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プロジェクトの成否を左右する、「創造の源(ソース)」とは?──『ソース原理[入門+探求ガイド]』より「訳者まえがき」を公開!

プロジェクトの成否を左右するものは何かを研究し、「人が新たに創造するプロセス」を解き明かしたソース原理。今、ティール組織を始めとする次世代型組織のリーダー・実践者から注目を集めています。

ソース原理[入門+探求ガイド]──「エネルギーの源流」から自然な協力関係をつむぎ出すは、ソース原理の第一人者であるステファン・メルケルバッハが、そのエッセンスと探求法をわかりやすく解説した一冊。

日本でのソース原理の普及に貢献してきた、嘉村賢州氏(『ティール組織』解説者)と青野英明氏(経営コンサルタント)による「訳者まえがき」を公開いたします。

どうして私たちは、「仕事でやりたいことなんてできるはずがない」と自分を過小評価してしまうのでしょうか?

どうすれば、組織で、チームで、プロジェクトで、お互いが自分らしく生き生きといられるような協力関係をつくることができるのでしょうか?

私たちはこれまで、20年以上にわたってさまざまな組織を支援する中で、どの組織も「協力関係」の問題を抱えていることを目の当たりにしてきました。

青野は、税理士として帳簿をチェックするだけでなく、「経営の現場でどうすれば1人ひとりがお金への囚われから解放され、自分らしく生きられるのか?」という問いと向き合い続けてきました。

嘉村は、個人や組織の変容を支援する中で、業種や規模などに関係なくほぼすべての組織が構造的な問題を抱えていることに気づき、「そもそも人類は組織のつくり方を間違えてきたのではないか?」という問いと向き合い、ティール組織をはじめとする「新しい組織のあり方」を探求し続けてきました。

あなたが関わっている協力関係において、たとえば以下のようなことが起こっていないでしょうか?

個人の視点……

  • やりたいことが見つからない

  • 仕事にどうしても打ち込めず、ただこなすだけになってしまう

  • 本当は無気力な状態で過ごしたくないが、職場で本来の自分を出すと浮いてしまう

  • リーダーのポジションに就いても、どう振る舞えばいいかがわからない

組織の視点……

  • 「管理」や「ルールを守ること」が優先されるあまり不満が溜まっている

  • トップの発言が朝令暮改のように頻繁に変わるため、諦めが広がっている

  • お互いへの敬意がなくギスギスした雰囲気が漂っている

  • ビジョンを示すべきだという焦りから、お題目のような行動計画がつくられている

  • 経営者が交代したはずなのに、後継者がうまくリーダーシップを発揮できていない

このように、個人としても組織としても、自分や仲間のエネルギーを削いでしまうような状況が数多く発生しています。

では、一体何が足りないのでしょうか?
言い換えれば、誰もが常に自分らしく生きていて充実感と幸福感を味わい、それを後押しできる協力関係が実現できているとすれば、その根源には何があるのでしょうか?

こうした問いに対して1つの道を示してくれるのが、ソース原理です。

ソース原理とは、スイス在住のイギリス人、ピーター・カーニックにより体系化されたものです。彼はもともと不動産分野で成功を収めましたが、やがて個人とお金との関係性、そして「起業やプロジェクトの成否を分けるものはなにか」について20年以上にわたって探求してきました。そうして、優れた起業家やプロジェクトリーダーの事例研究から、「人がリスクを負ってでも何かをしようとする活動」に共通する原理原則を見出し、それをソース原理と名づけたのです。

本書の著者ステファンは、スイスを拠点に組織開発や事業承継の支援を行うコンサルティングファームを経営していますが、「ソース原理マスターコース」の第1期生としてピーターに師事しました。そこで学んだ、個人の価値観とビジョン、そして現状の問題を探求する「ソースワーク」の伝道師となり、本業としても個人の活動としてもソース原理の普及活動に努めています。

ソースあるいはソースパーソンとは、「何らかのイニシアチブを始めた、つまりその『源(ソース)』となった人」です。イニシアチブとは、事業やプロジェクトといった大きなものから、今日の献立を決めたり、友人や恋人と過ごす日の計画を立てたりするような身近な物事まで含みます。いずれにしても、「これをやろう!」と始めた1人がいて、その人がソースパーソンになるのです。

ソースパーソンは、そのイニシアチブのビジョンをありありと描くことができ、時に迷いながらも、全体の方向性と「次のステップ」を示すことが重要な役割とされています。これが本書では「優位性」と表現されますが、王様のように君臨するわけではありません。

ソース原理においてもう1つ重視されるのが「すべての人は自分の人生のソースである」という「同等性」の考え方です。

たとえば音楽のバンドでオリジナル曲をやる場合、作曲者以外のメンバーは下僕のように従うのではなく、作曲者の想いを尊重しながら(優位性)、それぞれの楽器で対等に自己表現を行うことも尊重しています(同等性)。

これは自然界において普遍的に観察できるものです。森を見てみると、共生している樹木と苔の間にどちらが優れているかという上下関係はありません。しかし、明らかに役割の違いはあり、その役割こそお互いの優位性であり共生関係を成り立たせているのです。

このような自然な協力関係は、ある一定の現象を論理的に説明する「理論」ではなく、重力や引力などの原理や定理に近いという考え方のもと、ピーター・カーニックは「ソース原理」と名づけました。

言い換えれば、ソースパーソンになることは人間に自然に備わっている能力であり、大なり小なり誰にでも経験があるはずです。
なぜなら、私たちは日々、自分のソースに従って生きているからです。意識的であれ無意識的であれ、以下のような経験はないでしょうか。

  • 冷蔵庫の残り物で新しいアレンジを思いついて料理した

  • いつもと違う道で家に帰ってみた

  • なぜか急にサンダルが欲しくなって買いに行った

  • シャワーを浴びていたら急に新商品のアイデアを思いついて翌日会社に提案した

これらはすべて、「直感」や「ひらめき」から具体的なイニシアチブを起こした例です。しかし、私たちはえてして直感やひらめきを見過ごすか、時には軽視してしまいます。会社では直感よりも論理が重視されているので意見を出しづらい、あるいは自分のひらめきなど取るに足らないものだから公表する価値もないと思っていないでしょうか。

これは提案だけでなく、違和感や問題意識もそうです。誰もが賛同していることに異議を唱えるのは、和を乱すだけだから遠慮する、というのはよくあることです。

ソース原理では、この直感やひらめきを何よりも重視しています。なぜなら、どんなイニシアチブも、例外なくまず直感やひらめきがあり、「これを実現しよう」と最初の一歩が踏み出されるからです。私たちは誰もが、こうした衝動によって突き動かされているのです。

つまり「自分のソースに従って生きる」とは、「直感やひらめきを大切にする」ことなのです。

これは、自分だけでなく他者に対する考え方にも当てはまります。一見逆説的に見えるかもしれませんが、自分の直感に対する理解を深めることが、他者に対する理解を深めることにつながります。自分の行動の奥底にどんな直感が働いているかがわかるようになると、他者の行動の背景にも思いをめぐらせることができ、寄り添っていけるようになるでしょう。

そうして自分と他者がお互いの「人生のソース」とつながれるようになると、まったく新しいかたちで協力関係を築くことができるようになるのです。

なお、本書ではソースが展開する活動のことを「イニシアチブ」「プロジェクト」「エンタープライズ(事業)」と表現します。ピーターにそれらの違いを尋ねたところ、どれもほぼ同じ意味だが、始まりから終わりまでの期間が比較的短いものをイニシアチブ、長期のものをエンタープライズ、その中間をプロジェクトと表現しているそうです。

それよりも、「組織」と表現しないことのほうを重視していると強調し、その理由を以下のように述べていました。
「組織を主語にすると人の動きや営みが見えにくくなる。ソース原理では組織は幻想だと捉えているからね」

ソース原理は、今関わっている仕事や人生の活動を静的なものではなく、動的な営みとして捉え直す視点を提供してくれるのです。

本書は、大きく2つのコンテンツで構成されています。

[入門編]は、ステファンの著書『A little red book about source』の翻訳版であり、文字通りソース原理の基本的なことが理解できるようになっています。随所に挿入された美しい写真は、ソース原理の世界観である「自然なエネルギーの流れ」を表現しています。

[探求ガイド]は、ステファンがピーターと共同開発した内省アプローチである「ソースワーク」をベースに、書籍向けに青野と嘉村が彼らとの親交の中で学んだエッセンスを再整理したものです。

ソースワークは、自身の価値観を認識し、自身の直感やひらめきに対する感覚を磨き、他者とよりよい協力関係を築き、「ソースの病理」と言われる問題と向き合い、次世代に受け渡すまでの旅路を歩めるようになっています。

私たちはステファンと共に、2023年から日本のビジネスリーダー向けにソースワークを提供していますが、この考え方がますますこれからの時代に求められていると感じています。

特に近年では、従来の官僚的な上から下へのヒエラルキーではなく、権限を組織内に分散するティール組織のような次世代型の組織運営の実践者が増えています。しかし、その中には過剰にトップダウンになるのを避けてしまい、「みんなの意見を聞きすぎてリーダーとしての自分をうまく出せない」と感じている人が多くいます。

ソース原理を学んだ多くの人が、トップダウンとボトムアップのよいところを統合し、ソースパーソンとしての自分を表現しつつ、メンバーの集合知を最大限に活かす経営は可能なのだということに気づいています。

経営者だけでなく、チームリーダーやプロジェクトマネジャーとして、あるいはプライベートの人間関係においてでも、「エネルギーが停滞している」「もっと1人ひとりのエネルギーを活かしたい」と思う人にとって、ソース原理は新たな視点や気づきを与えてくれるはずです。

また、ソース原理に関する本としては、私たちも翻訳・監修に携わった、イギリスの起業家トム・ニクソンが書いた『すべては1人から始まる』(英治出版)があります。トム自身と友人たちのビジネス経験をもとに、経営の実務的な場面でソース原理がどのように活かされるかが掘り下げられています。

本書とは一部言葉遣いが異なるところがありますが、それはステファンもトムも「ソース原理」を伝えるサブソースとしてイニシアチブを発展させていった結果であり、世界中の実践者たちがこの2冊に学びながらそれぞれの現場で活用しています。ぜひ、あなたなりの活用方法を探求してみてください。

2022年6月に、私たちは初めてステファンの自宅を訪れましたが、まさにその日の夜に月下美人の花が咲きました。彼は俳句を詠むことを趣味にするほど日本文化をこよなく愛していますが、当時はまだ来日したことはありませんでした。日本に行くことは彼にとって人生で叶えたいことの1つだったのです。

そうしたなか、自身の著書に導かれて日本人が来た日に、月下美人の花が咲いたのです。ステファン夫妻はそのことにとても驚き、「これは始まりの合図だね」と言いました。

月下美人の花言葉には「強い意志」「秘めた情熱」という意味もあるそうです。

本書が、あなたがあなたらしく生きるための、そして、他者とよりよい協力関係を築くことで多くの可能性が花開くための「始まりの合図」になれば幸いです。

(注)ウェブ掲載にあたり、可読性向上のため、改行等を加えています。

【書籍紹介】
『ソース原理[入門+探求ガイド]――「エネルギーの源流」から自然な協力関係をつむぎ出す』
ステファン・メルケルバッハ (著)、青野英明・嘉村賢州 (翻訳/監修)

プロジェクト、組織、人生キャリア……
停滞を乗り越える鍵は、驚くほどシンプルだ。

マネジメントスキルやリーダーシップ、従来の常識に囚われずに、1人ひとりの「創造の源」に目を向ける。経営者や次世代型組織の実践者たちに広がる「ソース原理」の第一人者が基本と探求法を解説。

【著者】
ステファン・メルケルバッハ Stefan Merckelbach
Ordinata創設者
オランダのフリブー​​ル出身。フリブール大学とジュネーブ大学で哲学の研究に没頭。それ以来、哲学を活かすために理論家としてよりも実践者として活動する事を決意。インターネットの黎明期にIT企業でコンサルティング事業を任されたのち、2001年にOrdinata社を起業。他にも小学校設立など、非営利の活動にも携わっている。

【翻訳・監修】
青野英明 Hideaki Aono
Flaming Heart株式会社代表取締役、青野税理士事務所代表
2009年より税理士として、税金の計算のみならず、企業と人の永続的発展のためのコンサルティング業務を行っている。自然界のデザインにそって自分らしい生き方を協創する事を支援するのが何よりの喜び。2022年から、ソース原理提唱者のピーター・カーニックに師事。ピーターが提唱しているMoney-WorkとSource-Workを日本語で日本に広げるべく活動中。

嘉村賢州 Kenshu Kamura
場づくりの専門集団NPO法人場とつながりラボhome’s vi代表理事
2008年にhome's vi設立。当時はまちづくり(京都)や組織開発ファシリテーターとしての活動が中心であったが、2014年の1年間のサバティカル休暇をきっかけにティール組織をはじめとする進化型組織の研究や普及に活動の主軸を移す。現在は「未来の当たり前を今ここに」をテーマに、進化型組織の研究・啓発・普及と縁があって繋がっている北海道美瑛町・沖縄うるま市での活動を行っている。2023年に第一子が生まれたことをきっかけに、大幅に活動を制限し、家族中心で子供から生き方を学ぶ生活にシフトしようとしている。

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