曖昧な思考を明晰にする4つの視点──『解像度を上げる』本文一部公開
解像度が高いとはどういうことか、もう少し詳しく見ていきましょう。
「健康になりたい」という人にアドバイスする場合を例にとって考えてみます。様々な選択肢が思い浮かびます。食事制限かもしれませんし、運動かもしれません。すでに病気にかかっていれば、治療が必要かもしれません。「健康になりたい」というのはあまりにも漠然とした要望のため、答えに窮します。そこでまずはその人に質問をして、現状把握することが必要でしょう。
話しているうちに、どうやらその人の言う「健康になりたい」というのは、「筋肉を付けたい」という要望であり、さらに「上腕二頭筋と上腕三頭筋を鍛えたい」ということが分かってきたとします。すると「そのためにはこの筋トレ」「筋トレと一緒にこのプロテインを飲む」「休息を2日間ちゃんと取る」「最初はこのトレーニングから始めて、1か月後には発展的なトレーニングを試してみる」「もし1つ選ぶなら、この筋トレをするべき」と提案しやすくなるでしょう。
このように相手の持つ課題を、時間軸を考慮に入れながら、深く、広く、構造的に捉えて、その課題に最も効果的な解決策を提供できていることが、解像度が高い状態です。
ビジネスの現場でも同様です。たとえば、人材採用では、「コミュニケーション能力が高い人が欲しい」という漠然とした求人を出すよりも、「現場で顧客のニーズを直接聞きながら、システムの要件をまとめられる人が欲しい」とするほうが、より最適な人材からの応募が期待できます。「自社が欲しい人材」や「コミュニケーション能力」というものを要素分解して、どこが重要かを提示できているのは、必要とする人材像や、そもそもなぜその人材が必要なのかという自社の課題の解像度が高いからこそです。
逆に解像度が低い例を挙げてみましょう。「教育が問題だ」という主張はよく耳にします。しかし、これだけでは、教育システム全体を直せば良いのか、教科書を改善すれば良いのか、どういう解決策を取ればよいのか分からず、行動に移すことができません。「教育」という言葉の要素分解が不十分なために、解像度が低い、ぼんやりとした主張だと言えます。この主張をもとに対策などを考えてしまうと、ぼんやりとした中で意思決定をしなければならなくなり、的を射た対策はできなくなるでしょう。
筆者は優れた起業家と接するなかで、解像度の高さに何度も舌を巻いてきました。その解像度の高さが何によって構成されているかを考えたときに見えてきたのが、「深さ」「広さ」「構造」「時間」の4つの視点です。先ほどの筋トレの例のように「一つの事象を、深く、広く要素分解したうえで構造化し、その中でも特に重要なポイントが特定できている。さらに時間の影響も考慮している」のです。
(注)ウェブ掲載にあたり、可読性向上のため、改行を加えています。
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