[最終回]復興を超える。(厨勝義)
連載:三陸せっけん物語
震災をきっかけにこれまで無縁だった東北に移住し、まったくの未経験から三陸石鹸工房KURIYAを立ち上げた著者による、「せっけんで、世界をせっけんする」挑戦記。
震災から7年半、復興は?
僕らの事業は、東日本大震災がなければ生まれなかったもの。
この地域に少しでも活気を生む原動力になればと思い起業しました。
震災から7年半が経過。
僕たちが店舗を構える女川町では中心市街地の整備が進み、仮設住宅から自宅を再建して引越しされた方も多くなりました。女川だけでなく、東北の被災各地でも町の輪郭が少しずつ見えてきています。
復興は成されたのか?
……そもそも復興ってなんだ?
あまりの被害の大きさに世界中が手を差し伸べ、東北には資金、人材が大量に流入しました。大変悲しい出来事ではあったけれど、新しいものが興って地域や日本に希望をもたらしてくれるんじゃないか? そんな期待もあったように思います。
復旧と復興は違う!という話もありました。
以前と同じことをするのではなく、新しいことに挑戦しよう!と。
しかし、大多数の地域では防潮堤が建設され、旧来の土木行政が繰り広げられました。ハコモノ、行政主体企画……前と同じならば良いほうで、実際は人口が減少し、高齢化も一層進んだ地域に新しい建物が出来た、というのが大半。「コンクリートから人へ」は行われませんでした。
そんな中、女川町は「海を感じられる町づくり」に舵を切りました。土地の高さを分けることで防潮堤を建設しなかったのです。おかげで僕らは毎日、安心感もありながら気持ちよく住むことができています。
町とともに、何を目指すか
町が進化していくように、自分たちも進化していきたい。
これから力を入れたいのは、「海外輸出」です。
すでに女川町内の企業でも、BtoBの輸出は行われています。日本の水産業、水産加工業のレベルは高く、日本食の広がりと相まって輸出品目も輸出先の地域もどんどん増えているようです。タイ、マレーシア、香港の話を町内で聞くことも珍しくありません。
一方で、僕らが挑戦したいのは、BtoC! 海外の消費者にブランドが浸透し、ファンが増えれば、必然的にインバウンドの増加が期待できます。海外からの訪問客を集めるブランドとなり、町に人を呼び込みたい。そんな夢を描いています。
起業家としての覚悟
地方から海外に輸出するって、何だかとてもワクワクします。こういう自分がワクワクすることを突き詰めていき、それが周りの人や地域のためになる。これ以上に素晴らしいことはありません。
新しいことに挑み、他の会社や他の地域にも刺激を与える仕事をする。
東北の、日本の世界観を持った優れた製品を作り、世界に広める。
「あのお店がアジアに輸出しているんだから、自分たちでもやれるんじゃないか」そう思わせられる存在になりたい。そして女川町が掲げている「新しいスタートが世界一生まれる町」の一つの証左になりたい。そう思っています。
震災の被害が深刻だった女川町は、2015年度の国勢調査で最も人口減少率が高かった町。そんな町から世界に名乗りを上げるチャレンジャーが、カッコイイ企業が、ロールモデルが現れたら……
復興を超える。
――僕らは企業として、これに本気で取り組みます。
厨勝義(くりや・かつよし)
三陸石鹸工房KURIYA代表、株式会社アイローカル代表取締役。1978年久留米市出身。工作機械メーカー、国際教育NPO(アメリカ)、DREAM GATEプロジェクトを経て翻訳事業会社を経営。東日本大震災後に宮城に移住し、南三陸町戸倉地区を拠点に復興支援活動を開始。起業家創出・育成支援、民間企業の力を活用した震災復興事業の企画などに注力した後、2014年に株式会社アイローカル設立。2015年に南三陸石けん工房(現・三陸石鹸工房KURIYA)をオープン。女川町女川浜在住。
*編集部からのお知らせ
2018年4月に始まった厨勝義さんの連載「三陸せっけん物語」は、今回が最終回です。お読みくださった皆さん、ありがとうございました。連載終了を記念して、読者のみなさんと語り合うトークライブを企画しました。連載著者の厨勝義さん、そして厨さんを起業当初からよく知る山中礼二さんをゲストにお迎えします。詳細・お申し込みはこちらから!
10/25(木) 英治出版オンラインTalkLive
「復興を超える。――東北の起業家と投資家がいま感じていること」
厨勝義(三陸石鹸工房KURIYA)×山中礼二(一般財団法人KIBOW)