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ベトナム価格で生活するか、日本価格で生活するか

ベトナムでは、珈琲ひとつとっても2種類の価格がある。ローカルなカフェでは50円~100円。一方でスタバではカフェラテが320円。新興国価格と先進国価格が同居する社会で、どういうお金の使い方をするのか。

買い物に追われた1週間

旅行と滞在の違いは、そこで過ごす期間が長いかどうかだけではない。滞在とは、現地で生活の基盤をもつということである。ハノイに来て1週間、こんな当たり前のことに気づき、それに追われる日々だった。

まずは住居探しである。日本から現地の不動産屋さんと連絡を取り合っておき、ハノイに着いた翌日にいくつかの物件を内覧させてもらった。その中に気に入った物件があったので意外とすぐに決めることができた。

僕が住むのは、長期滞在者用のアパートメントで月額制だ。ベッドやソファなどの家具、テレビや冷蔵庫や洗濯機などの家電製品、食器類や料理器具も一通りそろっている。そしてハウスキーパーさんが週3日、掃除や洗濯をしてくれる。至れり尽くせりだが、それでもタオルや調味料、洗剤、シャンプーなどは、一から買い揃えなければならない。一晩寝てみて「あれを買わなくちゃ」と、また必要なものが見つかる。

そんなこんなで買い物に走る日が続く。同時に、家の近くには何があるのか、普段の買い物はどこでするのか、外食するときはどんなお店があるかなど、自宅近辺の様子を把握することにも追われた。

ベトナムの価格は日本の7分の1

何かと出費の多いこの1週間は、価格について考えることが多かった。ベトナムの一人当たりの購買力平価は、6876米ドル(2017年)であり、日本の約7分の1だ。つまり、日本の7分の1の価格で同じものが買えることになる。実際、地元の人が食べるランチは、ベトナムのサンドイッチである「バイ・ミー」やフォーなどで、どれも100円~200円。しかもとっても美味しい。ちなみに大卒初任給は3万円前後と言われ、日本語ができて現地の日系企業に勤める人だと、5万円程度という。

ただし、すべてが7分の1の価格帯なのではなく、外国人向けの製品やサービスは別だ。僕が住むアパートメントは、欧米系の外国人が多く住む地域にある。間取りや立地を考えると、東京と比べれば家賃はとても安いが、普通のベトナム人の給料では住むことはできないであろう。

もちろん、そんなエリアに住んでポルシェに乗っているベトナム人もいることはいるが、例外のようだ。僕は、日本の仕事でお金をもらっているので払えるが、ベトナムの仕事でお金をもらってここに住むのは相当大変であろう。聞くところによると、地方からハノイに出て働いている人は、5000円~1万5000円程度の家賃を払っているという。

つまり、異なる2つの価格帯がある。街にあるローカルなカフェだと、珈琲一杯が、50円~100円。気の利いたカフェでも200円程度。よく行く屋台の焼肉屋さんは、普通に焼肉を食べて飲んで、ひとり500円で済むし、路上に現れる即席カフェでは、一杯15円で蓮茶にありつける。一方で、ベトナムのスターバックスのカフェラテは320円だし、本格的な紅茶のお店もある。主に外国人向けのステーキ屋さんは1万円を超える。こんな中、そんな中、僕はこの2つの価格帯を行き来して生活している。

路上のカフェ。メニューは蓮茶のみ。一杯約15円。
早朝から現地の人で賑わっている。

時に外国人だからと高い価格を提示されることがある。市場などの値段が書いていないところでは、ベトナム人の5倍や10倍の値段を言われる(ようである)。500円と言われたら、こちらは300円と言い返す、ならば400円でいいと言われ買うが、ベトナム人には100円くらいで売るという話だ。たとえ500円でも日本の価格に比べると相当安いのだが、なぜだかベトナム価格で買いたいと思う自分がいて、その自分自身に矛盾を感じる。

ガーデン式のカフェでは本格的な紅茶も。一杯約350円。
欧米駐在員の主婦の方々が集う。

両方の価格帯を行き来することの自己矛盾

結局、僕は虫のいいことを考えているのだ。日本の経済水準に助けられながら、こちらの現地の生活感を味わってみたいと。ベトナムで2つの価格帯の「いいとこどり」ができているのは、僕のこれまでの努力や自ら培った稼ぐ力とはあまり関係ない。日本という国で育ち、教育を受け、仕事に就くことができたからという背景の方がはるかに大きい。僕が普通のベトナム人としてこの国に生まれ育ったなら、いま自分が経験しているような暮らし方はできないだろう。

ベトナムと日本の経済格差は年々急ピッチで縮まりつつあるが、いま現在、厳然たる違いがあることは確かだ。その中で、先進国から来た人間が新興国でどういうお金の使い方をするかで、見える景色も違ってくるのであろう。異国に住むという経験も、置かれた状況によって異なる。大企業からの駐在で一時的に住んでいる人、この地で生活の基盤をつくっている人、この地を自分の場所と決めて、この国の発展に尽くしている人。

そんな中で、僕は3か月という限られた時間、この地に居座わさせてもらっているに過ぎない。ベトナムに住む以上、ベトナム人の生活も深く知りたい。こんな思いもあるのだが、その前に、この地で自分は「いいとこどりをしている異国人」であることを忘れてはならない。野菜ひとつ買うことから、ベトナムとの向き合い方を試されているような気がしている。

岩佐文夫(いわさ・ふみお)
1964年大阪府出身。1986年自由学園最高学部卒業後、財団法人日本生産性本部入職(出版部勤務)。2000年ダイヤモンド社入社。2012年4月から2017年3月までDIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー編集長を務めた。現在はフリーランスの立場で、人を幸せにする経済社会、地方活性化、働き方の未来などの分野に取り組んでいる。(noteアカウント:岩佐文夫
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岩佐文夫「ベトナム、ラオス、ときどき東京」
岩佐文夫「ベトナム、ラオス、ときどき東京」
  • 15本

「海外に住んでみたい」という願望を50歳を過ぎて実現させた著者。日本と異なる文化に身をおくことで、何を感じ、どんなことを考えるようになるのか。会社員を辞め雑誌編集者という仕事も辞め、人生100年時代に向けてキャリアのモデルチェンジを図ろうとする著者が、ベトナムやラオスでの生活から、働き方や市場経済のあり方を考える。

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