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『ガラスの天井を破る戦略人事』の「はじめに」全文公開

世界経済フォーラムが発表する「ジェンダー・ギャップ指数2022」で、日本は116位(146カ国中)と低い水準にとどまっています。特に、ビジネスにおいて、管理職/経営層に占める女性の少なさが問題視されており、その改革が求められています。たとえば、政府は「2030年までに女性役員30%」などの方針を打ち出しました。
新刊『ガラスの天井を破る戦略人事──なぜジェンダー・ギャップは根強いのか、克服のための3つの視点』は、職場におけるジェンダー・ギャップが根強い背景を、心理学・経済学・社会学など多様な学問の知見を活かし分析し、克服のための処方箋を提示した実践的な一冊です。著者たちの問題意識と本書の全体構成を簡潔にまとめた「はじめに」を全文公開します。

2019年、米国で初めて女性が大卒労働者の半分を超えた。全労働者では、まだ半分には及ばないが、それでも男性との数の差はこれまでになく縮まった[1]。米国以外の先進国でも、働く女性が増えている。長い間、女性の労働参加率が非常に低かった日本でも、近年は変化が見られる[2]。

2020年は、新型コロナウイルス感染症の流行による世界経済の混乱で、やや衰えがみられたものの、企業でも社会でも女性リーダーは着実に増えている。20世紀に、教育や職業訓練や雇用における機会均等を求めて懸命な戦いが展開されたおかげで、現代の女性たちは、大学で門前払いを食らったり、特定の職業や地位から排除されたり、結婚したらクビになるのではと恐れたりせずに、キャリアを追求できるようになった。

だが、大きな権限を持つ地位となると、依然として女性は少ない。極端に少ないと言ってもいいかもしれない。どの統計を見ても、女性CEO(最高経営責任者)の割合は10%以下で、男女の賃金格差もほとんど縮小していない。高収入のポジションは、ほとんどが男性によって占められているからだ。

現在最も収入の高い業界、とりわけ金融業界とテクノロジー業界は、女性が最も少ない業界でもある。従業員の男女比がほぼ同じ業界、あるいは半分以上が女性の業界でも、相変わらず経営幹部は男性ばかりだ。ヘルスケア業界は女性が極めて多い(全労働者の77%を占める[3])にもかかわらず、女性CEOはほとんどいない。

2020年、フォーチュン・グローバル500(フォーチュン誌が毎年発表する総収益に基づく世界の企業トップ500社)で、女性がトップにいる企業はわずか13社しかなく、しかもその全員が白人女性だった[4](その後2021年にシティグループでジェーン・フレーザーがCEOに就任して14社となった)。

米国では1980年代以降、学士号(高収入職につくための必須条件だ)取得者の過半数を女性が占めてきた[5]。連邦政府の調査対象となっているすべての人種と民族でも、大学の学位保有者の半分以上が女性だ[6]。門は開かれ、女性たちはその門をくぐってきた。だが、そこで目にしたのは、昔ながらの無数のハードルだったのだ。

本書は、リーダーや権威ある地位に女性が増えていない現状と、この領域で長年進歩がない理由を探る。また、こうしたハードルを乗り越えるために、個人と組織がどのような戦略を講じてきたかと、その効果、そして、真の変革をもたらすには何が必要かを考える。

筆者たちが所属するハーバード・ビジネス・スクール(HBS)は、1937年に女性を教えるようになったものの、MBA(経営学修士)課程に正式に女性を受け入れるようになったのは、ようやく1963年だった。

多くの経営大学院と同じように、HBSは当初、男女共学化は女性の統合に関する問題だと考えた。つまり、どうやって女性をHBSの規範や慣習になじませるかが問題なのであって、HBSの側が変わる必要はないと考えていた。「とりあえず女性を放り込んで混ぜろ」というアプローチだ。

だが最近は、その歴史を率直に見つめて、ジェンダーや人種を問わず、あらゆるアイデンティティの学生に平等な機会とサポートを提供するという目標が達成できていない事実を再認識する動きが出てきた。本書のエピローグでは、HBSの平等実現に向けた歩み(現在も続いている)を探る。

筆者2人は、HBSの学生と教職員が誰であれ活躍して、共通の目標に向けて貢献できる場にするための努力に深く関わってきた。また、多くの同僚とともにHBSのカリキュラム改善に励み、不平等とインクルージョン(包摂性)に関する研究を推進し、企業文化を変える権限を持つリーダーたちにHBSのネットワークを通じて働きかけてきた。

本書は、そこから学んだことをまとめて、教育者や経営者をはじめ、ジェンダー平等が実現しない理由を知りたいすべての人に、不平等な状態を持続させている仕組みと考え方を明らかにし、それを打ち砕く手引きを示す試みだ。その執筆にあたっては、多くの先駆者による、組織とリーダーシップにおけるジェンダー研究に大いに助けられた。

本書では、組織行動学から心理学、経済学、社会学、法学の分野における多数の研究を引用している。それにはHBSの多くの同僚と筆者ら自身の研究も含まれる。本書は、こうした研究の最も重要な発見をまとめて、それが働く女性のキャリアに何を意味し、どうすれば有意義な変化を起こせるかを解き明かす。

また、筆者らは就職まもない新卒者から企業の取締役まで、組織のあらゆる段階にいる計300人以上の男女を対象にアンケートを取るとともに、聞き取り調査を行った。さらに、これとは別に、女性エグゼクティブ275人以上にも調査を行った。彼女たちの出身地は、南極以外のすべての大陸に及び、職種も営業、マーケティング、オペレーション、人事など幅広い。ほとんどは営利企業(上場・未上場)に勤務しているが、非営利団体や学術機関に勤める女性も少なくない。社会経済学的、文化的バックグラウンドも多種多様だ。

彼女/彼らのストーリーは励みになると同時に、しばしば感動的でさえある。それは、ジェンダー不平等が根強く残っている理由や態様について、これまでの研究で明らかになっていることを再確認させてくれると同時に、経験談ならではの生々しさや迫力があり、長く研究されてきたバイアスや障害の影響を身近なものとして理解する助けになるだろう。

聞き取り調査は、女性たちがいかに壁を乗り越えてきたかと、その壁を取り除くための努力(男性の努力を含む)にも光を当てた。ほとんどの人は、自分だけでなく、同僚や後輩も成功できるようにする方法を深く考えていた。このうち数人については、詳しく紹介するページを設けた。

それらは、女性のチャンスが増えてきたものの、実力を発揮する機会は依然として限られている現実を物語っており、社会でも、企業でも、大組織でも、大きな変革とは、断固たる決意で壁に挑んだ人たちの協同作業のたまものなのだということを、あらためて教えてくれる。これを読んだ方々が、ご自分も変化の担い手になるパワーがあることに気づいていただけたらと思う。

【著者略歴】
コリーン・アマーマン Colleen Ammerman
 
ハーバード・ビジネス・スクール(HBS)のジェンダー・イニシアティブのディレクター。同イニシアティブは、最先端の研究を活用して慣習を変え、リーダーが変革を牽引するのを助け、ビジネスと社会におけるジェンダーや人種などの不平等を根絶することを目指している。アマーマンは、このイニシアティブの活動(イベント、実務家向けプログラム、研究成果の発表など)を統括。

ボリス・グロイスバーグ Boris Groysberg
ハーバード・ビジネス・スクール経営学教授(Richard P. Chapman Professor of Business Administration)。同スクールのジェンダー・イニシアティブにも参加している。世界中の組織における人的資本管理の課題を研究し、数々の賞を受賞。

本書は2部構成になっている。第1部では、企業のイニシアティブと社会政策、そして草の根運動にもかかわらず、ジェンダーに基づく不公平が依然として女性のキャリアを妨げ、リーダーの地位は男性によって占められている現状を明らかにする。

第2部では、組織におけるジェンダー・ギャップを解消する試みに焦点を当て、どうすれば男性が女性のアライ(味方)となれるか、企業がシステム全体の変化を起こすためには組織レベルで何をする必要があるか、そして公平な職場をつくるためには管理職に何ができるかを説く。

第1章では、女性が就職まもない時期から直面するハードルと、成績優秀な女性さえ経営幹部に昇進できない原因を探る。特に若い女性たちの声を紹介する。大学卒業間近の女性や、経営大学院に在学中の女性、そして就職して数年たった女性たちだ。

みな競争的な環境にいるエリートであり、すでにかなりの成功を収めている。小さい頃から大きな野心を持つよう励まされ、ハードワークは報われると言われて育った。社会に出てまもない彼女たちは、総じて、成功への道のりははっきりしていると思っている。ところが数年もたつと(大学を卒業して1年しかたっていない場合もある)、競争の土俵が平らではないことがわかってくる。

さらにキャリアを積むと、現代の職場に特徴的な障害に苦しむようになる。それは働く母親に対する懐疑的な見方と偏見であり、女性ロールモデルの欠如(非白人女性の場合は一段と深刻だ)であり、女性として好感を持たれたいか、仕事人としてリスペクトされたいか選択を強いる環境だ(どちらを選んでもキャリアに痛手となる)。

第2章では、こうした段階を乗り越えて経営幹部になった世界の女性たちを紹介し、そのカギとなった要因、とりわけ、ごく少数でも女性ロールモデルがいることが、特大のインパクトを与えられることを理解する。また、昇進するにつれて、ジェンダーに基づく障害が、薬に耐性を獲得した痛みのように進化して、女性リーダーに新たに不利な環境をつくりだすことも明らかにする。

女性エグゼクティブは、経営幹部または同期でたった一人の女性として、一段と大きな注目を浴び、引き続き難しいジレンマに直面することが多い。どんなに大きな権限を得ても、男性同僚の目に映る自分のイメージを管理することに多くの時間を費やすことになり、それが実務における大きな負担となる。同期のほとんどの女性よりも高い地位についたものの、周囲の男性と対等の関係にはなれない。

第3章は、企業のヒエラルキーのさらに上のほう、すなわち取締役会に注目する。ここでは女性の数は一段と少ない。近年は取締役会のジェンダー・ダイバーシティ(またはその欠如)に大きな注目が集まってきたが、それと同じペースでの女性の増加はみられない。

政府から投資家、そして女性取締役までさまざまなアクターが取締役会に圧力をかけているけれど、経済と社会に巨大な影響を与えるコーポレートガバナンス(企業統治)は、依然として白人男性の独壇場である理由を探る。

本書で取り上げる人たちが、名門大学の卒業生や有名企業の従業員、高給取りのエグゼクティブなどエリートばかりであることは確かだ。もっと低賃金の仕事や商売、家庭内労働、そして非公式経済に従事する女性たちは、生活賃金や基本的な雇用保護、そして安全な労働環境といった、より基本的なニーズを満たすために、エリートたちとは非常に異なる戦いをしている。

ジェンダーや仕事について議論するとき、プロフェッショナル職につく女性たちが直面する問題だけに注目するべきではないが、この特権的なグループでさえも、ジェンダー不平等によって挫折を強いられている事実は、この不平等が今も組織とキャリアに蔓延している証拠だ。

どんなに教育レベルや所得レベルが高くても、ジェンダーの壁は消えない。それが根こそぎ打ち砕かれない限り、すべての女性の機会が制限されるのだ。

第2部では、アクションに注目する。第4章は、ジェンダー不平等との戦いで最も活用されていない武器、すなわち男性に注目する。ジェンダー・ステレオタイプとの戦いは男性にも恩恵をもたらすし、男性は政策と文化に大きな影響を与えられる立場にある。

それなのに、ジェンダー不平等に関する会話で男性の声は不在であることが多い。この章では、男性が総じて傍観者の立場に居続ける理由と、男性が擁護してくれれば大きな可能性が開けること、そしてリーダーだけでなくあらゆる職層の男性が有意義な変化を起こせることを説明する。

第5章では、個人から組織へと視点を移し、女性のキャリアを妨げるハードルを取り除いたり、阻止したり、小さくしたりするために企業がとれる措置を考える。

採用から評価や定着まで、人材管理のさまざまな側面に関する研究に基づき、組織がすぐに実践できる枠組みを示す。行動科学、組織構造や組織文化の研究、そして数十社で働く男女への聞き取り調査から得られたインサイトを、日常の人材管理のプロセスに応用する。

最後の第6章では、人材管理に携わる人が誰でも実践できる手引きを示す。システムと構造を整えることも重要だが、それで職場経験のすべてが決まるわけではない。どんなに厳正な勤務評価プロセスがあっても、女性が重要プロジェクトを担当する機会を与えられず、目覚ましい貢献をすることが不可能なチーム文化があっては意味がない。

この章では、積み重なると大きな問題となる日常的な慣行や、ささいな出来事に注目する。公平かつインクルーシブなリーダーになるためには、学習し、ときには居心地の悪い思いをし、自分の視点を批判的に検討する意欲が必要だ。これは管理職の任務というより資質の問題だ。

読者の皆さんが本書から学びを得て、インスピレーションを受け、モチベーションを得ることを願っている。近年、職場におけるジェンダー・ギャップは大いに話題になってきたが、それが解消されない理由は誤解されているか、十分検討されていないことが多い。

女性は、組織の壁にぶつかると、自分の実力不足のせいだと誤解することがあまりにも多い。自分の昇進を妨げるさりげない偏見を表現する言葉がないため、会社や業界の問題を自分の問題だと考えて、ますますリーダーとしての能力を発揮しなくなる。

男性たちも、同じ組織の女性たちが男性とは非常に異なる環境で奮闘していることに気がつかず、男女の賃金格差や地位の格差は実力を反映しているのであって、構造的な問題ではないと誤解しがちだ。

読者の皆さんが、リーダーを目指す女性たちと女性リーダーが置かれた不利なシステムへの理解を深め、自分のチームや部門や会社にも目を向けてくださることを願っている。

ただ、本書の狙いは、これまでいかに大きな進歩が成し遂げられてきたかを思い起こすことでもある。なにげない、しかし、根深い障害は、依然としてジェンダー平等の実現を妨げているけれど、ガラスの天井には、たくさんのヒビが入っているのだ。

(注)ウェブ掲載にあたり、可読性向上のため、改行を加えています。

原注

  1. Likhitha Butchireddygari, "Historic Rise of College-Educated Women in Labor Force Changes Workplace," Wall Street Journal, August 20, 2019, https://www.wsj.com/articles/historic-rise-of-college-educated-women-in-labor-force-changes-workplace-11566303223; Jonnelle Marte, "Women Gained in Income and Jobs in 2018, U.S. Census Data Shows," Reuters, September 11, 2019, https://www.reuters.com/article/us-usa-economy-census-women/women-gained-in-income-and-jobs-in-2018-us-census-data-shows-idUSKCN1VV2IQ. 

  2.  "Quick Take: Women in the Workforce–Global," Catalyst, January 30, 2020, https://www.catalyst.org/research/women-in-the-workforce-global/.

  3. Michelle Stohlmeyer Russell, Matt Krentz, Katie Abouzahr, and Meghan Doyle, "Women Dominate Health Care—Just Not in the Executive Suite," Boston Consulting Group, January 7, 2019, https://www.bcg.com/en-us/publications/2019/women-dominate-health-care-not-in-executive-suite.aspx.

  4. Emma Hinchliffe, "A New Low for the Global 500: No Women of Color Run Businesses on This Year's List," Fortune, August 10, 2020, https://fortune.com/2020/08/10/a-new-low-for-the-global-500-no-women-of-color-run-businesses-on-this-years-list/.

  5. Paula England, Andrew Levine, and Emma Mishel, "Progress toward Gender Equality in the United States Has Slowed or Stalled," Proceedings of the National Academy of Sciences 117, no. 13 (2020): 6990–6997.

  6. "Degrees Conferred by Race/Ethnicity and Sex," National Center for Education Statistics, 2019, https://nces.ed.gov/fastfacts/display.asp?id=72.


『ガラスの天井を破る戦略人事』目次
はじめに なぜ女性経営者は少ないのか
第1部 エリート女性がぶつかる無数のハードル
1 裏切られる「ガールパワー」──就職から中間管理職まで
2 女性エグゼクティブの誕生──厳しい競争を勝ち抜く秘訣
3 最高峰に立つ女性たち──取締役を目指せ
第2部 ジェンダー平等のために企業ができること
4 未活用の秘密兵器──男性アライのパワー
5 企業に贈る処方箋──ガラスの天井を取り除く組織的なアプローチ
6 変化を阻む中間管理職──インクルーシブなマネジャーになるための手引き
結論 ブレークスルーのときがきた
エピローグ ジェンダー・バランスシート──ハーバード・ビジネス・スクールのケーススタディ


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