強いチームは「苦手」を克服させない(竹内明日香)

「好き」への情熱以上に目が向いてしまいがちなのが、「苦手」への劣等感。私たちはそんな「苦手」とどう向き合うべきなのか。
国際舞台で奮闘する企業のプレゼンを長年支援してきた竹内明日香さんが、アップルやインテルなどの世界的企業から、サッカーのスタープレイヤーや漫画『ONE PIECE』のキャラクターまで、幅広い事例をもとに考える。

起業をするときにチームを組むことを「チームアップ」と言いますが、この際に大事なことは、自分と得意・不得意が重ならない、お互いに補完関係にある人を探すことだ、と言われます。「これが好きだ、これなら自分ができる!」と「ここが苦手だから助けて!」と、その両面で言語化できることが今の時代ますます大事になってきているのではないかと思います。

アップルもインテルも、凸凹スタートだった

アップル社を創業したスティーブ・ウォズニアック(ウォズ)とスティーブ・ジョブズの場合は、ウォズがいわゆるパソコンオタクで次々と商品を開発し、ジョブズはそのプロダクトを売ることを考えたり、大きなビジョンを掲げて世界を変えようと語ったりと、お互いが補完関係にあったとウォズが語っています。

インテル社を創業したゴードン・ムーアとボブ・ノイスの場合は、ムーアが技術に精通する一方、ノイスがアイディアを思いついては次の目標を掲げる役割だったそうです。

さらに、これらアップルやインテルの創業者はいずれも、彼らだけでは得意分野が偏っていたところに、資金調達からマーケティングの大切さまでを教えてくれるエンジェル投資家のような存在がいたことが、大きな成長のきっかけになったと言われます。「見極め」「育てること」が好きな大人です。ジョブズの自伝には、エンジェル投資家であるレジス・マッケンナの助言について「なるほど、そこは自分たちに抜けていた」と認めて彼の助言を仰ぐ場面が出てきます。

『ONE PIECE』のルフィと、サッカーのメッシの共通点

漫画『ONE PIECE』の場合、ルフィがジョブズやノイスにあたるビジョナリーな社長で、苦手なことはやらないタイプだとすると、

・ゾロ: たゆまぬ自己鍛錬による剣術で強敵を突破
・ナミ: 得意の航海術で安定した航行を実現
・サンジ: 料理の腕でチームの体力を支える

などなど、このチームはまさに、得意と不得意をお互いが補い合っている理想のパターンです。

おれは剣術を使えねェんだコノヤロー!!!
航海術も持ってねェし!!!
料理も作れねェし!!
ウソもつけねェ!!
おれは助けてもらわねェと 生きていけねェ自信がある!!!
——『ONE PIECE 10』(尾田栄一郎著、集英社)

というルフィの言葉は、苦手の言語化、そしてチームアップに直結する名言だと思います。

サッカーでは、昨年のワールドカップで日本代表の大迫選手が放ったシュートがゴールに突き刺さった場面を覚えておられる方も多いと思います。その大迫のプレーで、私にとってそれ以上に印象的だったのは、彼がストライカーであるにもかかわらず、自陣のゴールまで戻ってディフェンスをしている姿でした。

他方で、フランス優勝の立役者であるエムバペ選手や、世界最高のサッカー選手とも名高いアルゼンチンのメッシ選手は、共に大迫選手と同じポジションではありますが、ディフェンスはあまりせず、その「運動量の少なさ」で特筆すべき選手です。先のロシアワールドカップの決勝トーナメント1回戦でフランスが4-3でアルゼンチンに勝利した試合では、エムバペの走行距離は7.63km。メッシは7.68km。

大迫選手は約3.5試合に出場して総走行距離が33.14㎞なので、1試合あたり約9.47㎞。2割以上多く走っています。違いが顕著なのがおわかりいただけるかと思います。

2018 FIFA WORLD CUP RUSSIA」Match Factsより著者作成

日本では得意なことだけをやっている選手は評価されず、育ちにくいと言われます。身体能力的に、全員で守らないと勝てないから、ということもあるでしょうが、誰かが突出していても、その「個」を生かすようなチーム編成というのが許されない土壌もあるのかもしれません。そんな環境においては、「自分はこれは苦手なんだ」なんていう言語化が難しいのかなと思ったりします。

私ごとで恐縮ですが、私が苦手なことは絵を描くこと・論理的に考えること・片付け・計算・作文…たくさんあります。ただラッキーなことに、気付いたら私の周りには、それらが得意な友人たちが知らず知らずに集まって、今の社団を形成していました。いない間に私の机が片付いている…そんな幸せな毎日を会社では送れています。

忙しさを理由にして「これもできない」「あれもできない」と口に出していたら、「あぁそれならやってあげる」と、得意な人が得意なことをやってくれるようになったのです。試しに言ってみるもんだ、と毎度思います。でも最初からそれができたわけではなく、当初は言い出すまでに躊躇したのも事実です。

「苦手の克服」よりも「苦手の言語化」を

日本では、子どもの能力の可変性(努力すれば能力はどんどん伸びる)を信じる大人の割合が高いと言われます。そのため、子どもたちに「苦手などといって諦めず、努力して克服しなさい」というプレッシャーがかけられがちです。また、学校の勉強においても受験においても、得意・不得意の凹凸なく万遍なくできる子が高く評価されます。これらの事情から、「苦手を告白する」ことが子どもたちにとって難しいカルチャーであると言えるのではないでしょうか。

しかし、そもそも苦手な部分を伸ばそうとしても、好きなことに比べてその鍛錬には苦痛が伴い、伸びしろは限られるように思えます。だとすれば、「好き」と思える部分を伸ばす方が自分も楽で、人にも貢献できるはずです。

モノや情報の流通量がますます増えるなか、そのスピードに押され、「どうすればいいのだろう」と焦りや不安を感じたり、置いていかれないように必死で自分の不得意なことを克服しようとされる方を、私の講座のなかでよく見かけます。そして心身ともに疲れてしまっている方も。

しかし、個人の単位のみで苦手を克服することに終始していては、それには労力も時間もかかり、逆にそのスピードの変化には耐えられないのではと危惧します。

むしろ自分の苦手を知り、言語化し、得意な人に助けてもらうこと、同時に、苦手意識を持っている人をフォローするために能力を提供してあげること、そうやってチームで補い合うことこそが肝要だと思うのです。

お互いに「好き」と「苦手」を積極的に表明し、知るという作業によって、「なんだ、これは僕には苦手な作業だったけど、君はこれが好きだったのか!」という気付きが生まれ、チーム内での苦手の言語化・フォローがますますしやすくなっていく…そんな好循環が生まれていくのではないかと思います。

苦手はチームで補い合い、それによって生まれる余力でお互いの「好き」を伸ばし合えたら、個人とチーム両方にとってプラスになること間違いないと思うのです!


≪連載紹介≫

連載:「好き」を言語化しよう(フォローはこちら
道徳の教科化が始まり、「忖度」が流行語となる時代。善悪の判断や他人への配慮が問われる一方で、飛び抜けた活躍をする人たちはみな、自分自身の「好き」を表明し、徹底的に追い求めている。社会を動かすのは、正しさ以上に「好き」を原動力にしている人たちではないだろうか。 この連載では、国際舞台で戦う日本企業の発信を長年支援し、4年間で延べ1万5,000人以上の子どもたちに「話す力」を育む出前授業を行ってきた著者が、自らの「好き」を言語化する力の可能性を、プレゼンやチームづくりなどの様々な場面における効用を示しながら探る。

インタビュー:「話す」ことに苦労した子どもが、子ども向けプレゼン教育のプロになった
第1回:なぜ「好き」を語る子どもが「正しい」を語りたがる大人になるのか
第2回:「聴き手のため」を考え抜いたプレゼンは本当に強いのか?
第3回:プレゼンもキャリアも特別なものにできる、「好きのかけざん」の力
第4回:日本の20代の好奇心はスウェーデンの60代並み!?
第5回「不得意だけど好き」と「嫌いだけど得意」はどちらが強いのか
第6回:「苦手を克服させる」よりも「好きを伸ばし合う」チームが強い理由
第7回:勢いのある企業が社員の「得意」よりも大事にしていること
第8回:なぜ結婚式の主賓スピーチはつまらないのか
第9回:人に刺さり、人が集まる「S字の自己紹介」
第10回:日本で起業家が少ない、見過ごされがちなもう一つの理由

≪著者紹介≫

竹内明日香(たけうち・あすか)
一般社団法人アルバ・エデュ代表理事。株式会社アルバ・パートナーズ代表取締役。
東京大学法学部卒業後、日本興業銀行(現みずほフィナンシャル・グループ)にて国際営業や審査等に従事。(株)アルバ・パートナーズを2009年に設立し、海外の投資家向けの金融情報提供や、日本企業向けのプレゼンテーション支援事業を展開。さらに、子どもたち・若者たちの話す力を伸ばすべく、2014年に(社)アルバ・エデュを設立、出前授業や教員研修、自治体向けカリキュラム策定などを精力的に行っている。2019年3月現在、延べ150校、15,000人に講座を実施。2014年、経済産業省の第6回キャリア教育アワード優秀賞受賞。2018年、日本財団ソーシャルイノベーター選出。日本証券アナリスト協会検定会員。

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連載:「好き」を言語化しよう

道徳の教科化が始まり、「忖度」が流行語となる時代。善悪の判断や他人への配慮が問われる一方で、飛び抜けた活躍をする人たちはみな、自分自身の「好き」を表明し、徹底的に追い求めている。社会を動かすのは、正しさ以上に「好き」を原動力にしている人たちではないだろうか。 この連載では、...
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