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両立する方法をしつこく探すことにこそ価値がある。(厨勝義)

連載:三陸せっけん物語
震災をきっかけにこれまで無縁だった東北に移住し、まったくの未経験から三陸石鹸工房KURIYAを立ち上げた著者による、「せっけんで、世界をせっけんする」挑戦記。

「求められること」と「やりたいこと」

「お客さんのニーズと、自分のやりたいこと、どちらを取りますか?」
とあるイベントで質問されたことがあります。

独自に製品づくりをしていると、アーティストのように自分のやりたいことを市場にぶつけているように思われるのかもしれません。質問の答えは、「両方」です。

僕たちが作っている「キューブ型・25ミリ四方」の石鹸は確かに、個性的との声を多くいただいています。でもこのカタチ、お客さまのニーズでそうなっているのです。正確にいうと、知り合い(潜在的お客様)が興味を示したものを突き詰めた結果、この個性的なカタチになったのです。

もともとは大きな石鹸を作っていました。
長方形のもの、丸いもの……試作品は本当に多種多様。

でも不思議なことに、遊びに来た知人はみなキューブ型の石鹸に興味を持ちました。なかには売ってほしいという声まで。

「あれ? ほとんど遊びのつもりで作ったんだけど…」

それからは、キューブの製品を突き詰める作業に移りました。

例えば大きさは、15mmから35mm まで20種類の大きさを切り出しました。
見た目、持った時の感覚、並べた時の雰囲気を見比べてみて、最終的に現在のサイズの25mmに決めました。

大きさが決まった後も素材や匂いなど100回以上試作し、いったん20種類を発売。その後の売れ行きを見て、12種類まで絞りました。

自分たちは何にこだわっているのか?

お客さんのニーズを突き詰めていった結果できあがったのが、いまの石鹸。だとすると、自分は何にこだわっているのか?

それは、石鹸を作るという事業そのもの。もっと言うと、この事業は地域に貢献するものであり、同時に楽しい目標を追えるものだと強く思っています。

そもそも、震災後にボランティアとして入り、この地で創業する以上、地域に求められることをやるのは自分にとって必須でした。だから地域の素材を使って、海を汚さない手作りの石鹸に絞ることにしました。

地域の未利用資源を使い、この周辺になかった製品で新しい付加価値と雇用をつくる。そして、願わくば製品のファンを増やし、店舗まで買いに来てもらう。まだまだ力及びませんが、ファンが増えれば増えるほど店舗に来て買いたいという方も増えるはず!

そして自分のやりたいこと。
いなか町から海外へ輸出。
かっこいい製品を作って世界中に製品を売りたい!

石鹸という製品は、日本製の製品に対する安心感。そして日本女性の肌がキレイであるという評判が追い風になると信じています。

いまだ、女川町で1店舗を運営するのが手一杯。
まだまだ叶っていない目標ですが、追いかけ甲斐があります。

しつこく両立させる方法を探す

お客さんの要望と自分のやりたいことなど、僕たちはついつい物事を対立するように捉えがちです。でも、自分がどうしても守りたい部分を見出して、それを許してくれる人を対象に商売を考えればいいのではないでしょうか。

言うは易し、行うは難し、ではありますが、結局お客さんの要望と自分のやりたいことが両立しないと商売を長くやることは不可能です。

お客さんに受け入れられないと続けていけないのはもちろんのこと、たとえ儲かっていたとしても自分がやりがいを感じていないと続かなくなってきます。

人が羨む大企業に入った人が、何か違うと考えて辞めてしまうのに似ているかもしれません。人間、興味のわかないことにコミットできる期間には限界があるのだと思います。

だから……自分のやっていること、始めたいことで、自分がやりたいことは何か、どうしても守りたい部分はどこか、そして、場合によっては変えても良い部分はどこなのか……を見極め、それを自在に変えてお客さんの要望を探っていくのが大事なんだと思います。

例えば、僕たちが大事にしているのは「自分が使いたいものを作る」ことで、それは具体的には、天然の素材を使用する、手作りでつくるといった部分に現れています。変えても良い部分としては、石鹸の形状や大きさなど。将来的には他の製品を作ることも視野に入れています。それが、自分自身が使用したいものである場合に限り。

次なる両立

二者択一のように感じるのは、なにも製品作りに限りません。

石鹸工房KURIYAでは少しずつですが、店主である僕がすべてを仕切るのをやめて、仕事を積極的にスタッフに移し、スタッフ一人ひとりがもっと当事者意識を持てるように店舗運営を変えていっています。

では果たして、責任の所在が移っても、今までのように楽しい雰囲気で仕事ができるのでしょうか。まさに、「求められること」と「やりたいこと」の両立に直面しています。

責任を持って、しかもそれを楽しめれば、これ以上のやりがいはありません。個人としても、チームとしても良い雰囲気と結果を生めると確信しています。でも、個人個人のやりたいことを把握すること、また職場にその出番を作っていくことは、一朝一夕にはできないとも感じています。

こういうときに大切なのは、どうしても守りたい部分を見つけること。
僕にとって店舗運営で「どうしても守りたいもの」が何なのか、じっくり向き合おうと思います。

厨勝義(くりや・かつよし)
三陸石鹸工房KURIYA代表、株式会社アイローカル代表取締役。1978年久留米市出身。工作機械メーカー、国際教育NPO(アメリカ)、DREAM GATEプロジェクトを経て翻訳事業会社を経営。東日本大震災後に宮城に移住し、南三陸町戸倉地区を拠点に復興支援活動を開始。起業家創出・育成支援、民間企業の力を活用した震災復興事業の企画などに注力した後、2014年に株式会社アイローカル設立。2015年に南三陸石けん工房(現・三陸石鹸工房KURIYA)をオープン。女川町女川浜在住。