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社会起業家を支える、社会「投資家」の本気のあり方(山中礼二)

2019年に出版10周年を迎えた『国をつくるという仕事』の著者であり、貧困のない世界を夢見て23年間奮闘してきた元世界銀行副総裁・西水美恵子さんとの対話会を、英治出版にて同年11月14日に開催しました。

世界中で貧しい人たちのもとを徹底的に歩き、彼らの盾となって権力者たちと戦い、世界銀行という巨大組織の改革に挑んだ西水さんの言葉や姿勢から、参加者は何を感じたのか──。

参加者の一人であり、社会課題を解決する可能性を持ったベンチャーに対して「社会的インパクト投資」を行う山中礼二さん(一般財団法人KIBOW インパクト・インベストメント・チーム ディレクター)に、その学びを綴っていただきました。
起業家と向き合うメンターとしての「あり方」を見直している最中だったという山中さんが、西水さんの姿勢から感じたこととは。

仕事(Doing)は語れても、あり方(Being)に迷っていた

私が初めて西水さんのことを知ったのは、10年以上前だったと思う。

日本経済新聞に掲載された西水さんの文章を読んで心を揺さぶられた。たしか、エジプトで貧しい女児が脱水症状になり、西水さんの手の中で息を引き取り、西水さんが強い憤りを感じて世界銀行で貧困と戦うことを決意したエピソードだった。

私がブログに「真のリーダーシップは大いなる悲しみから生まれるのかもしれない」と記したところ、西水さんご自身が私のブログにコメントをつけてくださった。その後ご講演を聞く機会があり、直接お目にかかった。

著書にサインをしながら私の近況を聞いてくださった西水さんに対して、私は目を見て話すことができなかった。当時私は自分の事業がうまくいかず、自分が進む道を自信を持って語れなかったからだ。

それから10年が経った。

私は今、KIBOW社会投資ファンドから、深刻な社会課題を解決するポテンシャルを持ったベンチャー企業に対して「社会的インパクト投資」をしている。投資の仕方は通常のベンチャー投資とほぼ同じだが、投資の主目的は深刻な社会課題を解決することだ。

一例を挙げれば、障害者の就業機会を増やすために、障害者のITスキルトレーニングを行っている企業(株式会社manaby)や、障害者と一緒に働き高齢者向けの施設・コミュニティを運営している企業(愛さんさんグループ)に投資をしている。

「投資を通じて経済的リターンを出し、かつ社会課題を解決に導くことができる」という仮説が、日本でも成り立つことを証明することが私の仕事だ。

今では自分の仕事(Doing)を強く語ることはできる。しかし、自分の投資家としての「あり方」(Being)がこれで良いのか、あらためて考えなおしたいと思っていた。

そんなタイミングで、今回の西水さんとの対話会に参加できる機会をいただいた。西水さんのお話を伺うことで、自分に何らかのスイッチが入るのではないかという漠然とした期待を持った。

多くの本が並ぶ英治出版のコワーキングスペース「EIJI PRESS Base」で、私たちは15名ほどで車座になり、西水さんを囲んで座った。

01_対話

独自のプレゼン授業を通じてあらゆる世代の教育に変革を起こしている竹内明日香さん(一般社団法人アルバ・エデュ代表理事)、親子の笑顔を妨げる社会課題解決に挑む組織の急成長を支える宮崎真理子さん(認定NPO法人フローレンスの副代表理事/ディレクター)、そして地球中心・生態系全体のコ・クリエーション(共創)を研究・実践している三田愛さん(コクリ!プロジェクト創始者/ディレクター)が、ご自身のストーリーを語った。

3名の素晴らしいリーダーたちに対して、西水さんは、まっすぐに目を向けて話を聞き、心からのメッセージを送っていた。その内容については、3名それぞれの素晴らしいレポートをぜひ読んでいただきたい。

その素晴らしい対話を横から拝見して、私は西水さんのメンターとしての「あり方」そのものに心の震えるような感動を覚えた。

「断る」ときにこそ、本気の「あり方」が試される

西水さんが集まった皆に発した最初の一言は、「かっこつけないで」だった。そして両手をおなかに当てて、ゆっくりと「ここから話して」とおっしゃった。私ははっとした。

今も、あの瞬間を思い出しながら考えている。どうして私はあのときに、虚を衝かれたような感覚を味わったのだろう。

それはおそらく、私自身が無意識に「かっこよく」話そうとしているからではないか。そして起業家や大学院生・卒業生のメンタリングをするときにも、逆に人に相談するときにも、頭で論理的に考えることに集中し、腹の底から自分の思いを語っていないからではないだろうか。

そこから2時間以上続いた対話の中で、西水さんご自身はまったく「かっこつけ」をせず、心の奥底から言葉を発していらっしゃった。相手を理解しようとするまっすぐな視線。相談者の質問に「自分には答える資格がない」とおっしゃったときの率直な語り口。西水さんは本気で聞き、本気で話していらっしゃった。

西水さんがフローレンスの宮崎さんに送った言葉に次のようなものがあった。

リーダーシップは終わりのないマラソンのようなもの。誰にでも真正面から真っ正直に話す。そのためにはまず、自分が自分に対して正直になること。

できていないと思った。私はこれをできていない。

私は社会的インパクト投資をする人間として、起業家に向き合い続けている。社会を変える志を持つ起業家を尊敬し、その思いに耳を傾け、ビジネスプランを理解し、包括的に調査をした上で投資を実行する。

しかし私が一番苦手にしているのは、投資をお断りするプロセスだ。

あまりに苦痛で、投資をお断りした後に体調を崩したり、1か月ほど立ち直れなかったこともある。相手に悪いニュースを伝える一本のメールを打てなかったり、相手のビジネスの欠点や起業家として不足しているポイントを伝えられず曖昧なメールを打ったこともある。自分は投資家に向いていないのではないかと、何度も思った。

西水さんがもし投資家だったら、どのようなコミュニケーションを取るだろうかと考えた。

西水さんはおそらく、なぜ資金を提供できないかを「真正面から真っ正直に」語り、どのような条件が満たされれば資金提供を再検討するかを語ったに違いない。そして、そのメッセージを聞き、資金提供を断られた人(企業、または国家)は、西水さんの心からのメッセージから大きな学びを得ることだろう。

西水さんは今回、質問に対してあえて回答を示さず、「それはあなたが考えること」と突き放すこともあった。一緒に参加していた友人の起業家が後で西水さんにその真意を聞いたところ、西水さんはこう答えていらっしゃった。

良い結果や良い答えを見つけることよりも、自分で向き合って考えて見つけていくプロセスにこそ価値がある。人生のほとんどはマニュアルに書けないことばかり。

なんと愛情に満ちた、暖かくかつ厳しいスタンスだろうか。

私は決めた。逃げることも、ごまかすこともしない。良い人ぶりもせず、かっこつけることもしない。起業家たちに敬意を込めて、真正面から向き合い、自分の信じることを心を込めて語る。

起業家たちが「投資は断られたけれど、KIBOW社会投資ファンドにコンタクトして良かった」と言ってくれるような、そんな存在になりたいと心から思った。

社会「投資家」の本気とは何か

自宅に帰って西水さんのご著書『あなたの中のリーダーへ』を読み返すと、以下の文章が目に飛び込んできた。

カシミールでの体験[1]以来、妙に母国のことが気になりだした。現場にいても、職場に戻っても、いつも日本を気にかけていた。

本書で取り上げたいろいろなテーマのほとんどは、長年胸に抱いてきた気がかりにつながっている。政治と行政に携わる人々の仕事意識と組織文化。政策や経営の品質。国家と企業の危機管理への覚悟。財政問題はもとより、人口減少や高齢化など、国が抱える長期課題への対処。そしてまた国際的なオピニオンリーダーらが眉をひそめる日本の男女雇用格差や、国民の大半が支持する死刑制度……。

どれひとつをとっても、なぜか「本気」が見えないと感じていた。
(──同書「はじめに」より)

その瞬間、背骨に電撃が流れたような気がした。

「インパクト投資をしているあなたは、本気で日本の、そして人類の課題を解決しようとしているのか──」

そう西水さんに問われた気がした。

「一応ソーシャル」な企業に投資をするのは、私たちが目指す社会的インパクト投資ではない。深刻な社会課題による絶望の中から新たな希望を生み出す起業家たち…彼ら、彼女らに対峙する以上、私たちも本気で社会を変える覚悟を持ち続けたい。

日本は本当に多くの問題を抱えている。子供の教育機会の不平等、なくならないセクハラ・痴漢・性暴力、悪化する国家財政、衰退する地方と一次産業、高齢者の孤立、働けない人の孤独、気候変動を悪化させる事業者と消費者…。

私はこれらの問題を叫び続け、あきらめずに投資先を探し求め続けると決めた。そして投資した後は、事業の成長だけに満足せず、社会全体の変革につながるまで導線を引き続けたい。

自分の目標が定まった。

そして、対話会で西水さんが私たちに送った最後の言葉を思い出した。


「心を込めて、おきばりやす。がんばれ!」


06_集合写真(横)

[1] 貧困の体験学習のためにパキスタンの離村にホームステイをした際に、無学の家族に身を委ねることへの恐怖心から、貧しい人たちを無意識に見下している自分に気づいたというエピソード。その気づきから、貧困解消を使命とする世界銀行の仕事に対する「本気のスイッチ」が入ったという。
同書「はじめに」の全文は以下から読める。
https://eijionline.com/n/n3276655a3560

※本書著者の意向により上記書籍の印税はすべてブータンのタラヤナ財団に寄付され、貧しい家庭の児童の教育費等に役立てられます。タラヤナ財団とそれを設立したブータン王妃(当時)について西水さんが綴った「歩くタラヤナ」もぜひご覧ください。


執筆者紹介

山中さん写真

山中礼二(やまなか・れいじ)
一般財団法人KIBOW インパクト・インベストメント・チーム(ディレクター)。グロービス経営大学院(教員)。
キヤノン株式会社、グロービス・キャピタル・パートナーズ、ヘルスケア分野のベンチャー2社を経て現職。社会を変える起業家の育成と投資を行っている。非常勤で、愛さんさん宅食株式会社(取締役)、NPO法人STORIA(理事)など。

連載紹介

連載紹介バナー

元世界銀行副総裁・西水美恵子さんの著書『国をつくるという仕事』を2009年に出版してから10年。一国の王から貧村の農民まで、貧困のない世界を夢見る西水さんが世界で出会ってきたリーダーたちとのエピソードが綴られる本書は、分野や立場を問わない様々な方たちのリーダーシップ精神に火を付けてきました。10周年を機に、ぜひもう一度西水さんの言葉をみなさんに届けたい——。そんな思いから、本書の全36章より特選した10のエピソードを順次公開いたします。徹底的に草の根を歩き、苦境にあえぐ一人ひとりの声に耳を傾け、彼らの盾となって権力者たちと戦い続けた西水さんの23年間の歩みをご覧ください。

連載:いまもう一度、『国をつくるという仕事』を読む。
第1回:はじめに
第2回:カシミールの水【インド、パキスタン】
第3回:偶然【トルコ、バングラデシュ、スリランカ】
第4回:雷龍の国に学ぶ【ブータン】
第5回:売春婦「ナディア」の教え【バングラデシュ、インド】
第6回:改革という名の戦争【パキスタン】
第7回:神様の美しい失敗【モルディブ】
第8回:ヒ素中毒に怒る【バングラデシュ】
第9回:殺人魔【インド】
第10回:歩くタラヤナ【ブータン】
特別回:「本気」で動けば、何だって変えられる——著書『あなたの中のリーダーへ』、「はじめに」より

~西水さんとの対話会レポート~
山中礼二:社会起業家を支える、社会「投資家」の本気のあり方
竹内明日香:いつの時代も、世界の変化は「草の根」から
宮崎真理子:組織拡大期のリーダーのあり方に光が差した夜
三田愛:勝負の10年。夢物語への想いを本気にさせてくれた言葉
英治出版オンラインでは、記事の書き手と読み手が深く交流し、学び合うイベントを定期開催しています。連載記事やイベントの新着情報は、英治出版オンラインのnoteFacebookで発信していますので、ぜひフォローしていただければと思います。『国をつくるという仕事』の連載マガジンのフォローはこちらから。(編集部より)
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出版10周年:いまもう一度、『国をつくるという仕事』を読む。
出版10周年:いまもう一度、『国をつくるという仕事』を読む。
  • 15本

元世界銀行副総裁・西水美恵子さんの著書『国をつくるという仕事』を2009年に出版してから10年。一国の王から貧村の農民まで、貧困のない世界を夢見る西水さんが世界で出会ってきたリーダーたちとのエピソードが綴られる本書は、分野や立場を問わない様々な方たちのリーダーシップ精神に火を付けてきました。10周年を機に、ぜひもう一度西水さんの言葉をみなさんに届けたい——。そんな思いから、本書の全36章より特選した10のエピソードを順次公開いたします。徹底的に草の根を歩き、苦境にあえぐ一人ひとりの声に耳を傾け、彼らの盾となって権力者たちと戦い続けた西水さんの23年間の歩みをご覧ください。

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