見出し画像

僕らは何を売っているのか?(厨勝義)

連載:三陸せっけん物語
震災をきっかけにこれまで無縁だった東北に移住し、まったくの未経験から三陸石鹸工房KURIYAを立ち上げた著者による、「せっけんで、世界をせっけんする」挑戦記。

何を評価して買っているのか?

「その石鹸はどんな機能があるんですか?」
お客さんによくされる質問です。

汚れを洗い落とすこと。これが石鹸本来の機能です。
あとはしっかりと保湿すること。

数十年前まで、石鹸はそれなりに高級品でした。お中元で贈られていた記憶があります。それがいつしかボディソープなど利便性の高いものが使われるようになり、最近は石鹸が贈答品になることは少なくなりました。

しかし、ボディソープなどは水を多く含むため、防腐処理の添加物が必須。もちろん、許可を受けているものなので有害ではありませんが、気にされる方もいらっしゃいます。食品の添加物に近いイメージかもしれません。

肌への負担を考えれば、コールドプロセスという2000年前から続く製法で天然成分から作る石鹸は、非常に肌に優しい。

コールドプロセスは、原料を混ぜ合わせて約1か月熟成させる、長い時間がかかる製法です。大量生産には向かず、大きなメーカーはほとんど行っていません。

固形石鹸は、天然材料だけで作ることができる。
シンプルであるが故に贅沢なのです。

いま石鹸を使っている方の中には、肌が弱い方、アトピー性皮膚炎の方などがいらっしゃいます。特にトラブルを抱えていなくても、石鹸を好んで使われる方はいらっしゃいます。

そんな中、僕たちKURIYAの石鹸は、雑貨として販売しています。お客さんたちの声を聞いていると「かわいい」「いい匂い」といった理由でお買い求めいただいているようです。

明らかに「機能」を買っているのではない感じがします。
では、何を評価して買っていただいているのでしょうか。
実は、自分たちでも掴みきれていません。

これから何を、誰と?

何が評価されているのかを掴みきれていないとは、自分たちがどんな価値を提供しているかが良くわかっていないことを意味します。実際、ここまで本当に手探りで事業を進めてきました。

立ち上げから3年、まだまだ非常に不安定。その一方で、事業の方向を大胆にシフトできる身軽さもあります。

石鹸にこだわりアイテムを深掘るか、石鹸以外のスキンケアを開発するか。
女川とネットのみで展開するか、ほかの地方にも進出するか、または海外へ進出。
宮城県の素材に特化するか、海外も含めいい素材を発掘するか。

選択肢は無限にあり、その選択によって将来違った姿に変化していきます。でも、どんな姿に変化するにしても、「自分一人で決める」のではなく「仲間と知恵を出し合って探究したい」と思っています。

今後の進路を自分だけでなく、スタッフと一緒に考えたい。また社内だけでなく、応援していただいいている方々とも一緒に考えていきたい。これまで多数の方から応援いただいている石鹸工房という器は、もはや「自分のもの」という感覚ではないのです。

大切にしたい問いとは?

いま僕がとても気になっている企業があります。「よなよなエール」で有名な、株式会社ヤッホーブルーイングです。

何が気になるって、「楽しそう」なんです。もちろん、ビールの味が美味しいことが前提なんですが、伝わってくる会社の雰囲気から、おもわずファンになっちゃうんです。

ヤッホーでは宴と称したファンイベントが開催されたり、定期的に工場見学ツアーもあります。宴のドームツアーという無茶な夢も言っちゃう雰囲気が、とにかく「楽しそう」。

ビールなのできっと、楽しいが一番。
では、石鹸だと何なのでしょう?

みんな、工場に行ってみたいと思っているのか?
みんな、ファンと作り手が交流する場所を求めているのか?
はたして、みんな何が知りたいのか、見たいのか?

もっと突っ込んでいくと、その先にあるお客様が使われるときの思いは何か?

洗うのは汚れや汗を落とすためだけなのか?
洗う時に大事なことは何なのか?
洗うという時間が生活にもたらしているものは?

石鹸ってもっともパーソナルな場面で使われるもの。
家で、自分自身に戻る時間に使うものだと思うのです。

日用品ではあるのですが、思い入れも深くなるもの。
どんな時間を生み出し、どう喜んでもらうのか。
そのために、製品に求められることは何か?を問い続けています。

厨勝義(くりや・かつよし)
三陸石鹸工房KURIYA代表、株式会社アイローカル代表取締役。1978年久留米市出身。工作機械メーカー、国際教育NPO(アメリカ)、DREAM GATEプロジェクトを経て翻訳事業会社を経営。東日本大震災後に宮城に移住し、南三陸町戸倉地区を拠点に復興支援活動を開始。起業家創出・育成支援、民間企業の力を活用した震災復興事業の企画などに注力した後、2014年に株式会社アイローカル設立。2015年に南三陸石けん工房(現・三陸石鹸工房KURIYA)をオープン。女川町女川浜在住。
ありがとうございます!あなたの望む未来への前進に役立ちますように。
7

英治出版オンライン

英治出版オンラインとは、連載コンテンツや著者イベントを通じて、共感と学びの場をともにつくるプロジェクトです。よりよい未来をつくる活動が前進するアイデアやストーリーを定期配信。連載著者イベントも開催しています。 運営:英治出版 http://www.eijipress.co.jp/

厨勝義「三陸せっけん物語」

震災をきっかけにこれまで無縁だった東北に移住し、まったくの未経験から三陸石鹸工房KURIYAを立ち上げた著者による、「せっけんで、世界をせっけんする」挑戦記。
コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。