こんな資金調達の方法があったのか!──『ファイナンスをめぐる冒険』より「イントロダクション」を全文公開!
こんにちは! 革新的な資金調達の世界にようこそ。
この本を手に取ってくださったのなら、きっとあなたは自分の組織のために資金調達したいか、組織に資金を投資したい人でしょう。あるいは、当事者ではないけれどスタートアップや中小企業への新しい投資方法を知りたいと関心を持っている人のはず。この本を選んでくださって正解です。
本書はあなたを資金調達の世界にご案内します。この旅では、ありとあらゆる組織や企業のニーズに合った選択肢を探訪します。
道中では、創業者、資金提供者、コミュニティにとって妥当な資本配分に創意工夫を凝らしている、場合によっては少々のテクノロジーを活かしている、さまざまなタイプのファイナンス・ストラクチャーを評価していきます。また、あなた自身の資金調達や投資の目標を見きわめ、計画するために必要なツールも探っていきましょう。
この本を読み進めるあなたに、『オズの魔法使い』のあのシーンのような感覚を味わってもらえたらと願っています。冒頭の、すべてがモノクロで始まり、ドロシーの家が地面に降りて彼女がドアを開けたとたん、すべてがあざやかな色彩で目に飛び込んでくるシーンを覚えていますか?
今のあなたは資金調達の選択肢がベンチャーキャピタルと銀行融資と助成金しかないと思っているかもしれません。でも実は、検討対象となる選択肢は虹のように多彩に存在するのです。
この本の目的
本書を手に取ったということは、私と一緒にこの旅に出たい理由がきっとあなたにはあるのでしょう。
あなたが創業者だとしたら、万策尽きているのかもしれません。自分の事業にふさわしい資金調達方法を見つけられずに悩んでいる。従来のベンチャーキャピタル・モデルに取り込まれたくない、かといって銀行融資の資格条件を満たすには資産も実績も足りない。たぶんあなたは、ミッションに忠実であり続けるパーパスドリブンな企業か、持続可能な収入源作りを目指す非営利団体か、外部の株主を入れないコミュニティ重視型の組織を作ろうとしている。
あなたが資金提供者だとしたら、手持ちのツールに同様の物足りなさを感じているかもしれません。従来のエクイティ〔資本金〕やデット〔借入〕や助成金の枠におさまらないビジョンを持つ有望な創業者が目の前にいて、その人の事業構築を助ける方法がないものかと思っている。
もしかしたらあなたは、アーリーステージの資金調達にまつわる問題を見てきた政策担当者、学者、学生、あるいは顧問で、雇用創出と経済成長のエンジンとなる将来有望な若い企業を支援するための、もっと良い方法を見つけたいと決意しているのかもしれません。
私は10年以上前からパーパスドリブンな企業の資金調達を支援してきたので、あなたの気持ちがよくわかります。この本を書くために私は150人以上の創業者と資金提供者をインタビューしましたが、取材では必ず、同じような不満を聞きました。
資金調達に苦しんだクリエイティブ・アクション・ネットワーク
一例として、クリエイティブ・アクション・ネットワーク(Creative Action Network, CAN)のアーロン・ペリー・ザッカーとマックス・スラヴキンを紹介しましょう。
CANはパーパスをもってパーパスのためにアートを制作するアーティストとデザイナーの世界的なコミュニティを中心に作られた、営利の社会的企業です。CANはまさにこの本を書くきっかけとなったタイプの企業です。同社は従来のベンチャーキャピタルにはそぐわないけれど、事業を成長させるために資本と応援してくれる資金提供者を必要としていた、パーパスドリブンな企業なのです。
アーロンとマックスはグラフィックデザイナーですが、政治にも熱心で、2008年にアメリカ大統領選のために誰でもポスターアートをアップロードでき、無料でその作品をダウンロードして印刷できるウェブサイトを立ち上げる、というすばらしいアイデアを思いつきました。このサイトは大成功しました(そう、あの有名なオバマのポスターを知っているでしょう? あれはアーロンとマックスのウェブサイトだったのです。実はサイトはもともと「デザイン・フォー・オバマ」という名前でした)。あのウェブサイトが発展してCANになったのです。
多くの起業家と同じように、マックスとアーロンもスタートアップが成功するための手段は知っているつもりでした。アクセラレータープログラムに参加して、ベンチャーキャピタルから多額の資金を調達し、ひたすら成長を続け、その後自分たちの事業をもっと大きな会社に売却するか株式市場に上場させる。だから2人はそのルートにチャレンジしました。
2人はあるアクセラレーター(「メディアに良い変化を起こす」企業を対象としたマター・Vcというプログラム)に参加できました。資金提供者向けプレゼン資料も作成しました。つてをたどってサンフランシスコのベンチャーキャピタル企業に接触しました。
しかし50回面談して50回断られてから、マックスとアーロンはさとったのです。CANはこのような投資家に向かないのだと。2人が面会したベンチャーキャピタル企業は、社会課題に取り組むアート市場におけるCANの規模拡大(と利益)の可能性に興味をそそられず、マックスとアーロンが会社の社会的ミッションにかける思いを理解できませんでした。CANのミッションにはアーティストに長期的に会社の所有権を持たせることも含まれていました。
CANが遭遇した資金調達の難しさは、社会的企業に、いや、成長のスピードがゆるやかな組織にも共通しています。多くの主流のベンチャー投資家は、社会的インパクトと収益性がいかに両立できるかを理解していないのです。
「こんな資金調達方法があったのか!」
CANをブートストラッピングしてささやかな収益を増やしながら3年目にしてようやく、アーロンとマックスはインパクト投資の世界を知りました。インパクト投資とは、企業が社会貢献をしながら利益を上げられるはず——そして実際にその2つを両立すべきだという考えに基づいた資金源です。
CANの創業者2人はパーパス・ベンチャーズ(Purpose Ventures)というベンチャー投資会社を紹介され、そこで初めて、資本を必要としているけれど独立性を保ち従業員所有権を守りたい企業向けの、ユニークな所有権モデルについて耳にしました。スチュワード・オーナーシップと呼ばれるこのモデルは、存在意義が株主利益の最大化にとどまらないCANのような企業にとって理想的でした。
パーパス・ベンチャーズはアーロンとマックスに、CANがミッションを手放すことなく必要な資本を獲得できるような投資契約を構成するプロセスを、喜んで手ほどきしてくれました。
あなたがこの話を読んで「私もパーパス・ベンチャーズのような会社を見つけなくては!」「私もパーパス・ベンチャーズのような会社になりたい!」と思ったとしたら、とても嬉しいことです。これこそ多くの会社が求めているのにほとんどの資金提供者が応えられていないことなのです。
主流のベンチャーファイナンスの現場においては、ベンチャーキャピタル出資はリスク資本と同義であり、昨今ではCANのような若い企業にとって唯一の資金調達方法と思われがちです(同じくほとんどの企業には利用できない従来の銀行融資を除いて)。問題は、従来のベンチャーキャピタル出資は対象が狭いことです。アセットライトで、テクノロジーを活用し、指数関数的成長を目指す企業が好まれます。ほとんどの企業はこれに当てはまりません。
だから、この本を書きました。あなたは創業者として、あるいは資金提供者として、自分と自分が作りたい会社や組織にふさわしい資金調達の道筋を計画できなければなりません。
この本は、マックスとアーロンの話のようなさまざまな事例を詳しく紹介していき、ツールとリソースと役に立つフレームワークを山ほど示しながら、あなたのお手伝いをすることを目指しています。
コミュニティ重視型の資金調達はどうすればできるか
本題に入る前に、マックスとアーロンのCANとパーパス・ベンチャーズが資金調達をめぐってどうなったのか、その後を見てみましょう。
パーパス・ベンチャーズとの出会いは間違いなく、CANの創業者2人がずっと探していた突破口となりました。パーパス・ベンチャーズは2人のビジョンとミッションに合致する資金提供に喜んで応じてくれる投資家だったのです。両社は、CANが成長するためのリスク資本にアクセスでき、しかもマックスとアーロンが会社の利益で投資家の持ち株を買い戻すことによって長期的に会社の所有権を維持できる投資モデルの契約書を作成しました。
もちろん、このモデルが具体的に形になるには時間がかかりましたし、簡単ではありませんでした。投資家を獲得するのに6カ月、法的書類を整えるのにさらに6カ月かかりました。しかし最終的に、この新しいストラクチャーのおかげでCANは38万ドル調達できました。マックスとアーロンがCANのアーリーステージの資金ニーズを満たすために目標にしていた金額を3万ドル上回ったのです。
マックスとアーロンのように条件交渉に1年もかけるなんてあまりにも大変だと思うかもしれません。しかし、2人はその時間と労力に見合う価値があると感じたのです。
なぜか。「このモデルを利用することによって、もし創業者がクリエイティブ・アクション・ネットワークを去ることになったとしても、会社の経営権が投資家ではなく所属アーティストとコミュニティのものであり続けることを保証できたからです」とマックスは説明してくれました。
こうした「オルタナティブな」資金調達の選択肢がともすれば大変そう、わかりにくそうに見えてしまうのはたしかです。でもこわがらないで。その旅を私がお手伝いします。
このような資金調達手段の中には、誰でも利用できるものもあれば、創業者と資金提供者の双方が積極的に動かなければならないものもあります。すでに触れたように、この本では手段の分析をするだけでなく、資金調達プロセスにも踏み込んで、いかにもっと包摂的でパーパスドリブンにできるかを理解していただくつもりです。
ベンチャーファイナンスの難しさは、時としてそのストラクチャーではなくプロセス自体が、有望な創業者を排除してしまうところにもあるのです。
(注)ウェブ掲載にあたり、可読性向上のため、改行等を加えています。
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