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リーダーの自己認識が変われば、チームは変わる(小竹貴子)

「自己認識」をテーマとした書籍『insight(インサイト)─いまの自分を正しく知り、仕事と人生を劇的に変える自己認識の力』。本連載では各界で活躍する方々に、自己認識が自身のキャリアや生活にどのような意味や変化をもたらしたかを語っていただきます。今回はクックパッド株式会社コーポレートブランディング・編集担当本部長の小竹貴子さんに寄稿いただきました。リーダーとしてのあり方にモヤモヤを感じていた小竹さん。リーダーの自己認識はチームにどのような影響を与えるのでしょうか。

insight』は、1年半前、私がまさに自分自身のモヤモヤから抜け出せるかどうかというタイミングで出会った本だ。そのモヤモヤとは、「チームのリーダーとしてのあり方」に関わるものである。

その状況から抜け出すために、貪るように著名人の成功ストーリーを読み漁った。しかし、他人のストーリーを読んでもあまり意味はなかった。また、自分の強みを発見する診断ツールもつかっても、先はみえなかった。どうしていいのか本当にわからなかった。

そんな中、同僚からの一言とこの本に出会い、「自己認識」というモヤモヤ打開の糸口が見えてきた。本書を読み進めながら、私は完全に自己認識力が低いことを自覚し、だがそんな私もまだ変わることができるのだと勇気をもらい、日々起こるあらゆる出来事をこの本に重ね合わせ、読み終えてからまたもう一度最初から読み、今もたまに開いている。今回は、チームのリーダーにとって「自己認識」がいかに重要か、私のエピソードを紹介したい。

スティーブ病にかかった私

私は2003年、クックパッドで仕事をはじめた。当時のスタッフは3人。最初の頃の給料が、5万円というのは私を知る人には有名な話だ。そこから少しずつ利用者が増えていき、事業も成長し、2009年には株式上場までするような大きな会社になった。その年に私は日経ウーマン・オブ・ザ・イヤーを受賞する機会までいただいた。

・・・書籍を読んだ人なら、ピン!と来たかもしれないが、当時、私は完全にスティーブ病にかかってしまったのだ。つまり、自分は優秀だと思いこんでしまう、あのやっかいな病気である。過去の成功体験にとらわれて、時代の変化を読もうとせずに、同じ成功パターンで仕事をするようになった。そして私の考えは正しいということにとらわれ、自分に都合のいい話しか受け入れなかった。本書の中で、著者は以下のようにスティーブ病を描写している。

行動経済学者でノーベル賞受賞者のダニエル・カーネマンによると、人間は「自分の無知を棚に上げることにかけて私たちは、ほとんど無限の能力」を持っている。研究では、人間が自分のことを客観的な事実以上に賢く、面白く、細く、見た目がよく、社交性があり、運動神経があり、優れた学生で、優れたドライバーだと見なす傾向にあることが示されている。研究者たちは、このことを「平均以上効果」と呼んでいる。しかし本書で例に挙げた「人並み以上の」エグゼクティブに敬意を表して、私はスティーヴ病と呼ぶことにする。(85ページ)

そしてやっかいなことに、私は自分がスティーブ病にかかっていることに気がついていなかった。そして、2013年に輝かしい経歴をもって会社を退職してフリーランスになったので、評価というものもなくなり、余計にその病に気づくことができなくなってしまった。

なにか仕事で上手くいかないことがあると、それは時代変化のせいだとか、ともに働く人のせいにしていたことも多かったように思う。思い返せば、いくつかのプロジェクトは、過去の成功パターンがぴったりあったりもして貢献することができたが、ほとんどのプロジェクトは本当にひどい終了の仕方をしたかもしれない。

「愛あるフィードバック」

そんな病にかかったまま(笑)2016年にクックパッドに復職することになった。私が退職したときは100人ほどだった社員が、400人ほどに拡大していた。

ご想像どおり、私はなかなか仕事を軌道にのせることができず、私のチームでの売上も前年より下がり、ともに働く仲間もたくさん職場を去っていった。さすがにここまで不運が続くと、他責にしていることができず、私のやり方のなにかがおかしい、変わらないといけないと気づいた。

でもどうしたらいいかわからない、辛くてどうしていいかわからない、でもそんな様子をみせては余計いけない。あるメンバーに「どうしていいかわからない」と打ち明けたこともあった。するとメンバーからは「リーダーなのにどうすればいいかわからないとはどういうことなのだ」と言われてしまい、彼女との距離も遠くなってしまった。私はどうしたらいいのだろう、ひたすら自己嫌悪の日々が2年ほど続いていた。ほんと毎日仕事にいくのが辛かったのはこの頃だ。そんなときに転機が訪れた。

私は当時いくつかの部署を所管していたが、その一つである編集部の福井部長からお昼ごはんに誘われたのだ。

お昼を食べ終わった頃に、彼女が言った。

貴子さんはリーダーとしてみると、メンバーをまとめる能力は圧倒的に低い。
他のメンバーもそう言っている。私も実は入社当時は、とてもがっかりした。

そして彼女はこう続けた。

自分はメンバーをまとめることは得意だから大丈夫です。
貴子さんは妖精のように、ニコニコと座っているだけでいいです。
ただ、あなたにしかできない仕事を本気でやってください。

『insight』にもある「愛のあるフィードバック」とはこのことだ。この日の夜は、なかなか眠りにつけなかった。ただ気づいた。「コミュニケーションが上手で、メンバーを引っ張っていく」リーダーになろうとしていたが、それは明らかに自分には向いていない幻想のリーダー像だったということに。

自己認識の変化とチームの変化

それから彼女と、何度も話し合いを重ねて二人三脚でチームをつくりはじめた。
ひとりひとりが仕事に対しての目的意識を持ち、互いに切磋琢磨しながら前に進めていくチームにしたかった。というのは、まだまだクックパッドはミッションを達成するために成長をしていかなければいけない。時代の変化にあわせて、常にコンテンツも進化し変化しつづけなければいけない。誰かが決めたものを地道に運営していくフェーズはもっともっと先だ。

まずは目線合わせから。
現状自分たちが作っているものの成果、売上含めすべて見える状態にして、課題意識をみんなで共有した。それまでは一部のリーダーだけで管理していたものだ。
細かな業務についてのメンバーとの対話は、得意な彼女にほぼ任せた。

私はニコニコと席に座って、メンバーと他愛もない会話をすることに徹した。わたしは管理者として場を設けて話すより、ふらっとランチにいったり、ふらっと立ち話をしたりするほうが自分らしさを出せるということに気づいたからだ。
他愛ない話をしながらも、ときには、自分がどのような目的意識をもってこの会社で働いているのかを話すこともあった。このように、等身大の自分をさらけ出し、自分自身の想いを素直にメンバーに伝えるようになった。そしてきがつくと、そんな場からメンバーの内なる想いも聞くことができるようになっていた。

そんな取り組みをして1年、まだまだ理想には程遠いのだが少しずつ変化は起こっている。

まずは圧倒的に部内の会話量が増えたと思う。たぶん、社内でもうるさいチームだと言われていそうだ。インターネットの会社によくある、チャットで盛り上がることもあるが、何より対面での会話が多いのである。
私たちのような生活者に対して企画をだすチームは、雑談から企画が生まれる事が多い。週末に何を食べたとか、どんなお店が流行っているという話は貴重な企画ネタだ。

このようにメンバーの自発性を起点にして企画を進めると、効率化して業務を改善したいという声も積極的にあがるようになった。困るからどうにかしてくれと言われるばかりだった以前とは大きな変化だ。当然、部の売上も昨年より数字が上向いてきた。

私がいないといけないような雰囲気のチームは、私がいなくてもいいチームになったなと最近感じる。チームのメンバーを引っぱらなければという考えから、メンバーの想いや自発性を大切にするという、リーダーとしての私の自己認識が変化したことも一つの要因だろう。福井部長には改めて感謝の気持ちがいっぱいだ。

そして、いま「毎日の料理を楽しみにする」という、クックパッドのミッションの共感者を探すために、日本そして世界中に出かけている。

自己認識を高めるための必要なのは「素直さ」

この本に書かれている、自身がいかに自身を理解しているかを表す内的自己認識、そして他者が自分をどのように見ているかを示す外的自己認識。真のリーダーには両方高めていく必要がある。ちなみに、私は両方まだまだ非常に低いと思っている。
やっとスタートラインにたったばかりだ。

つい誰かに褒めてもらいたくて、自分らしさをなくしてペースを崩す。
こうあるべきだと思いこんで、自爆してしまう。
そんなたくさんの失敗をしてきたが、自己認識を高めるために意識していることがひとつある。

それは「自分の弱みを受けとめられる、素直な自分でいよう。」ということだ。
ちょっとかっこつけて背伸びをしちゃうと、弱みを受け入れられなくなる。
また、今回紹介したようなフィードバックを、「愛あるフィードバック」と認識し活かすためには、それを素直に受け入れられる自分でいるかどうかがとても大切だと感じている。

そのためのヒントとして、自分の感情の動きに意識を向ける、特に、親しい人からの自分に対するメッセージに違和感を感じたときこそ、自己認識を深めるチャンスかもしれないと考える、ということがある。そういうメッセージはときとして、気づいていなかった、あるいは、目を背けていた自分自身を気づかせてくれる可能性が高い。

例えば、最近娘にいわれる言葉がある。

「ママは、料理しかできない」

きっと昔の自分だったら、イラッとして怒っていたような気がする。
しかし、私はこの言葉で、改めていまの仕事に対して誇りをもつようになった。
加えて、ほかはあんまり出来ない人なんだと改めて思ったし、これこそ「愛あるフィードバック」だなと思った。

執筆者プロフィール
小竹貴子
1972年石川県生まれ。関西学院大学社会学部卒業。株式会社博報堂アイ・スタジオでWEBディレクターを経験後、2004年有限会社コイン(後のクックパッド株式会社)入社。マーケティング支援事業の柱であり、広告主とユーザーのwin-winを叶えた全く新しいレシピコンテストを生み出す。2006年編集部門長就任、2008年執行役就任。2010年、日経ウーマンオブザイヤー2011受賞。2012年、クックパッド株式会社を退社、独立。2016年4月より復職。現在クックパッド株式会社ブランディング・編集担当本部長。
連載「『ティール組織』私はこう読んだ。」への寄稿「色の変化をたのしもう」はこちら


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仕事での成果や良好な人間関係、そのカギは「自己認識」にある。しかし、多くの人は思い込みにとらわれ、自分の可能性を狭めてしまっている。ビジネス界でも活躍する組織心理学者が膨大な先行研究と自身の研究・実践から、自己認識の構造を理論的に解明し、思い込みを乗り越え、より深く自分を知るための方法を伝える。


◆各界のプロフェッショナルも大絶賛!!
「自己認識、内省、および自分と向き合う方法に対する世間の考えは、
基本的に間違っていて役に立たない。そうした情報を信じて、私生活でも仕事でも好ましくない行動を続けてしまう人が多い。自身の経験と膨大なリサーチをもとに、ユーリックは真のインサイトにいたる方法、つまり自分自身を変え、仕事で関わる周りとの関係を変革する方法を明らかにする」
──エド・キャットムル(ピクサー・アニメーション・スタジオ共同創設者、『ピクサー流 創造するちから』著者)

「単なる一過性のスキル・ノウハウ本ではない。根底から自己認識の大切さを紐解き、誰もが一生をかけて、本気で向き合っていかなければならい自己を知るためのガイドラインとなっている」
──中竹竜二(本書監訳者、株式会社チームボックス代表取締役、日本ラグビーフットボール協会コーチングディレクター)
【目次】
第1章 二一世紀のメタスキル
<第1部 基礎と障壁>
第2章 自己認識の解剖学―インサイトを支える七つの柱
第3章 ブラインドスポット―インサイトを妨げる目に見えない心のなかの障壁
第4章 自分教というカルト―インサイトを阻む恐ろしい社会的障壁
<第2部 内的自己認識―迷信と真実>
第5章 「考える」=「知る」ではない―内省をめぐる四つの間違った考え
第6章 本当に活用可能な内的自己認識ツール
<第3部 外的自己認識―迷信と真実>
第7章 めったに耳にしない真実―鏡からプリズムへ
第8章 予想外の厳しいフィードバックを受け止め、向き合い、行動に移す
<第4部 より広い視点>
第9章 リーダーがチームと組織の自己認識を高める方法
第10章 思い込みにとらわれた世界で生き抜き成長する
監訳者あとがき(中竹竜二)


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連載:『insight』私はこう読んだ。
「自己認識」をテーマとした書籍『insight』。本書をベースとして、各界で活躍する方々に、「自己認識にどのような意味を見いだしてきたか」など、様々な観点から語っていただきます。

─ 連載記事一覧 ─
第0回:連載「『insight』私はこう読んだ。」を始めます。
第1回:『insight』の第1章(前半)を全文公開します。
第2回:『insight』の第1章(後半)を全文公開します。
第3回:人生で3冊目の「自己啓発本」(太田直樹)
第4回:キャリアとは自己認識についての仮説構築と検証のプロセスである(篠田真貴子)
第5回:リーダーの自己認識が変われば、チームは変わる(小竹貴子)
第6回:自己認識から考える、個と組織の「4つの発達段階」(タムラカイ)
第7回:僕が変わらなければ組織は変わらない(株式会社コルク代表 佐渡島庸平さんインタビュー)

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