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NPOが法人セールスを始める前に考えたい「反作用」と「ベネフィット」(松崎英吾)

連載:サッカーで混ざる――事業型非営利スポーツ組織を10年経営して学んだこと
視覚障がい者と健常者が当たり前に混ざり合う社会の実現に向けて、体験授業から企業研修、国際大会主催、代表チーム強化、企業や行政とのパートナーシップ締結まで幅広く活動する著者。本連載では、10年にわたる試行錯誤を通じて学んだ、スポーツ組織やNPO経営の醍醐味と可能性を考える。

先日、英治出版から機会をいただき、「NPOのための商品・サービスの作り方・売り方」というテーマでトーク&ワークショップを開催しました。参加いただいたのは、企業で働きながらNPOを運営する人や、アマチュアスポーツの団体の人など、法人へのセールスに試行錯誤をされている方々でした。

・どのように企業にアプローチしたらいいのかわからない
・担当できる人材がいない
・どのくらいの金額(値段)がよいのかわからない

そういった苦労をお持ちの方々とお話ししながら改めて、商品を企業に売り込む「法人セールス」には良い面もあれば、組織に思わぬ影響があること、そして何より「なぜ売るのか?」を突き詰めて考えることが大切だと気づかされました。今回はそのイベントで話したことも踏まえながら、NPOが法人セールスを始める前に考えておきたいことをお伝えします。

法人セールスは本当に必要ですか?

NPOやアマチュアスポーツの経営者の方から相談を受ける機会がここ数年増えているのですが、「法人セールス」についてお話をうかがった後、次のことを問いかけるようにしています。

あなたの組織に法人セールスは本当に必要なのでしょうか?

と言うのも、「法人セールスをやりたい」と言いつつ、セールスシートも準備し、「いざ」という段階でもなかなか行動に移せないケースをこれまで多く見てきたのです。その最大の要因は、経営者や担当者の納得度、腑落ち具合があるように思います。

そもそも、なぜ資金が必要なのかと言うと…

事業を始めるため

事業を続けるため

社会にビジョンを伝えていくため

社会を変えていくため

というように、その組織のビジョンを実現していくためですよね。でも、法人セールスはあくまで、数ある資金調達手段の一つです。

・助成金、補助金
・個人からの寄附
・個人からの売り上げ(物販、商品やサービスの対価、参加費等)
・法人からの寄附
・法人からの売り上げ(協賛金や広告費等)
・事業受託(行政受託、指定管理等)

など、それぞれの組織に合った財源があることでしょう。そのなかで、なぜ法人セールスを選択し、実施する必要があるのかを考えなければ、納得感がなく、実行されずに終わってしまうのではないでしょうか。

「自分の組織に法人セールスは本当に必要なのか?」を考える手がかりとして、法人セールスの「反作用」と「ベネフィット」を整理してみたいと思います。

法人セールスの反作用

① 手段が目的化してしまう
法人セールスは資金調達のひとつの手段ですが、それは影響力ある資金源でもあります。いわゆる「スポンサーの意向」を気にし、資金を得続けていくことが目的になる可能性があります。

② 現場スタッフのモチベーションの低下
資金集めが目的化してしまった結果、現場で裨益者や受益者とともに活動するスタッフのモチベーションが低下してしまうケースがあります。

③ 労力が増す
法人セールスを始めるとなると当然ですが、営業や交渉の担当者が必要です。NPOによっては、そのような役割を担えるスタッフがいない組織も多く、そうした場合「慣れない活動」を強いられ、負担増を感じるスタッフが出てくるかもしれません。

日本ブラインドサッカー協会(JBFA)でも苦い経験はたくさんあります。たとえば、私たちが一般の学校で実施している、「スポ育」というブラインドサッカーを活用したダイバーシティ理解のプログラムがあります。そこでは、視覚障がい者の選手と目の見えるスタッフがファシリテーターとして参加するのですが、以前は、企業のニーズの高かったボランティア派遣を、資金提供と引き換えに受け入れていました。

しかし、スポ育のボランティア受け入れは結局やめることに。「そもそも誰のためにやっているんだっけ?」「こんなことをやりたかったわけじゃない」といった意見がスタッフから出てくるようになったのです。つまり、企業ボランティアというお客様に対応することに大きな価値を見出せなかったことが、やめた理由でした。

子どもたちの刺激や発見のために日々ブラッシュアップし、考え抜かれたプログラムを提供しているスタッフたちが、100%子どもたちにコミットしたいという気持ちは確かによくわかります。この事例を通して、手段が目的化すると、スタッフのモチベーションに大きなマイナス影響を与えてしまうことを肌で実感しました。

法人セールスのベネフィット

では、法人セールスにおいて、資金獲得以外のベネフィットはなんでしょうか?

① 財源が多様化する
たとえばJBFAでは、資金源の4割程度が法人とのパートナーシップ(後述します)や協賛金です。一方で助成金・補助金は2割程度。アマチュアスポーツ組織では助成金や補助金が主な資金源になりがちなのですが、2割はかなり低い割合と言えると思います。

助成金や補助金の割合が下がり、財源が多様化するメリットのひとつは、取引先の分散によるリスク低減です。特定の財源に依存しすぎ、その切れ目が組織の継続リスクになることを抑制してくれることでしょう。

もうひとつのメリットは、交渉力の確保です。前出の「スポンサーの意向」のように、財源が偏るとその特定財源の声が過度に大きくなり、活動の足かせになってしまいます。法人からの資金調達によってバランスが取れる場合もあることでしょう。

② 人件費・管理費が稼げる
また、NPOやアマチュアスポーツ組織の主な財源となりやすい助成金や補助金は多くの場合、人件費や管理として扱うことに制限があります。一方で法人セールスは、その商品や価格をみずから決めることができ、上手に商品設計することで、人件費や管理費を賄う財源にできる可能性があります。

たとえばJBFAでは、イベントや大会を開催するたびに獲得する協賛とは別に、企業向けの「パートナーシップ制度」を導入しています。これはJBFAのビジョンである「混ざり合う社会」をともに目指していくことに合意し、連携していく基本契約といえるものです。

現在11社と締結しているパートナーシップ制度による収入には、イベントや大会の経費は基本的に含まれておらず、いわば私たちが裁量できる財源となります。

イベントや大会の協賛金はもちろん必要ですが、それだけでは、事業の経費として消費されてしまい、活動を下支える組織基盤を整えていくことが困難です。商品設計を工夫することで、組織の基盤と言える人件費や管理費に充てられる資金を確保できるのも、法人セールスのベネフィットと言えるでしょう。

③ 価格帯が生まれる
JBFAは10年前、年間売上単価がおおよそ1万円〜2万円、10万円〜40万円の「商品」がありませんでした。前者は個人の寄附や物販、有料チケットなどが担うようになってきましたが、後者は個人を対象にした価格帯ではありません。そこで法人に対し、どのような商品であれば、この価格帯が提案できるのかを模索し、いまでは企業研修が担っています。

JBFAの商品価格帯は現在、年間単価1万円から数千万円までに広がっていますが、その価格帯が広いほど、法人の予算にあった提案が可能になります。たとえば企業であれば、CSR部門、人事部門、広告宣伝部門、事業部門では予算が異なるなかで、彼らの規模感に適した商品・サービスを提案できるかどうかが交渉の場面ではとても重要になってくるのです。

売る気があるか?

NPOやアマチュアスポーツを想定し、法人セールスの善し悪しを考えてきました。法人セールスは労力がかかり、決してよいことだけではありません。いざ動き出してみようとすると、アクションにつながらないケースも散見されます。

私がお手伝いしたあるNPOも、ビジョンから見直し、価格帯を設計し、セールスシートをきちんと作り込んだのですが、法人セールスの具体的なアクションはいまだ起きていません。とても残念に思いますが、いま振り返ると、リーダーや組織の「納得感が醸成され、本気度が高まる」というプロセスが十分でなかったのかもしれません。

私たちにとって、法人セールスは資金調達の手段であり、ビジョン実現の手段にもなりうる活動です。それだけに、「本当に必要か?」「それによってビジョンが前進するか?」と問い直し、「本気度」を確認することが大切なのだと思います。

松崎英吾(まつざき・えいご)
NPO法人日本ブラインドサッカー協会 事務局長。1979年生まれ、千葉県松戸市出身。国際基督教大学卒。学生時代に偶然出合ったブラインドサッカーに衝撃を受け、深く関わるようになる。大学卒業後、ダイヤモンド社等を経て、2007年から現職。2017年、国際視覚障がい者スポーツ連盟(IBSA)理事に就任。障がい者スポーツの普及活動、障がい者雇用の啓発活動に取り組んでいる。(noteアカウント:eigo.m

(英治出版オンライン編集部より)
11社とのパートナーシップ締結や企業研修、ダイバーシティプログラムなどの独自の取り組みで事業をドライブさせてきた松崎英吾さん。先日開催したトーク&ワークショップでは、「なぜ売るか?」「なにが価値か?」という根源的な問いをもとに商品・サービスづくりのエッセンスを解説され、多くの参加者から好評をいただきました。

本連載では今後も、事業成長を志すNPO経営者やメンバーの方々にとって活動の前進につながるアイデアやストーリーをお伝えしていきます。松崎さんへのメッセージや質問は随時受け付けていますので、ぜひコメントいただければと思います。連載バックナンバーはこちらから。

ありがとうございます!コメントいただけましたら、著者がお返事します。
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英治出版オンライン

英治出版オンラインとは、連載コンテンツや著者イベントを通じて、共感と学びの場をともにつくるプロジェクトです。よりよい未来をつくる活動が前進するアイデアやストーリーを定期配信。連載著者イベントも開催しています。 運営:英治出版 http://www.eijipress.co.jp/

松崎英吾「サッカーで混ざる」

視覚障がい者と健常者が当たり前に混ざり合う社会の実現に向けて、体験授業から企業研修、国際大会主催、代表チーム強化、企業や行政とのパートナーシップ締結まで幅広く活動する著者。本連載では、10年にわたる試行錯誤を通じて学んだ、スポーツ組織やNPO経営の醍醐味と可能性について考える。
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