『デュアルキャリア・カップル』1章(一部)を公開します。
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『デュアルキャリア・カップル』1章(一部)を公開します。

英治出版オンライン


二人ともがキャリア志向のカップルが、キャリアと家庭の両方を充実させる方法を説いた新刊『デュアルキャリア・カップル——仕事と人生の3つの転換期を対話で乗り越える』(ジェニファー・ペトリリエリ著、高山真由美訳)が3月27日に発売されます。
著者はINSEAD准教授。26歳から63歳まで日本を含む32ヵ国113組のカップルを調査から見出した共通する3つの転換期と、その転換期を乗り越えるための対話のロードマップを示した1冊です。
その転換期とは一体どういうもので、どんな出来事が引き金となって起こるのでしょうか。
発売を前に、1章「デュアルキャリア・カップルの3つの転換期」の一部を公開いたします。

3つの転換期

わたしが気づいたところでは、デュアルキャリア・カップルは、カップルになってから退職するまでに3つの大きな転換期を経験する。

そしてそれぞれの転換期で、これまでとは別の疑問、異なる心配事、新たな関係に直面することになる。関係の根本にある二人の心理や社会からの圧力に、転換期のたびに向き合わねばならない。転換期に後押しされてより深いレベルで二人の関係や人生と向き合い、同時に以前の転換期のときの合意を再確認することになる。

最初の転換期では、それぞれに独立した仕事と生活を手にした状態から、お互いを頼る状態へ移行する。この転換期の要は、カップルとして最初に一緒に経験する人生のビッグイベント——たいていは仕事上の大きなチャンスか、子供の誕生——に、慎重に適応することである。

最初の転換期を切り抜けるには、なるべく後悔なく、ともに成功できるように、キャリアの優先順位や家庭内の分担を話し合わなければならない。そうやって共同の道をつくりあげ、その道を通って第二の転換期まで進んでいくのである。

第二の転換期の要は、お互いの個性化だ。用語だけを見て尻込みしないでほしい。個性化とは、世間の要求や期待に合わせることをやめ、キャリア、人生、二人の関係にほんとうに望むものは何かを考えることだ。

この転換期はたいてい不満や憂鬱のような感情によって引き起こされ、そうした感情がこれから向かう方向や目的を探る現実的な問いに変わっていく。独自の興味や願望について改めて考え、相手の人生における自分の役割を再び話し合う。

二人の関係に深いレベルで向き合うなかで、最初の転換期のときに決めたキャリアと家庭内の分担についても、もう一度話し合うことになる。もしこれがうまく済めば、第三の転換期に到達するまで、より広い道を歩める。

第三の転換期にさしかかったカップルは、将来への可能性を開きながらも、過去に達成したものに積みあげる形で自分たちの関係を再考することになる。

この転換期は、役割の変化——職場で一番のベテランになる、家から子供たちが巣立っていく、いままでより上の世代と見なされるようになるなど——によって引き起こされ、アイデンティティに空白ができたような感覚をもたらす。

この空白は、なんらかの喪失感とともに生じるが、新しいチャンスのためのスペースにもなる。空白に沈んで漂ってもいいし、探求や刷新の場として使ってもいい。後者を選ぶなら、先行する2つの転換期の未解決の問題を片づけなければならない。それが済んだら、新たな野心や優先事項に基づいて、これからどんな人間になろうかと考えることになる。そうやって、新たな目的へつづく道ができる。

3つの転換期はつながっている。最初の転換期では、二人で人生のビッグイベントに慎重に対処しながら、互いの役割を暗黙のうちに交渉する。時間が経つにつれてこの役割に無理が生じ、それが不安や疑問の引き金となって次の転換期へとつながる。このため第二の転換期には、第一の転換期の副作用に対処する側面もある。同様に、第三の転換期も、最初の2つの転換期から引きずっている後悔やアンバランスに対処するまでは進まない。

3つの転換期のすべてに同じパートナーと向き合う人もいれば、どこかの時点でパートナーが変わる人もいる。そういう違いがあったとしても、本書で詳しく見ていくすべての例において、転換期は似たパターンをたどっていく。

転換期の引き金と問い

転換期は、それまでのライフステージでつくりあげた道に沿って進むのがむずかしくなったときに起こる——第一の転換期のまえなら、それぞれに独立した道かもしれないし、第二の転換期のまえなら、第一の転換期のときにつくった共同の道かもしれないし、第三の転換期のまえなら、第二の転換期以降に築いたより広い共同の道かもしれない。

第一の転換期の引き金は、キャリアや個人の生活から生じる人生のビッグイベントである。たとえば、地理的な移動を必要とするような昇進や解雇、子供の誕生、年老いた親の介護、家族の健康問題などである。

第二の転換期の引き金は、わたしたちの内側から生じ、自分のありようへの疑問や、自分はいったい誰のために生きているのかという疑念となって現れる。

第三の転換期の引き金は役割の変化という形で現れ、アイデンティティの空白や、残された時間とエネルギーで何ができるだろうという疑問を生じさせる。

引き金は重要ではあるが、それぞれの転換期の中身まで決めるわけではない。引き金はその転換期の中心となる問いを提示するだけである。この問いに答えを出すことが、それぞれの転換期におけるカップルの課題となる。研究で明らかになったそれぞれの転換期で直面する3つの問いは以下のとおりだ。

● 第一の転換期——どうしたらうまくいく?
● 第二の転換期——ほんとうに望むものは何か?
● 第三の転換期——いまのわたしたちは何者なのか?

転換期の特徴を示すこの問いは、カップルが人生をどう過ごすか、ともに成功できる道をどう築くかという問題の核心を突くものだ。この問いに出くわすと、二人のバランスは崩れ、ともに疑念でいっぱいになる。こうした不安定さは心を乱すものではあるが、じつは非常に役に立つ。道を再検討し、再構築するためのモチベーションになるからだ。

すべての転換期の中心となるのは、古い道と新しい道のはざまの苦闘である。いままで進んできた道ではもううまくいかないが、ではどうつくり替えたらいいかというと、それはまだわからない。

どの転換期にもそれぞれの苦闘に特有の罠があり、そこで行き詰まるかもしれない。この罠から抜けだせなかったカップルは、そこで一緒に進むことをやめてしまう。たいていのカップルは前進しつづけるために新たな方向を見つけ、道をどうつくり直したらいいか考えだす。

新たな道ができたあとには、そこをたどって進む安定した時期が訪れる。この時期には、一息ついてくつろぐことができる。転換期のときには強大なものに感じられた二人の心理と社会からの圧力も、穏やかに影響を及ぼす程度に弱まる。キャリアでの成長や、友人との活動、ロマンティックな瞬間、特別な家族の時間を経験して、幸せな思い出をたくさんつくれる。

あるいは、おなじみの日課をくり返して、慣れ親しんだ静かな生活を楽しむこともできる。いずれにせよ、最後にはまた新しい引き金に直面して次の転換期に乗りだすことになる——このサイクルをくり返すのだ。

人生は転換期の連続

こうした転換期は、研究上は予測できるものだが、当事者のカップルにとってはたいてい不意打ちで訪れる。デイヴィッドとメリッサの場合もそうだった。

二人はちょうど5時間のドライブを終えてフロリダの自宅に戻ったところだった。アトランタのエモリー大学に下の子を送り届けてきたのだ。ため息をついてキッチンのいつもの席に座り、お気に入りのワインをそれぞれのグラスに注ぐと、二人はこれまでの道のりを振り返った。

30年まえ、二人は大学を出たばかりの若者だった——ビジネス専攻のデイヴィッドは大きな会計事務所に入って将来性のあるキャリアへ乗りだしたばかり、心理学専攻のメリッサは広告業界へ最初の一歩を踏みだしたばかりだった。二人は結婚し、お互いの両親の暮らすボストンに家を買い、自分たちの家庭を築こうとしていた。

1年半のあいだをはさんで元気のいい娘が二人生まれると、人生がいきなり複雑になった。気がついたときには二人は最初の転換期の真っ只中にいて、睡眠不足と闘いながら、どんどんおもしろく——そしてむずかしく——なっていく職場での仕事をうまくこなそうと悪戦苦闘していた。そして二人がようやくリズムをつかみかけたころ、デイヴィッドに昇進の話が持ちあがった。フロリダでチームのリーダーとして働かないかというのだ。

二人はずっと対等な立場でキャリアを築いてきたが、フロリダへ移るとなると、間違いなくデイヴィッドの仕事を優先せざるをえない。仕事と家庭をなんとか両立させるのは、そばに住む両親のサポートがあってもむずかしかった。ここから2000キロ近く離れてしまったら、どうすればいい? それにメリッサの仕事はどうなる?

何週間も悩み、結局フロリダへ移ることに決めた。デイヴィッドの会社がメリッサの再就職を助けてくれることになり、また、デイヴィッドの昇給分で子供の保育費用をまかなうことができた。幼児だった子供たちも少女へと成長した。フロリダのビーチを探検する週末、家族で過ごす休暇、花開いたキャリア—黄金時代だった。12年後、次の行き止まりにぶつかるまでは。

第二の転換期は、40代前半にはじまった。デイヴィッドは会社生活に幻滅し、自分はいまも会計士の仕事がしたいのだろうかと疑問に思いはじめた。メリッサは個人事業主として、自分で広告コンサルティング会社をたちあげることを夢見ていた。

しかし、新しい選択肢を検討できるだけの経済的余裕があるだろうか? 10代の娘二人と住宅ローンを抱え、近い将来に大学の学費まで捻出しなければならないとあっては、大きな賭けはできなかった。

状況の不確かさが二人の関係に大きな打撃を与えた。デイヴィッドもメリッサも、相手が自分をほんとうに理解してくれている——どんなに強く変化を望んでいるか正しく認識してくれている——とはまったく思えなかった。

キャリアへの不満が、結婚生活への不満へと飛び火した。取るに足りない意見の不一致が、大きくなりつつあった憤りに燃料を注ぎ、離婚を考えたことも一度ならずあった。

しかし6年が過ぎたころ、生活が再び軌道に乗ったように思えた。二人は互いに相手が新しい役割に移行するのを支え合った。デイヴィッドは以前より規模の小さい会計事務所で管理職の地位に就き、まえよりも独自に動けるようになった。

メリッサは思いきって独立し、最初こそクライアントの獲得に苦労したものの、いまはうまくいっている。娘たちは大学生活に興奮と満足を覚えていた。デイヴィッドとメリッサはデュアルキャリアの秘訣がつかめた、娘たちの強力な手本になることができたと感じていた。

それなのに、なぜ突然こんなにおちつかない気持ちになったのだろう? 二人はしばらくのあいだ口もきかずに座ったままワインを味わい、いまや空っぽになった家で、いままでにない静けさを意識していた。

ここ10年ほどのあいだ、二人きりで過ごしたことはほとんどなかった。二人はほんの少し気まずく思った。長く会わなかった友人同士が再会して、お互いどれだけ変わっただろうと思い巡らしているかのようだった。とうとうデイヴィッドが沈黙を破った。デイヴィッドはメリッサのほうを向いてこう言った。

「メリッサ、わたしにはもう、自分たちが何者なのかよくわからない」

これだけのことを一緒に乗り越えてきた二人が、突如としてまた新しい転換期を迎えていた。第三の転換期だった。

研究を進めるなかで話を聞いた多くのカップルが、こんなに連続して転換期を経なければならないことに驚いていた。メリッサとデイヴィッドは最初の2つをうまく切り抜けたものの、今度は第三の転換期に対処しなければならないことがわかって衝撃を受けていた。二人にとってはまったくの予想外だった。

転換期は困難なもののように感じられるかもしれないが、正しく対処すればさまざまな物事に活気を取り戻す効果もある。いやおうなく成長を促し、二人の人生に意味とエネルギーを与え、愛と仕事の両面で成功する助けになるのだ。

(注)ウェブ掲載にあたり、可読性向上のため、改行を加えています。

デュアルキャリア・カップル——仕事と人生の3つの転換期を対話で乗り越える
ジェニファー・ペトリリエリ著、高山真由美訳、 篠田真貴子日本語版序文

それぞれのキャリアも、二人で歩む人生も、諦めない。

INSEAD准教授が、26歳から63歳まで、日本を含む32ヵ国113組のカップル(同性カップル、事実婚、再婚含む)を調査。
子育て、転勤、キャリアチェンジ、介護、退職、子どもの自立……
人生100年時代、キャリア志向の二人に立ち塞がる3つの転換期と、その乗り越え方を説く。

「刺激的で示唆深い、デュアルキャリアの道を進むすべての人に向けた、会話のロードマップ」
——『LIFE SHIFT』著者 リンダ・グラットン
「長期的な視点でカップルの関係の変化をとらえた議論に初めて触れて、私は大いに感銘を受けた」

——『LISTEN』監訳 篠田真貴子(本書序文より)

〈目次〉
第1章 デュアルキャリア・カップルの3つの転換期
第一の転換期「どうしたらうまくいく?」
第2章 ハネムーンが終わるとき
第3章 すべてをこなそうという罠
第4章 お互いに相手を頼る関係へ
第二の転換期「ほんとうに望むものは何か?」
第5章 人生の壁にぶつかるとき
第6章 不安と対立がもたらす罠
第7章 新しい道への移行
第三の転換期「いまのわたしたちは何者なのか?」
第8章 喪失と限界が訪れるとき
第9章 広い地平を阻む罠
第10章 うまくいくカップル

<著者>ジェニファー・ペトリリエリ
INSEAD組織行動学・准教授。アイデンティティ、リーダーシップ、キャリアの発展に焦点を当てた研究をしており、身近な人間関係が人をどう形づくるか、不安や危機のときが人のありようにどう影響を与えるかに、とくに興味を持っている。3つの国で働いたあと、現在は夫と子供二人とともにフランスで暮らしており、自身もデュアルキャリア・カップルとしての人生に喜びを見いだしている。

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