命の捉え方が変わった、2つの出会い

どうすれば「死を想う」ことを身近に、前向きに捉えられるか。著者にとって忘れえぬ幼少期の原体験、そして自身の活動の転機となった出会いを語る。

憧れのあの子との別れ

「あなたはまだ小さいから、お通夜には行かなくていいの」
「どうして? いやだ、絶対に行く」

私が初めて「死を想う」経験をしたのは、まだ幼稚園児だったときのこと。近所に住んでいた同い年の女の子が、先天性の心疾患で亡くなりました。素敵なお庭があるモダンな家に住んでいたその子は、とてもかわいらしく、当時の私にとって憧れの存在。私の洋服やおもちゃのほとんどが2人の兄からのお下がりだったこともあり、彼女の家で遊ぶときは女の子の世界を堪能していました。

その子の心臓が悪いこと、そんなに長くは生きられないことは、小耳に挟んでいました。体が悪いので外では遊べないという暗黙の了解もありました。でも、いざ亡くなってしまうと、そのことの現実味が私には全くなく、何が起きているのかを知りたくて、冒頭の会話のように母の反対を押し切り、一人でお通夜の会場に潜り込んでしまいました。

ご自宅で行われたその会場には、小さな祭壇が組まれ、彼女の写真はきれいな生花に囲まれていました。静かに眠る彼女のことを鮮明に覚えています。

絵本の世界そのままのように華やかで、美しく、その姿がうらやましいとすら思いました。そして、死とはその人らしさが表れるものなのかもしれないと、そのとき子どもながらに感じていました。

あれだけ親しかった人が自分の世界から急にいなくなってしまった最初の経験だったので、自分の心に深く残り、いまでも当時のことを時々思い出します。それは、「死を想う」という現在の私の活動における原体験でした。みなさんは、こうした身近な人との別れを幼少期に経験したことはありますか?

どうすれば「死を想う」ことを前向きに捉えられるか

日本メメント・モリ協会を立ち上げて1年が経ち、これまでイベントなどを通して100人近くの方々と「死を想うことで、生が豊かになる」ことについて考えてきました。自分の想いや問題意識が伝わったという手ごたえを得ることもあれば、「死を考えるのは、まだまだ多くの人にとって縁遠いことなのかもしれない」とも感じています。

自身の体調の変化や、家族や大切な人との別れなどのきっかけがなければ、なかなか日常生活で死や命について考えたり、誰かと話したりする機会はほとんどない。そういう声を多くいただきます。

「憧れのあの子との別れ」は、私にとって「死を想うことで、生が豊かになる」ことを感じた経験でした。でも、みんながみんな、そういう経験をしているとは限らず、多くの人にとって死を想うことは、縁遠いだけでなく、できればあまり考えたくないことなのかもしれません。

では、どうすれば「死を想う」ことを身近に、そして前向きに捉えられるか。

まだまだ試行錯誤の途中ですが、いま私が「これかもしれない」と思っているのは、医療や看護、介護とは直接関係のない方々にも、ご自身の体験や、命の捉え方についてお話しいただく機会をつくることです。

他分野で活躍されている方々の知見は、「死を想う」ことの裾野を広げ、いままで縁遠かった人がより身近に感じられるようになり、さらに「こういう見方もあるのか」「そういう風に解釈してもいいんだ」と、死を前向きに捉えるきっかけになるのではないか。

鎌田恭幸さんとの出会い

私がそう考えるようになった転機が、鎌倉投信の鎌田恭幸さんとの出会いでした。「いい会社」に投資することで、豊かな社会づくりに取り組む投資会社である鎌倉投信のホームページには、こういう言葉が記されています。

100年個人投資家に支持される長寿投信を目指し、
300年社会に貢献する企業を支援し、
1000年続く持続的な社会を育みます。

投資と死。なんとも関係が薄そうですが、鎌田さんからこういうお話をうかがって、私の考えは変わりました。東日本大震災が起きた後のこと。未来に対する不安感から、多くの投資家が現金を手元に戻そうとする中で、鎌倉投信では逆の動きがあったそうなのです。

現金を引き上げるどころか、温かい気持ちが込められたお金が寄せられる。それは、不安定で不安な中でも、「人の役に立つ企業に投資をしたい」という気持ちによるものだったのではないでしょうか。

あまりにも多くの方が、不条理にも命を落とされました。そんな中で何かできることはないかと考え、寄付、ボランティアという行動を起こした方も多くおられたと思います。そして「投資」も、自分の生き方や価値観を体現する選択肢の一つになった、そういう時代なのかもしれません。

死や命を想うことで、自分がいかに生きたいか、どんな社会であってほしいかに意識が向く。それによって「未来への願いが込められたお金」が社会に広まり、人の心や想い、そして命までもつないでいく。鎌田さんとの会話を通して、お金は自分の生き方を表現するものでもあり、さらには命をつなぐ力もあるという新しい価値観が、私の中で生まれました。

こうした他分野で活躍される方ならではの知見、命の捉え方を多くの人に届ける機会をつくりたいと思い、鎌田さんをゲストにお迎えするトークイベントを企画しました。

——5/31(木)トークイベントのお知らせ——
「お金」から考える命の捉え方
鎌田恭幸(鎌倉投信)×占部まり(日本メメント・モリ協会)  

死を想うことが、これまであまり身近でなかった方や、なかなか前向きには捉えづらいと思われていた方にとっても、学び多き場にできればと考えています。当日、会場でお会いできることを楽しみにしています!

占部まり(うらべ・まり)
日本メメント・モリ協会 代表理事。東京慈恵会医科大学卒業。米国メイヨークリニックのポストドクトラルフェロー(1992~1994年)などを経て、現在は地域医療の充実を目指し内科医として勤務。宇沢弘文死去に伴い、2014年に宇沢国際学館・取締役に就任。2017年に日本メメント・モリ協会設立。(noteアカウント:占部まり
気に入っていただけ嬉しいです!引き続き連載をお楽しみください。
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占部まり「死を想う」

医療の発達に伴い、多くの人が天寿を全うする時代。誰もが前向きに人生の幕を下ろせるようになるには。「死を想う」をテーマに日本メメント・モリ協会を設立した著者が、その人らしい生き方と最後の時間を考える。
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