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チームワークとサイエンスが出合ったら

会社から同好会、マンション組合、夫婦にいたるまで、言ってみれば誰もがチームの一員だが、私たちはそのメカニズムをどれだけ理解しているだろうか。連載初回は、ある理論を入り口にチームワーク研究の一端を紹介する。

たとえば、shared mental modelから考える

山田さん、田中さん、佐藤さんによる3人編成のチームがあったとする。山田さんと田中さんの共同作業はうまくいっている。だがそこに佐藤さんが加わるとどうもトラブルが起きる。例えばこういう状況で、皆さんだったらどんなことを考えるだろうか。

もしこのチームから私に相談があったら、その日本的な名字の組み合わせに軽く突っ込みを入れた後に、shared mental model(共有認知構造)という理論を使って謎を解こうとするだろう。この理論は、『誰のためのデザイン?』(新曜社)の著者で、認知科学者であるドナルド・ノーマンの研究などで知られている。

共有認知構造とは、作業工程や役割分担、進捗確認のタイミングなどの理解(認知構造)をメンバー間ですり合せること(共有)だ。そうすることで、チームの足並みが揃い、コミュニケーションコストが下がり、パフォーマンスが高まる。チームワークという目に見えない現象を理解し、向上する際に定評があるアプローチだ。

この共有認知構造の理論をベースに、アンケート、eメールやチャットなどのログデータ、あるいはチーム内の会話による音声データ、もっと気合を入れれば各メンバーの脳波データを収集・解析する。すると、図1のように、先ほどの3人がどのような順番で仕事を理解しているかが明らかになってくる。山田さんと田中さんの作業順序はよく似ているが、佐藤さんは似ていない。

山田さんと田中さんはAの次はBかCが来ると思っているため、二人の間で手順をいちいち確認する必要はない。だが佐藤さんは二人と違って、Aの後にDやEを行ってしまう。ひょっとしたら、この作業順序に対する共有認知の低さがトラブルの原因なのかもしれない。であれば、この図を3人で見て、仕事を進める順序を話し合えば、案外早く解決するのかもしれない。

がしかし、認知構造が共有され続けると、いわゆる「タコつぼ化」、つまり一辺倒の見方しかできなくなり、新しい視点や環境変化のシグナルを取り入れづらくなるかもしれない。共有しすぎてもよくないし、共有しなすぎてもダメ。さて、どうしたものか……。

20年ぶりの帰国、意外な反応

と、こんな感じでチームのメカニズムを研究するのが私の仕事である。スポーツやビジネスの世界のチームストーリーが好物。さらにいえば、先ほどのように理論とデータで科学的にチームワークを解明するのが私の人生のテーマだ。

高校卒業後、20年間アメリカで研究していたが、それだけ長くいると飽きが来てしまい、ついでに言えば居酒屋が恋しくなって日本に帰ってきたのが昨年のこと。現在は早稲田大学に在籍している。

日本で働き始めて意外だったことがある。それは、「チームワークって何だろう?」と自分がいままで考えてきたことを他の研究者や企業の方々に話すと、これがなかなかウケがいいのである。他大学に招待されディスカッションしたり、企業の方々からはお仕事をいただいたりと、うれしい反応があった。

「まだまだ途上の研究者だけど、自分の経験が少しは誰かの役に立つのかもしれない」。そんな思いがあって、この連載を書き始めることにした。これから数か月、チームワークのメカニズム、複雑さ、そして面白さをみなさんと一緒に考えていくことを楽しみにしている。

特に、組織心理学を専門とする科学者として、サイエンスの視点からチームワークの常識や盲点に切り込んでいければと思う。みなさんが属しているチームに置き換えながら読んでいただけるよう、イメージしやすいケーススタディなども織り込んでいきたい。また、みなさん自身のチームストーリーや組織運営の視点や気づきを共有し合える場もつくっていきたいと思っている。

ようこそ、チームワークのおもしろき世界へ!

村瀬俊朗(むらせ・としお)早稲田大学商学部准教授。1997年に高校を卒業後、渡米。2011年、University of Central Floridaで博士号取得(産業組織心理学)。Northwestern UniversityおよびGeorgia Institute of Technologyで博士研究員(ポスドク)をつとめた後、シカゴにあるRoosevelt Universityで教鞭を執る。2017年9月から現職。専門はリーダーシップとチームワーク研究。

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