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創業78年の江戸切子が本で進化!? 共創のための読書会で大切にしていること

英治出版では読書会形式のワークショップや書籍内容に基づく研修プログラムの企画・提供など、本を活用して学びや実践をサポートするさまざまな活動を行っています。

じっくりと考え、人と対話し、学びを深めたり良好な関係性を育んだりする上で、「本」は適したツールです。組織・チームづくりや自己変容など、関連書を多く出している英治出版だからこそ可能なプログラムづくりに取り組んでいます。

本をきっかけに人が集い、ともに考え、話し、感じ、行動する。──そんな英治出版の想いに共感いただいた、江戸切子・華硝(はなしょう)のみなさんとの読書会「本場〜本で学び創造する場〜」がスタート。

6/27開催の初回は、『「儀式」で職場が変わる』『進化思考[増補改訂版]』のワークを用い、普段あまり接点のない営業(店舗接客)さんと職人さんの対話によってユニークなアイデアが生まれる場になりました。試行錯誤しながら企画運営している英治出版メンバーの気づきや学びをご紹介します。(文:山下智也)

<本記事はこんな方におすすめです>
・いま運営している勉強会やコミュニティを発展させたい方
・率直に話し、相互に信頼する組織をつくりたい方
・本を使った学びの場をつくりたい方
・外部から組織づくりを支援するファシリテーターやコンサルタントの方
・人の力を最大限発揮する組織づくりにご関心をお持ちの方 etc.

「江戸切子の方が英治出版の読書会に興味があるみたいです」と、私(山下)に連絡があったのは、まだ寒さが残る3月中旬のこと。江戸切子とは、硝子の表面に手作業で紋様を施した東京発祥の工芸品で、約190年の歴史があります。

江戸切子と読書会・・・新結合の予感に胸を躍らせながら華硝の熊倉千砂都さん(弟で江戸切子職人の隆行さんと華硝の3代目を務める)に会いに行くと、熊倉さんは経営書から教育書まで、長年英治出版の本を愛読してくださっている方でした。

「本っていいですよね。じっくり味わって、考えて、深めていく。ほんとうに、いい時間だなあって思います」(熊倉さん)

亀戸に工房、日本橋に店舗を構える華硝さんは1946年創業。米つなぎ、糸菊つなぎ、玉市松などの独自の紋様を開発し、2008年のG8洞爺湖サミットや2023年のASEAN各国との首脳会談で贈呈品として採用されるなど海外の方々からも愛されています。

2008年のG8洞爺湖サミットで各国首脳に贈呈された「米つなぎワイングラス」

日本の伝統美に現代的な解釈を取り入れながら、新しい日本らしさを探求していく。打ち合わせで伺った際に、華硝さんの美しい作品の数々に息をのみました。

こんなすばらしい場所で読書会ができたら、なんて素敵だろう。華硝のみなさんにとって最高の時間にしたい。そう強く思いました。

読書会は江戸切子に囲まれた華硝日本橋店で開催。華硝の職人と営業スタッフ8名が参加。

チェックインの意味ってなんだろう?


「あまり接点がない工房と店舗のみんなが知り合う機会をつくりたい」
「チームで話して発想することの楽しさを感じる時間にしたい」

と、熊倉さん。相互理解や共創につながる場をつくるとしたら、みなさんはどんなことを大切にしますか?

英治出版の鈴木さん(8年間ほぼ毎月英治出版で飲み会を主宰している通称おかみ)と話しながら浮かんできた大切にしたいことは、次のふたつです。

1 チェックイン
2 対話

まずはチェックインについて。

英治出版では全社ミーティングなどでチェックインやアイスブレークから始めるときがあります。「いまの気持ちは?」「なぜこの場に?」「お昼になに食べた?」といったお題を設けて一人ずつ話します。

しかし会話のチェックインは、その場にいる人との関係性や個々人の状態によっては「それっぽいこと」を口にしてしまい、本来の目的である「この場に入る」「意識を向ける」につながらないことがあると私は思います。

そこで、私たちが選んだチェックインは「シュールな似顔絵ワーク」。これが好評でした。

クルシャット・オゼンチ、マーガレット・ヘイガン著、齋藤慎子訳『「儀式」で職場が変わる』(英治出版、2024年)

直前まで接客していた人、さっきまで工房で硝子を削っていた人、今日なにをするかよくわからないまま来た人、本とか読書会ってなんか苦手だなと思っている人。

いろんな状況や感情があるなかで、このシュールな似顔絵ワークは「手を動かす」「みんなで1つの顔を書く」「思わず笑っちゃう」ことで緊張がほぐれ、自然と場に意識が向く効果があったのかもしれません。

「最初はかなり緊張感がありましたが、思ってもいなかったアイデアが出てきましたね! 自由に発言できる空間をつくっていただいたおかげだと思います」

参加された華硝のみなさんの声

華硝さんでは全員で集まって研修を受けたり、みんなで話したりする機会は年1〜2回程度だそうです。場の意図はもちろん、人数、集まる人たちの特徴、場所のレイアウトなどによってもチェックインの仕方はさまざまですよね。

みなさんは普段どんなチェックインをしていますか?

シュールな似顔絵を書くときは太いペンがおすすめ!

いい対話ってなんだろう?


続いて対話について。

実は私は数年前まで、対話と会話をちゃんと区別せずに使っちゃってました…。場の目的に応じた使い分けを意識するようになったきっかけは、『組織は変われるか』という本の編集・プロデュースでした。

「議論は意思決定、会話はコミュニケーションが目的である。一方、対話はその中間に位置する。(略)対話とは、お互いの認識、さらには認識の前提となる背景や経緯を共有し、お互いを理解して、新たな合意を形成する作業なのである。」

加藤雅則著『組織は変われるか』(英治出版、2017年)

今回の読書会のテーマは、相互理解と共創。上記の定義に照らすと、対話でもあり会話でもある。そこで、対話と会話のいいとこどりができないか?と考えました。

コミュニケーションもとれて、お互いの興味関心や課題意識も共有できて、新たな合意・アイデアが生まれる。目的は1つ! 本のメッセージも1つ!が定石ですが、会話と対話の両立にピッタリの本があったのです。

それは、『進化思考[増補改訂版]』(著 太刀川英輔、出版 海士の風)。

本書で紹介されている「進化ワーク」は、コミュニケーションと合意形成の両方に働きかけ、それでいて短いもので5分、長くても30分程度で実施できる優れものなのです。

そんな進化ワークの魅力の一部を、スライドと当日の写真を交えてご紹介します。

進化思考とは、生物進化のように変異と選択を繰り返し、本来だれの中にでもある創造性を発揮する思考法。560頁の大著のエッセンスを体験します。
変異を「ボケ」、選択を「ツッコミ」と言い換えるとイメージしやすいです。
今回のXは江戸切子。職人と接客の「ツッコミとボケ」でどんなコンセプトが!?
ツッコミ編では個人ワークとペアワークで、江戸切子にまつわる内部(材料、設備など)、外部(協力会社、顧客)、過去(ルーツ、これまでの使われ方)、未来(予兆、既に起きつつある変化)を書き出します。
個人ワークで書き出したものをペアワークで見せ合います。
「ここらへんは似てますね」「なるほど〜その視点はなかった〜」
ボケ編も個人ワークとペアワーク。ツッコミ編で書き出した江戸切子にまつわるネタを、9つのパターンでボケます。
だいぶ緊張がほぐれ、ツッコミ編でネタがたくさん出ているので、よりボケやすくなっています。
「だいぶブッ飛んでますね笑」「いいじゃん!いいじゃん!」
ツッコミとボケから出てきたアイデアをペアワークで磨き、ネーミングし、最後に発表します。
「これとこれ、組み合わせちゃいますか!」「あ、もう1個できちゃった」

冒頭の緊張されていた華硝のみなさんからは想像できないほど、ユニークなアイデアがいっぱい出てきました。

しかし印象的だったのは進化ワークが終わった後、多くの方が「もう夢中になっちゃいました」「なんかこう二人で作りあげていく感じが心地よかったです」と、つくるプロセスについて言及されていたこと。

「これって探求者モード!」
と、私はその時思いました。

数年前から学びの場をご一緒している方に、対話の場の質に大きく影響する「参加のモード」というものを教えてもらったことがあります。

Prisoner(囚人)
Vacationer(行楽客)
Sophisticate(詭弁家)
Explorer(探求者)

伝統を大切にしながら未知の領域に思い切ってジャンプしてみる。
仲間の異なる視点を面白がりアイデアを乗っけてみる。
今ここに意識を向けて自分の直感で表現してみる。
──いい対話は、探求者モードから。

華硝のみなさんの学びの姿勢から、大切なことを教えていただきました。

あとがき


チェックインと対話という2つの切り口で、本のワークを交えながら華硝さんとの取り組みをご紹介しました。いかがでしたでしょうか?

「本を活かした学びのデザイン」の根っこには、

Publishing for Change
“みんなのもの"にすることを通して人・組織・社会の変化を応援する

という英治出版のパーパスを新しいかたちで実現したいという願いがあります。

他にも、「学習する組織×セルフマネジメント」という学習プログラム、ABD(アクティブ・ブック・ダイアローグ®)という1冊を手分けして読み、エッセンスをシェアし、対話を通して理解を深める未来型の読書法などを提供しています。

「本を活かした学びのデザイン」は、今回の華硝さんのような小規模の組織から大企業、シェアスペース、地域コミュニティまで規模や業種を問わず実施可能です。プログラムのご説明やカスタマイズのご相談も承ります。ご興味ありましたら、こちらへご連絡ください。

山下智也:英治出版 プロデューサー
書籍『シンクロニシティ』と出会い2008年に英治出版に新卒入社。ビジネス書や社会書の企画・編集に携わってきました。2018年からはウェブメディア「英治出版オンライン」、コミュニティスペース「EIJI PRESS Base」、2021年から学習プログラム「学習する組織×セルフマネジメント」をプロデュース。同僚や著者や仲間とともに生み出すPowers of Twoが探究テーマです。妻と娘と新潟県十日町市在住。野球観戦とさつまいもの天ぷらが好き。

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