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『イシューからはじめよ[改訂版]』より「改訂版あとがき」全文公開

『イシューからはじめよ』は2010年の旧版発売以来、知的生産のバイブルとしてビジネスパーソンを中心に研究者や大学生などから幅広く支持されてきました。14年間一貫して売れ続けて累計58万部(紙と電子版、旧版と改訂版を合算)。ビジネススキルの本として異例のロングセラー、ベストセラーとなっています。

そしてこのたび、「課題解決の2つの型」など読者の実践のヒントとなる内容を追加した『イシューからはじめよ[改訂版]』を発行いたします。改訂版では一部事例を差し替え、全文を推敲し、旧版から24ページ増えました。

改訂の意図と内容を示した「改訂版あとがき」を公開します。ウェブ掲載にあたり、可読性向上のため、改行等を加えています。

『イシューからはじめよ』、通称イシュー本が出てから、かれこれ14年近くになる。おかげさまで多くの人に愛され、絶版になることもなくいまだ多くの書店に置いていただいていることを本当に有り難いと思う。

以前ブログに少し書いたが、この本は、“はじめにイシューありき”という長年思い入れのある言葉をタイトルとして書き上げた。が、こんな文語調のタイトルで、このように重い内容の本が読まれるとは思えないと強いフィードバックが出版社から入り、ギリギリになってこのようなタイトルに変わった。今となっては懐かしい裏話だ。

今回、3つ手を入れた。

1つは、So what?の繰り返しで本当に見極めるべきイシューを言語化していくというところの事例だ。イシューは立場によっても、コンテキストによっても、タイミングによっても変わる動く標的(moving target)であり、正直その場面にいない人にこれがイシューだと言ってもまったくわからないものだ。どうすれば多くの人にわかってもらえるかと考え、旧版では、最後に強引に「温暖化」について書き入れた。

「ある商品の売上不振」のような経営課題などだと書きやすいのだが、もともとコンサル以外の課題解決を行う人や研究者向けに書いた本だったこともあり*1、どうしてもマネジメント的ではない事例にしたく、このようなテーマをやむを得ず選んだのだった。

*1 とはいえ、ビジネスパーソンにもわかるものにしてほしいと強く希望され、最後の最後に相当の事例を入れ替え、結構な数のページが実はボツになった。

ただ、時代性といえば時代性だが、2010年当時まだ両サイドの意見が存在していた温暖化はいまとなってはあまりにも明確な事象であり、2023年夏、地中海に浮かぶシチリア島は48度を記録し、今年東京は初めての40度を記録しようとしている。

これでは読み手も困惑するだろうと、2020年にCovid-19がわれわれを襲ったときに実際に僕が考え、Withコロナなどさまざまな新しい言葉を生み出すに至った話の背景を差し替え事例として書いた。いまも必ずしもこの議論は終わっておらず、おそらく多くの人にわかってもらえるものなのではないかと期待している。

もうひとつは、課題解決における2つの型の話だ。このイシュー本は課題解決についての本ではまったくないにもかかわらず*2、そのように読まれる人がどうも多いようなので、かつてハーバード・ビジネス・レビュー上で整理した話を書き入れた。課題解決をするにあたって、多くの人が現状と健常状態とのギャップを見極めようとし、どうこうというふうに考えるが、それでは解決できない課題群の存在と、そのアプローチの違いについてだ。前著『シン・ニホン』(NewsPicks パブリッシング)にも書いたとおり、量的には少数派とはいえ、AI×データ時代でも真に人が考えていくべき課題はむしろこちらだ。

*2 そういう本であれば無数にある上、その目的であればこのようには書かない。

最後は、そのような課題解決プロジェクトにおけるお題の設定の話だ。課題解決というのは何らかの意志がないと行う必要がなく、その意思を決めるコンテキストや課題の位置づけがはっきりしないと、実は見極めるべきイシューも設定できない。

学術的な研究の場合、解決が必要なお題はある程度明確なことが多いが、世の中一般の課題の多くはそこから明確にしないと足場がぐらついて前には進められない。そのような状況に陥った人が何を見極めねばならないのか、そのようにぐらつかないためには最初に何を見極めるべきか、そこについて簡潔にまとめた。短いが相当に中身のあることを書き加えたつもりだ。

僕を育ててくださったさまざまな方々、長い間、本書を愛してくださった数多くの方々に心からの感謝を込めて。

2024年7月 安宅和人

安宅和人 Kazuto Ataka
1968年富山県生まれ。東京大学大学院生物化学専攻にて修士号取得後、マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社。4年半の勤務後、イェール大学・脳神経科学プログラムに入学。平均7年弱かかるところ3年9カ月で学位取得(Ph.D.)。2001年末、マッキンゼー復帰に伴い帰国。マーケティング研究グループのアジア太平洋地域における中心メンバーの1人として、飲料・小売り・ハイテクなど幅広い分野におけるブランド立て直し、商品・事業開発に関わる。また、東京事務所における新人教育のメンバーとして「問題解決」「分析」「チャートライティング」などのトレーニングを担当。
2008年よりヤフー株式会社COO室長、2012年よりCSO(Chief Strategy Officer)を10年務め、2022年よりZホールディングス株式会社(現 LINEヤフー株式会社)シニアストラテジスト(現 兼務)。2018年より慶應義塾大学環境情報学部教授。データサイエンティスト協会理事・スキル定義委員長。一般社団法人残すに値する未来(風の谷を創る運動)発起人。科学技術及びデータ×AIに関する公的検討に多く携わる。

イシューからはじめよ[改訂版]──知的生産の「シンプルな本質」
安宅和人著、2024年9月22日発売、272頁、本体価格2,000円

はじめに 優れた知的生産に共通すること
序章 この本の考え方──脱「犬の道」
第1章 イシュードリブン──「解く」前に「見極める」
第2章 仮説ドリブン①──イシューを分解し、ストーリーラインを組み立てる
第3章 仮説ドリブン②──ストーリーを絵コンテにする
第4章 アウトプットドリブン──実際の分析を進める
第5章 メッセージドリブン──「伝えるもの」をまとめる
おわりに──「毎日の小さな成功」からはじめよう
なぜ今『イシューからはじめよ』なのか
改訂版あとがき──旧版の裏話と今回の改訂にあたって