーチャルの世界が拡大することにより、物理的には無理でも、疑似的に「好き」が叶えられ、満たされていくのが今日の文脈なのかと思います。

こうなればもう、たとえ「不得意」なことでも、「好き」だと感じることはどんどん口にして手を挙げた方が得をしそうです。

「好きだけど不得意」「得意だけど嫌い」、どちらの場合にも共通する対処法

では、具体的に「好きだけど不得意なもの」がある場合には何をすべきか。そして反対に、「得意だけど嫌いなもの」に対してはどう対峙すべきなのか。

実はこのどちらの場合においても、「自分の好き・嫌いを言語化すること」が鍵になるのではと思うのです。

まず、「好きだけど不得意」な場合は、周囲に自分の「好き」という感覚が伝わりにくいので、それが「好き」であることをとにかく言語化して伝えることが大事です。でないと、「不得意そうだから」「向いてなさそうだから」というだけで戦力から外され、永遠にチャンスが回って来ないことだってあり得ます。

上述したように、「不得意であるにもかかわらず好き」というのはどこかで逆転できるだけのポテンシャルをはらんでいるので、まずは進んで表明して、できるだけ周囲の理解と応援を獲得すべきであると思います。

次に「得意だけど嫌い」という場合です。この場合は、周囲は「あれだけできるのだから好きなのだろう」と先入観を持ってしまいがち。よって、たとえ「得意」であっても本人がつらいのなら、「嫌い」も同じく言語化して知ってもらうことが大事です。

私が銀行員だったころ、有能で面倒見が良く、後輩からの信頼も厚い先輩がいらっしゃいました。「もっと高い地位につければ、もっと活躍できるのでは」と部長が考え、若くして課長に昇格しましたが、その途端にまったくお仕事に身が入らなくなってしまいました。その方はそれを言葉にして伝え、数か月後には別の課の課長のもとに再度プレーヤーとして配属され、それからはまた楽しそうに仕事をされていました。

後から聞くと、その方はマネジメントはできるけれど実は「嫌い」だったそうです。この方の場合は、早々にそれを言語化してポジションが替わったことで、またイキイキと元の仕事スタイルに戻ることができた例でした。

「得意」よりも「好き」を大事に

「得意」に見えることを持っていると、「その分野の頂点を目指せ!」と周囲は期待してしまいます。でも、そもそもそれが「好き」でなければ本人にとっては不幸で、熟達への意欲もわきづらいものです。であれば、本人が本当に「好き」なものを知り、そちらで伸び伸びと挑戦をさせてあげることでこそ開ける世界があるのではないか、と思います。

「何が好きなのか」を言語化しやすい環境をつくり、上司や親であれば、それぞれ部下や子どもの意向を折に触れてくみ上げてみる、という意識を持つようにすることが大切ではないでしょうか。


≪連載紹介≫

連載:「好き」を言語化しよう(フォローはこちら
道徳の教科化が始まり、「忖度」が流行語となる時代。善悪の判断や他人への配慮が問われる一方で、飛び抜けた活躍をする人たちはみな、自分自身の「好き」を表明し、徹底的に追い求めている。社会を動かすのは、正しさ以上に「好き」を原動力にしている人たちではないだろうか。 この連載では、国際舞台で戦う日本企業の発信を長年支援し、4年間で延べ1万5,000人以上の子どもたちに「話す力」を育む出前授業を行ってきた著者が、自らの「好き」を言語化する力の可能性を、プレゼンやチームづくりなどの様々な場面における効用を示しながら探る。

インタビュー:「話す」ことに苦労した子どもが、子ども向けプレゼン教育のプロになった
第1回:なぜ「好き」を語る子どもが「正しい」を語りたがる大人になるのか
第2回:「聴き手のため」を考え抜いたプレゼンは本当に強いのか?
第3回:プレゼンもキャリアも特別なものにできる、「好きのかけざん」の力
第4回:日本の20代の好奇心はスウェーデンの60代並み!?
第5回:「不得意だけど好き」と「嫌いだけど得意」はどちらが強いのか
第6回:強いチームは「苦手」を克服させない
第7回:勢いのある企業が社員の「得意」よりも大事にしていること
第8回:なぜ結婚式の主賓スピーチはつまらないのか
第9回:人に刺さり、人が集まる「S字の自己紹介」
第10回:日本で起業家が少ない、見過ごされがちなもう一つの理由
最終回:「好き」を語る子どもであふれる未来は、私だけの夢ではなくなった

≪著者紹介≫

竹内明日香(たけうち・あすか)
一般社団法人アルバ・エデュ代表理事。株式会社アルバ・パートナーズ代表取締役。
東京大学法学部卒業後、日本興業銀行(現みずほフィナンシャル・グループ)にて国際営業や審査等に従事。(株)アルバ・パートナーズを2009年に設立し、海外の投資家向けの金融情報提供や、日本企業向けのプレゼンテーション支援事業を展開。さらに、子どもたち・若者たちの話す力を伸ばすべく、2014年に(社)アルバ・エデュを設立、出前授業や教員研修、自治体向けカリキュラム策定などを精力的に行っている。2019年3月現在、延べ150校、15,000人に講座を実施。2014年、経済産業省の第6回キャリア教育アワード優秀賞受賞。2018年、日本財団ソーシャルイノベーター選出。日本証券アナリスト協会検定会員。

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連載:「好き」を言語化しよう

道徳の教科化が始まり、「忖度」が流行語となる時代。善悪の判断や他人への配慮が問われる一方で、飛び抜けた活躍をする人たちはみな、自分自身の「好き」を表明し、徹底的に追い求めている。社会を動かすのは、正しさ以上に「好き」を原動力にしている人たちではないだろうか。 この連載では、...
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