日本の20代の好奇心はスウェーデンの60代並み!?(竹内明日香)

子どもたちの「話す力」を育む出前授業を展開し、特に自分のなかにある「好き」を言語化する重要性を説いてきた著者。今回の記事では、そもそもその「好き」を持つための大元となる「好奇心」をいかに強めるかを、日本人の現状を示す衝撃的なデータを取り上げながら考える。

イキイキと力強く生きる人に共通するもの

みなさんの周りで、楽しそうにしている人、イキイキと仕事で活躍している人、力強く人生を送っている人を想像してみてください。その人たちに共通するものは何でしょうか?

あれも好き、これも好き、と次々に好きなものが出てくる人は、(出てくるものがたとえ延々と食べものだったとしても)生気がみなぎり、会話が尽きることがありません。なんだか自己肯定感も高そうな人たちです。みなさんがイキイキしていると感じる人も、このような人たちではないでしょうか?

仕事上、私が国内外で見てきた魅力的なプレゼンターたちも、自分自身、自分の会社、自分の仕事、とにかく周囲のモノヒトコトが好き!という人が多いのです。

「好き」なものに、脈絡や根拠はいらない!

大好きな映画『サウンド・オブ・ミュージック』に、『My Favorite Things』という大好きな歌があります。

Raindrops on roses and whiskers on kittens
Bright copper kettles and warm woolen mittens
Brown paper packages tied up with strings
These are a few of my favorite things
バラに滴る雨粒に子猫のひげ
磨き上げられた銅のやかんに暖かなウールの手袋
紐で結わかれた茶色の袋
私のお気に入りのものたち

Cream-colored ponies and crisp apple strudels
Doorbells and sleigh bells and schnitzel with noodles
Wild geese that fly with the moon on their wings
These are a few of my favorite things
クリーム色の子馬にサクサクのりんごのお菓子
ドアの呼び鈴にそりの鈴 ヌードルを付け合わせた薄いカツレツ
月に向けて飛んでいく野生のガチョウ
私のお気に入りのものたち
—―『My Favorite Things』作詞:オスカー・ハマースタイン2世(訳:著者)

ジュリー・アンドリュース扮する家政婦マリアが、雷を怖がる子どもたちをベッドに集め、「好き」なものを歌にしてみよう!と、どんどん発想を飛ばしていく場面です。

「好きには脈絡なんてなくて良い!」「根拠もなくて良い!」「好きなものは好き!」、そう宣言しているようで、この歌が大好きです。そしてひとつ「好き」が見つかると、どんどん他の「好き」のスイッチも頭のなかで点灯していく、この歌はまさにそんな状況を言葉にした世界だと思います。

「好き」の原動力となるものは何か?

では、「好き」のスイッチを点灯させていくために必要なことはなんでしょうか?

その原動力となるものは、未知のものに関心を示す「好奇心」であると言えます。この好奇心があるかないかの違いによって、同じものを見てもそれに対する反応が変わってきます。

好奇心旺盛な人が「わぁこれ面白い、もっと知りたい、調べてみよう、そういえばこんなものもあったよね、これも好きかも」とスイッチが入るのに対して、好奇心が枯渇している人は、その存在や価値に気付かず前を素通りしてしまう。そうして徐々に、「好き」を次々と口にできる人とそうでない人の差が開いていくのではないでしょうか。

「好き」が見つからない人は、生きている世界が狭いわけでも、毎日の生活が平凡なわけでもないと思います。そうではなく、普段の風景に溶け込んでいるものから何かを見つけ出して、「これなんだろう、面白い」と感じる好奇心をなくしているだけなのかもしれません。

ここで、この「好奇心」について気になるデータがあります。

日本人の知的好奇心の低さを表す衝撃のデータ

教育社会学者の舞田敏彦教授がOECD国際成人力調査の生データを独自分析された下記の図をご覧ください。各国の20~65歳の大人に、「新しいことを学ぶのは好きですか?」という共通の質問をした結果の、スウェーデンと日本の部分を抜き出して解析されたものです。

出典:舞田敏彦「成人の知的好奇心の国際比較」(2019.5.22)

両国とも、若年層の知的好奇心が高く、年齢が上がるにつれ減少しているという点においては共通です。しかしながら、日本の20歳の好奇心のレベルがスウェーデンの65歳と同じ!というのは衝撃的です。これでは「好き」のスイッチが見つからないのも無理はありません。

これはスウェーデン一か国との比較ではありますが、外国人、日本人それぞれのプレゼンターと仕事をしてきた私にとって、日本人の知的好奇心が弱いというのは肌感覚と合うデータです。

本来プレゼンとは、「これが好き!」「これが自分のイイタイコト!」、そして「それに関連してこんな面白い情報があるよ!」と、自分の思いや情報を人に共有するための場です。にもかかわらず、日本人のスピーカーの場合、その人の「好き」がなんなのか、人に共有したくてたまらない情報がなんなのかがまったく感じ取れないプレゼンが非常に多いというのが私の実感です。何かを知ることに楽しみが感じられない、すなわち好奇心が弱い人にとって、「こんな面白い話があってね」と人に話すこと自体が苦行なのかもしれません。

「好き」のスイッチをオンにしていくためには、そもそもその大元となる「好奇心」のスイッチをオンにしておく必要があります。しかし、正解を求めることを優先する教育のなかで、そもそも好奇心を持つことが阻害されてしまったのか。あるいは、どこかのタイミングで「好き」が否定されて、その存在に自信が持てなくなり、その源である好奇心が錆びついてしまったのか。

自分の経験からすると、このような状態は仕事をする上のみならず、生きていく上で非常に脆弱で辛い状況なように思います。

好奇心のスイッチを押されて救われたお話

かく言う私自身、15歳ごろ、そして23歳から31歳までの間は、断続的にこのスイッチが見つからないトンネルのなかにいました。来る日も来る日も同じ時間に会社に通い、「好奇心なんて感じられる方が不思議だ」くらいに思っていました。今から思えば、それは自分の気の持ちようで、心躍るものを見つけようと思えばいくらでも種は転がっていたのに惜しいことをしたと思います。

今は、研修や講演のご依頼テーマが奇想天外な方向から飛んで来るので、そのたびに一から勉強する必要が生まれ、図らずも好奇心のスイッチが勝手に押されるようになりました。先日、柔道の団体でお話をした際には、事前に数か所の道場に足を運び、全柔連や講道館にヒアリングに行き、「柔道の父」と呼ばれる嘉納治五郎の手書きの資料を含む本を大量に借りて、すっかり柔道ファンになってしまいました。そして、失礼ながら「汗臭そう」くらいにしか思っていなかった武道全般に興味を持つに至り、自分も習おうかと通える道場はないか真剣に相談しに行ってしまったほどです。

このような突飛なご依頼のおかげで好奇心のスイッチを外から押してもらえるようになり、好きなことがどんどん広がって、人生救われたのでした。

「好奇心」を強め、「好き」を見つけるために

上記の私の例は、「自分は門外漢だからその道のプロにお任せした方が…」と断るべきところかもしれません。しかしながら、どんなご依頼をいただいても、「いや、面白い、それは受けてみよう」と勇気を振り絞って受け、そこから好奇心のスイッチを押していくことを自分のなかのルールとして課してみたのです。その結果、気付いたら世界が広がって、いろいろな「好き」の分野が広がったのでした。食わず嫌いをしないで少し首を突っ込んでみる、そうすると開ける世界があることを知りました。

外からスイッチを押されるチャンスもないし、どうやっても「好き」なんて見つからない、という方がいらっしゃるとしたら、ただ忙し過ぎるだけかもしれません。駆け上がっていたエスカレーターを一度降りて、深呼吸をして、周囲を見渡してみる。あるいは、ご自身の子ども時代の「好き」を振り返り、もう一度興味を持ってみる。それと、目下の取り組み事項の間に、こじつけでも良いので接点を探ってみて、少しでも興味が持てそうな周辺情報とも結びつけてみる、というのが有効な手段だと思います。

それでも好奇心がわかない、という方に私がよくお伝えするアドバイスがあります。

家を出てから帰るまでに、ひとつのモノかコトを覚えておき、それについて電車に乗ったとき、またはオフィスや自宅に着いたときに調べる、というのを繰り返してみてください(歩きスマホはご遠慮ください)。最初はちっとも面白くないかもしれませんが、点として集めていた情報が面の知識としてつながってくるころに、いろいろな事柄への好奇心が増している自分に気付くはず。

ぜひ実践してみてください。


≪連載紹介≫

連載:「好き」を言語化しよう(フォローはこちら
道徳の教科化が始まり、「忖度」が流行語となる時代。善悪の判断や他人への配慮が問われる一方で、飛び抜けた活躍をする人たちはみな、自分自身の「好き」を表明し、徹底的に追い求めている。社会を動かすのは、正しさ以上に「好き」を原動力にしている人たちではないだろうか。 この連載では、国際舞台で戦う日本企業の発信を長年支援し、4年間で延べ1万5,000人以上の子どもたちに「話す力」を育む出前授業を行ってきた著者が、自らの「好き」を言語化する力の可能性を、プレゼンやチームづくりなどの様々な場面における効用を示しながら探る。

インタビュー:「話す」ことに苦労した子どもが、子ども向けプレゼン教育のプロになった
第1回:なぜ「好き」を語る子どもが「正しい」を語りたがる大人になるのか
第2回:「聴き手のため」を考え抜いたプレゼンは本当に強いのか?
第3回:プレゼンもキャリアも特別なものにできる、「好きのかけざん」の力
第4回:日本の20代の好奇心はスウェーデンの60代並!?
第5回:「不得意だけど好き」と「嫌いだけど得意」はどちらが強いのか
第6回:強いチームは「苦手」を克服させない
第7回:勢いのある企業が社員の「得意」よりも大事にしていること
第8回:なぜ結婚式の主賓スピーチはつまらないのか
第9回:人に刺さり、人が集まる「S字の自己紹介」
第10回:日本で起業家が少ない、見過ごされがちなもう一つの理由

≪著者紹介≫

竹内明日香(たけうち・あすか)
一般社団法人アルバ・エデュ代表理事。株式会社アルバ・パートナーズ代表取締役。
東京大学法学部卒業後、日本興業銀行(現みずほフィナンシャル・グループ)にて国際営業や審査等に従事。(株)アルバ・パートナーズを2009年に設立し、海外の投資家向けの金融情報提供や、日本企業向けのプレゼンテーション支援事業を展開。さらに、子どもたち・若者たちの話す力を伸ばすべく、2014年に(社)アルバ・エデュを設立、出前授業や教員研修、自治体向けカリキュラム策定などを精力的に行っている。2019年3月現在、延べ150校、15,000人に講座を実施。2014年、経済産業省の第6回キャリア教育アワード優秀賞受賞。2018年、日本財団ソーシャルイノベーター選出。日本証券アナリスト協会検定会員。

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連載:「好き」を言語化しよう

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