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『組織の壁を越える』編集者インタビュー:平野貴裕(EIJI Books)

大学院の博士課程から認定NPO育て上げネット職員を経て、2016年に英治出版入社。初のプロデュース作『Learn Better』が2万部ベストセラーとなった平野貴裕に最新作『組織の壁を越える』の魅力を聞きました。

Q1:どうして今この本を世に出したいと思った?

組織の硬直化やサイロ化への問題意識が、ここ数年高まっているように感じます。私自身は大きな組織で働いた経験はないのですが、大企業で働く親しい友人と再会したときに、この本の重要性を強く認識しました。

彼はとても優秀で、大企業でどんな仕事をするのか密かに楽しみにしていたのですが、久しぶりに会うと、こう言い出したんです。「目の前の仕事を淡々とこなして給料をもらっていくのが、僕の人生だ」と。

飲み会の席だったので半分冗談だったようにも思いますが、優秀だった彼がやる気を失ってしまった要因の一つは組織にあり、そしてきっと同じ境遇の人は他にもいて、この本は彼らと彼らを取り巻く人々が現状を打破する力になると、そんな風に考えました。

ちなみにこの本では、「組織の分断」を5つにタイプ分けしています。

1. 垂直方向の境界
2. 水平方向の境界
3. ステークホルダーとの境界
4. 人口属性の境界
5. 地理的な境界

こうした変化に適応することは、これからの組織とリーダーにとってきわめて重要だと思います。

Q2:ずばり、この本の最大の魅力は?

硬直化・サイロ化する組織へのアプローチとして、これまでも英治出版では『学習する組織』や『なぜ人と組織は変われないのか』などの本を出してきました。そのなかで私が特に感じた本書の魅力は、「地に足がついている」点です。

『組織の壁を越える』というタイトルからは、大それたことを言っている印象を受けるかもしれませんが、この本で最初に強調しているのは、逆説的ですが、「自分と他者の境界線を明確にする」ということなんです。

自分の部署や会社が大切にしていること、相手の部署や会社が大切にしていることを明らかにする。そして、相手には相手の事情があることを尊重する。その上で、協力関係を築くために働きかける。

こうやって書き出すと、どれも、とても当たり前のこと。でも、自分自身のことを振り返っても、意見の対立などが生じたときには、「自分が正しく、相手が間違っている」と考えがちだと感じます。

そこから一歩踏み込んで、「なぜ意見の違いが生じたのだろう?」と考えてみる。そしてそこから生まれた仮説に基づいて、働きかけてみる。

そういう当たり前のことを徹底して、小さな実践を積み重ねることこそが、大きなインパクトを生み出すには大切なんだと。そう気づかせてくれる本だと思います。

Q3:これはおもしろい!と思った事例は?

第4章に出てくる、南アフリカのある企業における黒人と白人の対立に関するエピソードは、読んでいて心を打たれました。

舞台は会社の休憩室。白人のマネジャーがお客さんを呼んだ時、紅茶に入れるミルクと砂糖がなくなっていることに気づく。するとその白人のマネジャーは、「いつもこの休憩室で朝食をとっている黒人たちがミルクと砂糖を使い切ったまま補充しなかったんだ」と勘繰り、黒人たちを非難する。でも実際は、黒人たちはミルクや砂糖を使っていなかった。

この白人の経営者の思い込みをきっかけに、白人と黒人の間で大きな溝ができてしまう。理不尽さに対する怒り以上に、黒人たちはこの一件をきっかけに、自分たちの存在意義が脅かされていると思うようになり、会社への不信感は高まり、肯定感は下がっていった。

そんな状況下で、非難していた白人とは別のある白人マネジャーが勇気ある行動をとります。ある黒人女性からの訴えをうけ、これは大きな問題だと声をあげたのです。声をあげた彼は経営層の一人で、他の経営層からはこんなことで組織の分断だなんて馬鹿げていると取り合ってもらえないのですが、それでも彼は黒人に寄り添っていきます。

そして彼らとの話し合いを通して、黒人たちの声に耳を傾けます。彼らの存在を認め、安心できる状況を作る、まさに境界線を明確にする行為ですね。

また、声をあげた白人は、こちらに誤解があったことを黒人たちに謝罪するメールを送り、対立を解消していきました。

この事例は人種間の対立ですが、私たちのさまざまな職場や生活の中で起こり得ることではないかと思います。部署や事業部や業界、性別や経歴や学歴……。この事例を読むと、「壁を越えるリーダーシップ」がきっとリアリティをもって感じられると思います。

あと、この事例を読んだときに、仮に自分がこれと同じ状況にいた場合、どういう行動をとっただろうか?と考えたんですね。きっとこんな勇気ある行動はとれないだろうな……とか。

本書のエピソードの登場人物になりきって、「自分ならどうするか?」と考えると、自分自身の行動を振り返るきっかけになるのではないかと思います。そういう読み方をしていただけると嬉しいです。

Q4:加藤雅則さんに日本語版の解説をお願いした意図は?

最初にこの本を読み終えた時、日本企業で実践するには何らかの応用が必要なのでは、という直観がありました。そのときにぱっと浮かんだのが、加藤さんでした。本書と同じように加藤さんの著書『組織は変われるか』でも、経営層、役員、部長の各層の事情や価値観を明らかにすることの重要性を丁寧に述べています。

百戦錬磨のエグゼクティブ・コーチ/組織コンサルタントである加藤さんに、実務家としてどんな学びがあったかを述べていただくことで本書の価値が一層に高まると思い、執筆をお願いしました。

加藤さんの「解説」は英治出版オンラインで全文公開中ですので、ぜひお読みいただけたらと思います。

Q5:1/28の出版記念イベントはどんな内容に?

二人のゲストをお迎えします。先ほどご紹介した加藤さんと、もう一人はAGC(旧 旭硝子)で組織の変革に取り組んでいる金井厚史さんです。AGCは収益構造の変革を行って業績好調。さらには縦割り組織にヨコ串を刺すなど、組織づくりにも積極的な会社です。

イベントではこの本を素材にしつつ、組織改革の最前線で活躍されているお二人の対話を通じて、「なぜ組織の壁は越えられないのか。どうすれば越えられるのか」をじっくり語り合う時間にしたいと思っています。

本書の内容を実践するとき、どんな工夫ができるか、日本ではこの部分は違うんじゃないか、そんな実務的な話が飛び交うことをご期待ください!

組織の壁を越える』の「日本語版解説」をお読みくださり、ありがとうございます。英治出版オンラインでは、記事の書き手と読み手が深く交流し、学び合うイベントを定期開催しています。連載記事やイベントの新着情報は、英治出版オンラインのnoteFacebookで発信していますので、ぜひフォローしていただければと思います。(編集部より)

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