NPOはビジョンを「売れ」(松崎英吾)

連載:サッカーで混ざる――事業型非営利スポーツ組織を10年経営して学んだこと
視覚障がい者と健常者が当たり前に混ざり合う社会の実現に向けて、体験授業から企業研修、国際大会主催、代表チーム強化、企業や行政とのパートナーシップ締結まで幅広く活動する著者。本連載では、10年にわたる試行錯誤を通じて学んだ、スポーツ組織やNPO経営の醍醐味と可能性を考える。

そこはあなたの土俵ではない。

NPOやアマチュアスポーツ団体が企業に商品・サービスを売り込む「法人セールス」の反作用とベネフィットについて、前回の記事でお話しました。特に強調したかったのは、自分たちにとって「なぜ法人セールスが必要か」を十分に問い、向き合うことでリーダーもメンバーも覚悟が芽生え、確かなアクションに結び付くということでした。

「なぜ法人セールスが必要か?」が自分たちの中で明確になれば、次は「なにを売るか?」です。しかし売る商品やサービスを誤ると、かえって苦しい運営になりかねません。これまでいくつかのNPOやアマチュアスポーツ団体をお手伝いしてきましたが、彼らの多くが「なにを売るか?」を次のように捉えていました。

① マスメディアやSNSの露出量:「このイベントを実施して、過去このくらい、取材で取り上げられました」「当団体のウェブサイトの月間ユニークビュー、フェイスブックとツイッターのフォロワーは…」といったデータをアピールする。

② 団体パンフレットやチラシへの広告枠:年次報告書や会報、イベントのチラシやポスターの広告枠を売り込む。

③ イベントの場での掲出:イベントでのバナー掲出やサンプリング実施を提案する。

NPOで営業やマーケティングに関わったことのある方でしたら、法人に対して上記のような提案をきっと一度はしたことがあると思います。メディアやイベントでの露出を訴求すること自体は否定しませんが、これら「広告価値」は、NPOにとって優れた「商品・サービス」とは言えません。

なぜなら、たとえばパンフレット発行部数やSNSフォロワー数、イベント集客数が、広告価値として認められるほどの「マス」に達することはほとんどありません。JBFAでは、国際大会を開催し、有料チケットで1試合最大で約2,000名を集客します。これは障がい者スポーツの世界では実績ある数字で、評価されていますが、広告価値として企業の担当者を納得させるには残念ながら物足りない数字です。

では、どうしてこのような商品・サービス設計をしてしまうのでしょうか?

それは、企業担当者への提案の場で、「過去にどれくらい新聞等のマスメディアで取り上げられたの?」「あなたの団体のSNSはどれくらいの人たちにリーチできるの?」といった質問に“答えようとしてしまう”ことが一因です。多くの企業に案内すればするほど聞こえてくるこの声に引きずられてしまうのです。

かつて私もこれで失敗しました。企業を訪問し、ブラインドサッカーの大会や代表の協賛を提案すると、たいてい「その大会はどれくらい露出するの?」と聞かれます。そして「露出量があれば、協賛してくれる可能性が高まるのかもしれない」と期待して、がんばって、どれくらい露出する可能性があるのかを説明しようとします。

しかし、前出の通り、基本的にNPOやアマチュアスポーツ団体の場合、広告価値だけでは勝負になりません。むしろ広告価値を説明すればするほど、自分たちの広告価値の低さをみずから語ることになってしまいます。

では、私たちはなにを売るのか?

NPOやアマチュアスポーツのユニークな提供価値。それを考えるには、自分たちの団体の存在価値を明らかにする必要があります。

そもそもNPOやアマチュアスポーツは、マーケット原理に基づいた企業活動では成り立ちにくい領域で、事業を行っているはずです。市場では解決しにくい課題に取り組む非営利組織として活動しています。それは、営利企業が「手が出しにくい」、しかし「社会にとっては大切なこと」であるはずです。

そう考えると、私たちの扱う社会課題そのものが、社会への提供価値であり、その提供価値を企業に理解してもらい、企業にとっての受け取る価値として認めてもらうことが大切なのです。

日本ブラインドサッカー協会(JBFA)の例をご紹介します。JBFAは、私たちのビジョン(理念)である「ブラインドサッカーを通じて、視覚障がい者と健常者が当たり前に混ざり合う社会を築く」ことに共感し、ともに実現していく企業とパートナーシップを締結しています(パートナーシップ制度)。これは前出の広告枠やイベント協賛とは異なり、JBFAの活動全般に対するスポンサーと言えるものです。

「混ざり合う社会を築く」という私たちのビジョンは、企業の文脈で言い換えると、ダイバーシティ・アンド・インクルージョン(D&I)の考え方と一致します。近年D&Iは重要な経営コンセプトとなってきており、企業の中期経営計画で言及されたり、コアバリューとして位置づけられることもあります。

しかし、そういった企業が必ずしもD&Iを社会に広げていくことと直結した事業を展開しているわけではありません。そこで、私たちの出番です。D&Iを実現したい企業と、D&Iをビジョンに掲げるNPOが提携・連携することで、D&Iを社内や取引先を始めとしたステイクホルダーに広げることができます。

その考えのもと、JBFAではパートナー企業との契約に、D&Iを社内外に訴求していくための、ブラインドサッカーを活用した体験プログラムや企業研修を実施する内容を盛り込んでいます。パートナー企業はJBFAとの提携・連携を強固にすることで、D&Iのメッセージを打ち出す具体的なプログラムを活用できる。

すなわち、私たちは企業に「ビジョン売っている」のです。

ビジョンそのものが商品であり、サービスになり得るのです。セールス先の企業がどんな方針や価値観を掲げ、社会や地域コミュニティとどんな接点を持とうとしているのかを分析し、自分たちのビジョンが企業と社会の接点になり得るかを見定める。その結果、接点を見出すことができれば、自分たちのビジョンは企業にとって大きな価値、つまり商品となります。

だから、NPOは「なにを売るか?」の答えは、「ビジョンを売れ」だと私は考えています。

あなたの提供価値はなんなのか?

そうは言っても、実際に法人セールスを始めると、やはり企業の担当者たちから「広告価値」について聞かれてしまうのが現実です。そういう話題になると、ついその期待に応えようと思ってしまいがちです。でも繰り返し言いますが、NPOにとっての提供価値は露出量ではありません。広告価値について質問されたら、私だったらこう答えます。

「広告価値では御社の力になることはできません。私たちが提供できる価値は、『混ざり合う社会の実現』に向けた連携です。御社の既存事業では訴求しにくいD&Iの理念を、社内外のステイクホルダーに広めることが、私たちの提供価値なのです」

NPOの登録数が5万件を突破しました。私がJBFAの事務局長になった11年前と比べて、D&Iに関連する事業を展開するNPOはかなり増えています。それでも、それぞれのNPOの事業や活動は、ユニークな存在であるはずです。

たとえばD&Iという大きなテーマでは共通していたとしても、社会課題の領域や地域性や事業形態の掛け合わせによって、あなたのビジョンは、企業にとって特別なソリューションになる可能性を秘めています。

だから、「ビジョンを売れ」であり、「ビジョンからはじめよ」なのです。

松崎英吾(まつざき・えいご)
NPO法人日本ブラインドサッカー協会 事務局長。1979年生まれ、千葉県松戸市出身。国際基督教大学卒。学生時代に偶然出合ったブラインドサッカーに衝撃を受け、深く関わるようになる。大学卒業後、ダイヤモンド社等を経て、2007年から現職。2017年、国際視覚障がい者スポーツ連盟(IBSA)理事に就任。障がい者スポーツの普及活動、障がい者雇用の啓発活動に取り組んでいる。(noteアカウント:eigo.m
ありがとうございます!あなたの望む未来への前進に役立ちますように。
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松崎英吾「サッカーで混ざる」

視覚障がい者と健常者が当たり前に混ざり合う社会の実現に向けて、体験授業から企業研修、国際大会主催、代表チーム強化、企業や行政とのパートナーシップ締結まで幅広く活動する著者。本連載では、10年にわたる試行錯誤を通じて学んだ、スポーツ組織やNPO経営の醍醐味と可能性について考える。
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