『イシューからはじめよ[改訂版]』より「改訂版あとがき」全文公開
『イシューからはじめよ』、通称イシュー本が出てから、かれこれ14年近くになる。おかげさまで多くの人に愛され、絶版になることもなくいまだ多くの書店に置いていただいていることを本当に有り難いと思う。
以前ブログに少し書いたが、この本は、“はじめにイシューありき”という長年思い入れのある言葉をタイトルとして書き上げた。が、こんな文語調のタイトルで、このように重い内容の本が読まれるとは思えないと強いフィードバックが出版社から入り、ギリギリになってこのようなタイトルに変わった。今となっては懐かしい裏話だ。
今回、3つ手を入れた。
1つは、So what?の繰り返しで本当に見極めるべきイシューを言語化していくというところの事例だ。イシューは立場によっても、コンテキストによっても、タイミングによっても変わる動く標的(moving target)であり、正直その場面にいない人にこれがイシューだと言ってもまったくわからないものだ。どうすれば多くの人にわかってもらえるかと考え、旧版では、最後に強引に「温暖化」について書き入れた。
「ある商品の売上不振」のような経営課題などだと書きやすいのだが、もともとコンサル以外の課題解決を行う人や研究者向けに書いた本だったこともあり*1、どうしてもマネジメント的ではない事例にしたく、このようなテーマをやむを得ず選んだのだった。
ただ、時代性といえば時代性だが、2010年当時まだ両サイドの意見が存在していた温暖化はいまとなってはあまりにも明確な事象であり、2023年夏、地中海に浮かぶシチリア島は48度を記録し、今年東京は初めての40度を記録しようとしている。
これでは読み手も困惑するだろうと、2020年にCovid-19がわれわれを襲ったときに実際に僕が考え、Withコロナなどさまざまな新しい言葉を生み出すに至った話の背景を差し替え事例として書いた。いまも必ずしもこの議論は終わっておらず、おそらく多くの人にわかってもらえるものなのではないかと期待している。
もうひとつは、課題解決における2つの型の話だ。このイシュー本は課題解決についての本ではまったくないにもかかわらず*2、そのように読まれる人がどうも多いようなので、かつてハーバード・ビジネス・レビュー上で整理した話を書き入れた。課題解決をするにあたって、多くの人が現状と健常状態とのギャップを見極めようとし、どうこうというふうに考えるが、それでは解決できない課題群の存在と、そのアプローチの違いについてだ。前著『シン・ニホン』(NewsPicks パブリッシング)にも書いたとおり、量的には少数派とはいえ、AI×データ時代でも真に人が考えていくべき課題はむしろこちらだ。
最後は、そのような課題解決プロジェクトにおけるお題の設定の話だ。課題解決というのは何らかの意志がないと行う必要がなく、その意思を決めるコンテキストや課題の位置づけがはっきりしないと、実は見極めるべきイシューも設定できない。
学術的な研究の場合、解決が必要なお題はある程度明確なことが多いが、世の中一般の課題の多くはそこから明確にしないと足場がぐらついて前には進められない。そのような状況に陥った人が何を見極めねばならないのか、そのようにぐらつかないためには最初に何を見極めるべきか、そこについて簡潔にまとめた。短いが相当に中身のあることを書き加えたつもりだ。
僕を育ててくださったさまざまな方々、長い間、本書を愛してくださった数多くの方々に心からの感謝を込めて。
2024年7月 安宅和人
『イシューからはじめよ[改訂版]──知的生産の「シンプルな本質」』
安宅和人著、2024年9月22日発売、272頁、本体価格2,000円
はじめに 優れた知的生産に共通すること
序章 この本の考え方──脱「犬の道」
第1章 イシュードリブン──「解く」前に「見極める」
第2章 仮説ドリブン①──イシューを分解し、ストーリーラインを組み立てる
第3章 仮説ドリブン②──ストーリーを絵コンテにする
第4章 アウトプットドリブン──実際の分析を進める
第5章 メッセージドリブン──「伝えるもの」をまとめる
おわりに──「毎日の小さな成功」からはじめよう
なぜ今『イシューからはじめよ』なのか
改訂版あとがき──旧版の裏話と今回の改訂にあたって