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エドガー・シャインの世界 ⑦『謙虚なリーダーシップ』読書ガイド(第9章所収)

人と組織の研究に多大な影響を与えてきた伝説的研究者、エドガー・シャイン。半世紀にわたる研究の集大成『謙虚なリーダーシップ』の出版に合わせて、これまで弊社から出版している過去作品をご紹介してきました。今回は最新作『謙虚なリーダーシップ』の第9章に収録されている、エドガー・シャインら著者が厳選した読書ガイドを公開します。本書に関連する著作が多数紹介されていますので、より深い学びへの入口としてご活用ください。

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ここでは、参考になる書籍を多数、紹介する。関連する他の多くの研究にとっての参考資料であり、読者のみなさんが謙虚なリーダーシップについて理解を深めるのに役立つだろう。

エクササイズ9・1 読書

次に挙げるのは、関連する研究の代表例のいくつかと、グループ・プロセスおよび複雑なシステムのダイナミクスを重視している概念モデルである。謙虚なリーダーシップというこのエコシステムのなかで特に注目したいと思う部分を、深く考え、追究しよう。

● ダグラス・マグレガーは著書『企業の人間的側面』(産能大学出版部)のなかで、仕事をして何かを成し遂げたいという、人間性の性善説的な見方として、Y理論を示した。

経営の仕事は、仕事をやり遂げるための条件をつくり出し、リソースを提供することだ。ところが、経営文化の実に多くが、人間は働きたいと思っておらず、動機やインセンティブを与えられ統制されなければ仕事をしないという、性悪説的なX理論を基に築かれてしまっている。
● カール・ワイクが著書『センスメーキング イン オーガニゼーションズ』(文眞堂)で示したのは、センスメーキングこそが、個人とグループが学ぶべき基本プロセスであるということだった。なぜなら、経験しても、そのままでは、最も重要かもしれない意味やシグナルがもたらされないからである。

グループ・センスメーキングは、原子力発電所や山火事の消火などの危険な仕事においてきわめて重要なプロセスになっているが、複雑で協力が必要な仕事にとっても、むろん同様に重要だ。ワイクとサトクリフの共著『不確実性のマネジメント』(ダイヤモンド社)も、ぜひ参照しよう。
● アーヴィング・ゴッフマンは、著書『行為と演技──日常生活における自己呈示』、『集まりの構造──新しい日常行動論を求めて』(ともに誠信書房)、『儀礼としての相互行為──対面行動の社会学』(法政大学出版局)のなかで、人間関係とグループ・ダイナミクスの繊細さを見事に説明すると同時に、当たり前のようについしてしまうことを私たちは意識すべきだと諭している。彼の分析は、社会が持つレベル1、レベル2、レベル3についての文化的ルールを、きわめて明確にするものである。
● センゲは著書『学習する組織──システム思考で未来を創造する』(英治出版)のなかで、「学習する組織」にとってシステム思考がきわめて重要であることを示した。また、組織学習協会(SoL)を創設し、関係性思考を深く掘り下げる体験型ワークショップをひらいて、数十年にわたり、マネジャーに組織学習とシステム思考を教えている。
● 『U理論[第2版]』(英治出版)の著者であり、「プレゼンシング」の概念を提唱するオットー・シャーマーは、さまざまなレベルのマインドフルネスを定義し直している。

会話が、自分のより深い考えと他者のより深い考えとのつながりの多様な程度を反映すること、さらには、深いつながりと共同でのリフレクションだけが、革新的な変化の土台となり、新たな行動を生み出すことも示している。
● ウィリアム・アイザックスは著書『Dialogue and the Art of Thinking Together』(未邦訳)のなかで、ダイアローグについてのボームの概念(1989年)を進化させ、グループの全く新しい交流の仕方を示した。キャンプファイヤーを囲んで語らう間、「最も大きな声」に従ったり反射的な対応をしたりせず、一時的に反応を停止することを重視したのである。
● エイミー・エドモンドソンは著書『チームが機能するとはどういうことか』(英治出版)のなかで、幅広い研究と事例を示している。そして、チームワークの構築にはともに学ぶことがきわめて重要である、なぜなら、学習する過程でヒエラルキーの機能不全のいくつかが改善されるためだと述べている。
● ジョディ・ギッテルは著書『Transforming Relationships for High Performance』(未邦訳)のなかで、「関係的協調」モデルに賛同している。これは、役割と人の結びつきの強さを定量化し、人ではなく関係を、パフォーマンス測定の中心に置くモデルである。
● フランク・バレットは著書『Yes to the Mess』(未邦訳)のなかで、ジャズ・オーケストラの即興がごく自然に起きることについて考えるよう、私たちを促している。なぜなら、リーダーシップは有機的かつ不意に、次々と生じるものだからである。

同様に、パウエルとギフォードも、共著『Perform to Win』(未邦訳)で次のように述べている。エグゼクティブ・グループがみずからを再デザインするためには、リーダーとグループの交流を劇団、オーケストラ、合唱団、ペア・ダンスにおける一団となって行うパフォーマンスとして考えるとよい、と。
● フレデリック・ラルーは著書『ティール組織──マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現』(英治出版)のなかで、組織の歴史的進化とは、新しい組織で今まさに起きつつあるように、より有機的な形態になっていくことだと述べている。

この本では、専制的組織から民主的組織へ、軍隊組織から産業組織へという、組織の一般的な発達段階を順にたどっている。そして、「価値あるものは、空気のように、すでにそこかしこに広まっている」という明らかな感覚を示しつつ、21世紀のビジネスはいっそう意義深く、かつ人間的、協力的になる必要があるという基本命題に、歴史的な視点を加えている。

読書になんらかの意味を見出しているなら、紹介した本のなかから1冊を選んで、3〜6人の仕事仲間と研究グループをつくり、その本を読み込み、じっくり話し合ってみよう。

(注)ウェブ掲載にあたり、可読性向上のため、本文にはない改行を加え、漢数字はアラビア数字に改めています。

エドガー・シャインの最新著作『謙虚なリーダーシップ』(2020年4月発売)

エドガー・H・シャイン Edgar H. Schein
ⅯITスローン経営大学院名誉教授。シカゴ大学を経て、スタンフォード大学で心理学の修士号、ハーバード大学で社会心理学の博士号を取得。ウォルター・リード陸軍研究所に4年間勤務したのち、ⅯITで2005年まで教鞭を執った。組織文化、組織開発、プロセス・コンサルテーション、キャリア・ダイナミクスに関するコンサルティングを行い、アップル、P&G、ヒューレット・パッカード、シンガポール経済開発庁などの企業・公的機関をクライアントとしてきた。また、組織文化&リーダーシップ研究所(OCLI.org)のさまざまなプロジェクトに、息子ピーターとともに取り組んでいる。『人を助けるとはどういうことか』、『問いかける技術』、『謙虚なコンサルティング』(いずれも英治出版)など著書多数。『謙虚なリーダーシップ』(原題は"Humble Leadership")は、Strategy+Business誌が選ぶ2018年ベストビジネスブック賞(マネジメント部門)を受賞。

連載のご案内

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エドガー・シャインの世界
人と組織の研究に多大な影響を与えてきた伝説的研究者、エドガー・シャイン。半世紀にわたる研究の集大成『謙虚なリーダーシップ』の出版に合わせて、弊社から出版している過去作品のご紹介と、『謙虚なリーダーシップ』の本文を一部公開します。

第1回:『人を助けるとはどういうことか』監訳者序文(金井壽宏)
第2回:『人を助けるとはどういうことか』監訳者解説(金井壽宏)
第3回:『問いかける技術』監訳者序文(金井壽宏)
第4回:『問いかける技術』監訳者解説(金井壽宏)
第5回:『謙虚なコンサルティング』監訳者序文(金井壽宏)
第6回:『謙虚なリーダーシップ』はじめに
第7回:『謙虚なリーダーシップ』読書ガイド(第9章所収)

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