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チームが一体となって動くための「共有認知モデル」(村瀬俊朗:早稲田大学准教授)

英治出版オンライン

チームが一体となって動くとは、どういうことだろう。
私は普段スポーツをほとんど観戦しないが、たまたまサッカー日本代表の記事を目にし、「チームが一体に動くこと」がいかに結果に直結するかを再認識させられた。

「やっぱりサッカーを知らなすぎるというか。僕らが。」(1)。これは、東京五輪男子サッカー3位決定戦のメキシコ戦で敗れた際の田中碧選手の言葉だ。なぜこのようなことを口にしたのか。田中選手によると、1対1の局面において日本の選手が劣っていたわけではないが、2対2、3対3となるにつれて差が開いていき、メキシコの選手は個人としてではなく、チームが一体となって動いていたという。

サッカーは11人対11人のスポーツだ。この言葉のように2対2、3対3となるにつれて差が開いていったとしたら、厳しい結果になるだろう。

さらに、酒井高徳選手は、『フットボール批評issue34』(2)のインタビューで「チームで動くこと」を次のように語っている。

「1人目がボールに行って、2人目、3人目がその次を狙うことでボールが奪えるというのが本来のプレッシング※で、ボールを奪うことになると思うんですよね。僕が1人目でプレッシャーをかけに行った時に、ここまで寄せてコースを限定しているから、ここのコースには2人目が……とパッと見たらついてきていないこともあります」
※プレッシングとは、相手からボールを奪いに行くプレーのこと。

この酒井選手の話は、動くと思っていたら動いていなかった、というチームメイトとの認識のギャップを問題視している。ビジネスの現場と同様にスポーツの試合においても状況は刻一刻と変わる。「積極的にボールを奪取する時」なのか、それとも「自陣に引いて守りを固める時」なのか。その認識が揃っていなければ、チームで一体となって動くことはできず、目的を果たすこともできない。

チームワークとは、一言で言えば「認知モデルを共有すること」である。
今回は、そのメカニズムを紐解いてみたい。

コンセプトとプロセスを理解する

レストランに入店すると、私は「席への移動→着席→メニューの確認→注文」という一連の動作を無意識に行う。着席したらメニューを確認しよう、次は注文だ……などといちいち意識するまでもない。私の頭は実によくできている。だがこれは私に限った話ではない。

脳は、その人の過去の体験や読み聞きした情報に基づいて「認知モデル」を構築する。各状況における妥当な行動の指示が、認知モデルの役割だ。認知モデルがあることで、その場その場において無意識に、難なく正しく振る舞うことができる。

この認知モデルは「コンセプト」と「プロセス」で構成され、予測という機能を持つ。

認知モデルにおけるコンセプトとは、対象となる状況(システム)が何のために存在するか、何を達成しようとしているか、つまり目的を理解することだ。例えばレストランの場合、全てのレストランは飲食の提供という点では一致するが、店によって目的が異なる。

ファストフード店、友人と気軽な時間を過ごせるカフェ、上質な雰囲気とサービスを提供する高級レストラン……。私たちが認知モデルを設計する際に、対象となる状況のコンセプトを十分に理解しないと、現実と乖離した認知モデルができあがってしまう。

認知モデルにおけるプロセスとは、対象となる状況を構成する様々な要素が、コンセプト達成のためにどのように組み合わさり、どのように機能するかを大雑把に理解することである。例えばレストランの場合、従業員の態度や行動、客に期待するマナー、メニュー表のデザイン、店の雰囲気などだ。

素人には敷居の高い、注文の仕方がわかりづらいラーメン屋を想像してほしい。店内に入ると、店員はぶっきらぼうで注文方法を知らなくても親切に教えてくれない。他の客もあなたのオーダーを穏やかに待つわけでもなく、無言のプレッシャーをかける。

しかし何度か足を運ぶことで、店員の態度や行動、そして店が求めるマナーを徐々に理解していく。この店特有の隠語を知り、最低限の言葉で注文できるようになり、薬味の使用できる量を覚え、そして反感を買わないようにテキパキと食べることを学ぶのだ。

私たちは対象となる状況の重要な要素を掴み、自分なりに組み合わせ、プロセス構造を脳内で構築する。その結果、対象となる状況全体の動きを把握できるようになる。

コンセプトとプロセスが明確になって認知モデルが確立すると、対象となる状況下での活動が楽になる。つまり「予測」ができるようになる。その状況における様々な要素を把握しているため、何が何のために動くか、次にどのような動きがあるかを先読みでき、あなたがすべき行動を予測できる。

先のラーメン店でも戸惑わず、いちいち考えずに行動できるようになる。これは、認知モデルが状況を瞬時に読み取り、私たちに妥当な行動が何かを伝えられるようになるからである。

阿吽の呼吸

認知モデルが明確になることで、「A→B→C」といった行動手順を瞬時に理解でき、複雑な社会との関わりの最中で動作を確認することなく活動できる。

職場においても私たちは日々「予測」を立てている。新入社員は上司が次に何をするかがわからず慌てるが、時間が経つにつれて経験が蓄積され、行動が読めてくる。上司も同様だ。はじめは新入社員の言動を予測できないが、だんだんわかってくる。こうして新入社員と上司が互いの行動を予測できるようになると、チームワークを発揮しやすくなる。

チームワークはコミュニケーションの賜物と考えがちだが、実はそれだけでは十分ではない。コミュニケーションを通じて「共通の認知モデル」ができあがって、ようやくチームワークを発揮できるようになるのだ。自身のチームの仕組みに対してメンバーが似たような認識を持つことで、誰が何をやっていて次にどのように動くかが読み取りやすくなり、自身の最適な動きを予測できる。

スポーツの試合では、メンバーの一人が突然に味方のいない場所にボールを投げると、別のメンバーが現れてミラクルキャッチするシーンを目にすることがある。数えきれない反復練習によってメンバーたちは「チームとしての動き」に共通理解を得ているため、他のメンバーがボールを持って動いた瞬間に次の動きが予測でき、パスが投げられるタイミングや場所の予測に合わせて無意識に体が動く。

こうした連携のことを、日本では「阿吽(あうん)の呼吸」と言われる。冒頭に紹介した酒井選手が仲間とうまく連動できなかった原因は、共通の認知モデルを持っていなかったため動きの予測がチグハグになり、声を出さなければ意思疎通ができない状況だったから、と分析できる。

共有認知モデルを築く

チームワーク向上のためには、それぞれが独自の認知モデルを構築するのではなく、チームメンバーの認知モデルを揃える意識が必要だ。チーム研究では、これを共有認知モデルと呼んでいる(3)。

そしてこの共有認知モデルにおける「作業」と「協力」という二つの認知領域をチームメンバーが相互理解することによって、チームワークは向上すると考えられている。

コネチカット大学のマシュー教授らは、学部生を2人1組に編成し、飛行機で敵を撃墜するPCゲームの実験を行った(4)。チームの1人は飛行の方向、高度、そして推進を担当。もう1人はスピード操作、武器選択、情報探索を任された。チーム目標の達成に必要な作業を分割することでチーム連携が必要不可欠となるよう設計した。そして、チームの業績は、生存、指定ルートの通過、敵の撃墜の3要素で評価した。

共通認知モデルの作業と協力の測定方法
1. ゲーム内容の分析から、レーダー確認や飛行スピード調節などの8つの「作業」を特定。次に過去のチームワーク研究から、情報量、情報の質、連携、好みなどの7つの「協力」を特定した。
2. 被験者はそれぞれ、作業・協力の各動作が、他のすべての動作とどう関連するかを評価した。例えば、「”レーダー確認”は、”飛行スピード調整”にどの程度影響するか」などである。
3. メンバーたちのプロセスの類似度合から、認知モデルの共有度合いを評価した。図1のAさんとBさんの認知モデルは完全一致ではないが、図2と比較すると相対的に高い。

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図1. 共有認知が高いチーム
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図2. 共有認知が低いチーム

検証の結果、「作業」と「協力」はそれぞれが独立したチームワークの向上効果があることが確認された。「作業」の共有認知モデルが発達するとチームワークは向上し、それと同時に「協力」の共有認知も発達すると、さらにチームワークが向上するということだ。

メンバー同士が、作業の関連性を似たように理解することで、各自がどのように動く必要があるかを即座に認識でき、チームとしてスムーズな動きが可能となる。共有認知モデルがチーム内で高まることで、作業や協力する精度が高まり、その結果として敵の狙撃や攻撃回避がうまくいったのである。

この実験は学生を対象としたが、他の実証研究では、集中治療室(5)、航空管制官(6)、経営チーム(7)などに対象が広がり、チームの共有認知モデル効果が確認されている。

共有認知モデルの弊害

共有認知モデルは、チームメンバーの共同活動の蓄積によって構築されていく。そのため、構築された共有認知モデルの変更は容易ではない。

1949年米国モンタナ州の山火事は、共有認知モデルの変更の難しさを物語る凄惨な事件だ。

この事故は、消火活動の現場である山の谷間に突風が起こり、火の手が一気に広がったことから始まった。消防士らに残された逃げ道は丘の頂上のみ。彼らは重装備を着けたまま必死に駆け上がった。

逃げ始めてから間もなく、装備を身に着けた状態では逃げ切れないと判断した消防隊リーダーが隊員に装備を捨てるように命令した。しかし隊の15人中13人は捨てる決断ができず、帰らぬ人となった(8)。

山火事のような緊急事態に20キロ近い装備を身に着けて走るよりもそれらを捨てる方が妥当であることは自明に思える。しかし、消火活動中に消防装備を肌身離さず持つことは、消防士たちの認知モデルの中に確立されている。そのため、彼らはすでに形成された認知モデルに沿って行動してしまったのだ。

この凄惨な事件の後に、火災現場の状況把握やチームでの回避・脱出行動が消防士トレーニングに追加され、彼らの認知モデルに「脱出」のためのプロセスが徹底的に叩き込まれるようになった。

あなたのチームのコンセプトは何か?

集団が一体となって動くには、共有認知モデルの構築が必要不可欠だ。しかし、一度築いた共有認知モデルを変更するのは簡単ではない。そして、複雑で変化が激しい現場では、先ほどの山火事のような状況で臨機応変に対応することが求められる。

共有認知モデルが足かせになることなく、チームワークが発揮するよう機能するにはどうすればよいか?

鍵となるのは、自分たちのチームがどんな「コンセプト」を目指すかを常日頃から意識し、確認することである。コンセプトの共有によって、チームメンバーはそのコンセプトに沿って思考し、意思決定することができる。

私たちは、仕事の進め方や情報共有のタイミングなどを認知モデルの「プロセス」として日常的に共有していく。これらを共有しないと毎日の仕事が前進しないからだ。しかし、日々の仕事に直結する「プロセス」にばかり気を取られると、チーム内でコンセプトが共有されず、必要なタイミングで適切に判断できない。

あなたのチームはどのような共有認知モデルを構築し、どのような組織行動をとっているだろうか。一度立ち止まって、どんなコンセプトを目指したいかをじっくりと考えてみてほしい。

●参考文献

(1) https://hochi.news/articles/20210806-OHT1T51241.html?page=1
(2) https://www.footballchannel.jp/2021/12/10/post447447/
(3) Rouse, W. B., Cannon-Bowers, J. A., & Salas, E. (1992). The role of mental models in team performance in complex systems. IEEE Transactions on Systems, Man, and Cybernetics, 22(6), 1296-1308.
(4) Mathieu, J. E., Heffner, T. S., Goodwin, G. F., Salas, E., & Cannon-Bowers, J. A. (2000). The influence of shared mental models on team process and performance. Journal of Applied Psychology, 85(2), 273-283.
(5) Boltey, E. M., Iwashyna, T. J., Hyzy, R. C., Watson, S. R., Ross, C., & Costa, D. K. (2019). Ability to predict team members' behaviors in ICU teams is associated with routine ABCDE implementation. Journal of critical care, 51, 192-197.
(6) Mathieu, J. E., Rapp, T. L., Maynard, M. T., & Mangos, P. M. (2009). Interactive effects of team and task shared mental models as related to air traffic controllers' collective efficacy and effectiveness. Human Performance, 23(1), 22-40.
(7) Zoogah, D. B., Noe, R. A., & Shenkar, O. (2015). Shared mental model, team communication and collective self-efficacy: an investigation of strategic alliance team effectiveness. International journal of strategic business alliances, 4(4), 244-270.
(8) Rothermel, R. C. (1993). Mann Gulch fire: A race that couldn't be won. General Technical Report. INT-299. Ogden, UT: US Department of Agriculture, Forest Service, Intermountain Research Station.

構成:山下智也
Photo by Constantin Shimonenko on Unsplash

村瀬俊朗(むらせ・としお)
早稲田大学商学部准教授。1997年に高校を卒業後、渡米。2011年、University of Central Floridaで博士号取得(産業組織心理学)。Northwestern UniversityおよびGeorgia Institute of Technologyで博士研究員(ポスドク)をつとめた後、Roosevelt Universityで教鞭を執る。2017年9月から現職。専門はリーダーシップとチームワーク研究。2018年から英治出版オンラインで「チームで新しい発想は生まれるか」を連載中。『恐れのない組織』(エイミー・C・エドモンドソン著、野津智子訳、2021年、英治出版)の解説者。

村瀬さんプロフィール画像

連載:チームで新しい発想は生まれるか
新しいものを生みだすことを誰もが求められる時代。個人ではなくチームでクリエイティビティを発揮するには何が必要なのか? 凡庸なチームと創造的なチームはどう違うのか? 多様な意見やアイデアを価値に変えるための原則はなにか? チームワークのメカニズムを日米で10年以上にわたり研究してきた著者が、チームの創造性に迫る。

第1回:「一人の天才よりチームの方が創造性は高い」と、わたしが信じる理由
第2回:なぜピクサーは「チームで創造性」を生みだせるのか?
第3回:失敗から学ぶチームはいかにつくられるか
第4回:チームの溝を越える「2つの信頼」とは?
第5回:「新しいアイデア」はなぜ拒絶されるのか?
第6回:問題。全米に散らばる10の風船を見つけよ。賞金4万ドル
第7回:「コネ」の科学
第8回:新結合は「思いやり」から生まれる
第9回:トランザクティブ・メモリー・システムとは何か
番外編:研究、研究、ときどき本
第10回:あなたのイノベーションの支援者は誰か
第11回:コア・エッジ理論で、アイデアに「正当性」を与える
第12回:仕事のつながり、心のつながり
第13回:なぜある人は失敗に押しつぶされ、別の誰かは耐え抜けるのだろう。
第14回:チームが一体となって動くための「共有認知モデル」

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