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離島経営で出合った、「未来の景色を変える」問い(原田英治)

英治出版創業20年目の節目に、生活の拠点を島根県・海士町に移した著者。地方創生の先進地として知られ、全国から大勢の人が訪れる海士町での暮らしは、経営者としての思考や価値観にどんな影響をもたらすのか。1年にわたる島暮らしでの気づきを綴る。
連載:離島から会社を経営する

最高のサイクリングロードに突然現れたディストピア

今年の春に海士町にやってきた頃、島の各地をよく自転車で走り回った。島の南端にある「崎」の集落へも何度かポタリングした(ポタリングとは、散歩程度のサイクリングのこと)。

平坦な道を気持ちよく飛ばし、日ノ津港への坂道をくだっていく。やがて登りがはじまる。少し登ると静かな湾内に養殖筏が放射線状に伸びているのが見える。ヒオウギ貝を養殖しているのだろうか。

陽光に輝く水面と、その水面下に色鮮やかなヒオウギ貝が養殖されているかと思うと、頭の中がカラフルになる。島の風景からエネルギーを受け取りながら、ポタリングにしてはきつい坂道を登りきると崎方面への分岐となる。

海を挟んで西ノ島や知夫里島を望む海士町でも屈指の爽快な尾根道を進んでいくと、一基の巨大な風車が現れる。エネルギーの地産地消を目指し、隠岐ハイブリッド蓄電池システム実証実験のため建てられた海士風力発電所だ。

初めてこの風車に出くわし、ブーンという回転音を聞いたとき、映画「ターミネーター」の未来世界で戦うジョン・コナーの映像を思い出した。最高のサイクリングロードに突然現れたディストピア。海士の自然が破壊されたとか、そういうことよりも、圧倒的な大きさに一個人として太刀打ちできない無力感、もっと言えば恐怖を感じた。

再生可能エネルギーである太陽光と風力のハイブリッド型。蓄電池システムにより電力を安定供給する。資金調達にはエンジェル税制も活用して、海士町のために投資してくれる小口株主に対し、海士町産品の商品券を還元していく。

隠岐の自然の力を活かしたエネルギーの地産地消と、地域外資金の流入と地域内循環、そして海士町を応援してくれる株主との絆の強化。いったい、自分はこの仕組みのどこに恐怖を感じたのだろうか?

遠くない未来、というより僕らが選択を迫られている

都市集中から地方分散へ。分散されてやってきた風車は、意外と巨大だった。コンピューターの歴史に見るように、テクノロジーは集中から分散に向かい、さらに急速に小型化していく。

この巨大な風車を何年で償却するつもりなのか?
その期間にテクノロジーは進化しないのだろうか?
むしろ、進化のスピードは年々早まっているのではないか。

町の財政を見れば、地域外資金流入のために大型プロジェクトを誘致する理由は理解できる。もちろん原子力発電所を誘致するより、風力発電所が小型なのも理解できる。しかし、IoT時代にテクノロジーは急速にナノ化していくのに、この巨大さはどうなんだろうか?

なぜこの巨大な風車に心が引っかかったのかと言えば、日立京大ラボが149の社会要因の因果関係モデルを構築し、AI技術を用いたシミュレーションで2018年~52年の35年間で約2万通りの未来シナリオ予測を行った結果と持続可能社会への政策提言が背景にある。

この政策提言を総務大臣補佐官(当時)の太田直樹さんのブログで知った。予測の中で特に注意をひいたのは、「都市集中シナリオ」と「地方分散シナリオ」の分岐が今後8~10年で始まり、以降は両シナリオが再び交わることはない、という点だ。

遠くない未来、というより、僕らの子どもたちに選択権はない。僕らが選択を迫られている。もちろん、社会要因のパラメーターを追加したりすれば、違う結果が出る可能性について日立京大ラボも認識している。だが、地方暮らしを始めた僕が気になったのは、「都市か地方か」ではなく、「集中マインドか分散マインドか」だった。

集中か分散か――そのマインドが未来の景色を変える

集中マインドと分散マインドは、都市にも、地方にもある。例えば、海士町で言えば、漁業は一本釣りと定置網がある。お隣の西ノ島では巻き網が盛んだ。水産資源の持続性問題については議論を避けるが、魚を一網打尽にする巻き網は経済効率がよい。一方、都市でも危機管理のためデータサーバーを分散することで、故障や復旧といった状況変化に対する柔軟性が高くなる。

VUCAと呼ばれる変化の激しい時代、経済性よりも変化に対応する柔軟性が生き残りの鍵になるだろうし、テクノロジーの進化や小型化が急速な時代では「集中した巨大な仕組みは経済効率がよい」ことさえ誤差に近づくかもしれない。

僕が見た海士町の風車は、そうした時代に逆行している、と言ったら言い過ぎだろうか。

1年間の親子島留学も、気が付けば折り返し地点を過ぎている。海士町に来た当時から抱いていた「集中マインドか分散マインドか」は、海士町の未来にとっても、自分の会社経営においても、ちゃんと向き合わないといけない問いのように思えてきた。

そこで、連載を読んでくださっているみなさんと一緒にこの問いを深めたいと思い、トークイベントを開催させていただくことになった。対談相手は、僕がこの問いを抱くきっかけをつくってくれた太田直樹さん。

太田直樹さんは、コ・クリエーション(共創)プロセスによって地域や社会に大転換を起こそうとする取り組み「コクリ!プロジェクト」のメンバーとして、何度も海士町に足を運んでいる。普段から話す機会は多いが、「集中マインドか分散マインドか」という問いを誰と深めたいかと思った時、直樹さんの顔が最初に頭に浮かんだ。

11月15日の夜、みなさんとお話しできるのを楽しみにしています。

英治出版オンラインTalkLive 11/15(木)
離島経営で出合った「未来の景色を変える」問い
原田英治×太田直樹

原田英治(はらだ・えいじ)
英治出版株式会社 代表取締役。1966年、埼玉県生まれ。慶應義塾大学卒業後、外資系コンサルティング会社を経て、1999年に英治出版を共同創業。創業時から「誰かの夢を応援すると、自分の夢が前進する」をモットーに、応援ビジネスとして出版業をおこなっている。企業や行政、自治体、NPOなどでの講演も多数。第一カッター興業社外取締役、AFS日本協会評議員、アショカ・ジャパン アドバイザー。(noteアカウント:原田英治


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