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若い人が自分の国を「この10年でよくなってきた」と言える国

ベトナムに住み始めて2か月。景観や文化に目を見張ることもしばしばだが、やはり面白いのは人との交流である。なかでも抜群に魅力的だったのがジャック。彼との出会いは、「若者が自国を誇れる国」について大いに考えさせられた。

ツアーガイドの仕事はリーダーシップ?

先日、日帰りのツアーに行ってきた。ハノイからバスで南へ約2時間、ニンビン市だ。ここにはベトナムの古都として知られるホアルーや、「陸のハロン湾」と言われるほどの景観も魅力のタムコックなどがある。どこも素晴らしかったが、それ以上に印象的だったのがツアーガイドのベトナム人だ。自らをジャックと名乗る30代前半の男性である。

朝早く旅行代理店のオフィスで会った時から、ジャックは元気満々だった。明るい笑顔と大きな声で「おはようございます。今日一日楽しみましょう!」と挨拶する。ツアー客は、タイ人、フランス人、それと僕ら日本人の三組で合計8人。それらを率いて、一日のツアーを完結させるのがガイドの役割である。

ハノイに来ていくつかのツアーに参加して思ったが、ガイドという仕事は相応のリーダーシップが要求される。単に引率するのではなく、さまざまな国から来た関心も見たいものも違う人たちの要望を聞き、みんなが満足するように、かつ一つのグループとして行動させる。これには相当の力量がいる。そういう意味で、ジャックは素晴らしいリーダーシップを見せてくれた。

この日はあいにく雨が降ったりやんだりと、ガイド泣かせの天候だった。お寺を回っていても雨が降って来てコース変更を余儀なくされ、ランチ後も雨で待ち時間ができてしまった。ツアーのメインの一つでもある川下りは辛うじてできたものの、その後のサイクリングは中止となり、急きょレストランで料理教室……などなど、状況に応じてジャックは意思決定を下し、「それがベストである」ことを参加者に説明していく。

雨とはいえ、本来の旅程を楽しみにしていた参加者を納得させ、時にはジョークで場を和ませ、時にはベトナムの珍しい食生活を話したりと、飽きさせずに最後まで楽しんでもらおうとあらゆる努力をするのだ。

ジャックの英語は僕がこちらで知り合ったベトナム人の中で、もっとも聞き取りやすかった。声も大きいし、滑舌もいい。そして発音もクリア。さらに言うと、そもそも高いコミュニケーション能力がある。社交的でどの参加者にも一人ひとりに話しかける。少しでもベトナムのことを知ってほしいという気持ちがひしひしと伝わってくるのだ。

「ベトナムはこの10年で劇的によくなりました」

ツアーの冒頭、ジャックがみんなの前で挨拶をした時のことが忘れられない。彼は「ようこそ、ベトナムへ」と言った後、「ベトナムはこの10年で劇的によくなりました」と話したのだ。以前は英語が話せるガイドも少なかったし、時間通りに運行しないこともあれば、クルマもよくなかった。でもそれらを一つ一つ改善していき、いまはものすごく観光が楽しめる国になったんですよ、と彼は言う。

ベトナムが年6%を超える経済成長を続けていることは知っていたので、最初はジャックの話を、なんら目新しさを感じずに聞いていた。しかししばらく考えていると、若い人が自分の国を「この10年で劇的によくなってきた」と言える国は凄いと思い直した。

「10年」は比喩だと思うが、10年前といえば2008年。当時と今を比べてみると、日本は「あまり変わっていない」というのが実感ではないだろうか。経済水準はほとんど変わらず、財政赤字は悪化、高齢化も進み、格差も拡大するなど、むしろ明るい話はすぐに出てこない。

一方のベトナムはこの10年で実質GNPが2.5倍にまで成長している(日本はこの間6%しか拡大していない!)。もちろん、国の力は経済成長のみではなく、いろんな分野での数値化できない成長もあるだろう。

ジャックはオーストラリアに留学して英語と観光学を学んだという。その後、シドニーのホテルでしばらく働き、ベトナムに戻ってからは旅行会社に勤めた。そして2年前に旅行会社を起業した。その明るい積極さと、野心を隠さない爽やかさは、日本の若手スタートアップ経営者と同じような雰囲気を醸し出している。

ジャックが「自国の成長」を実感してきたことは言うまでもない。さらに言えば、彼自身、観光業界に何年も身を置いてきたことから、観光業界全体のクオリティが上がってきたことに対し、自らもその一員として貢献してきた自負があるのではないか。

若い人が自国を誇れるというのは、無条件に素晴らしいことだと思う。きっと彼らは未来に希望があるに違いない。これを日本と比較して、「ベトナムの若い人は元気だ」とか「経済成長の時代に育ったからだ」と片づけるのはもったいない。

若い人がそう思えないのはなぜなのか?
若い人がそう思える国になるには何をすべきなのか?

これは、若い人の課題でなく、むしろ上の世代こそが真剣に考え行動に移すべき課題だと思う。

岩佐文夫(いわさ・ふみお)
1964年大阪府出身。1986年自由学園最高学部卒業後、財団法人日本生産性本部入職(出版部勤務)。2000年ダイヤモンド社入社。2012年4月から2017年3月までDIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー編集長を務めた。現在はフリーランスの立場で、人を幸せにする経済社会、地方活性化、働き方の未来などの分野に取り組んでいる。(noteアカウント:岩佐文夫
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