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『場から未来を描き出す』のC・オットー・シャーマー(『U理論』著者)による序文を全文公開します。

9月9日発売の『場から未来を描き出す──対話を育む「スクライビング」5つの実践 』。言葉で問うのではなく、「描く」ことで、対話を深める実践について説いた本です。発売を前に、『U理論』著者のC・オットー・シャーマーによる序文を公開します。

『悲劇の誕生』の中で、ニーチェは、自らが哲学者としてめざすのは「芸術家の観点から科学を見、生命の観点から芸術を見る」ことであると述べています。本書の著者ケルビー・バードはこの本を通じて、スクライビングというソーシャル・アート〔人々の集まりとしての社会のためのアート〕の世界で、ニーチェが哲学の世界で行ったことを実践しています。ある時代の終わりと、来たる時代の始まりの前兆を示しているのです。

ケルビーとは20年来の付き合いになります。クライアントとして(仕事の折に彼女にスクライビングを依頼してきました)、同僚として(共同で、プレゼンシング・インスティチュートを創設しました)、また友人として、親しくしてきました。ほかのスクライビング実践者たちとも仕事をしてきたので、ケルビーが彼女の同僚たちと共に築いてきた実績がいかに目覚ましいものであるかはよくわかります。

私はケルビーがスクライビングの世界において、有能な実践者から、まったく新しい境地を切り開く真のパイオニアへと成長する姿を目の当たりにしてきました。スクライビングをする際、ケルビーは、私が「源(ソース)」と呼んでいる深い場所から聴くことによって、アイデアや考え、プロセスなどを視覚的に翻訳していきます。スクライビングの目的は、場にいる人々や社会システムが表現したいと思っているものを存在(プレゼンス)させ、また、それを可視化するために、この源という意識のレベルによりアクセスしやすくすることです。

この本の真髄は、その目的を達成するプロセスを紐解いていることにあります。それは直線的なプロセスではありません。場(フィールド)への調和です。スクライビングとは、場を起点に手を動かし、機能させることで、集合的な知識、つまり、そのシステムや場にいる人々が感じ取った感覚を表現するアートなのです。どうすればそのようなことができるのでしょう?

それは、自らの心を開くことによって可能になります。そしてそれがうまくいくと、人々の心も開かれ、集合的な意識とつながることもできます。その結果、集合としての足跡が可視化され、人々はそれを鏡のように使って、自分たちの仕事や軌跡を新しい角度から見ることができるようになるのです。
本書は、こうしたことを新たな領域として探究したものです。自らのスクライビングを生成的なものへと進化させたい実践者にとどまらず、社会的な場〔 ソーシャル・フィールド。集合的な行動とその結果を生み出している個人、グループ、組織、システム間の関係の構造〕を生成的に活性化するための能力を磨きたいと思っているスクライビング以外のソーシャル・アートの実践者、ファシリテーター、プレゼンシングの実践者にとっても、意義深い内容となっています。

第1章の「実践モデル」を読んで、モデルを表すケルビーの描写が逆さまの人間の形に見え、実際にそのように機能することに感銘を受けました。開かれた思考(知る)がいちばん下にあり、開かれた心(在る、捉える、融合する)が中心に、そして開かれた意志(描く)がいちばん上に配置されているのです。ケルビーによる説明のプロセスは心から始まり、行動へと続き、新しい知識で終わります。つまりそれは、頭から始まり手を動かす(そして通常は心を無視する)という従来の知恵の動かし方とは逆の順を辿ります。

私は、ケルビーの描写が、年月と共に、多くの情報を盛り込む描写から、エッセンスだけを捉える描写へと変化していく様子を見てきました。描写が重要な点に焦点を当て、絞り込んでいればいるほど、描写は私やその場にいる人々に、より力強いインパクトを与えます。あるアイデアのエッセンスを捉えるには、そうでない部分をあえて描かない(手放す)勇気が必要です。

彼女の描写が場にいる人々に与える影響力を見ると、彼女の技術が確実に実証されているのがわかります。また、ファシリテーターとして感じてきたのは、対話の途中や最後でケルビーにマイクを渡すと、彼女はほかの誰よりも深くその場の色調と感情を捉えているということです。今ではファシリテーションを行うときには、発言内容を記録してもらうためだけでなく、共に社会的な場を生成的に活性化するために、スクライビングをする人と組むようにしています。

ミケランジェロは、触れるものすべてを美しく変容させたといわれています。ケルビーと協働し、共創してきて感じるのは、彼女が触れる社会的な場についても同じことがいえるということです。スクライビングは、独りで実践するのは不可能なソーシャル・アートです。自らの内面を育み、洗練させることも必要です。そして、ケルビーはそれをマスターしているのです。本書は、その深い領域へ読者を案内してくれます。

どうぞ、お楽しみください!

(注)ウェブ掲載にあたり、可読性向上のため、改行を加えています。

監訳者で一般社団法人グラフィックファシリテーション協会・代表の山田夏子さんによる日本語版序文の全文も、こちらでお読みいただけます。

『場から未来を描き出す──対話を育む「スクライビング」5つの実践』
ケルビー・バード[著]/山田夏子[監訳]/牧原ゆりえ、北見あかり[訳]

言葉で問うのではなく、「描く」ことで、対話を深める──。

一人ひとりの感情、人と人との関係性、場のエネルギー。「言葉になっていない」ものを、グラフィックで可視化することで、人々の内省や当事者意識が促され、新しい洞察やビジョンが生み出されていくー。
U理論深化の一翼を担った著者が説く、新しい場づくりの実践。

【目次】

日本語版序文(山田夏子)
序文(C・オットー・シャーマー/『U理論』著者)
はじめに
この本について
1 実践モデル
2 在る
3 融合する
4 捉える
5 知る
6 描く
付録(カラーページ/著者のスクライビング)

【著者】ケルビー・バード

アーティストであり、世界的に認められているスクライビングの実践者。Fortune500企業や世界経済フォーラムはじめ、企業や行政、教育機関で、描くことによる場づくりをしてきた。またプレゼンシング・インスティチュートの共同創設者として、グローバルコミュニティに数々の貢献をしてきた。最近では、エデックス〔マサチューセッツ工科大学とハーバード大学によって創立された無料のオンライン講義のプラットフォーム〕でのオンライン講座「Uラボ:出現する未来から学習する」でスクライビングをしている。社会的な理解を促進するためのスクライビングを専門とする会社「デピクト」の共同設立創設者でもある。2016 年には、『Drawn Together through Visual Practice(未邦訳)』と題する視覚化実践者による文集を共同編集している。米国マサチューセッツ州サマービル在住。

【序文】C・オットー・シャーマー
マサチューセッツ工科大学(MIT)上級講師、清華大学客員教授、u.lab共同創設者。ベストセラーとなった著書『U理論』と『出現する未来』(ピーター・センゲ、ジョセフ・ジャウォースキー、ベティー・スー・フラワーズとの共著)で、出現する未来から学ぶという「プレゼンシング」の概念を紹介した。カトリン・カウファーとの共著『出現する未来から導く』(英治出版、2015年)はマインドフルネスのビジネス、社会、自己への応用に焦点を当てている。中国とインドネシアでセクター横断型イノベーションのためのMIT IDEASプログラムの座長を務めるほか、MIT×u.labを通して185カ国の75,000人に変革を導くリーダーシップのための学習を提供している。2015年にMITジェイミソン教育功労賞を受賞。
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